上田慎一郎監督は『カメ止め』だけじゃない!笑いと感動がたっぷり詰まった厳選10選!

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2017年に公開された『カメラを止めるな!』(以下『カメ止め』)は口コミで熱狂的な支持を得て、インディーズ映画としては異例中の異例の興行収入30億円を突破する大記録を打ち立てた。

だが、上田監督のその後の作品は追っていない、知らないという方も多いのではないだろうか。確かに、その後の作品は興行的・批評的に伸び悩んでいたり、はたまた後述する理不尽なバッシングを受けていたこともあって、ファンとしても「大丈夫だろうか?」と心配してしまうこともあったのだ。

だが、注目されないままでいるのは、あまりに勿体無い。ここでは、上田慎一郎はやっぱりすごい!と思える、存分におすすめできる短編を含めた映画10作品を、3つのタイプ別に分けて紹介しよう。

・パッと思いついた時に観やすい短編4選

・『カメ止め』好きに向けての3選+番外編


・意外な感動がある、侮れないドラマが紡がれた3本

『カメ止め』が好きだったが、他の作品を観ていないという方は、ぜひ参考にしてほしい。

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パッと思いついた時に観やすい短編4本

はじめに、気軽にパッと思いついた時に観やすい、それでいてハイクオリティーで「あー面白かった!」と心から思えるであろう短編作品を4作紹介しよう。

1:『彼女の告白ランキング』(2014年)

上映時間は21分。現在はU-NEXT配信の「上田慎一郎ショートムービーコレクション②」で見放題。『カメ止め』以前に作られた作品で、あらすじは青年が彼女に一世一代のプロポーズをしたものの、「告白したい事が17個ある」という衝撃の返答をされてしまうというもの。しかも初っ端に発表される17位から「浮気していました!」であり、その後はさらなる衝撃が訪れ、なんともバカバカしい(褒めてる)方向へと突き抜ける。「ワンアイデアをもって最大限に観客を楽しませる」という上田監督のサービス精神がもっともストレートに現れた1作だ。

2:『ユメミの半生』(2021年)

上映時間は12分。劇場公開もされたオムニバス映画『DIVOC-12』の一編であり、現在はU-NEXTで個別に鑑賞できる。内容は映画館の女性スタッフが波乱万丈の半生を語るというもの。白黒のサイレント映画のような映像から始まる回想は、およそ100年に渡る映画の歴史を「質感」から再現しているようで面白く、あり得ない展開を話しまくるスタッフに対してツッコミを入れまくる。良い意味での漫才というかコント的な魅力もある作品だ。『カメ止め』がそうだったように、上田監督の「映画が大好きでしょうがない!」という愛情が溢れていてとにかく楽しいので、映画ファンはもちろん、ボケ倒す様がかわいい松本穂香が観たい方にも大プッシュでおすすめしたい。

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3:『ウワキな現場』(2021年)

上映時間は19分。TELASAで独占配信中の作品だ。テレビ朝日の深夜番組「トゲアリトゲナシトゲトゲ」とのコラボにより誕生した本作のジャンルはまさかの浮気現場の目撃から始まるサイコホラー。福田麻貴(3時のヒロイン)、加納(Aマッソ)、サーヤ(ラランド)という本職がお笑い芸人の3人が仲良しのお笑いトリオ芸人に扮しており、それぞれの迫真という言葉でも足りないほどに上手い演技が何よりの見どころ。なるべく予備知識なく、衝撃の展開と、良い意味での「居心地の悪さ」を感じてほしい1作だ。ちなみに、Filmarksでは3.9点(2022年1月下旬現在)と、上田慎一郎監督作でもっとも高いスコアを記録している。

また、TELASAでは入江悠監督のホラーコメディ映画『聖地X』も配信中。こちらもおすすめなので、気になった方はぜひ観て欲しい。

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4:『Last Wedding Dress』(2014年)

上映時間は24分。『彼女の告白ランキング』と同じく『カメ止め』以前の作品であり、U-NEXT配信の「上田慎一郎ショートムービーコレクション①」で見放題だ。内容はかつて結婚式を挙げられなかった70代の老夫婦のために、結婚式場に務める孫を始めとした個性豊かなキャラクターが奔走するというシンプルなもの。幼い少女の「おとぎ話」のようなナレーションから始まり、それ以降は良い意味で期待通りの物語が紡がれていく。現実的でありながらどこかファンタジックでもある、ラストの「理想」を体現したかのような画そのものに感動がある。コロナ禍で結婚式が遠遠くなったという方も、その素晴らしさを思い出すきっかけになるだろう。

–{次ページでは『カメ止め』好きに向けての3選+番外編を紹介}–

『カメ止め』好きに向けての3選+番外編

続いては、『カメ止め』が好きな人に向けてのスピンオフ作品、はたまた「女子高生版『カメ止め』」と言える作品、さらにはぜんぜん関係ないがリスペクトもある(?)番外編も紹介しよう。

