ドキュメンタリーで辿るザ・ビートルズの歴史

映画コラム

ビートルズ。その存在に魅了された人々は数知れない。

かく言う私も、そんな人物の一人である。

彼らの解散から約30年後に生まれた筆者は過去の記録映像から痕跡を辿り、その輝かしき功績を追ってきた。

現在、絶賛公開中の映画『ザ・ビートルズ Get Back: ルーフトップ・コンサート』も、そんな作品群の一つだ。
本作では、晩年のビートルズが行った伝説のパフォーマンス”ルーフトップ・コンサート”を映画館の大画面で追体験することが出来る。

なぜ、解散から50年が経った今もなお、彼らのドキュメンタリー映画は作られ続けるのだろうか。
そして、彼らの何が多くの人々(筆者を含め)を惹きつけるのだろうか。 今回は、ビートルズが現代に与えた影響を踏まえ、過去に制作されたドキュメンタリー作品を追いかけることで、その魅力を紐解いていきたい。

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現代への影響

ビートルズを知ったきっかけを、私は思い出すことが出来ない。
なぜなら、彼らの存在や音楽は現代社会に溶け込んでいるからだ。

街中で聞こえる音楽はもちろん、「開運!なんでも鑑定団」のオープニングなどのTV番組での楽曲使用、「ハッチポッチステーション」での替え歌や、ドラマ「SP 警視庁警備部警護課第四係」での敵組織の元ネタなどの多くのパロディ・オマージュとその例は枚挙に暇がない。

とりわけ、幼少期の自分にとって印象的だったのは2009年の「資生堂 uno」のTVコマーシャルと歌手・斉藤和義さんの存在だ。

このunoのCMでは、特徴的な音楽と共に三浦春馬さん、小栗旬さん、妻夫木聡さん、瑛太さんの4人が走り回る内容が印象的だった。

実を言うと、この設定は映画『ハード・デイズ・ナイト』(旧題:『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ! 』)が基になっているのだ。

歌手・斉藤和義さんも、代表曲「ずっと好きだった」でビートルズ愛を爆発させている。
コード進行に名曲「get back」を感じさせるほか、MVではルーフトップ・コンサートを完全再現。

続く「優しくなりたい」でも、ビートルズの日本武道館ライヴを再現していた。

竹内まりやさんの「マージービートで唄わせて」やPUFFYの「これが私の生きる道」など、名だたる人気アーティストの楽曲からも、その影響は感じ取ることが出来るだろう。

映画という点では、楽曲が使われた作品や彼らを題材にした作品が存在する。詳しくはこちらの記事を参照していただきたい。

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ビートルズの楽曲で構成された異色ミュージカル『アクロス・ザ・ユニバース』や、ルーフトップ・コンサートのオマージュシーンがある音楽映画『はじまりのうた』など、挙げ始めるとキリがないほどで、多くの表現者が彼らの影響を受けているのは明らかだろう。

–{ドキュメンタリーで辿るビートルズの歴史}–

ドキュメンタリーで辿るビートルズの歴史

その人気ゆえに数多くの映像資料が残されたビートルズ。
ここからは、彼らを取り上げたドキュメンタリーの数々を紹介していきたい。

ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK The Touring Years

彼らの活躍を振り返った映画『ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK The Touring Years』は、まさに、ビートルズ入門にうってつけの作品と言える。

1962年にレコードデビューを果たし、激動の時代と共に若者を代表する存在となったビートルズ。

本作では、彼らの活動を当時の社会問題とともに振り返っていく。

ポップアイコンに収まることなく、世界を股にかけ(劇中では日本も登場)、当時の音楽シーンや人種差別問題などにも影響を与えた伝説的なグループとしての姿。

シガニー・ウィーバー、ウーピー・ゴールドバーグ、リチャードカーティス(『ラブ・アクチュアリー』、『アバウト・タイム 愛おしい時間について』監督、『イエスタデイ』脚本)など、多くの著名人のインタビューも盛り込まれた本作からは、時代と共に歩んだアイドルの歴史を知ることができるのだ。

エンディングではルーフトップコンサートが登場するため、公開中の最新作を予習する上でもオススメの作品と言えるだろう。

ザ・ビートルズ:メイド・オン・マージーサイド(原題)


