映画『花束みたいな恋をした』『るろうに剣心最終章The Final』『同 The Beginning』『太陽の子』『人と仕事』など、2021年の有村架純の俳優としての躍進はめざましいものがありました。
そして同年の晩秋からWOWWOWでオンエアされたTV「前科者―新米保護司・阿川加代―」、および2022年1月28日から公開される映画『前科者』は、これまでの彼女のキャリアの中でも特筆すべきほどに素晴らしい、今後の有村架純を語るときに絶対忘れてはならない代表作になったと断言できます。
作品そのものとしてもユニークな制作形態であり、また現代社会の闇と光の双方を見据えた秀逸な出来栄えなのでした!
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TVと映画のリンク稀有な成功例
『前科者』はTV「監察医 朝顔」(19)や映画『羊の木』(18)などで知られる脚本家・香川まさひとが原作、月島冬二が作画を担当する「ビッグコミックオリジナル」連載中の同名コミックの映像化です。 まずは30分枠・全6話のTVシリーズ「前科者―新米保護司・阿川加代―」(監督:岸善幸&岡下慶仁/脚本:港岳彦)を2021年11月20日よりオンエア開始(現在はWOWWOWオンデマンドやAmazon Prime Videoで配信中)。
保護司とは、罪を犯した者の更生を助ける無給の国家公務員のことで、有村架純はサブ・タイトルに偽りなく、まだ保護司になってまもない阿川加代を演じています。
そして映画『前科者』はTVシリーズから3年後の、少しだけ保護司として成長した加代の新たな試練を、『あゝ、荒野』(17)で絶賛され、TV版「前科者」1&2話を手掛けた岸善幸の監督&脚本で描いていきます。
TV版は原作に沿ったエピソード3本をそれぞれ前後編スタイルでを映像化したものですが、映画版はオリジナル・ストーリー。
(原作者が岸作品のファンということで、全面的な信頼のもとでオリジナルの許諾を得られたとのこと)
ここで、TVを見てないと映画版がわからないのではないかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、それは全く問題なし!
TVと映画、どちらから先に見ても楽しめますし、どちらかを先に見たらすぐにもう片方を見たくなることも必至! TVから先に見たら、新米の加代が時を経てどのくらい成長しているかが気になることでしょう。映画から先に見たら、彼女の新米時代がどうであったかが気になって仕方がなくなるはず。
これには、当然ながら加代という役柄に対する有村架純の想いの深さと、それを魅力的に体現し得る天性の才覚が見事に融合したものと思われます。
加代はどちらかというとダサくて地味で生真面目で、しかしながら妙に愛らしいところがあり、かと思うとふっと陰を忍ばせることもあります(その理由は作品をご覧になればわかります)。
こういうキャラクターは、少しでも作為が見えてしまうと白けてしまうことが往々にしてあるものですが、有村架純はこれまでどのような熱演を要求される役柄も決してヒートアップしすぎず、程良く温かい(もしくは涼しい)風を巧まずして自然に映像に吹き込むことに長けた女優であり、その長所が今回も遺憾なく発揮されているのです。
–{TV&映画共通キャラに加えて森田剛、磯村隼斗が新規参戦!}–
TV&映画共通キャラに加えて森田剛、磯村隼斗が新規参戦!
他にも、TV版と映画版は共通したキャラクターが数名登場します。
加代が最初に保護司を担当した斉藤みどり(石橋静河/彼女もまたいつもながらに上手い!素晴らしい!)は、加代と全く真逆の勝気でド派手な性格ですが、お互いがお互いを信頼し合っている親友同士になっていることが映画版でも描かれています。
加代の上司ともいえる保護観察官の高松(北村有起哉)は、何年経ってもまだまだ青い彼女を厳しくクールに指導しています(一見いかにもの公務員風ながら、実は優しい人?)。
そして加代がアルバイトしているコンビニの店長・松山(宇野祥平)もまた、保護司の仕事優先の彼女に日頃から悩まされつつ(シフトがかっちり決まっているコンビニのバイトって、急に休みを取ろうとしてもなかなか取りづらかったりするんですよね)、結局は許してしまうお人好しでもあります。
みどりや高松、店長たちとの加代の交流関係も、TV版と映画版でどう違ってどう同じか、片方を見たらもう片方も気になってしまうはず。
また加代手作りの牛丼をはじめ、TV版と映画版共通のアイテムもいろいろ登場するあたりもお楽しみのひとつでしょう。
そして映画版で加代が担当する新たな“前科者”は、職場の同僚を殺した罪で6年の実刑判決を受けていた工藤誠(森田剛)。終始物静かでとても人を殺したとは思えなさそうな誠ではありますが、果たして加代は彼を更生させることができるのか?
TV版では3つのエピソードを通して「罪を犯した者の社会復帰を妨げるものは何なのか?」までもがきっちり掘り下げられていました。
映画版もその点を重視しながら、より映画的な醍醐味を以って人生のシビアな現実の中の悲喜こもごもが綴られていきます。
その点でも今回、誠に扮する森田剛の深みのある存在感も特筆しておくべきでしょう。
さらにもうひとり、映画版では加代の中学時代の同級生で、今は警視庁刑事を務めている滝本が登場しますが、これを演じているのが磯村勇斗!
