「ゴシップ #彼女が知りたい本当の○○」(C)フジテレビ
女優・黒木華(くろき はる)。
2022年冬クールドラマ「ゴシップ #彼女が知りたい本当の○○」にて主演・瀬古凛々子を好演中。
2022年1月28日公開『ノイズ』、2022年3月4日公開『余命十年』にも出演予定と、2022年幕開け早々、黒木華の勢いは止まらない。
どんな作品においても、“黒木華”という強固な存在感は残しつつどんなキャラクターにも扮するその変幻自在な魅力に、誰もが夢中になっていることだろう。
そこで、彼女の女優人生を振り返るに欠かせない映画3作品・ドラマ3作品を私なりにピックアップ。
ここからは、作品と役柄に沿って黒木華の魅力を探求していく。
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映画『小さいおうち』:どうしようもない恋に立ち向かう実らぬ恋
(C)2014「小さいおうち」製作委員会
『男はつらいよ』シリーズでお馴染み、山田洋次による監督作品である『小さいおうち』(14)。
昭和11年、女中(現代で言うお手伝いさん)として働いていたお屋敷=小さいおうちで、ご主人様・平井雅樹(片岡孝太郎)の会社の部下・板倉正治(吉岡秀隆)に恋をするも、なんと奥様・平井時子(松たか子)と不倫関係にあることに気付いてしまいーー
この甲斐甲斐しくも切ない女中・布宮タキの若年期を演じたのが黒木華。
学生時代より演劇に身を捧げ、世間からの評価も上々な矢先に、本作品で第64回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞を日本人最年少で受賞という快挙を成し遂げた。
タキと正治。独身同士、若者同士、普通に考えればうまくいってもおかしくない。
まさか、お仕えしているお屋敷の奥様とそんな関係になってしまうだなんて、想像もしなかっただろう。
(C)2014「小さいおうち」製作委員会
勘付いている人も数人いるとはいえ、この事実を悟っているのはタキだけ。健気に「いってらっしゃいませ」と見送り、満たされた時間を過ごし戻ってくる時子を受け入れるタキ、切なすぎるでしょうよ……。
黒木華の癒し度120点な柔らかいビジュアルにいかにも真面目で謙虚な役柄は、お刺身に醤油、サラダにドレッシングくらい相性抜群であり必要不可欠。昭和〜平成初期の映画・ドラマのリバイバル作品にはぜひとも黒木華を起用していただきたい。
>>>【関連記事】絶好調の黒木華、飛躍のきっかけとなった『小さいおうち』とは?
–{映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』:幸薄女に訪れる、とてつもなく眩しい“一瞬の光”}–
映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』:幸薄女に訪れる、とてつもなく眩しい“一瞬の光”
(C)RVWフィルムパートナーズ
ドラマ/アニメ「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」を手掛けた岩井俊二が、CMのオーディションで黒木華と出会ったことをキッカケに彼女をイメージして小説を執筆し、映画化にあたり脚本・監督まで務めた『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)。
派遣先の学校では生徒から馬鹿にされ、友達もいない皆川七海(黒木華)。唯一の心の拠り所、それは匿名で真情を吐露できるSNSだった。恋人・鶴岡鉄也(地曵豪)ともSNSで出会い、なんとなく結婚まで至るも、これまたSNSを介して知り合ったなんでも屋・安室行舛(綾野剛)に結婚式の代理出席を頼んだことをキッカケに人生の歯車が狂い始めるーー
不朽の名作と言われる作品は数多く存在するが、紛れもなくその内の1つに入る『リップヴァンウィンクルの花嫁』。これを観ずして黒木華を語れる?いや語れない。
(C)RVWフィルムパートナーズ
映画単独初主演作とは思えない“黒木華ワールド”は圧巻で、なんとも言えない幸薄さと今にも壊れそうな危うさが七海に完全憑依。