5:『カメラを止めるな! スピンオフ ハリウッド大作戦!』(2019年)

AbemaTVでの放送および劇場でも公開された作品で、現在はU-NEXTで見放題、他配信サイトでも鑑賞ができる。監督を務めたのは中泉裕矢であり、上田慎一郎は脚本と制作総指揮の担当だ。内容は『カメ止め』の仕掛けを「もう一度やってみた」と言えるものだが、二番煎じにさせない新たなアイデアをこれでもかと詰め込んでいるため、とにかく楽しい。『カメ止め』のキャラクターの新たな活躍や成長も見どころだ。とは言え、上映時間は54分と短めであり、続編というよりはあくまでスピンオフ。「人文字」など正直に言って納得できないディテールの甘さもあったりするので、期待値を上げすぎずに1作目の面白さを「追体験」する気持ちで観てみるのがおすすめだ。

6:『カメラを止めるな!リモート大作戦!』(2020年)

こちらはYouTubeで本編が無料視聴できる。コロナ禍の初期に制作された作品であり、2020年5月1日の公開から約3ヶ月後の8月9日に100万回再生を突破した。見どころは『カメ止め』のメンバーが再集結したことと、タイトル通りリモートでなら製作可能だと思われるアイデアの番組を実際に作ってみる様を追ったもの。その過程がやはり『カメ止め』と同じ映像制作の奮闘の楽しさと同時に可笑しみに満ちていて楽しい。それでいて、未だコロナ禍が続く現実があるからこそ響く、希望に満ちた終盤のある言葉にグッと来る内容にもなっていた。

7:『たまえのスーパーはらわた』(2018年)



現在はAmazonプライムビデオの「大阪チャンネルセレクト」への登録により視聴可能だ。スピンオフ作品ではないが「女子高生版『カメ止め』」とも呼ばれており、舞台となったさいたま市の魅力をアピールする映像の製作を任された女子高生が、自分の独善的な性格や映像製作の姿勢を反省し成長する様が見どころとなっている。吉本興業制作の「地域発信型映画」であり、ジャングルポケットのメンバーの出演もお笑いファンには嬉しいところだろう。映画ファンの女子高生の奮闘や友情の物語が綴られている様は、2021年に公開され熱狂的な支持を得た『サマーフィルムにのって』(松本壮史監督作)にも似ているので、そちらが好きな方にもおすすめだ。

番外編:『電車を止めるな!』(2020年)

こちらは現在、動画配信サービスでは提供されていないが、イベント的に随時上映がされている作品だ。タイトルから分かる通り『カメ止め』の流行に明らか「乗っかった」作品であり、上田慎一郎は(たぶん)全く関与していない。崖っぷち経営で有名な銚子電気鉄道が製作した映画であり、「超C(銚子)級映画」という触れ込みが大納得できる、低予算であることがありありと伝わる内容だ。経営難を打開するため心霊列車を走らせてネット配信するという基本のアイデアは、確かに映画作りの奮闘そのものを描いた『カメ止め』に近い。そのチープさを生暖かい目で見守ることができれば、けっこう手の込んだ独自のアイデアの数々と、観客をとにかく飽きさせまいとするサービス精神のおかげで「意外と面白かった!」以上の満足感をきっと得られるだろう。上映情報は公式サイトをチェックしてほしい。

–{次ページでは意外な感動がある、侮れないドラマが紡がれた3本を紹介}–

意外な感動がある、侮れないドラマが紡がれた3本

上田慎一郎作品はコメディが多い印象だが、「この話がここに行き着くのか!」という驚きを提示することも多い。そんな意外な感動がある3作を紹介しよう。

8:『恋する小説家』(2011年)

こちらも『カメ止め』以前の作品であり、U-NEXT配信の「上田慎一郎ショートムービーコレクション①」に収録されている。上映時間が40分の中編であり、あらすじはうだつの上がらない小説家志望の男の部屋に、自身の小説の登場人物だという女子高生が上がり込んでくるというもの。『カメ止め』にも出演することになる秋山ゆずき(当時の名義は橋本柚稀)が、ちょっと浮世離れした不自然さがある、フィクションの存在にも思える女の子にハマりまくっているところも見どころだ。さまざまな登場人物が入り乱れて作品の「会議」をする様も『カメ止め』に通じている。なお、上田監督が執筆した小説「ドーナツの穴の向こう側」を合わせて読むと、良いことがあるかもしれない。

9:『スペシャルアクターズ』(2019年)

