ジブリパークに行ってきた!<発表会徹底レポート>宮崎駿が「吾朗に任せる」と言った理由

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愛知県の愛・地球博記念公園に開園する、ジブリパークのメディア向け発表会が行われた。



開園日は11月1日に決定。三鷹の森ジブリ美術館と同じく事前予約制になる。大村秀章愛知県知事によると、予約の開始時期は現在調整中ではあるものの、夏ごろには可能になるかもしれないとのこと。入園料金も未定だが、公営事業により作られていることもあって、リーズナブルな価格にはなるそうだ。

そのジブリパークは、名前通りにスタジオジブリ作品の世界観を現実で表現した公園。開園日の11月1日には「青春の丘」「ジブリの大倉庫」「どんどこ森」という3エリアがオープンとなり、1年後の2023年には「もののけの里」「魔女の谷」の2エリアも完成する予定だ。

(C) Studio Ghibli

大村知事は、今はまだコロナ禍で大変な状況であることを踏まえつつ、「アフターコロナのもっとも明るい話題となるように盛り上げて行きたい」と意気込みを語っていた。宮崎吾朗監督、鈴木敏夫プロデューサーも登壇した発表会の内容からさらに興味深いことがわかってきたので、レポートしよう。

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(左:大村秀章愛知県知事、右:鈴木敏夫プロデューサー)

「これは吾朗に任せる」と言ったはずの宮崎駿はこっそりと……?

このジブリパークの企画を発注した鈴木敏夫は、宮崎駿が普段から「他の誰かがやっていることに口を出さずにはいられない」性格の持ち主であることを踏まえ、ジブリパークの見学時の宮崎駿にも「とにかく文句を言ってやろう」という雰囲気を感じ取っていたそうだ。

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だが、雨が降っていたことでかえって雰囲気が良かったためか、実際に工事中の現場を観た宮崎駿は、なんと「決めた! これは(宮崎)吾朗に任せる! 俺が口を出すことじゃない!」と言い切ったのだという。

宮崎吾朗はジブリパークの企画について「いわゆる(普通の)テーマパークではない。基本、公園であることを崩してはならない。でも、来たら楽しい場所にしたい」と意気込んでいたこともあったが、鈴木敏夫はその時点では「絵に描いた餅」に思っていたそうだ。だが、そんな鈴木敏夫であっても、工事中の現場を観た時点で「手前味噌ですが、この仕事をやって本当に良かった」と心から思ったのだという。

さらに鈴木敏夫は、三鷹の森ジブリ美術館の精神も生きていた、その発展系があり、それでこそ手応えを感じたとも語っていた。さらに「百聞は一見にしかず」であり、工事中の一部しか見学できない現状でも、完成系を想像することで見えてくるものもあるはずだと強調した。

さらに、「吾朗に任せた」と言ったはずの宮崎駿は、アトリエでジブリパークの自分の案を内緒で考えていて、それを書いた紙をサッと隠したそうで、それを見た鈴木敏夫は「本当に性格が悪い」と思ったという。「もしかしたら将来、吾朗くんがその案を活かして何かをするかもしれません」「ぜひ、ジブリパークに期待をしてください」と鈴木敏夫は締め括った。

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–{宮崎吾朗監督の「ジブリ作品を忘れさせてはいけない」という信念}–

「ジブリ作品を忘れさせてはいけない」という信念

続いて、岡村徹也プロデューサーが司会進行を行うかたちで、ジブリパークの監督を務める宮崎吾朗が、その企画の経緯を語った。

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(左:岡村徹也プロデューサー、右:宮崎吾朗監督)

宮崎吾朗は、2013年に宮崎駿が長編映画作品からの(何度目かの一旦の)引退を表明し、さらに2014年末にスタジオジブリがアニメの制作現場を解散した過去を振り返った。当時に宮崎吾朗はテレビアニメシリーズ『山賊の娘 ローニャ』を手掛けており、その仕事を終えた2015年の春にはジブリにもうほとんど誰もいなかったそうだ。その時にジブリパークの企画の監督を引き受けたのは、端的に「失業するのがイヤだった」ことも理由もあったという。

そんな切実な事情と共に、宮崎吾朗には「スタジオジブリ作品を遺していきたい」という信念もあったという。「映画は時代と共にあるものだから。放っておくと忘れられてしまう」と考え、作品を遺すためにできることがジブリパークであると考えたそうだ。

