クリント91歳、リドリー84歳、そして追悼・井上昭93歳……戦い続ける現役超ベテラン監督たち!

ニューシネマ・アナリティクス

『クライ・マッチョ』(C)2021 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」

今年に入って『ラスト・ショー』(73)『ペーパー・ムーン』などの名匠ピーター・ボグダノヴィッチ監督(82歳)や、『野のユリ』(63)『夜の大捜査線』(67)など黒人スターの先駆者で『ブラック・ライダー』(72)など監督としても知られた名優シドニー・ポワチエ(94歳)、そしてつい先ごろ『ディーバ』(81)『ベティ・ブルー』(86)のジャン=ジャック・ベネックス(75歳)の死去が報じられました。

映画が既に100年以上の歴史を歩んでいる以上、そこに関わる人々が世代交代していくのも宿命ではあるのでしょう。

しかし、若手監督らの台頭などどこ吹く風で、年齢などお構いなく、ただただ映画を作りたいと願い、実践し続けるベテラン映画人が多数いるのも事実です。

奇しくも2022年1月の日本の映画興行は、そんな超ベテラン監督たちの新作が揃い踏みなのでした!

(※本稿記載の年齢は、2022年1月15日現在のものです)

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ベテランの貫禄漂わせる1月14日公開の2作品

(C)2021 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

まずは、現在91歳(!)のクリント・イーストウッドが監督・主演した『クライ・マッチョ』(21)が1月14日より公開となりました。

常に自分の作りたい映画をストイック&コンスタントに作り続けているイーストウッドではありますが、その中身も最近こそ老いをモチーフにしたものが増えてきているとはいえ、現代の風潮に媚びたものなど一切なく、それこそ彼が『恐怖のメロディ』(71)で監督デビューを果たした1970年代から何らタッチが変わってないことは驚きですらあります。

監督デビューから50年、そして監督作品40本目となる『クライ・マッチョ』も、かつてはロデオで名が知れつつ今はすっかり落ちぶれた元カウボーイとメキシコ人少年の旅を描いたロード・ムービーであり、そこには『センチメンタル・アドベンチャー』(82)や『パーフェクト・ワールド』(93)などとも並び比較したくなる彼の人生観、即ち“人が生きていく上で大切なこと”が飄々とした味わいで描出されていくのでした。

(C)2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『エイリアン』(79)『ブレードランナー』(82)などの巨匠リドリー・スコット監督も現在84歳ながら、エネルギッシュに新作を連打し続けています。

昨年も『最後の決闘裁判』(21)が話題になったばかりの彼ですが、1月14日より公開の『ハウス・オブ・グッチ』(21)は世界的ファッションブランド“グッチ”の創業一族の内紛と殺人事件といった事実をレディ・ガガをはじめとするオールスター・キャストでゴージャスに、そしてスキャンダラスに描出。

157分という長尺ながら、見ている間はいささかも退屈させる暇などなく、アメリカ版“華麗なる一族”とも呼びたくなるドロドロのお家騒動をワイドショーどころではない興味と興奮をもって見据えていくことが出来ます。

それにしても1年に2本も超大作を発表できてしまうリドリー・スコット監督の映画的腕力の高さには恐れ入るばかりで、2017年の『ゲティ家の身代金』ではセクハラ事件が発覚したケヴィン・スペイシーの出演シーンをクリストファー・プラマーの代役で10日間で撮り直すという荒技もやってのけているのです。

–{生涯現役を貫き通した 井上昭監督}–

生涯現役を貫き通した井上昭監督

(C)「殺すな」時代劇パートナーズ

そして1月28日より全国のイオンシネマ89館で上映される(2月1日には時代劇専門チャンネルで放送)時代劇中編作品『殺すな』は、何と撮影時に92歳だった井上昭監督の惜しくも遺作となりました。

上映初日を目前に控えた1月9日、井上監督は93歳で永眠。

実は今回の原稿、クリント・イーストウッドよりもさらに高齢の監督が日本で頑張っているといった趣旨で書こうと思い、まさにその筆を進めていたときに訃報を知らされたもので、まだ冷静になりきれていないところがあります……。