現在はAmazonプライムビデオU-NEXTHuluなど種々の配信サービスで見放題だ。最大の特徴はまるで探偵のように様々な依頼を請け負う、演じることを使った何でも屋という設定。次々に舞い込む依頼の数々はバリエーション豊かで、やがてチームは「カルト宗教団体に乗り込んで壊滅させる」大きなミッションに向けて結託していく。役者志望だがダメダメな主人公の成長物語、ひょうひょうとした性格の弟とのバディムービーとしても楽しめるし、何より『ミッション・インポッシブル』のような「スパイもの」の醍醐味も存分。『カメ止め』とは全く違うことをしながらも、カタルシスのある展開を用意した「面白い」長編映画を求める方にはもっともおすすめしたい作品だ。

<2022年1月21日現在で配信されている動画配信サービス>
>>>dTV

>>>U-NEXT

>>>Hulu

>>>ひかりTV

>>>TSUTAYATV

>>>Amazonビデオ

>>>FOD

>>>Paravi

>>>RakutenTV

>>>iTunes

>>>Google

10:『永遠の1分。』(2022年3月4日公開予定)

2022年3月4日より劇場公開予定の映画であり、上田慎一郎は脚本を担当している(監督は『カメ止め』で撮影監督を務めた曽根剛)。内容は3・11のコメディ映画を撮ろうとするアメリカ人の旅路であり、「大災害をコメディにするなんて不謹慎じゃないか?」「そもそもコメディとして成立するのか?」という問答そのものが興味深いドラマになっていた。『コンフィデンスマン JP』の執事役で知られるマイケル・キダが扮する主人公は佇まいから誠実さを感じさせるし、もう1人の主人公と言える女性を演じたラッパーのAwichの力強い歌声も大きな魅力。手の込んだ伏線やテクニカルな構成が新鮮な驚きを与えてくれるし、さまざまな逆境に苦しむ人にとって福音となるメッセージを投げかけてくれていた、誠実な物語だった。終盤にとある不満は残るものの、個人的に『カメ止め』以降の上田慎一郎作品でイチオシの作品となった。

まとめ:逆境に立たされていると思うけど、がんばれる方だと信じている。

上田慎一郎は最初に掲げた通り『カメ止め』で一世を風靡し広く知られたものの、今では(勝手な個人的な見方ではあるが)逆境に立たされているとも思う。2019年の3人共同監督による『イソップの思うツボ』は賛否両論というよりも酷評に傾いていたし、その後の単独監督作『スペシャルアクターズ』は評価は上々だったものの全国規模の公開作品としては興行成績は伸び悩んだ。

そして、理不尽なバッシングな対象となったのは『100日間生きたワニ』だった。その騒動および、実際に観た方たちからの賛否両論の詳細については以下の記事も参照してほしい。同作は2022年1月19日よりレンタル及び配信が開始している。

【関連記事】『100日間生きたワニ』の「本当に信頼できる」感想・解説記事12選

2022年1月下旬現在、劇場公開中の『ポプラン』は、個人的に「設定はイロモノっぽいが出オチにならず面白かった(特に音楽が素晴らしい)」と十分に思える内容だったが、展開やギャグがやや単純すぎるきらいもあり、世間的にもそこまでの支持は得ていないというのも正直なところ。とはいえ、同作は撮影現場の労働環境改善のためにルールを設けたことも公表されており、映画業界の未来を見据えた志の高さも窺える。こちらも詳しくは以下のインタビュー記事を参照してほしい。

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『カメ止め』に迫るほどのポジティブな話題や評価を集めた作品は、未だないというのも事実。思えば上田監督は長編監督第2作『スペシャルアクターズ』も『カメ止め』と同じく無名の俳優たちを起用した低予算の作品であり、豪華なボイスキャストを招いたはずの『100日間生きたワニ』もよりにもよって原作マンガの宣伝のまずさのせいで嫌われてしまったということもある。

もしも、上田監督が人気俳優の出演作や広く知られた原作の作品を任されれば「大化け」すると思うのだが……『カメ止め』ほどの成功作を世に送り出したのであれば、海外であればメジャー作品に引っ張りだこになっているはずだが、まだまだその土壌が日本映画界にはないのではないか、ということも嘆きたくなる。

だが、上田監督は逆境を跳ね除けるほどの、人間としての強さがあり、それが作品にも如実に表れていると思う。自身は詐欺に騙されたり借金を背負ったりしても、めげずに映画監督を目指し続けたという来歴があるし、それぞれの作品でも逆境にいる人が、一世一代の決断を経て、一生懸命に努力する物語をよく綴っているのだ。『カメ止め』以降に作家として苦しむことがあったとしても、それもバネにしてがんばっていける方だと思う。

ぜひ、『カメ止め』が好きだったという方は、これからの上田慎一郎作品を追ってみてほしい。特に前述した3月4日公開の『永遠の1分。』の物語は(その意図はなく偶然ではあるだろうが)『100日間生きたワニ』に向けられた理不尽なバッシングに屈しない姿勢そのものも尊く示したかのような作品で、やはり作家としての矜持があり、これからも面白い作品を世に送り出してくれると確信できたからだ。1人のファンとして、心の底から応援をしている。

(文:ヒナタカ)

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