ダークな“大泉洋”を楽しめる作品たち|「全部、大泉のせい」

俳優・映画人コラム

「鎌倉殿の13人」(C)NHK

ここ数週間のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は陰鬱な展開が続いています。

坂東の巨頭・上総広常、平家を京都から追い払った木曾義仲とその子供の義高という“いい人”が時代の奔流に飲み込まれ命を落としました。さらに、平家打倒の立役者・源義経もまた消える。

これらすべてある男の思惑によることです。その男とは源頼朝、演じるのは大泉洋

あまりにも頼朝によって多くの人の運命が左右されることから、小栗旬がリハーサル中のマスクに「全部、大泉のせい」と書いたほどです。

そこで今回は実は意外と“ダークサイド”も演じていた大泉洋をピックアップします。

※一部作品のネタバレや歴史的事象に基づいたネタバレ要素があります。

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基本は、あくまでもご陽気な人

大泉洋は学生時代に「水曜どうでしょう」に出演して地元北海道で大ブレイク。

「水曜どうでしょう」が全国に番組販売されるのに合わせて認知度が全国に拡がり、東京に本格進出、2005年のドラマ「救命病棟24時」で全国放送レギュラー出演を果たすと、以降「ハケンの品格」「暴れん坊ママ」「ラッキーセブン」など話題作に連投、日曜劇場「ノーサイドゲーム」では主演を張りました。

NHK大河ドラマも「鎌倉殿の13人」の前に「龍馬伝」「真田丸」に出演済みです。

番宣で出演したバラエティ番組や情報番組では、「水曜どうでしょう」で培ったものか、はたまた天性の持ち合わせたものか、芸人顔負けの明るさとユーモア、時に強烈なツッコミを交えて大活躍しています。

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その後も、ドラマや映画でも全国公開作品にメインキャストで出演し続ける一方で、地元・北海道を大事にする姿勢は続き『しあわせのパン』から始まる北海道3部作や『探偵はBARにいる』シリーズなどに主演、中には東京より北海道の方が動員が良かったなんて話もありました。

今や売れっ子俳優(森崎博之、安田顕、戸次重幸、音尾琢真)の集まりとなり、日本一チケットの獲れない劇団とまで言われているTEAM NACSは、北海道がらみの企画には積極的に関わっていて、今や“北海道の顔”となりつつあります。

そんな大活躍の大泉洋は「水曜どうでしょう」から始まったパブリックイメージで、演じる役はご陽気なキャラクターが多めです。

ただ、そんな大泉洋がびっくりするほどダークサイドの方に針が振れる時があります。

今回はそんなダークサイトを楽しめる、「黒大泉」「灰色大泉」を紹介します。そして三谷幸喜は何を見て頼朝役を大泉洋にキャスティングしたのかについても探っていきたいと思います。

–{「黒大泉」3選}–

「黒大泉」3選

 1:『東京喰種トーキョーグール』

(C)2017「東京喰種」製作委員会 (C)石田スイ/集英社

同題コミックの実写化作品第1作。人間を食らう喰種(グール)が跳梁跋扈する東京を舞台に、期せずして喰種となってしまった大学生・金木が喰種と人間の狭間で揺れ動き、闘う物語です。

大泉洋が演じる真戸呉緒は喰種の駆逐に強すぎる使命感を抱き、喰種であれば女・子供にも容赦せずに殺害して回る男です。

対人間に対しては礼儀正しい部分もあるのですが、喰種をもとにした武器“クインケ”の精製に執念を見せるなど、変わり者として見られることも多々あります。

原作ではキャラクターのバックボーンが描かれている一方で、映画は脚色の都合上深掘りされていなかったので、ただただ冷酷なハンター然とした存在です。外見的にも銀髪の長髪姿でとにかく異彩を放っています。

2:『鋼の錬金術師』

(C)2017 荒川弘/SQUARE ENIX (C)2017 映画「鋼の錬金術師」製作委員会

『鋼の錬金術師』も人気コミックを映像化した作品で、2022年に完結編2部作が連続公開されます。本作の大泉洋が演じるショウ・タッカーは主人公たちと同じ錬金術師。

人語を話す合成獣キメラを生み出したことで知られる実績の持ち主ーー実はそのキメラの誕生には大きな秘密がありました。

一見するとどこにでもいる普通の男性に見えますが、その分その所業を知ると“タチの悪さ”を感じます。

外見から見てあきらかに禍々しさを感じさせる真戸呉緒と、“穏やかな外見とは裏腹に”というショウ・タッカーはコインの裏表のような存在と言っていいでしょう。

ぜひ『東京喰種トーキョーグール」と『鋼の錬金術師』の両方を観て、全くタイプの違う「ダークサイドの在り方」を体験してみてください。しかも、それを大泉洋が演じているのですから……。

3:『騙し絵の牙』

(C)2020「騙し絵の牙」製作委員会

小栗旬&星野源の『罪の声』でも知られる塩田武士の同題小説を『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』の吉田大八監督が映画化した出版業界を舞台にした作品。