また、ジブリパークの具体的な案が出てくる中で、宮崎吾朗は違和感を覚えていたこともあったという。その1つの理由は、ジブリ作品はファンタジーであるようでいて、かなりの部分は現実世界を舞台にしていることだった。たとえば、『耳をすませば』の聖蹟桜ヶ丘や、『平成狸合戦ぽんぽこ』の開発中の多摩ニュータウンを作ったりするのはナンセンスだなとも考えたという。

それを踏まえ、宮崎吾朗は良い意味で「皆さんが考えるような普通のテーマパークではない」と述べた。さらに、愛・地球博公園という場所があったこと、すでにサツキとメイの家を作っていたことなど、いろいろなご縁があったこともあり、徐々にイメージも固まっていったようだ。

また、かつて青少年公園や万博があった昭和の時代も振り返った宮崎吾朗は、「土地に対して思い出や記憶を持っている人がいっぱいいる、今も公園として使っている場所に、このジブリパークができることで、その記憶が壊されたり、いまある公園がなくなってしまったりするのは筋違いです」とも語った。その上で「お邪魔にならないように、公園でまだ使われていない場所や、温水プールだった場所など、隙間に入っていくように作ることができれば」との配慮も考えていたという。

さらに「ジブリパークの楽しみ方とは?」とストレートに質問された宮崎吾朗は、「どうやって楽しめばいいんですかね」と一旦は言葉を詰まらせながらも、「ジブリパークには(大きく分けて)2つの場所があり、『サツキとメイの家』のように、屋外の緑の中に本物の建物があって、その中に入って楽しんでいただく場所と、『ジブリ大倉庫』のように建物の中に建物を作って、ジブリの怪しげなガラクタから大切な宝物まで見られるような場所があるので、皆さんが楽しみ方を見つけていってくれれば」と語っていた。

観光PR動画の監督は宮崎駿とそっくり?

観光PR動画「風になって、遊ぼう。」もこの場でお披露目になった。

「風になって、遊ぼう。」は、「ジブリパークのある愛知」の魅力を、スタジオジブリの世界観 に沿って描いた観光PR動画。 県内の観光スポットを取り上げ、ジブリパーク来場者に県内周遊を呼びかける、疾走感に溢れた映像となっている。 スタジオジブリが観光PR動画を手掛けるのは初めてのことであり、実写作品を手がけることも非常に珍しい。

見逃せないのは、『四月の永い夢』(18)や『わたしは光をにぎっている』(19)、さらに2022年4月1日に公開を控えている『やがて海へと届く』中川龍太郎が監督を務めていることだろう。鈴木によると、中川監督は「あなたの『国のカンヤダ』という小説を映画化したいから会いたい」という手紙を送ってきたそうで、中川監督と鈴木敏夫は大晦日を一緒に過ごしていたりもしたらしい。

さらに、鈴木敏夫によると中川監督は宮崎駿に性格がそっくりとのこと。その理由は「あんまり深く考えないですぐに手を出しちゃう」ことにもあるそうで、「頼まれるとすぐにやっちゃうおっちょこちょいなところ」も2人は似ているのだという。

「風になって、遊ぼう。」の劇中で少女が訪れる愛知の観光スポットの詳細は、公式サイトにも記されているのでぜひチェックしてほしい。さらに、メイキング映像も公開されている。

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–{工事中のエリアの見学でわかってきたこと}–

工事中のエリアの見学でわかってきたこと

発表会後に、工事中の「青春の丘」「ジブリの大倉庫」への見学をすることができた。

現在はほぼ外観しかわからない、素人目にはまだまだ完成には程遠いと思える状態ではあったが、宮崎吾朗によると「外観も中身も一緒に追い込みで製作中」とのことだ。ここから後に掲載する完成予想図へと近づいていく様を想像していただけたら幸いである。

青春の丘~来園者を迎え、導くジブリパークの象徴~

「青春の丘」は『耳をすませば』の舞台をイメージしており、アンティーク家具や時計の修理・販売を行う「地球屋」を再現する。中も作り込まれる予定で、背丈よりも大きいからくり時計や、劇中のキャラクター「バロン」の人形も設置するとのこと。階段を降りていった先にはバイオリンの工房もあるという。

