今熱い!「ガーリィレコードチャンネル」“3つ”の注目ポイント

お笑い

…9と4分の3番線…9と4分の3番線…はぁはぁ…あの、すいません、9と4分の3番線は?えっ?あっあなたもホグワーツですか。一緒ですね。えっちょっと、おっおい!

耳に聞き覚えある声で壁に突撃し、「どうしてだよ!」と悲鳴を上げる。

藤原竜也の声でハリー・ポッターのワンシーンが再現されたこの動画は、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」のキャストが発表される1日前にYouTubeにて公開された。藤原竜也のモノマネで知られる「ガーリィレコード」が事前の情報から推察し、ハリー・ポッターを藤原竜也が演じることを的中させたのだ。

お笑い芸人がYouTuberとして動画を配信することが当たり前の時代となった。そのアプローチは多種多様である。サンドウィッチマンは自身の所属するグレープカンパニーのチャンネルでネタを配信している。これは、ネタの転載を防止する役割と布教の役割を担っている。

ドラゴンボールのモノマネで有名なアイデンティティは、 『劇場版 呪術廻戦 0』の主題歌「一途」や「マツケンサンバ」などの曲をドラゴンボールネタとしてアレンジする動画を配信している。的確に音程を合わせ、ドラゴンボールの世界観に寄せていく田島直弥の芸を余すことなく動画に盛り込んでいる。

さて、今回紹介するのは「ガーリィレコードチャンネル」である。NSC東京17期であるガーリィレコードが2017年夏から始めているyoutubeチャンネルだ。他の芸人及びYouTuberとは異なるユニークな世界観によって90万人以上のチャンネル登録者を誇っている。

1.強引に世界観に引きずりこむ絶妙なモノマネ
2.テロップ等の編集をほとんどしない演出
3.長回しによる撮影
4.視聴者の気持ちを代弁するガヤ

この4つの要素が生み出す、即興的で決定的瞬間から来る笑いは、まるで高校の部室を思わせるものがある。

今回は、そんなガーリィレコードチャンネルの魅力を3つの視点から掘り下げていく。

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1.藤原竜也イズムを継承する男・高井佳佑

ガーリィレコードチャンネルは主にモノマネの動画が多い。高井佳佑がアニメや役者になりきって、それに対して周りが反応していくスタイルが主流となっている。コメディとは、真面目の中で生まれるものである。チャップリンもMr.ビーンも作品の中で真面目に行動する。それが空回りすることでおかしさが生まれてくる。高井佳佑も同様に、真面目に世界観の中で演技をする。この異様さに思わず笑いがこぼれていく。

・高井佳佑、ハクになりきる

「ご飯持ってきたハク」を例に取る。

千尋、千尋とささやきながら現れる高井。整っていないおかっぱ頭で、異様なオーラを放つ人物。視聴者は、言動から『千と千尋の神隠し』のハクだと推察する。自分をハクと名乗り、その推察が当たると、ヴィジュアルの衝撃度が増し笑いがこみ上げてくる。これはその空間にいるフェニックスたちも同様だ。

しかしながら、高井は周囲の笑いに巻き込まれてしまうことはない。瞳の奥から自分がハクであることを疑わない純粋な眼差しを向ける。そして、元気のない千尋(雨野宮将明)に対してコンビニで買ったおにぎりを差し出すのだ。

・高井佳佑、マルマインや乙骨憂太になりきる

ここには高井佳佑のモノマネに対する哲学がある。

それは、役になりきること。

自分が高井佳佑であることを忘れることだ。

彼はポケモンのマルマインや「呪術廻戦」の乙骨憂太などになりきる。どのモノマネも見た目は元ネタとは程遠い。しかし、マルマインの場合、特徴であるニカっと歯を魅せる要素をひたすら守り通す。乙骨憂太を演じた時はおどおどし相手の様子を伺いながら喉元の奥から語る要素を踏襲しつつ、「失礼だな、純愛だよ」といった決め台詞を淀みなく的確に言い放つ。