この『騙し絵の牙』の凄さは、もともと映像化も念頭に置いて、原作の段階で主人公の速水輝を大泉洋が演じること前提に“当て書き”されたという点でしょう。書籍段階で表紙や賞扉に大泉洋が登場しています。

とはいえ原作と映画は全く別物になっているため、どちらからでも楽しめる作りになっています。

ただ主人公の速水のキャラクターは小説では、ギリギリまで厳しい出版業界事情に左右される中間管理職的なものだったのに対して、映画は最初から“超曲者”で登場し、いくつもの思惑を抱えつつ、それを表に出さずにまた謀り事を進めるという男になっています。

終盤ある展開から感情を爆発させる速水(=大泉洋)の顔は近寄りがたい雰囲気がバリバリです。

(C)2020「騙し絵の牙」製作委員会

それでいて、オーラスでは飄々ととんでもないことを仕掛けようとしていたりと、底の知れない怪しさを持ち合わせています。

実はこの萌芽とも言うべきキャラクターが2008年の映画『アフタースクール』に登場しています。

飄々とした軽い空気感の裏で、とんでもない謀り事を抱えているという役柄で、この人物が中年になると『騙し絵の牙』の速水になるのかなと思わせたりもします。

「灰色大泉」3選

「黒大泉」で挙げた作品のキャラクターとはまた違った、グレーな大泉洋を楽しめる作品を紹介します。

1:「地の塩」

硬派なミニシリーズをいつも提供してくれるWOWOWのドラマW枠の一作で、いわゆる石器発掘捏造を描いた物語。

大泉洋演じる神村賢作は“神の手を持つ男”と評され、日本の歴史の通説を次々と覆していく男ですが、発掘について捏造の疑惑がもたれるという役でした。

“石器発掘捏造”というのは実際に起きた出来事です。

神村も周囲の期待に応えようとするあまり、やってはいけない禁断の一手に手を出してしまいます。

2:「チャンネルはそのまま!」

「水曜どうでしょう」の製作で知られる北海道のローカルテレビ局HTBの開局50周年作品である「チャンネルはそのまま!」で大泉洋が演じた蒲原正義も、「地の塩」の神村と近いキャラクターで、悪いとは知りつつも……という選択をしてしまいます。

主演の芳根京子演じる雪丸花子が純粋なだけに、蒲原の“濁り”が最終回が近づいていくにしたがって色濃くなっていきます。

そんな大泉洋とは別に、「チャンネルはそのまま!」は「水曜どうでしょう」のディレクター(藤村忠寿、嬉野雅道)が関わっているという、“どうでしょうファン”には必見のドラマです。

3:「元彼の遺言状」

現在放映中の月9ドラマ「元彼の遺言状」。なんと同題の小説の部分は最初の2話で終了。その後は新たなバディものとして話が進んでいます。

生田斗真演じる富豪の元彼・森川栄治(生田斗真)の遺言状で財産分与を受けた剣持麗子(綾瀬はるか)と2人の大学の先輩でミス研の先輩・篠田敬太郎を演じるのが大泉洋。

財産分与をめぐって麗子と共謀したのを機に、そのまま麗子の弁護士助手に収まる篠田は、「大学は出ていない……」という思わぬ言葉を発したりと、警察を避けて回っていたりと、過去や自身のことになると口ごもったりと何かを抱えていそうな雰囲気です。

さらに「篠田は篠田ではない!?」ということが明らかになり……。

栄治が麗子に残した「しのだをたのんだ」というメッセージはどういう意味に転ぶのでしょうか?

小説ベースから随分離れてオリジナル要素が強くなりそうで、場合によってグレーどころか真っ黒な大泉洋が見られるかもしれません。

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–{三谷幸喜は「ダークな大泉洋」を知っていた!?}–

三谷幸喜は「ダークな大泉洋」を知っていた!?

「鎌倉殿の13人」(C)NHK

「鎌倉殿の13人」の底知れぬ闇を抱えた頼朝を演じる大泉洋の姿に、ある種のショックを受けているという人は少なくないでしょう。「あの大泉洋が、なんでこんなダークサイドの住人を演じるか?!」と驚き、戸惑う人々の声は小さくありません。

その一方で「ダークな大泉洋もアリ」と知っていた人たちもいます。

それは、舞台の大泉洋を見てきた人たちです。

TEAM NACSの演目でもいわゆる“強い(こわい)”役を多く演じていて、今年2022年の3月に配信され、その後劇場公開もされた『TEAM NACS 25周年記念作品「LOOSER 2022」』では、スーパーヴィランといえる役どころを演じています。

オリジナルである2004年版の舞台でもかなり“強い”キャラクターでしたが、「2022」版では完全に黒幕でした。

舞台でいえば、2020年の舞台「大地(Social Distancing Version)」でも、強面キャラクターでした。この「大地(Social Distancing Version)」の作・演出を手掛けたのが何を隠そう、「鎌倉殿の13人」の三谷幸喜です。

