もし学生時代の私がFの「真夜中乙女戦争」を読んでいたら。
ーー読んでなくてよかった。いや、そもそもその当時にこの本はまだ存在していないけれど。読んでいたら、どうにかなっていたかもしれない。
そんな風にまで思わせられるほどの破壊的な情緒と止まらない疾走感。独創的な世界観を紡ぎ出すのは、小説界の新星・F。
2022年1月21日、文体が映像となって浮かび上がる。映画『真夜中乙女戦争』がはじまる。
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原作「真夜中乙女戦争」を語る上で欠かせない”F”
原作「真夜中乙女戦争」の小説家/エッセイスト・Fをご存知だろうか。
名前からして謎に包まれた”F”というこのお方、開示されている情報があまりにも少なすぎる。ミステリアスという言葉はFのためにあるのかもしれないと思うほどにだ。
「F 小説家」と検索しても、誰かが独自にまとめたブログ記事しか出てこない。Wikipediaにすら登録されていない。本人のTwitterとInstagramは存在するが、定量的な情報はほとんどわからない。
原作「真夜中乙女戦争」令和3年11月25日初版のそでの部分に記載されている情報は以下。
1989年11月生まれ。神戸出身。男。著作に『いつか別れる。でもそれは今日ではない。』『20代で得た知見』(ともにKADOKAWA)。
2017年4月21日にエッセイ「いつか別れる。でもそれは今日ではない。」でデビュー。2018年4月28日に小説「真夜中乙女戦争」が発売。2020年9月19日にエッセイ「20代で得た知見」を発売。
まだデビューから間もなく、しかも「真夜中乙女戦争」以外の二作はエッセイ。初の小説で映画化って……F、天才か?
若者の活字離れが加速していると囁かれる昨今だが、「真夜中乙女戦争」はそんな若者たちにも受け入れられるのではないかと思う。内容が簡易だという意味ではなく、心の激動が一筆書きのように描かれていて、追わずにはいられなくなるからだ。
巻末にある二宮健の解説に、このようなことが書いてあった。
「Fさんの文章は、すべてスマホでかかれているらしい。確かにご自宅のデスクの上にあったノートPCに使われている気配はなかった。しかも、執筆の速さは編集者も思わず唸る驚異的なスピードだという。つまり、Fさんの生活のほとんどがインプットの時間に割かれている。いろんなところに出向き、いろんな人の話を聞き、共感し、驚き、学ぶ。そうしているうちに、徐々に物語の輪郭が浮かび上がり、やがて、”その日”が来る。その日が来たら最後、多分Fさんの親指は、世界中の誰よりも速く動く。あのパワフルな文章はそうやって生まれているのだ。」
あの唯一無二な表現はどうやって生まれているのかとても気になっていたところ、この一節を読んで完全に腑に落ちた。
ちなみに、小説の中で最も好きなシーンは、<私>の友人である佐藤を罵倒する約3ページに渡る長台詞。私もあの爽快感を味わいたい。
–{原作への偉大なるリスペクトから映画『真夜中乙女戦争』を創出した“二宮健”}–
原作への偉大なるリスペクトから映画『真夜中乙女戦争』を創出した“二宮健”
問題児とも言える作品を映像化するにあたり、脚本・監督・編集を担ったのは若き天才・二宮健。
弾けるようなパーティーシーンや非現実的なほどに美しい色彩、独特なカメラワーク。まるでMVを観ているかのような幻想的な映像美。既視感があるのは二宮健の過去作、『チワワちゃん』によるものだ。
原作と映画を体感して、断言できること。
原作「真夜中乙女戦争」を映画『真夜中乙女戦争』として”正解”にできるのは、二宮健しかいない。
原作への、Fへのリスペクトが尋常じゃない。
映画は、原作と同じ台詞から始まり、同じ一言で終わる。原作を先に読んでいた私は、このサプライズにずいぶんと痺れさせられた。
原作への偉大なリスペクトがあることは大前提、その上で映画という113分間に収めるための巧妙な脚色と合致したキャスティング、そして二宮健が持つ現代的なイマジネーション。
映画『真夜中乙女戦争』はまさに、Fと二宮健による“共同作品”といえる。
巻末にある二宮健の解説の最後の一節では、映画化するにあたっての並々ならない覚悟が感じられた。実際に映画を観て、最初から最後まで彼の本気が一秒たりとも欠けることなく伝わってきたのだからお見事だ。
–{映画『真夜中乙女戦争』成功の2つの勝因}–
映画『真夜中乙女戦争』成功の2つの勝因
どの作品にしても、原作ありきの映画はやはり不安要素が多い。
原作がそのまま映画化されるなんてことは表現手法が異なる以上ありえないし、架空の人物が実写化される上で「イメージに合わない」「期待はずれだった」などのネガティブな感想が出てきてしまうのも仕方ない。
映画『真夜中乙女戦争』については、原作者・Fと監督・二宮健の独創的な世界観が絶巧にマッチした作品となっているので、心置きなく映画に臨んでいただきたい。
ここからは、私なりに感じた、映画『真夜中乙女戦争』成功の2つの勝因を紹介していく。
1.斬新かつ予想外な脚色
