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「ミステリと言う勿れ」(C)田村由美/小学館 (C)フジテレビジョン
月9ドラマ「ミステリと言う勿れ」で主演・久能整を演じる菅田将暉。
警察官やバスジャック犯を相手にしても、躊躇なく論破する。
原作ありきの作品でファンも非常に多い中、“マイペースなおしゃべりパーマ”な久能整を容姿も性格も見事完コピし、原作ファンからの反応も上々だ。
演じる役によって外見がまったく異なり、その高い演技力から「菅田将暉」と気付かないことさえある。いや、菅田将暉は菅田将暉なのだが……なんだろう、まったくの別人というか……。
特に、主要キャストにしれっと紛れ込んでいる“至って普通”な役柄においては一瞬スルーしてしまいそうになる。
たとえば、『浅田家!』(20)での写真洗浄ボランティア・小野陽介役。後から「えっ?あれ菅田将暉やん!」となるアハ体験。
俗に言う化粧映えする顔なのかもしれないが、やはりその役ごとに猛烈に憑依することで内側からにじみ出る空気感までもが異なるのだ。まさに、日本一のカメレオン俳優。
現在はインテリ野郎な菅田将暉というイメージが植え付けられていると思うが、前述した至って普通な菅田将暉やファンキーな菅田将暉、ミステリアスな菅田将暉、無機質な菅田将暉など、追いきれないほどたくさんの菅田将暉が存在する。
ここからは、「ミステリと言う勿れ」での整くんと同一人物とは思い難い、“ヤバい”菅田将暉を拝める映画・3作品を紹介していく。
『共喰い』:暴力的な性癖を受け継ぐ多感な少年
田中慎弥著の芥川賞受賞作を荒井晴彦脚本、青山真治監督により実写化された『共喰い』(13)。
当時、菅田将暉は弱冠19歳にして、大胆な濡れ場を経験することになる。
菅田将暉は、本作品で主演・篠垣遠馬を演じた。
17歳を迎えた遠馬は、幼馴染の彼女・千種(木下美咲)とセックスをするも、遠馬の父・円(光石研)の暴力的な性癖を受け継いでいることに気付く。普段は明るい父とはいえ、そんな一面を持つ父親に嫌悪感を抱いていたにもかかわらず、やはり血には抗えない。
(C)田中慎弥/集英社・2012「共喰い」製作委員会
実母・仁子(田中裕子)はそんな円に愛想を尽かしすでに別居しており、円には愛人・琴子(篠原ゆき子)がいる。遠馬は父とその愛人とひとつ屋根の下で暮らし、夜な夜な父の獣のような姿を覗き見しているというわけだ。
噂には聞いていたが、これは実際に観てみないと体感できない、言うまでもなくディープで過激な衝撃作品。
純粋に「19歳でこんな役を見事演じきった菅田くん、ヤバい通り越してスゴい」という尊敬の念が沸き起こる。
初々しさもありながら、父と同じ血を引く自身の止められない衝動に対する計り知れない苦悶と焦燥感が、鮮明に浮き彫りとなっていた。
(C)田中慎弥/集英社・2012「共喰い」製作委員会
本作品の公開から約9年が経ち、現在28歳の菅田将暉だが、人としても役者としても経験を積んだ今ではなく、19歳の菅田将暉だからこそ体現できた篠垣遠馬でもあると思う。
当時の菅田将暉にとっても多大なる挑戦となった『共喰い』、彼の俳優としての変遷を追うという意味合いでもぜひチェックしてほしい作品だ。
–{『ディストラクション・ベイビーズ』:無邪気に加速する狂気に絶望}–
『ディストラクション・ベイビーズ』:無邪気に加速する狂気に絶望
『宮本から君へ』(19)で知られる真利子哲也監督の長編商業映画デビュー作『ディストラクション・ベイビーズ』(16)。
暴力を振るうことでしか欲求を満たすことの出来ない男・芦原泰良(柳楽優弥)のありのままの姿が描かれた作品だ。
菅田将暉は、そんな泰良の姿を見かけて興味を持ち、後のバディとなる北原裕也を演じた。
泰良の持つ脅かしい狂気が、どんどんどんどん裕也に侵食していく。
「なんの罪もない人たちにこんなにも暴力を振るって、なにが楽しいんだろう」ーーそう思わせられるほどに目を伏せたくなる描写。まぁこれも柳楽優弥と菅田将暉の狂演あってこそなのだが、役柄とは理解しつつも2人のことを嫌いになってしまいそうになるほどの作品である。
(C)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会
また、本作品で言及せずにいられないのは、菅田将暉の妻・小松菜奈との初共演作でもあるということ。
小松菜奈は、泰良と裕也が強奪した車にたまたま乗り合わせていたキャバ嬢・那奈として出演。裕也から酷い性的暴行を犯されるシーンもあり、当時「菅田さんのことが嫌いでした」と語っていたことは今となっては笑い話。あれは嫌いになるよね、わかる。
