<解説&考察>「ムーンナイト」第6話:“マルチバース”がもたらした予想外の結末

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マーベル・スタジオが送るドラマシリーズの最新作「ムーンナイト」が2022年3月30日より配信された。

『スター・ウォーズ』シリーズのオスカー・アイザック主演、マーベル作品としては異例のサイコスリラー調で描かれる本作は、まさしく、シリーズの新機軸である。睡眠障害を持つ冴えない博物館のギフトショップ店員・スティーヴン・グラントが遭遇する不可解な出来事。彼に秘められた才能と、「エジプト」「多重人格」というキーワードに隠された思わぬ秘密とは……。

本記事では、「ムーンナイト」第6話(最終回)の魅力をマーベル好きのライターが紐解いていく。

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※以降からは「ムーンナイト」第6話の結末における衝撃展開に触れています。未鑑賞の方は、ぜひ観賞後に記事をご覧ください。

–{第6話のラストは一体……?}–

ついに明かされた第3の人格

エンドクレジット後の映像では、過去のエピソードでも伏線が張られていた別人格の存在が明らかになった。

“ジェイク・ロックリー”と名乗る彼は、マークやスティーヴンに続く第3の人格であり、過去のエピソードでも残虐性が示唆されていた人物であると考えられる。

例えば、第3話では彼による敵集団の虐殺が示唆されていたほか、第4話のクライマックスにおける冥界での場面でも赤い棺桶として彼の存在が匂わされていた。

また精神科医・アーサーのカウンセリング場面でも、主人公の残虐性が時折描かれており、今回のエンドクレジット直前で声を荒げた人格も彼と言えるだろう。

ちなみに原作では、タクシー運転手で裏社会に通じている危険な人物という設定である。エンドクレジット後の映像で描かれた展開には、果たして、続きがあるのだろうか……。

MCU版日本式特撮

最終回では、日本で作られた特撮作品の数々を彷彿とさせる衝撃展開が繰り広げられた。(製作陣が意図していたかはさておき)

巨大化した獣・アメミットの姿は『ゴジラ』、それに立ち向かう二足歩行の邪神・コンスはもはや「ウルトラマン」。

ごく普通の主人公が、超自然的な能力を手に入れたことでヒーローへと変身する展開は「仮面ライダー」、ビジュアルや「月」というキーワードが「月光仮面」にも通ずる本作だったが、まさかここまで日本の特撮を想起させる展開になるとは誰が予想しただろうか。

ヒロインがヒーローに変身するという展開は近年のマーベル映画の傾向とも言えるが、「仮面ライダー」シリーズの女性ヒーローも頭をよぎってしまうところ。

「仮面ライダーストロンガー」の電波人間タックルに始まり、「仮面ライダー龍騎」の仮面ライダーファム、「仮面ライダーリバイス」の仮面ライダージャンヌなど、現在まで続く、日本式特撮作品の女性ヒーローにも通ずる魅力があるといえるのだ。

虚構によって浮かび上がる現実とのギャップ

死体を介した神からのお告げ、死者の復活、ヒーローに変身するヒロイン、キャラクターの巨大化。

最終回は、フィクションゆえに許されるファンタジックな要素が多く、人によってはやりすぎとさえ感じる過剰な展開がてんこ盛りだった。

一方でこのなんでもありな部分も、精神病患者・マークの作り出した世界と考えると納得できるのではないか。

第1話では博物館にやってきた少女が、あたかも第5話の展開を予想するような発言をしているほか、最終話のラストシーンでも、主人公が第1話と同じ様な状況で目覚める場面が繰り返されている。

また製作者の1人・グラント・カーティスは、過去のインタビューにおいて「最終話の最終フレームを見ると、本作がメンタルヘルスを正しく扱っていることが分かる」という旨の発言をしている。

このことからも、本作のラストシーンは「精神病患者が自身の作り出した妄想の世界で生き続ける」と考えるのが一般的といえるだろう。

しかしこのドラマは、そこで終わらないのが凄まじい点である。

ここからは、近年のマーベル作品(フェーズ4と言われている作品群)で描かれた「マルチバース」の概念から、本作が意図しているラストシーンの本当の意味を考察していく。

※以降は、マーベルの配信ドラマ「ロキ」や『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』と最新作『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』に関するネタバレが含まれています。未鑑賞の方はご注意ください。

–{マルチバースが導くラストシーンの真意}–

マルチバースが導くラストシーンの真意

マルチバース

この言葉は近年のマーベル映画で提示され、物語の根幹として重要な意味をもつ概念だ。マーベル映画の物語世界では別次元の世界も存在し、その数だけ同じ人物が存在する。

そのため、「ロキ」や『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』では、異なる世界で別の人生を送る複数の主人公が登場してきた。

過去のマーベル映画では別次元が共存していたため、交わることのなかった彼らだった。しかし「ロキ」の最終話において、その調和が乱れて世界は一変。

時空や空間の歪みが発生したことで、これらが混交する世界観となってしまったのだ。

そして、今回の「ムーンナイト」のラストシーンを紐解くために重要となってくるのが、最新作『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』で描かれた内容だ。

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』では、主人公・ドクター・ストレンジとワンダが、夢の中で別次元に生きる自分自身を感じ取ることになる。

つまり「ムーンナイト」で「主人公の妄想」として描かれていた世界も、実は単なる妄想なのではなく、同時に存在する別次元の世界だったと捉えることができるのではないだろうか。

そのため、本作のラストシーンは「現実」も「虚構」も、どちらも並列して存在する重要な真実に変わりはなく、どちらを信じるのかは受け手次第であることが指し示めされているのではないか。