<私>(永瀬廉)と<黒服>(柄本佑)のファーストコンタクト、予想外に早々に交わる<先輩>(池田エライザ)と黒服、<私>が裏切り裏切られる逃走劇、そして原作ファンも衝撃のラスト10分……。
原作「真夜中乙女戦争」を忠実に映像化したとは、とてもじゃないが言えない。でも、それでいい。
原作の解説で二宮健が語っていたように、原作と異なる独自の展開が多々存在し、その度に「そうきたか」と唸らせられる。
特に、<私>と<黒服>がはじめて交わるとある事件、<私>が<先輩>に対して遠のきつつも近付くホテルの一室、<私>と<黒服>のお別れのシーンの脚色……度肝を抜かれた。また、そこに二宮健によって生み出される映像美が加わることで二度と忘れられない残像となるのだ。
逆に、そのおかげもあってか、冒頭での教授との論争のシーンや、心を無にして労働しなければ心が死んでしまうほどには過酷すぎる花屋でのバイト、自転車のサドルをブロッコリーに差し替える幼稚ないたずら、黒服に集うTEAM常連の宗教感など、原作通りに描かれているシーンの再現力がより浮き彫りになり、感動の域にまで達する。
斬新かつ予想外な脚色に一瞬心がざわつきながらも、見ている内にいつのまにか”二宮健ワールド”にハマっていく。
これは、原作→映画化において、なかなかに新しい体験だ。
2.非の打ち所がないキャスティング
もうね、驚きましたよ、誰も彼もがバシッとハマっていて。特に、原作でも映画でも主要人物となる、<私>、<黒服>、<先輩>は120点。
<私>にKing & Princeの永瀬廉。『うちの執事が言うことには』、『弱虫ペダル』に続き3作目の主演作品となる。
原作の<私>を具現化したと言っても過言ではない、死んだ魚のような目に感情皆無な抑揚のない声。なんでもない普通の大学生が<黒服>との出会いをキッカケとして暴走が止まらなくなる変遷に戦々恐々とした。
<黒服>に柄本佑。”究極の人たらし”を演じた柄本佑になにも怖いものはない。
<黒服>は悪魔ではなく神様であり、悪魔の素質がある人間を悪魔に昇華させる起爆剤にすぎない。人たらしであり人でなし。そのサイコパスさ、輝かしいほどに完璧。
そして、<先輩>に池田エライザ。メインキャストの中でもずば抜けてハマっていた。この池田エライザ、大優勝。彼女をキャスティングした制作陣に感謝感激雨あられ。
成績優秀で友人も多く聡明なのに何を考えているのかわからないミステリアスさ、自分だけの味方と錯覚するまでに距離感は近いのにLINEの名前はS。手が届きそうで届かない存在がより池田エライザの魅力を押し上げている。原作で描かれていた濡れ場となり得るシーンは脚色されているが、ドラマ「伊藤くんAtoE」での全面にエロさが押し出されていた彼女よりも秘めたるエロさを感じるのだから不思議だ。
他、脇を固めるサブキャストたち。
原作にも登場する、<私>の同級生の佐藤にAぇ! groupの佐野晶哉、<私>と論争する教授に渡辺真起子、”私”の日雇いバイト先の現場監督・松本に安藤彰則。
佐藤は原作よりも登場回数が非常に少なかったので、あの憎たらしい佐藤が(かわいそうだけれども)堕ちていく姿を映画でも見たかった気持ちもややある。妄想で留めておくことにしよう。
また、原作には存在しない映画オリジナルのキャラクターが多数登場。
<先輩>の親友・カナに山口まゆ、<黒服>を敬服する田中に篠原祐伸、元財務省勤務の高橋に成河。
役柄は真逆ではあるが『チワワちゃん』にも出演していた篠原祐伸、これまたいい味を出している。
なによりも、新感覚・池田エライザ様に酔いしれないよう、お気をつけください。
Fと二宮健によって引き起こされる化学反応=映画『真夜中乙女戦争』
小説を読んだときの焦燥感が映像としてくっきり浮かび上がることによって、ぶつけようのないもどかしさが加速し、それがまた癖になり原作と映画を行き来する。
F × 二宮健、唯一無二の世界観が交わることで引き起こされる化学反応を、あなたにも体感してほしい。
(文:桐本絵梨花)
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–{『真夜中乙女戦争』作品情報}–
『真夜中乙女戦争』作品情報
ストーリー
4月、上京し一人暮らしを始めた大学生の“私”(永瀬廉)だったが、友達も恋人もおらず、講義は恐ろしく退屈で、やりたいこともなりたいものもない。深夜のアルバイトの帰りにいつも東京タワーを眺めて過ごしていた。そんな鬱々とした日々が、凛々しく聡明な“先輩”(池田エライザ)との出会いや、謎の男“黒服”(柄本佑)の出現により一変。カリスマ的魅力を持つ“黒服”に導かれささやかな悪戯を仕掛けたり、“先輩”と距離が近づいたりするうちに、“私”の日常が静かに煌めきだしていった。しかし、次第に“黒服”と孤独な同志たちの言動は激しさを増し、“私”と“先輩”を巻き込み真夜中乙女戦争という壮大な破壊計画が秘密裏に動き始め……。
予告編
基本情報
出演:永瀬廉(King & Prince)/池田エライザ/柄本佑/篠原悠伸/安藤彰則/山口まゆ/佐野晶哉(Aぇ! group 関西ジャニーズJr.)/成河/渡辺真起子
監督:二宮健
公開日:2022年1月21日(金)
製作国:日本