映画監督同士のコラボレーションは今に始まったわけではなく、昔からよく行われてきた試みではありますが、ここにまたひとつ、実にユニークなコラボが実現しました。
城定秀夫監督と今泉力哉監督、現代日本映画を愛する者であれば「ハッ」となる、そんなふたりのコラボ“L/R15”プロジェクトがいよいよお披露目!
これは即ち、城定&今泉両監督がお互いの脚本を提供し合い、R15⁺のLOVE STORYを発表しようというものなのです!
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今泉脚本&城定監督の『愛なのに』
まず、両監督のプロフィールをざっと記しておきましょう。
城定秀夫監督は1975年生まれで、2003年に『味見したい人妻たち(押し入れ)』で映画監督デビューし、ピンク大賞新人賞を受賞。以後数々のピンク映画やVシネマ、劇場用映画と、ジャンルの枠を優に超えた作品をこれまで100本以上も監督しながら、着実に映画ファンの支持を集めていき始め、2016~19年まで4年連続ピンク大賞作品賞を受賞。そして2020年、『性の劇薬』と『アルプススタンドのはしの方』の2作品でその実力は確固として映画ファンに広く知られることになりました。
今泉力哉監督は1981年生まれで、2010年に『たまの映画』で監督デビューし、2013年の『こっぴどい猫』がトランシルヴァニア国際映画祭最優秀監督賞を受賞し、注目を集めていきます。特に2019年の『愛がなんだ』が大ヒットを記録したことで映画ファンの支持は決定的なものとなり、その後も『アイネクライネナハトムジーク』(19)『mellow』『his(20)と精力的に作品を発表。2021年も『あの頃。』『街の上で』『かそけきサンカヨウ』と立て続けに新作が公開されました。
そして、そんな二人が織り成す“L/R15”第1弾として2月25日より公開となったのが、今泉力哉・脚本、城定秀夫・監督(共同脚本も)による『愛なのに』です。
どこか淡々とした日々を過ごしていた古本屋の若き店主・多田(瀬戸康史)が、店に日参する女子高生・岬(河合優実)からプロポーズされたかと思うと、多田が密かに想い続けている一花(さとうほなみ)が結婚するとの連絡を受け、しかしその婚約者(中島歩)は愛人(向里祐香)がいて、さらには岬にぞっこんの同級生(丈太郎)が多田にライバル意識を燃やしてきたり……。
いやはや、愛とはどうしてかくも複雑な絡まり合いしかしてくれないのか……と、結構誰しも大なり小なり経験あるような不器用な恋のやり取りが、切なく、時にコミカルに展開されてきます。
主人公が古本屋の店長という設定は今泉監督作品『街の上で』とも連携しているようでもあり、確かにこの作品、これまでの今泉監督作品に顕著な、熱血ともシラケとも無縁な、決して低温気質ではないけれど熱くもない、一見淡々とした風情の中から、感情をどう露にしていけばよいのかわからないキャラクターがいっぱい登場します。
そして、そんな今泉キャラとそのドラマ展開に数滴の切ない優しさを加味してくれているのが、城定監督の演出といっても過言ではないでしょう。
城定監督作品の基本は弱者やマイノリティに対する優しさであり、その結末がハッピーであろうがアンハッピーであろうが何ら変わることはありません。
城定作品は総じて情感豊かであり、今泉作品はドライなのに不思議な温かみがありますが、その伝で申すと本作は「程良い暑さの乾式サウナの熱した石に時折冷水をかけて、適度の湿り気を与えてくれている」ような、そんな仕上がりになっているように思えてなりません。
キャストでは、主演の瀬戸康史は淡々とした内側に秘めた複雑な感情を自然体で表現し得ています。
さとうほなみ、向里祐香ら女優陣もそれぞれ印象深い存在感を披露しており、特に岬役の河合優実は昨年の『サマーフィルムにのって』『由布子の天秤』そして今年の『ちょっと思い出しただけ』と、どの作品を見ても同じ顔を見せない頼もしさで異彩を放っており、当然本作も例外ではありません。