リバプールから飛び立ったバンド・ビートルズ。
彼らの初期の活躍にフォーカスしたのが本作である。

1960年代前半を中心に、彼らの前身バンド・クオリーメンの活動秘話や彼らを支えた敏腕プロデューサー・エプスタインとの出会い、初期メンバー・スチュアート・サトクリフの死、5人目のビートルズと称されたピート・ベストの脱退など、メジャーデビューに至るまでのドラマが語られる。

デビュー前夜の彼らのエピソードには、多くの人が親近感を抱くだろう。

ザ・ビートルズ・イン・アメリカ

イギリス出身のビートルズ、そのアメリカ進出の様子を記録したのが本作である。

『ハード・デイズ・ナイト』や『抱きしめたい』など、彼らを題材にした映画でも、たびたび引用される米番組「エド・サリヴァン・ショー」での1964年のパフォーマンス。

その解説を中心に、彼らがアメリカに与えた影響や彼ら自身がアメリカから受けた影響などが本作では紹介されている。

また、当時のパフォーマンスの数々も記録されており、ファンに限らず、TV番組での彼らの姿に興味を持った方々にとっては必見の貴重な映像資料となっている。

ビートルズとインド

インドとの関係性といった珍しい視点から、ビートルズの活動を振り返ったドキュメンタリーが本作である。

バンドの精神的支柱でもあったマネージャー・ブライアン・エプスタイン急死後、1968年に失意の底に落ちたビートルズを支えたインドの指導者・マハリシの存在。

名曲『アクロス・ザ・ユニバース』などなど、晩年のビートルズに多大なインスピレーションをもたらしたインド音楽の重要性が、当時の映像や彼らに関わった人々の証言から浮かび上がっていく……。

ヒッピー文化など、当時のアメリカ社会にも影響を与えたエピソードの数々は、当時の歴史を知る上でも貴重な資料となっている。

レット・イット・ビー

バンド晩期の1969年。解散を目前にしたビートルズの姿を記録した幻のドキュメンタリーが本作だ。

劇中では、アルバム『レット・イット・ビー』や『アビィ・ロード』のレコーディング風景から、多くの名曲を生んだ”ゲット・バック・セッション”、”ルーフトップ・コンサート”の様子を垣間見ることが出来る。

その編集の意図から、かなり重苦しい雰囲気が伝わってくる作品ではあるが、ビートルズ晩期の活躍を知るためには、必要不可欠と言える映像となっている。

ザ・ビートルズ:Get Back

前述の作品『レット・イット・ビー』から約50年。その膨大な撮影素材などから、改めてビートルズ晩期の様子を映し出したのが本作だ。

もともと2時間尺だった本作は、コロナ禍によって長引いた製作期間やストリーミングサービスの台頭により、全3話構成の超大作ドキュメンタリーシリーズへと変貌。

『レット・イット・ビー』では、メンバーの不仲が強調されていた晩年の様子を、ストイックに曲の制作に取り組むアーティストたちの挑戦として、新たな視点から映し出すことに成功している。

『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズの製作で知られ、戦時中の記録から制作されたドキュメンタリー『彼らは生きていた』を経たピーター・ジャクソン監督。

彼だからこそ描くことが出来るビートルズの真実が映し出されているのだ。

『ザ・ビートルズ Get Back: ルーフトップ・コンサート』

現在公開中の最新作は、そんな大作シリーズからクライマックスのルーフトップ・コンサートを抜粋した劇場版だ。

『ザ・ビートルズ:Get Back』制作当初のヴィジョンを実現したといえる大画面でのビートルズの演奏には、誰もが興奮すること間違いなし。

記録映像をほぼリアルタイム&ノーカットで映し出した光景から、私たちも、まるで当時のイギリス・ロンドンに迷い込んだような臨場感を味わうことになるのだ。


今回の記事では、ビートルズに関するドキュメンタリー作品の数々を取り上げた。
圧倒的な映像資料によって、様々な視点から切り取られた彼らの存在は、より、重層的に感じられることだろう。

単なるアイドルグループではなく、世界を股にかけ、幅広い分野に影響を与えてきたアーティスト集団。
そんな側面は、現代を生きる私たちにも数多くの発見を残してくれているのだ。

ドキュメンタリーは戻らない過去の記録である。
しかし、映画館のスクリーンで彼らの演奏風景を目撃したとき、あなたは過去に戻ること(get back)が出来るのではないだろうか。

まるで、伝説の瞬間に立ち寄ったような感覚と興奮を味わえる『ザ・ビートルズ Get Back: ルーフトップ・コンサート』を、ぜひ、大画面で体感してほしい。

(文:大矢哲紀)

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