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また、電話ボックスや掲示板に電話機や貼り紙等を設置した「ロータリー広場」も表現する予定。

さらに、『猫の恩返し』の「猫の事務所」 もあわせて設置される。家具や小物なども猫(ミニチュア)サイズで制作されるという。

宮崎吾朗は、『耳をすませば』および『猫の恩返し』のキャラクター「ムーン(ムタ)」と共に記念撮影をした。後ろに見えるのが、「猫の事務所」である。

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さらに『天空の城ラピュタ』『ハウルの動く城』などに出てくる「エレベーター塔」も再現されている。

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完成予想図は以下となる。

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以下は実際の『耳をすませば』の劇中で登場する「地球屋」だ。この外観や中身をどれだけ再現できるのか、期待したい。

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–{宝物を展示する「ジブリ大倉庫」}–

ジブリの大倉庫 〜ジブリ作品などの保管・保存、展示と遊びと憩の空間~

「ジブリの大倉庫」は屋内の温水プール施設を再利用している。今はまだコンクリートが剥き出しの状態であるが、職人が手がけたカラフルなタイルも貼られていき、沖縄から取り寄せた熱帯性の植木も設置されるという。プールの更衣室だったところを研究室に見立てるなど、できるだけ壊さずに再利用する工夫もたくさんあるそうだ。

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ジブリの造形物が多数展示される場所となるが、そこには「ジブリの展示をやればやるほどに増えていく造形物が増えていき、倉庫代もバカにはならなくなってきた」という、端的に言って造形物の保管場所に困っていたという事情もあったそうだ。三鷹の森美術館が根本的にまさに美術館であることに対し、こちらは「いろいろなものがごちゃごちゃあるようなオープンな場所になればいい」とも、宮崎吾朗は語っていた。

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また、通常の美術館や博物館のような「順路」は存在せず、自由に見て回ることができるらしい。宮崎吾朗は「屋内なので天気が良くない時にも楽しめる」「展示物をまじめに見ていくだけでも3時間はかかる」「ジブリ美術館以上に迷子になって頂ければいい」とも語っていた。

完成予想図は以下である。

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「ジブリの大倉庫」では、(今回の見学では見えなかった場所になるが)『借りぐらしのアリエッティ』に登場するアリエッティやその家族が暮らす家と、彼女たちの目線で見た植物の茂る庭を大きなセットで表現する。

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さらに、『天空の城ラピュタ』に登場する廃墟となったラピュタの庭園、空飛ぶ巨大な船を全長およそ6mのスケールで 設置する予定。

その他、子どもたちが『となりのトトロ』の世界で遊べる部屋も用意されるそうだ。ジブリ美術館にもあるような猫バスだけでなく、木の中の部屋や、子どもサイズの新たなサツキとメイの家も設置されるという。

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–{トトロの中に入れる木製遊具「どんどこ堂」}–

どんどこ森 ~サツキとメイの家と自然空間~

「どんどこ森」は『となりのトトロ』の昭和の田園景観をイメージ。今回は足場が悪いため見学は叶わなかったが、愛・地球博記念公園ですでに大人気施設となっていた「サツキとメイの家」の他、新たにトトロの中に入れる高さ5.2mの木製遊具の「どんどこ堂」が登場するとのことだ。

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「どんどこ堂」の(一度の)想定利用人数は、小学校低学年の児童5~6人だそうだ。

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そして、1年後の2023年には、さらに「もののけの里」と「魔女の谷」が完成予定だ。

「もののけの里」は、『もののけ姫』のエミシの村とタタラ場をもとにした和風の里山的風景をイメージし、「タタラ場(体験学習施設)」と「炭焼き小屋」の他、休憩処などを整備予定だという。

「魔女の谷」は、『魔女の宅急便』や『ハウルの動く城』などの北ヨーロッパ風の空間をイメージし、「オキノ邸」と庭園、 「ハウルの城」と荒地、レストラン棟などを整備予定となっている。

また、ジブリパークの公式サイト(https://ghibli-park.jp/)は2月1日12:00 にオープンとなる予定。ジブリパークの最新情報は今後、こちらのサイトで段階的に発表されるとのことだ。こちらも合わせて、ぜひ期待してほしい。

(取材・文=ヒナタカ)

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