磯村隼人と有村架純と言えば、彼女の出世作の1本でもあるNHK連続ドラマ小説「ひよっこ」(17)での夫婦役が即思い浮かばれますが、今回はそんな優しいものではない複雑な関係性が描かれていますので、このあたりも「ひよっこ」ファンにはたまらないものがあることでしょう!
–{「罪を憎んで人を憎まず」その理想とシビアな現実}–
「罪を憎んで人を憎まず」その理想とシビアな現実
さて、保護司という職業ですが、あくまでも非常勤国家公務員で、報酬はゼロという点に驚かされます(活動内容に応じて実費弁償金は支給されるものの、いってみれば必要経費みたいなものでしょう)。
ボランティアみたいなものにも思えつつ、これは単に人間が好きな博愛主義だけでなく、ある程度の生活力がバックにないと正直なところ継続が難しそうな感じもしますが、実際のところはどうなのか?
ただ、ここ最近保護司が登場したり、保護司をモチーフにした映像作品が増えてきている気もしています。
現在もNHKBSプレミアム&BS4Kで、国語の高校教師から保護司に転じた主人公を舘ひろしが真摯に演じるプレミアムドラマ「生きて、ふたたび 保護司・深谷善輔」が放映中(主人公は国語の高校教師から保護司に転任したという設定)。
昨年の西川美和監督による映画『すばらしき世界』(21)では、役所広司扮する出所したばかりの主人公を迎える保護司夫妻を演じた橋爪功&梶芽衣子が印象的でした。
植田中監督、洞口依子主演の映画『君の笑顔に会いたくて』(17)は、宮城県名取市在住の保護司・大沼えり子さんをモデルに、彼女の活動や更生のための努力の日々を綴ったもので、今も各地で巡回上映中です。
今の時代、保護司という職業にスポットが当てられ始めているのは、単なる偶然なのか?
いや、人とは大なり小なり罪を犯すものであり、その中で「罪を憎んで人を憎まず」という理想を人はどこまで実践できるか?が、今のこうした混迷の時代に問われ始めていることの証左なのかもしれません。
「前科者―新米保護司・阿川加代―」でも、第2エピソード(3&4話)では被害者遺族の憎悪の念が描かれますし、第3エピソード(5&6話)では麻薬中毒から立ち直ろうとしている女性(古川琴音/『街の上で』『偶然と想像』など今の若手注目株のひとりですね)に再び魔の手が忍び寄ります。
罪を犯した者の再生を拒むものの中には、周囲の偏見や邪念といった要素も確実に含まれていると思います。
その点で真っ先に思い浮かべてしまう映画が、フランス映画界を代表する大スター、アラン・ドロンとジャン・ギャバンの3度目の(そして最後の)共演となった1973年の『暗黒街のふたり』です。
ここでは出所した男(アラン・ドロン)が、彼の社会復帰を望む保護司(ジャン・ギャバン)に見守られながらも、彼の更生などありえないとばかりに執拗に絡み続ける刑事(ミシェル・ブーケ)の存在によって、やがて悲劇の道を辿っていくというストーリー。
監督のジョゼ・ジョヴァンニ自身、戦時中から犯罪組織に関わりつつ、ファシスト政党のフランス人民党に所属しながら誘拐や盗みなどを犯し続け、戦後は強盗殺人の罪で死刑宣告されながらも大統領恩赦を受けて執行を免れ、1956年に出所後は更生して小説家、映画監督として活躍したという怒涛のキャリアの持ち主です。
そんな彼だからこそ、罪を犯した者が更生していく上での苦しみや哀しみ、そして困難をリアルに描出することができたのでしょう。
コロナ禍はもとよりさまざまな理由で生活に困窮する人が増え続けていく昨今、人はいついかなるときに罪を犯してしまうかもわからない時代に、人はどこまで人を許すことができるのか?
そうした理想と現実のギャップと対峙し続けながら、映画もドラマももがき苦しみ続けていくのでしょう。
(文:増當竜也)
–{『前科者』作品情報}–
『前科者』作品情報
ストーリー
犯罪者や非行少年の更生を助ける非常勤の国家公務員、保護司。民間人の奉仕精神で支援をおこない、報酬は一切ない。コンビニのアルバイトと掛け持ちで保護司を始めて3年の阿川佳代は、仕事にやりがいを感じながら「前科者」のために奔走していた。そんななか、阿川は殺人をおかした工藤誠を担当することになる。物静かな工藤は更生を絵に描いたような人物で、社会人として自立する日は近いと思われた。だが、そんな工藤が保護観察終了前の最後の面談に現れず、社員登用が決まっていた自動車修理工場からも忽然と姿を消してしまう。折しも、連続殺人事件が発生、捜査線上に工藤の名が浮かび、阿川の前に中学時代の同級生、滝本真司が刑事として現われる。捜査が進むにつれ、工藤が抱えていた苦しみとともに、阿川の壮絶な過去と保護司の仕事を選んだ理由が明らかになる。
予告編
基本情報
出演:有村架純/磯村勇斗/若葉竜也/マキタスポーツ/石橋静河/北村有起哉/宇野祥平/リリー・フランキー/木村多江/森田剛
監督:岸善幸
公開日:2022年1月28日(金)
製作国:日本