このような本質を抑えたモノマネを恥じらうことなく行うことにより、視聴者は段々と元ネタと高井佳佑を紐付けていきどこか愛着が湧いていくのだ。特にマルマインに関しては、回を追っていくごとに「エネ、エネ」と奇声を上げる存在に可愛らしさを覚え、ついには感情を理解するようになっていく(もちろん、途中で日本語が混ざるサブリミナル効果による影響もあるのだが)。

・高井佳佑、藤原竜也になりきる

そんな高井のモノマネのルーツはやはり藤原竜也にあるだろう。彼の藤原竜也に対する愛は計り知れない。それは「藤原竜也?が選ぶ藤原竜也作品ベスト3」を観ると一目瞭然だ。『カイジ』と『デスノート』を除いた上で3本を発表していくのだが、これが王道からマニアックな作品、少しだけ登場する作品にまで言及しモノマネしながら20分にもわたって語り尽くす。

藤原竜也は『カイジ』において、原作のヴィジュアルとは全く似ていない伊藤開司を演じている。しかしながら、伊藤開司特有のクズながらもどこか人を惹きつけてしまうオーラでもって藤原竜也のカイジ像を生み出した。原作をリスペクトしつつ、新しいカイジ像を生み出したのである。当然ながら、劇中の藤原竜也の瞳には自分が伊藤開司であることを疑わない眼差しがある。

高井佳佑は藤原竜也イズムを継承し、それをアニメのキャラクターや実在の人物に適用している。そのため、幾つか動画を観ていくと、彼から高井佳佑が見えなくなっている瞬間をたくさん目撃し驚愕することであろう。

–{2.決定的瞬間を収める男・フェニックス}–

2.決定的瞬間を収める男・フェニックス

ガーリィレコードチャンネルの特徴としてテロップなし、長回しによる演出が挙げられる。初期こそは「藤原竜也?に1日密着!」のようにテロップを入れていたが、最近の動画では基本的にテロップなしのワンカットで演出されているのだ。

これが即興で生まれる笑いの面白さの秘訣であり、部室での何気ない会話から生まれる面白さへと繋がっている。この演出を支えているのがフェニックスの巧みな空間の捉え方である。YouTubeの動画の多くが、狭い部屋を平面的に撮る。しかし、フェニックスが作り出す画は立体的だ。

・フェニックス、マツケンサンバを撮る

歌シリーズがある。扉の前で雨野宮将明を歌うと、中から曲が聞こえてくる。扉を開けるとコスプレをした高井佳佑やゲストが歌っている。このフォーマットは、部屋の中(=見えない空間)に対するワクワクを視聴者に与え、扉の内側で繰り広げられている滑稽なパフォーマンスが近づいてくることで奥行きある動画に仕上がっている。このシリーズでの最高傑作は「松平健『マツケンサンバ』歌おうとしたら…」であろう。

秋山太郎&雨野宮将明が扉の前で「マツケンサンバ」のリズムを口ずさみ、高井佳佑がうろ覚えの状態でパフォーマンスをする内容。開始前から、扉の奥で「オッレー!」「ボンゴ!」と声高らかに叫ぶ様子に好奇心が刺激される。扉を開けると、黄金を身にまとった彼が機敏に動き回る。

これを数度繰り返すのだが、段々と動きの切れ味が増していき、最終的に劇団四季も驚愕の身体的柔らかさをみせつける。カメラは異様な高井の動きに同様し、乱れることなく動きを捉え続ける。さらには彼の迫真の表情をズームで収める。アクロバティックなカメラワークを難なくこなすフェニックスの対応力に脱帽する。

・フェニックス、スパイダーマンを撮る

巧みなカメラワークは「スパイダーバース?」でも確認することができる。様々な世界のスパイダーマン が集結するこの作品は、困惑するスパイダーマンたちの会話を10分の長回しで捉えている。部屋に倒れているトム・ホランド版スパイダーマンの全身を捉え、次にトビー・マグワイア版スパイダーマンの全身を捉え、最後に謎のスパイダーマンを含めた3人を画に収める。

