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「真実はいつもひとつ」
知力と脚力で解決する“あの探偵”が今年もやってきた!
青山剛昌の大人気コミック劇場最新作『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』が公開。映画館は賑わいをみせている。本シリーズは作品を重ねるほどにハリウッド顔負けのアクションとなっている。
『名探偵コナン ゼロの執行人』では、迫りくる電車に向かって江戸川コナンを乗せた車が突撃し、間一髪で切り抜ける。『名探偵コナン 紺青の拳』ではシンガポールを舞台に400戦無敗の空手家・京極真とコナンが、拳とサッカーボールで殴り合い、マリーナベイ・サンズが前代未聞の爆発を引き起こすのだ。もはや『ワイルド・スピード』に匹敵するアクション超大作になっているのである。
さて、最新作『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』はどうだろうか。筆者が観賞したところ、アクション映画としてハリウッドを超えるレベルに到達していた。今回は、本作におけるスペクタクルの緻密さについて考察していく。
※本記事では『ハロウィンの花嫁』の核心に触れているため、劇場で観賞後に読むことをおすすめします。
奇襲、銃撃、爆破のフルコース
■その修羅場、凶暴につき
華やかな結婚式が襲撃される。駐車場では首輪型の爆弾を付けられた男が逃げる。2つの修羅場が激しく折り重なる。結婚式は、侵入者とそれを止める参列者によって、もみくちゃになる。
不幸にも花婿が銃撃の餌食となってしまう。しかし、これは警察の演習だった。ドキッとする緊張の時間が安堵の空間へと変わり平穏を取り戻していく。
駐車場では最悪な結末を迎える。助けを求める男は爆発する。公安警察の風見裕也は爆風に飛ばされる。仲間の降谷零は風見を助ける中で殺し屋プラーミャに首輪型の爆弾をつけられてしまうのだ。
ここから本題が始まり、観客が息をつく暇はない。コナンたちが毛利小五郎とランチに向かう道中、ボロボロのタブレットを持つロシア人と遭遇。彼は紙を落とす。灰原哀はそれを彼に渡す。突然大爆発が起こり、彼女は道路へ投げ出される。そこへトラックが通りかかる。彼女を守ろうとした毛利小五郎は重傷を負ってしまうのだ。
『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』は徹底して、修羅場から観客を解放することなくノンストップで駆け抜けていく。このように物語が落ち着きを見せ始めても油断はできないのだ。
少年探偵団がなんも変哲もないおつかいを頼まれる場面ですら容赦しない。おつかい先に起動数分前の爆弾が出現したりするのだ。シリーズ最凶クラスでコナンたちを殺しにかかる物騒なジェットコースタームービー。
これが『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』の正体である。
■「君、この程度の危機慣れているよね。」
観客の緊張とは裏腹に、ある異変に気づくだろう。それは江戸川コナンをはじめとして、登場人物が手慣れた手つきで修羅場を処理していくのだ。お馴染みのタイトルシーンを思い出すと、灰原哀がコナンに
「早く、いつもの台詞いいなよ。」
とメタ発言しながら迫る。修羅場に愛されているコナンと愉快な仲間たちにとって、トラブルシューティングは朝飯前だ。たとえ銃口を突きつけられても、焦りは滴る汗にとどめ平然たる態度を崩さない。爆弾のある部屋にコナンが閉じ込められても、彼は少年探偵団に指示を出す。少し焦るものの、少年探偵団は粛々と布を張って彼の脱出を待つ。ヒントがキリル文字で書かれていても、それを解読し真実に向かって駒を一歩を進める。
このように事態の深刻さに対して手際があまりに良いので降谷零に、
「君、この程度の危機慣れているよね。」
と言われてしまうし、もはや毛利小五郎を眠らせることなく粛々と潜入捜査を行ってしまうのだ。
つまり、本作は修羅場のプロフェッショナルの仕事ぶりを楽しませてくれる作品に仕上がっているといえる。ハッピーエンドになるであろう安心感と、次々現れる修羅場をどのように切り抜けていくのかが観どころであり『ミッション:インポッシブル』を彷彿とさせる高揚感がある作品なのだ。
