花江夏樹、梶裕貴、村瀬歩という主役級声優がメインキャストを、[Alexandros] が主題歌を務めることでも注目を集めている劇場版アニメ『グッバイ、ドン・グリーズ!(以下、ドン・グリーズとも表記)』。おそらくこれらのルートからこの作品を知った人もいるのではないでしょうか。
同作をそれぞれのルートから知った人はきっと、あるワードを見かけていると思います。
「よりもい」
「宇宙よりも遠い場所」
「宇宙よりも遠い場所」は、『グッバイ、ドン・グリーズ!』で監督と脚本を務めるいしづかあつこ氏率いる制作チームが2018年に手掛け、ニューヨーク・タイムズ紙「2018年 最も優れたテレビ番組(The Best TV Shows of 2018)」海外番組部門10作品の1作品にも選ばれたTVアニメです。
いしづか監督は2021年1月に実施されたドン・グリーズのスペシャルトーク付き試写会で、同作に「よりもい」のエッセンスも入っていると述べています。
つまり『グッバイ、ドン・グリーズ!』は「よりもい」を知っているとより楽しめる映画、とも言えるのでは……!?
今回はそんなTVアニメ「宇宙よりも遠い場所」の魅力を、ストーリーの大きなネタバレとならない範囲でお届けします。
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1.むき出しの青春にグッとくる
「女子高生、南極へ行く!」
「女子高生南極青春グラフィティ!」
これらアニメ公式サイトのコピーやイントロダクションを見てわかるとおり、「よりもい」こと「宇宙よりも遠い場所」は、女子高生が南極で青春する物語です。
いやいや、女子高生が南極に行くなんて非現実的すぎるのでは……。
青春モノを描くなら、他の身近な舞台だって用意できただろうに……。
声を大にして言いましょう。この物語の舞台は、南極でなければならなかった、と。
そう思う理由の1つに、南極の過酷さが挙げられます。想像を絶する寒さ、紫外線を跳ね返す美しいだけではない雪原、さらに数メートル先の景色すら見えなくなるブリザード。
これらの命の危険と隣り合わせな環境が、メインキャラクターの女子高生4人にとって共通の「試練」となっていたためです。
また青春物語の舞台にふさわしい理由の1つとして、南極が「一度着いてしまえば、しばらくそこでの生活を余儀なくされる」環境であることも挙げられるでしょう。
異なる環境で暮らしてきた人同士の共同生活では、なかなか理解できない人の感情や思考と向き合わなければならない場面も出てきます。そう簡単に逃げ出せない環境で発生した人間関係の壁を乗り越えるために、彼女たちは自分の感情のいい部分だけでなく本当は隠しておきたいような部分もさらけ出さざるをえませんでした。
しかし自分をむき出しにしたことで、結果的に互いの絆を深め、自身が抱える葛藤や悩みを乗り越える力になっていくのです。
南極という過酷で逃げられない、見てみぬフリができない環境が舞台だったからこそ描き切れた「体当たりの青春」に、胸が熱くなること必至です。
–{2.隣にいそうなキャラクターたち}–
2.隣にいそうなキャラクターたち
イメージは膨らむものの一歩踏み出せない自分を変えたいと願っていた、玉木マリ(キマリ)。周りに何と言われようと「南極に行く」という目標を達成するために奮闘する、小淵沢報瀬(しらせ)。とある事情で高校を中退し、フリーターをしながらを大学進学を目指す三宅日向(ひなた)。芸能活動でなかなか親友ができずに悩んでいた、白石結月(ゆづき)。
このメインの女子高生4人はもちろん、彼女たちの周囲を固めるキャラクターに目を奪われてしまうのも「よりもい」の魅力だと言えるでしょう。
どのキャラクターにも共通しているのは、意外性。キマリら女子高生たちだけでなく、憧れを抱く生き様を見せてくれた南極観測隊のメンバーも、クスっと心がほどけるような一面を持つ人ばかりなのです。このギャップが、物語に緩急を与えています。
また青春のキラキラした上澄みだけでなく、人間が心の中に密かに持っているずるさや弱さといった等身大の感情さえも、本当にいい意味でバカ正直に描いていました。そのため同作に登場するキャラクターたちは視聴者にとって、隣にいてもおかしくない距離感を保てていたと思うのです。