薄幸系女優といえば木村多江のイメージがあるが、黒木華もその名を連ねることとなった歴史的作品と言っても過言ではない。
中でも心奪われるのは、七海と里中真白(Cocco)がカラオケバーで生演奏のピアノに合わせて歌うシーン(ちなみにピアノ伴奏者はRADWIMPSの野田洋次郎という粋なカメオ出演も有り)。
真白と出会う前の七海を暗黒時代とするなら、真白と出会った後の七海は黄金時代。結局は安室の手のひらで躍らされているものの、真白と出会ったことだけは七海にとっての“一瞬の光”と言える。
黒木華が歌う「ぼくたちの失敗」、Spotifyでの配信を渇望します。
>>>【関連記事】<インタビュー>『リップヴァンウィンクルの花嫁』主演・黒木華
>>>【関連記事】『リップヴァンウィンクルの花嫁』感想&観る前に知ってほしい「10」のこと
–{映画『来る』:倫理観ゼロな男と結ばれた女の末路}–
映画『来る』:倫理観ゼロな男と結ばれた女の末路
(C)2018「来る」製作委員会
『渇き。』『告白』などを手掛ける映画界の奇才・中島哲也が監督を務めた『来る』(18)。
承認欲求の塊な偽イクメン・田原秀樹(妻夫木聡)の身に、ある日から怪奇現象が勃発する。それは秀樹の家族である育児ノイローゼ気味な妻・香奈(黒木華)とその娘・知紗(志田愛珠)や、会社の同僚である高梨重明(仲野太賀)にまで危害が及ぶようになり、秀樹はオカルトライターの野崎和浩(岡田准一)に相談を持ちかける。野崎から紹介された霊媒師の血を引くキャバ嬢・比嘉真琴(小松菜奈)とその姉・琴子(松たか子)と共に調査に繰り出すものの、“あれ”は“来て”しまいーー
さすがは中島哲也監督、ホラーという領域にはとどまらない衝撃的作品。
想像以上にグロい描写のため生理的に受け付けないという方も多いかもしれないが、それ以上に恐ろしかったのは他でもない”人間”。
家族や友人、インターネット上にひたすら良い外面をアピールし続ける秀樹のクズさには終始呆れ果てたし、そんな秀樹に振り回される香奈は不憫ながらもどんどんダメな母親と化していくし、”あれ”に侵食され我を忘れる真琴は怖すぎたし。
黒木華が演じた香奈は『リップヴァンウィンクルの花嫁』の七海を彷彿とさせる引っ込み思案さがあるものの、育児ノイローゼでどんどん疲弊し、“あれ”の襲来により人として正常な判断ができなくなる。さらに秀樹の死をキッカケにこれまで我慢に我慢を重ねてきた蓄積が爆発してしまい、“見たこともない黒木華”への変貌を目の当たりにすることとなる。
黒木華の新境地を開かせてくれた『来る』、彼女のためだけにでも観るべき作品。
–{ドラマ「獣になれない私たち」:元カレに寄生し続ける“メンヘラ女子”の代表格}–
ドラマ「獣になれない私たち」:元カレに寄生し続ける“メンヘラ女子”の代表格
(C)日本テレビ
「逃げるは恥だが役に立つ」「アンナチュラル」など、刑事モノや恋愛モノをベースとしながら社会問題にも訴えかける秀逸な脚本でお馴染み、野木亜紀子が脚本を務める「獣になれない私たち」(18)。
ECサイト制作会社の営業アシスタントとして、日々心をすり減らしながらも全方位に笑顔を振り撒き続ける深海晶(新垣結衣)を中心に巻き起こるヒューマンドラマ。
黒木華は、晶の恋人・花井京谷(田中圭)の自宅に住み着く元カノ・長門朱里を演じた。
私はこの「けもなれ」というドラマがもう大好きで大好きで、野木亜紀子先生バンザイと言わんばかりの最高傑作、何度繰り返し見たかわからない。5tapが実在していたら毎晩通います。
(C)日本テレビ
そして、何回見ても、展開がわかっていても、ムカムカムカムカさせられるのがこの黒木華演じた朱里。
“元カレの自宅に住み着く女”というこの一文だけで充分にヤバさは伝わると思うのだが、4年も居座り続けているあげく、仕事を見つけようともせずネットゲーム三昧な日々、京谷の母が送った宅配便を勝手に開封しネットオークションに出品、さらには晶の勤務先で働き始める……。
ここまで強い執着心、逆に尊敬の域。このパワー、もっと別のところに向けるべきです!!!