■降谷零と仲間たちのアクションに注目
『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』がプロフェッショナルの映画だとするならば、降谷零と警察学校時代の同期メンバーによるチームワークに注目してほしい。
緊迫の潜入から形勢逆転、劣勢からチームワークによる脱出へのプロセスが華麗である。雑居ビルに立て籠り犯がいるらしい。降谷零と松田陣平が、問題の部屋にたどり着くと、男が縛られている。ロシア人らしい。ロシア語で情報を引き出し、解放する。
奥の部屋に、犯人らしき人物(プラーミャ)がいる。爆弾がある。降谷はプラーミャを追い詰めることとなる。一方、松田は爆弾解体に専念する。曲芸のように移動する、プラーミャ。死角から銃弾を撃ち込み、扉を投げつけていき、急上昇、急下降する難敵だ。その手強い逃走により、プラーミャは松田の背後から銃口を突きつけるのに成功してしまう。
これは絶体絶命だ。ここでチェックメイトかと思うと駆けつけた仲間がカバーする。外れた扉で松田を守る。フックショットで、数十m先のビルに飛び移ったプラーミャに追いつくため、即席でジャンプ台を作り、降谷を隣のビルへ撃ち放つのだ。
雑居ビルの高低差と、迷路のような複雑さをチームワークで攻略していく立体的なアクションに、最強同期軍団によるプロフェッショナルの流儀を味わうことができる。
この回想シーンの高低差アクションは、現実パートへと引き継がれている。序盤では、爆弾のある部屋に閉じ込められたコナンが、外のパイプを伝って地上へ降りようとする。しかし爆発による熱で溶解しボロボロ崩れ去るパイプ。それをアニメ的コミカルさで下っていく。
コナンパートではこのような小さな高低差アクションの挿話を繋いでいく。ビルの屋上から地下へと東奔西走する中でダイナミックな動きへと化し、渋谷全体が高低差アクションの舞台となるのだ。
このミクロな視点からマクロな視点への発展は、次章のガムとサッカーボールの関係性から深掘りしていくとする。
–{小さなガムと大きなサッカーボールの華麗な応用例}–
小さなガムと大きなサッカーボールの華麗な応用例
■ジェームズ・ボンドも驚く、粘着質なサッカーボール出力機とは?
名探偵コナンといえば、ジェームズ・ボンドも驚くであろうガジェットの扱いだろう。本シリーズにおけるサッカーボールの使い方は魅力的であり、どのような危機を止めるスーパーショットを魅せてくれるのか気になるものがある。
『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』では手榴弾を止めるだけでなく、ハリウッド超大作も驚愕の修羅場をせき止める存在として、サッカーボールが使われている。
正体を現したプラーミャを制圧したコナン。しかし、ハロウィンの渋谷に危機は残る。スクランブル交差点に向かって、恍惚と光る粘着質の液体がジワジワと押し寄せる。ピンクの液体とブルーの液体が接触すると大爆発し、街は壊滅してしまう。時間はもう残されていない。
それを止めるのに、阿笠博士が発明した巨大化するサッカーボールを使用するのだ。スクランブル交差点の中心に、コナンたちが集まる。少年探偵団が四散駆け出し、紐をくくりつけようとする。コナンがスイッチを押すとサッカーボールがどんどん膨らむ。粘着質に、ビルに張り付き、余す空間に向かって広がっていくのだ。
■チームワークを引き出す粘着質な物体たち
このシーンにおけるサッカーボールは、殉職した松田の技術の継承を象徴している。松田はプラーミャが遠隔で爆弾を起動させピンチとなる。絶体絶命の状況で口に入れていたガムを、起爆剤の合流地点にねじ込むことで切り抜ける。渋谷の街での危機はスクランブル交差点が巨大な爆弾となっている。それを粘着質なサッカーボールで止めるのだ、ミクロな爆破阻止をマクロな爆破阻止に応用していくプロセスが華麗である。
また、巨大な渋谷爆弾を止めるにはより困難がつきまとう。粘着質な起爆剤が少年探偵団の足を侵食する。小さな身体では、粘り気ある流体に耐えることができない。そんな少年探偵団を、警察や共闘することとなるロシア人部隊ナーダ・ウニチトージティが力を貸す。