この奇妙な顛末からは底しれない狂気も感じられる。
しかし、2つの世界が平等に価値を持ち、同時に存在するという考え方は、マーベル作品という”虚構”に没頭する”現実”の私たちに対しても、ささやかな希望を与えてくれるのではないだろうか。

ちなみに、主人公の妄想として描かれた別次元は、過去のマーベル映画で描かれた世界と同一である可能性が高い。

第1話に登場する書物から『マイティ・ソー』と『ブラックパンサー』が示唆されているほか、第2話でのバスの側面に書かれた「GRC」という用語、第3話でベックという人物が言及したマドリプールという用語からも「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」とのリンクを確認できる。

つまり「虚構と現実」という題材を描いた内容から、他のマーベル映画とは繋がらないと思われていた本作も、マルチバースという概念を踏襲すれば合流が可能と言えるのだ。

今回は謎が謎を呼んだマーベル屈指のミステリーであり、問題作であった「ムーンナイト」の最終回を解説した。

フェーズ4がスタートした「ワンダヴィジョン」以降はメタフィクション的な要素が強まり、「ムーンナイト」はその到達点ともいえるシリーズ史上最も難解な物語となった。

しかしその設定に飲まれることなく「メンタルヘルス」という題材を丁寧に描き、同時にヒーローものとしての娯楽性も両立した本作は、これから先も高く評価されるはずだ。

作り手のクリエイティビティが最大限に発揮された見事な内容も含め、「ムーンナイト」はアメコミ実写化の歴史において、大きな転換点となった。この功績は、世界的に実写ヒーローブームが続く今後の数年間でさらに明確になるだろう。

今は何よりも、この傑作をリアルタイムで鑑賞できたことに感謝したい。そして別次元に存在するかもしれない、異なる自分への可能性に思いを馳せてみたい。

(文:TETSU)

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–{「ムーンナイト」第6話ストーリー}–

「ムーンナイト」第6話ストーリー

スティーヴンとマーク、2つの人格を抱える男が死んだ。
現世(地上界)に残された彼の恋人・レイラは、宿敵・アーサーへの復讐を誓う。

しかし、エジプト神話の女神・タウエレトによるお告げを聞いた彼女は行動を思いとどまる。
邪悪な神・コンスの封印を解き、彼を復活させることを決意したのだ。

一方、冥界(死後の世界)では、死後の楽園へと辿り着いたマークが相棒・スティーヴンの救出を試みる。砂となって固まってしまったスティーヴンのため、自身の安息を犠牲にしたマークは、彼を救うことに成功。

レイラの尽力もあり、2人は1人の人間として、再び現世に降り立つことになる。

現世では、エジプト神話の獣“アメミット”が蘇り、人々の力を奪うことで巨大化。同じく巨大化したコンスが立ち向かっていたが、敗北は時間の問題であった。

コンスの力を覚醒した主人公は、ムーンナイト(マークの変身形態)とMr.ナイト(スティーヴンの変身形態)をコントロールすることに成功。

また、女神・タウエレトの化身となり、女性ヒーローとして戦うレイラに遭遇する。人々を救うためには、アーサーの体にアメミットを封印することが必要であることを知る主人公。

絶体絶命の危機に陥り、死に瀕する彼だったが、覚醒した謎の人格により、窮地を脱することになる。そして、無事、アメミットの封印に成功した彼は、コンスの化身としての役割からも解放されることとなったのだ……。

現実世界と思われるシカゴのパットナム病院では、精神病患者である彼の意識が再び目覚める。

これまでの話を聞いていた精神科医・アーサーは、その内容を真実として受け止めておらず、男は口調を荒げるが、ここで思わぬことが起きる。

アーサーの足に、あるはずのない謎の血痕がついていたのだ。

動揺するアーサーを見て、自身の考えが正しいことを確信する男。果たして、これは現実なのか、彼の妄想なのか。

再び意識を失った彼は、スティーヴンが眠るベッドの上で目覚める。
ベッドの足に備え付けられた足枷からつまずくスティーヴン。
物語は全ての始まりから、また、繰り返されるのだろうか……。

場面は移り変わり、アメミットの封印に成功した世界。
病室で目覚めたアーサーは謎の男に連れ去られ、怪しい車に乗せられる。
そこには、コンスと”あの男”がいた。
マークでも、スティーヴンでもなく、ジェイク・ロックリーと語る男は、アーサーを射殺する。

ついに、主人公の邪悪な第3人格が姿を現したのであった。

「ムーンナイト」作品情報

作品概要
「現実か夢か、区別がつかない――」意味深なセリフを放つ彼の名はスティーヴン・グラント。国立博物館のギフトショップで働く温厚で、うだつの上がらない主人公。睡眠障害を持ち、夢の中で度々白いスーツを着た男と対峙するが、それが現実で起こっていることか、ただの夢か区別がつかない。

夜通し悪夢にうなされては、仕事場で「役立たず」と罵られ、スティーヴンはいつも幻覚に怯える日々を過ごしていた。 ある日、自室の見知らぬ携帯電話が鳴り響き、“マーク”と知らない名前を呼ばれ困惑する― 自分は誰なのか、何に怯えているのか。やがて自分の中に“自分以外の誰か”が潜んでいることに気づき始める。

コントロールできない“もう一人の自分”― それは、冷酷な暗殺者 マーク・スペクターだった。
マークに狂気が宿る時、ダーク・ヒーロー<ムーンナイト>が誕生する――。

予告編

出演

オスカー・アイザック(スティーヴン・グラント/マーク・スペクター)、イーサン・ホーク(アーサー・ハロウ)、メイ・キャラマウィ(レイラ)

ディズニープラスにて独占配信中

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