幸薄女の印象はそのままに、「なにをしでかすかわからないヤバいヤツ」というイメージも見事に植え付けることとなった本作品。朱里は黒木華以外に考えられないよ、ありがとう。
–{ドラマ「凪のお暇」:心労絶えない“いい子ちゃん”の成長物語}–
ドラマ「凪のお暇」:心労絶えない“いい子ちゃん”の成長物語
(C)TBS
「Elegance イブ」で2016年8月号から連載中の大人気漫画「凪のお暇」が、「1リットルの涙」などを手掛けた大島里美脚本によって実写化された「凪のお暇」(19)。
コンプレックスである天然パーマを毎朝1時間かけてストレートに整えるなどして、女子力の高い自分を武装していた28歳OL・大島凪(黒木華)。
ある日、張り詰めていた糸がぷっつりと切れ、なにもかもリセットして束の間の「凪のお暇」を決行する。
黒木華の集大成とも言えるこの“いい子ちゃん”キャラ。
自分という芯がやわやわで、周囲に振り回されてばかりの凪に少しイライラさせられる部分もある。でも、こういうのってきっとあるあるで、共感の嵐なんですよね。
(C)TBS
そんな凪が全てを捨ててゼロから人生をやり直す決断には「凪、よくやった!!」と叫んだし、お暇をスタートしてから彼氏である慎二(高橋一生)や新生活先のアパートの隣人・ゴン(中村倫也)、母親・夕(片平なぎさ)に対してくっきりとした自我を持ち始めたり、ハローワークで知り合った龍子(市川実日子)や慎二行きつけのスナックのマスターのおかげでどんどん新しい凪の一面が垣間見えたり……見違えるように成長していく凪の姿に、凪を見守っていた我々視聴者、全員涙涙ですよ。
見た目も中身も、人に合わせて生きていくことほどしんどいことってない。自分らしく生きていくのが一番。その証拠に凪だって、おとなしい女子アナみたいな服装とさらさらストレートヘアよりも、ビッグTシャツに天然くるくるパーマの方がしっくりきているもの。
なお、凪を演じるにあたり、実際にパーマをかけて”凪ヘアー”を再現したという。黒木華のひたむきさにも心打たれる作品だ。
–{ドラマ「ゴシップ #彼女が知りたい本当の○○」:“素直な無愛想さ”に図らずともギャップ萌え}–
ドラマ「ゴシップ #彼女が知りたい本当の○○」:“素直な無愛想さ”に図らずともギャップ萌え
(C)フジテレビ
2022年1月6日からフジテレビ系木曜劇場枠で放送されている「ゴシップ #彼女が知りたい本当の○○」。
黒木華演じる瀬古凛々子は、大手出版社「クスノキ出版」で経理として働いていたが、上司・仁和正樹(安藤政信)に命じられ「カンフルNEWS」に編集部員として異動、さっそく編集長に成り上がり、個性豊かな編集部員とともにメディア閉鎖の危機を挽回していくお仕事ドラマである。
性格診断でよくある「感情と論理、どちらを重視する?」的な質問。
凛々子は間違いなく論理に振り切っている。曲がったことが大嫌いで、正しさを証明するためにはどんな手段も厭わない。
“空気が読めない”という点は「凪のお暇」での凪とは真逆だが、“感情表現が苦手”という点は黒木華が演じてきた役柄に通づる部分がある。
そして、そんな凛々子だからこそ(相手の働きかけがあってこそではあるが)感情を素直に表現したときのギャップに、根津(溝端淳一)だけでなく見ているこちらもキュンキュンしてしまう。
(C)フジテレビ
理屈っぽかったり情が皆無だったりするところから、血が通っていない冷酷な人と思われ孤立する場面も多い凛々子。だが、本質的には正論であり結果として全方位に対してプラスとなる行動となっていることに気付き始めた編集部員たちとの関係性の変化にも注目。
個人的には、凛々子の仁和への感情がただの尊敬心によるものなのか恋心なのか?もし後者であれば今後、仁和(安藤政信)VS根津(溝端淳一)という構図が見られるのか?むしろ見たい。うん、大いに期待している。
“黒木華”という幹に”役柄”という枝が生えることで完成する「女優・黒木華」
(C)フジテレビ
黒木華の持つ儚さと素朴さから形成される幸薄さは、おかしくも矛盾するようにどんな役にもずっしりと存在している。
にもかかわらず、典型的ないい子ちゃんだったりちょっとヤバいヤツだったり、感じ取る印象がまったく異なるのだから不思議だ。
新・薄幸系女優、黒木華の魅力を充分に堪能し、ドラマ「ゴシップ」、そして、映画『ノイズ』『余命十年』の公開を待ちわびることにしよう。
(文:桐本絵梨花)