一貫してプロフェッショナルたちによるチームワークの物語に着地させていくところが鮮やかである。
この作劇上のスペクタクル。作劇を意識したことにより「コナンは松田のガムの件をどこで知ったのか?」といった疑問が出てくるであろう。本作は、この疑問にも真摯に対応している。
コナンは昔、破裂した水道管と対峙したとのこと。完全に身動きが取れず、チェックメイトとなった時に通りかかった者に野球ボールを突っ込み回避する方法を伝授してもらっているのだ。プロフェッショナルとは過去をノウハウとして蓄積し、新たな問題に対し応用していく存在だ。
江戸川コナンは、球状の物体を使った解決法を今回の事件に応用して解決させたといえよう。
–{ロシア語を使いこなすコナンから観る探偵の流儀}–
ロシア語を使いこなすコナンから観る探偵の流儀
■ハリウッド映画における英語至上主義問題
#劇場版コナン メディア情報✏️
〈雑誌?〉
?4月13日(水)
「anan」表紙+特集 インタビュー(高山みなみ、古谷徹、白石麻衣、脚本:大倉崇裕、プロデューサー:近藤秀峰)
「週刊ザテレビジョン」インタビュー(白石麻衣)#ハロウィンの花嫁 pic.twitter.com/5YZRhvHlBb
— 劇場版名探偵コナン【公式】 (@conan_movie) April 8, 2022
『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』がハリウッド映画を凌駕するスペクタクルである理由は、これだけにとどまらない。江戸川コナンや灰原哀、降谷の言動に注目してほしい。本作にはロシア人が多数登場する。ロシア語で助けを求めたり、主張したりする。その際に、ロシア語を使うのだ。
ハリウッド映画の場合、確かに外国語を使う場合もあるが、基本的に英語で会話が行われる。戦争映画になると、ドイツが舞台にもかかわらず全編英語が使われたりする。クエンティン・タランティーノ監督は『イングロリアス・バスターズ』の中で、この問題を批評的に物語に取り込んでいる。
多様性を物語に取り込むハリウッドにとって、英語至上主義に陥り他の言語に対するリスペクトが薄くなってしまう問題を抱えている中、『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』ではあるべき姿をみせているのである。
■探偵とは、相手を知るために相手の土俵に立つことだ
警察や探偵は、容疑者の行動心理を分析する必要がある。もし、容疑者や被害者がロシア語を使ってきた場合、当然ながらロシア語で歩み寄る必要がある。
相手の言語を知ることが思考回路を知る手がかりになるからだ。相手の土俵に立ち分析することこそが唯一真実に辿り着く方法なのだ。日本語とロシア語を巧みに使い分けていくダイナミックな捜査で着実にプラーミャを追い詰めていく様子に、言語に対する真摯さが垣間見える。
「真実はいつもひとつ」
と言い続ける江戸川コナンは、決して脚力だけで解決する恐るべき子どもではない。
犯人の行動原理を分析するために立場上の振る舞い方や言語を切り替え、恐ろしいロシア人部隊ですら味方に引き入れながら「ひとつの真実」へ辿り着くホンモノの探偵だったのだ。
(文:CHE BUNBUN )
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–{『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』作品情報}–
『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』作品情報
ストーリー
佐藤刑事と高木刑事の結婚式で乱入した暴漢から佐藤刑事を守ろうとした高木刑事。高木は無事だったが、事態をきっかけに佐藤の瞳には、3年前に松田刑事が殉職した際に見えた死神のイメージが高木と重なって見えていた。
時を同じくして、3年前の事件の犯人が脱獄した。公安警察の降谷零が犯人を追い詰めたものの、謎の仮想人物に首輪爆弾をつけられてしまう……。
予告編
基本情報
声の出演:高山みなみ/山崎和佳奈/小山力也/古谷徹/高木渉/湯屋敦子/白石麻衣 ほか
監督:満仲勧
公開日:2022年4月15日(金)
製作国:日本