しかしこのシーンの後に、那奈のとんでもない逆上を目の当たりにすることになるのだからおもしろい。最も恐ろしいのは、泰良でも裕也でもなく那奈なのかもしれない。
(C)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会
菅田将暉の狂気、そして、妻である小松菜奈との初共演を拝める『ディストラクション・ベイビーズ』。後者をキッカケとした“尊い”という気持ちで見始めると痛い目にあうので、充分に注意してほしい。
>>>【関連記事】<菅田将暉×小松菜奈>国宝級夫婦をガチで拝める作品を振り返る
–{『タロウのバカ』:社会からはじき出された少年の哀れすぎる行く末}–
『タロウのバカ』:社会からはじき出された少年の哀れすぎる行く末
『セトウツミ』(16)や『MOTHER マザー』(20)など、ハートフル〜ドラスティックまで幅広い作品を手掛ける大森立嗣によるオリジナル脚本・監督作品『タロウのバカ』(19)。
タロウ、エージ、スギオという、社会からはじきだされた3人の少年の日常を綴った本作品。
菅田将暉は、高校生にして挫折を味わい自暴自棄になり、暴力に走ってしまう少年・エージを演じた。
(C)2019 映画「タロウのバカ」製作委員会
この3人の中で一番ヤバいのは、YOSHI演じるタロウだ。
戸籍がなく名前もない、育児放棄され社会からも置いてけぼりになっているタロウには、そもそも何がヤバいのかという線引きを理解していない。わからないことほど恐ろしいことはない。
対して、最も正常な思考を持っているのは仲野太賀演じるスギオ。
スギオは至って普通で、ただただ臆病な孤独なのだ。孤独を恐れているから、エージやタロウから離れられない。だからこそ、スギオのあの決断は彼にとっての最大の勇気だったのかもしれない。
(C)2019 映画「タロウのバカ」製作委員会
そして菅田将暉演じるエージは、ヤバさに対するアクセルを踏んでしまう人物に至ってしまった。
元々は、柔道に明け暮れる明朗快活な少年だったんだと思う。身体が資本な柔道において膝を壊してしまい、柔道部の顧問に「生きてる意味ねぇんだよ」「社会のすみっこで生きてけ」と罵倒されるシーンは、映画であっても二度と見たくないと思ってしまうほどには腹立たしい。
……こんなのさ、人生どうでもよくなっちゃうに決まってるよね。ドラマ「ドラゴン桜」の楓(平手友梨奈)の両親もそうだけど、なぜ親や先生などその子にとって一番近くにいる味方であるはずの大人が、その子の人生を決めつけてしまっているのだろうか……。
(C)2019 映画「タロウのバカ」製作委員会
この出来事を引き金に、エージのやさぐれた日々がはじまる。
タロウのヤバさを加速させたのも、スギオの弱さを全面に引き出したのも、紛れもなくエージだ。でも、全くかばうわけではなく、エージは悪くない。そんな風にさせてしまった、大人が悪いのだ。
育児放棄、犯罪、売春、暴力、社会孤立、孤独死に満ちた世界がセンセーショナルに描かれており、正直見る人をかなり選ぶ作品。が、これは“世界のどこかに存在している世界”であり、受け入れなければならない事実でもあるということを覚えておきたい。
いかなる作品も名作に仕立て上げる、菅田将暉の“裏の魅力”
「ミステリと言う勿れ」(C)田村由美/小学館 (C)フジテレビジョン
善人から悪人まで、強固な原型が存在する原作モノにも見事に憑依する菅田将暉。
出演作品を眺めていると「演じたことがないカテゴリはないのではないか」と思ってしまうほどにあらゆるキャラクターを網羅している。
キャラクターといえば、映画『キャラクター』。Fukaseの怪演には圧巻だったが、菅田将暉が彼の良さを押し上げていたようにも思う。
思い返してみると、どの作品においても「菅田くん、よかったよね」ではなく「菅田くんが出てたあの作品、菅田くんも物語もキャストも全部よかったよね」というパターンが多すぎる。そう、ハズレがないのだ。
ここから考えるに、妻・小松菜奈をはじめ、有村架純や二階堂ふみ、仲野太賀、柄本佑など、共演者を輝かせる鏡のような役割をも果たしているのではないか。もちろん、その人それぞれの演技力あってこそではあるが、これもまた菅田将暉の持つ不思議な魅力である。
……またひとつ、彼の素晴らしさが更新されてしまった。
今クールは、月9ドラマ「ミステリと言う勿れ」の久能整だけでなく、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の源義経も拝むことができる、とんだ贅沢期間。
見逃すことなく、菅田将暉の活躍を追いかけていきたい。
(文:桐本絵梨花)