映画監督から、情報番組のコメンテーターまで幅広くこなす三谷幸喜の原点は、やはり舞台。きっとどこかで、“舞台の大泉洋”を見ていたに違いありません。そこで、源頼朝を大泉洋にということになったのでしょう。

三谷幸喜は、自身の作品では大泉洋に曲者キャラを割り振っていることが多いのです。(例外として、「真田丸」の真田信之と「わが家の歴史」のつるちゃんなどがあります)

三谷幸喜が大泉洋に演じさせた、曲者キャラ

1:『清須会議』

(C)2013 フジテレビ 東宝

三谷幸喜初の時代劇映画。清須会議とは、本能寺の変の後に明智光秀を討ち取った大泉洋演じる羽柴秀吉が、後継者として主導権を握ることになる会議です。

対するのは役所広司演じる柴田勝家。織田家の最古参の1人で、新参で成り上がりの秀吉とは主導権を巡って対立します。

大泉洋の秀吉は、あくまでも古参の人々を立てているように見えて、自分の側に主導権を手繰り寄せていきます。

(C)2013 フジテレビ 東宝

秀吉は描く時代によって、キャラクターが大きく変わります。信長健在の時代であればいじられキャラが定番ですが、その後は愛嬌の裏にしたたかさを隠し持った野心家キャラになります。

三谷幸喜は、大泉洋にこの隠れ野心家キャラを割り振ってきました。大泉洋がただただ陽の人だと思っていたら選ばない選択肢でしょう。

ちなみに『清須会議』にも佐藤浩市が出演しています。(佐藤浩市と大泉洋は共演回数が多いことで知られています)

「鎌倉殿の13人」で頼朝と上総で共演しているほか、『こんな夜更けにバナナかよ愛しき実話』『騙し絵の牙』をはじめ、古くはJRAのCMでも共演しています。

大泉洋は佐藤浩市のことを「オーラ怪獣」と評しています。大泉洋と佐藤浩市は年齢で一回り違うのですが、相性の良さを感じさせるため、これからの共演も楽しみです。

2:「黒井戸殺し」

アガサ・クリスティーのミステリー小説を日本を舞台に翻案したスペシャルドラマで、この前に「オリエント急行殺人事件」が、この後に「死との約束」が放映されています。主人公の名探偵を3作通して野村萬斎が演じています。

「黒井戸殺し」に関しては、「なるほど、このキャラクターを大泉洋に振ってきたか!?」と唸りました。ネタバレ厳禁の内容なので、ぜひ予備知識無しの状態で観てみてください。もちろん原作「アクロイド殺し」も読まないでくださいね。

3:「大地」

コロナ禍ですべてのエンタメが止まった2020年の夏に、PARCO劇場でSocial Distancing Versionとして披露された舞台作品。

独裁体制の全体主義国家において、反政府主義者のレッテルを貼られた俳優たちだけが収容される収容所を舞台にした作品で、演じることを禁じられた俳優たちが極限状態で生き残るすべを探っていくという物語です。

大泉洋が演じるのは、囚人と監視の間を巧く取り持って立ち回るという役柄で、終盤になると意外な展開がその身に降りかかってきます。

ここでの大泉洋はかなり強い(こわい)キャラで「舞台の大泉洋!」といった演技でした。

思えば北海道の事務所の社長(現会長)であり、「水曜どうでしょう」の旅のパートナーでもある鈴井貴之も自身が監督した映画『man-hole』『river』では笑いを排したキャラクターを大泉洋に与えていました。

彼もまた舞台での大泉洋を見ていたからでしょう。

頼朝=大泉洋の今後の所業

「鎌倉殿の13人」(C)NHK

木曽義仲父子、弟義経とその非業の死は歴史の教科書にも掲載されている出来事ですが、実は頼朝の所業には、まだまだ続きがあります。

義経の後ろ盾だった、奥州藤原氏も滅ぼし、若干トラブルメーカー気味だった叔父の行家はともかく(?)として、常に兄を支えてきた蒲冠者こと弟・範頼も排斥されています。

頼朝の時に冷酷と思えるほどの判断も、源氏の棟梁の血筋にありながら、父親の連座で流人となった背景を考えれば少し理解できるのですが、結果的に源氏の本流が途絶えてしまうという事態を招きます。

その後「鎌倉殿の13人」の主人公である北条義時を執権とした、集団指導体制に移り早々に幕府の在り方を変えてしまうことになりました。

もし義経を許していれば、他者にもう少し寛容であったならば、鎌倉幕府も頼朝の評価も変わっていたことでしょう。

そのあたりも含めて“大泉・頼朝”がどのような最期を迎えるのかは注目です。「鎌倉殿の13人」のタイトルが示す通り、本来のストーリーは彼の死後の物語なのですから。 

それもこれも「全部、大泉のせい」なのですが……。

(文:村松健太郎)

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