–{3.リアルな南極描写の理由は強(協)力布陣にあり}–
3.リアルな南極描写の理由は強(協)力布陣にあり
アニメの制作では専門性を要する題材の場合、その道のプロや専門家が監修や協力をすることもあります。「よりもい」も、気軽に行ける場所ではない南極を舞台にしたアニメです。その協力体制を見てみましょう。
文部科学省、国立極地研究所、海上自衛隊、SHIRASE5002(一財)WNI気象文化創造センター
※TVアニメ「宇宙よりも遠い場所」公式サイト STAFF&CASTページより引用
「JAPAN」と口に出してしまいそうなほど、そうそうたる面々の協力に驚かされます。ただこの協力があったからこそ、アニメというフィクションでありながらも南極観測隊員たちの日常に人の体温が感じられたのだろうと思うのです。
そもそも移動中の船の様子や現地に着いてからの風景、昭和基地の雰囲気、隊員たちの生活などの「南極あるある」は、そのどれもが知らないこと、そもそも知らないということにすら気づいていなかったことのオンパレード。
いしづかあつこ監督は公式サイトのインタビューで、制作時に苦労した点として「基地での生活全般」を挙げていました。資料だけでは見えてこない南極での生活風景描写は、観測隊OBの方への取材を通して解決。現地を体験した人たちの声があったからこそ、アニメに落とし込む確信が持てたといしづか監督は語っています。
作り手が抱いていた南極への疑問点はきっと、視聴者の「知らない」「わからない」と共通していたのではないでしょうか。
実際にアニメ公式サイトにある南極チャレンジを見れば、いかに素朴な疑問を投げかける、丁寧な取材が行われたかがわかります。丁寧な取材に裏打ちされたアニメの描写からは、南極暮らしの「なぜ」に対する答えが返ってくるでしょう。
南極を知る猛者たちの強力な協力で疑問を解消したからこそ描けた、南極を目指す人々のリアルも必見です。
「よりもい」のエッセンスを吸収して、さあ『ドン・グリーズ』へ
「私の青春が、動き出す!」
これは「女子高生、南極へ行く!」と並ぶ、「宇宙よりも遠い場所」のコピーです。この「私」は、キマリ、しらせ、ひなた、ゆづきの女子高生を指し示すもののように思えます。
しかし彼女たちの旅のラストを見届けたあと、気づけばいち視聴者である「私」の青春も動き出している、そんな感覚が味わえるのです。
ファンのなかには、アニメを観て実際に南極を聖地巡礼した人もいるほど。
ドン・グリーズの上映に合わせた部分もあるのかもしれませんが、2021年には2度再放送があった「よりもい」。新作アニメの勢いに埋もれることなく、何度だって観る者の知的好奇心を満たし、極上の青春も届けてくれる作品だと実感させられました。
『グッバイ、ドン・グリーズ!』をより楽しむためのきっかけとしてはもちろん、心が晴れやかになる、前向きになれる作品との出会いをお求めの方に、私は全力で「よりもい」こと「宇宙よりも遠い場所」をおすすめします!
(文・クリス菜緒)
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–{「宇宙よりも遠い場所」作品情報}–
「宇宙よりも遠い場所」作品情報
ストーリー
そこは、宇宙よりも遠い場所──。
何かを始めたいと思いながら、中々一歩を踏み出すことのできないまま高校2年生になってしまった少女・玉木マリことキマリは、とあることをきっかけに南極を目指す少女・小淵沢報瀬と出会う。
高校生が南極になんて行けるわけがないと言われても、絶対にあきらめようとしない報瀬の姿に心を動かされたキマリは、報瀬と共に南極を目指すことを誓うのだが……。
予告編
基本情報
原作:よりもい
声の出演:水瀬いのり/花澤香菜/井口裕香/早見沙織 ほか
監督:いしづかあつこ
シリーズ構成・脚本:花田十輝
キャラクターデザイン・総作画監督:吉松孝博
美術設定:平澤晃弘
美術監督:山根左帆
色彩設計:大野春恵
撮影監督:川下裕樹
3D監督:日下大輔
編集:木村佳史子
音響監督:明田川 仁
音響効果:上野 励
音楽:藤澤慶昌
音楽制作:KADOKAWA
協力:文部科学省、国立極地研究所、海上自衛隊、SHIRASE5002(一財)WNI気象文化創造センター
アニメーション制作:MADHOUSE
製作:「宇宙よりも遠い場所」製作委員会