動画の終盤では、偶然現れた第4のスパイダーマンをアップで収め、そのまま3人の顔を綺麗に捉えていく。決定的瞬間を逃さない華麗なカメラ捌きはまるで映画のようである。この作品は、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の約1年半前に配信されたものである。

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』を踏まえたうえで観ると世界観に対する解像度の高さが伺える。一見、異質なヴィジュアルの高井スパイダーマンですら、『スパイダーマン:スパイダーバース』におけるスパイダーマン・ノワールとスパイダー・ハムを足して2で割ったような造形を忠実に再現しているように見える。

その結果、2025年に高井スパイダーマンがアッセンブルしてもおかしくないと感じずにはいられなくなってしまう。

・フェニックス、マルマインを撮る

また、フェニックスはフレームの外側の人間でありながら世界観を作る役割を担っている。マルマインシリーズでは「マルマイン!」と語りかけ、「エネ!」としか発しない彼と対話をすることで、ポケモンとトレーナーの友情がある世界を生み出している。この演出により、視聴者は段々と水泳帽を深く被った異様な存在をポケモンとして認識しはじめるのだ。

このように、フェニックスのユニークなカメラワークによって生み出される立体的な画は、他のYouTube動画では中々観られない世界観でもって視聴者を魅了し続けているといえる。

–{3.視聴者の代弁者・秋山太郎&雨野宮将明}–

3.視聴者の代弁者・秋山太郎&雨野宮将明

高井佳佑は様々な役に徹する。その役へのツッコミとして秋山太郎&雨野宮将明がいる。2人は、視聴者の困惑と笑いを代弁し、面白さを増長させる役割を担っている。「ご飯持ってきたハク」では明らかに似ていないハクのヴィジュアルに動揺する2人が映し出される。千尋かい?とゴリ押ししてくる高井に折れて、千尋と受け入れる。

これは視聴者も、圧力に負けて眼前に映るおかっぱ姿を一旦ハクとして認識する様子を代弁している。そしてハクの袋から次々と出てくるパワフルな食糧に対し「千尋を柔道部だと思っている?」と語る。視聴者が思ったことを的確に2人は言及していく。そこに共感と親しみが生まれてくる。

・秋山太郎&雨野宮将明、オーキド博士を受け入れる

オーキド博士を演じる高井が出す中国語からポケモンの名前を当てる動画「オーキドの中国語ポケモン名クイズ」がある。最初の問題では「蚊香君」である。いきなり難しそうな問題が出される。この動揺を2人は「えー」と表現する。そしてバタフリー、トランセルと漢字から連想されるポケモンを推察していく。その連想は理にかなっており、着実にゴールへ近づいていく面白さを生み出している。

・秋山太郎&雨野宮将明、バリヤードを受け入れる

ポケモンに対する反応として、ポケモンカードを開封する回「【ポケカ】新弾スターバースを開封しようとしたら現れたバリヤード」がある。不気味な造形のバリヤードに対して、「キモい」、「しゃべりかけていいのかな?」と第一印象を語る。

その後「優しいポケモンだから」「すごいんだけどなにこれ」「好きなんだポケカ」と少しずつ距離を縮めていく。秋山と雨野宮がバリヤードと打ち解けようとリードすることで、視聴者もこの異常な世界の沼へと引きずり込まれることになる。

つまり2人の存在によって、視聴者はモノマネが生み出す虚構へと誘われていくのだ。

このようにガーリィレコードチャンネルでは、藤原竜也イズムを継承する男・高井佳佑、決定的瞬間を収める男・フェニックス、そして視聴者の代弁者・秋山太郎&雨野宮将明によって唯一無二の世界観を生み出し、視聴者を魅了し続けている。

チャンネル登録者数100万人まで目前に迫ったガーリィレコードチャンネルは、どのような世界観を爆誕させていくのか今後も注目である。

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(文:CHE BUNBUN )

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