(4月1日公開予定の城定監督の新作にして怪作にして傑作『女子高生に殺されたい』でも好演しています)
–{城定脚本&今泉監督の『猫は逃げた』}–
城定脚本&今泉監督の『猫は逃げた』
『愛なのに』からおよそ1か月後の3月18日からは、“L/R15”第2弾として城定秀夫・脚本、今泉力哉監督(共同脚本も)の『猫は逃げた』が公開されます。
主人公の週刊誌記者・広重(毎熊克哉)と漫画家・亜子(山本奈衣瑠)には、それぞれ後輩記者の真実子(手島実優)と編集者・松山(井之脇海)といった不倫関係の相手がいます。
やがて夫婦は別れることを決めるのですが、ではふたりが溺愛している飼猫カンタ(本当はオセロという名前の猫ちゃんです)は、一体どちらが引き取るのか?で揉め始めていく中、カンタが家からいなくなってしまいます……。
ここでは三角関係どころではない男女のグチャグチャ&ドタバタを「家政婦は見ていた」ならぬ「飼い猫は見ていた(もしくはほったらかした?)」といった雰囲気で描いていきます。
これぞどのキャラクターにも慈愛を隠すことのない城定作品ならではのオモシロ・モードなのですが、やはり今泉監督の演出はそれよりもドライな方向へベクトルを向けていきます。
それが如実に表れるのが、クライマックスの4人が勢揃いしての一大長回しシーンでしょう(一体どういうシチュエーションなのかは見てのお楽しみ! ただひとつ言えることは、スゴイ!)
毎熊克哉をはじめとする4人のキャストが奏でるアンサンブルも、実に良い響きとなって映画を盛り上げてくれています。
ちなみに猫のカンタは『愛なのに』にも同役らしき風情で出演しており、双方を結びつける役割を果たしつつ、あたかも猫のように気まぐれで行く先が見当つかない今回の2作品を象徴してくれていました。
そしてこういった監督同士のコラボレーションは、他者の視線が介入していくことでその作家の資質が見えやすくなるという面白さもあります。
かつては黒澤明が脚本を書き、木下惠介が監督した『肖像』(48)であるとか、佐藤純彌脚本&深作欣二監督『狼と豚と人間』(64)、森田芳光脚本&根岸吉太郎監督『ウホッホ探検隊』(86)などなど、個性の似た者同士も入れば正反対の者もいれば、しかしながらそうした魅力的なコラボによって、その後の作品にまでユニークに反映されていくこともままあるように思われます。
今回の“L/R15”プロジェクトも、必ずや両監督にとっての今後の糧になることは間違いでしょう!
(文:増當竜也)
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–{『愛なのに』『猫は逃げた』作品情報}–
『愛なのに』作品情報
ストーリー
古本屋の店主・多田は、昔のバイト仲間である一花のことが忘れられない。古本屋に通う女子高生・岬は、多田に一途に求婚してくる。一方、亮介と婚約中の一花は結婚式の準備に追われ、亮介とウェディングプランナーの美樹が男女の関係になっていることを知らずにいた……。
予告編
基本情報
出演:瀬戸康史/さとうほなみ/河合優実/中島歩/向里祐香/丈太郎
監督:城定秀夫
公開日:2022年2月25日(金)
製作国:日本
『猫は逃げた』作品情報
ストーリー
漫画家・町田亜子と週刊誌記者の広重は離婚間近の夫婦。広重は同僚の真実子と浮気中で、亜子は編集者の松山と体の関係を持ち、夫婦関係は冷え切っていた。2人は飼い猫カンタをどちらが引き取るかで揉めていたが、カンタが家からいなくなってしまい……。
予告編
基本情報
出演:⼭本奈⾐瑠/毎熊克哉/⼿島実優/井之脇海/伊藤俊介(オズワルド)/中村久美/オセロ(猫)
監督:今泉力哉
公開日:2022年3月18日(金)
製作国:日本