井上昭監督は1950年に大映京都撮影所に入社し、溝口健二や森一生ら名匠たちの助監督を務め、1960年に『幽霊小判』で監督デビュー、1964年の田宮二郎主演『勝負は夜つけろ』などの代表作があります。

一方で『座頭市二段斬り』(65)などで勝新太郎、『眠狂四郎多情剣』(66)などで市川雷蔵の主演映画を撮るなど、当時の二大カリスマ・スターや大映撮影所時代を知る貴重な証人のひとりでもありました。

大映時代はキャッチーなキャメラ・ワークなどが身上で、一時は“大映のゴダール”とまで称されたことがありましたが、1971年に大映が倒産して以降はTVドラマを中心に活躍するようになり、そのスタイルも徐々にオーソドックスなものになっていきます。

もっとも彼が撮るTVドラマは常に映画としての誇りと貫禄を忍ばせたものばかりで、堺正章・主演版「天皇の料理番」(80~81)や2時間ドラマ“ザ・サスペンス”枠の「本陣殺人事件 三本指で血塗られた初夜」(83/このときの一柳三郎役・本田博太郎は『殺すな』にも出演)など忘れがたい名作は多数。

また1972年から田村正和を主演に迎えた「眠狂四郎」シリーズを晩年まで連打し、彼の当たり役にまで高め挙げていくとともに、1993年には久々の劇映画『子連れ狼 その小さき手に』でもコンビを組みました。

21世紀に入っても井上監督は旺盛に活動を続け、やがて始まる時代劇専門チャンネルのオリジナル時代劇を「鬼平外伝 夜兎の角右衛門」(11)から『殺すな』まで最多8本演出。

『殺すな』の原作である藤沢周平の同名短編小説は、井上監督が以前より強く映像化を望んでいたものでした。

その望みが叶ったこともあってか、ここではスコープサイズという映画ならではの画面サイズの中、じっくり腰を据えた落ち着きのある長回し撮影などを駆使しながら、男と女の愛憎と嫉妬の念が艶やかに描かれていきます。

晩年の井上作品に多く出演した中村梅雀や柄本佑&安藤さくらの実力派俳優夫婦の共演、そして大映出身の名優・中村玉緒(勝新太郎夫人でもあります)が特別出演!

往年の日本映画黄金時代を彷彿させる美術なども含め、久々に時代劇ならではの品格を巧まずして自然に醸し出す清冽な作品、ぜひご覧になっていただきたく存じます。
 
–{もう一花咲かせてほしい 映画監督たち!}–

もう一花咲かせてほしい映画監督たち!

『キネマの神様』(C)2021「キネマの神様」製作委員会

さて、御存命ながらも長らく映画制作から遠ざかっている監督は多数いらっしゃいますし、篠田正浩監督(90歳)のように『スパイ・ゾルゲ』(03)を最後に潔く引退宣言された方もいます。

篠田監督と同じ松竹ヌーヴェルヴァーグ出身の吉田喜重監督(88歳)は、2008年のオムニバス映画『ウェルカム・トゥ・サンパウロ』の中の一編『ウェイトレス』を演出した後、10年以上の歳月をかけて長編歴史小説「贖罪 ナチス副総統ルドルフ・ヘスの戦争」(20)を「人生最後の天職」として書き上げました。

一方では、たとえば井上昭監督と同期で大映に入社し、『沓掛時次郎』(61)『ひとり狼』(68)などの傑作を発表した池広一夫監督(92歳)は、今も2時間ドラマを中心に現役監督として活動し続けており、昨年も「自身のライフワーク」とする「森村誠一ミステリースペシャル終着駅」シリーズの第37弾「停年のない殺意」(21)を発表したばかり。

それに続くのが、昨年『キネマの神様』(21)を発表した山田洋次監督(90歳)でしょう。

1月23日の誕生日で90歳を迎える山田火砂子監督は、今年『われ弱ければ 矢嶋楫子伝』が公開予定。

2019年に『多十郎殉愛記』を発表した中島貞夫監督(87歳)をはじめ、『日本独立』(20)の伊藤俊也監督(84歳)、『時の航路』(20)の神山征二郎監督(80歳)たちも、もう一花咲かせていただきたいところです。

アニメーションでは、宮崎駿監督(81歳)の新作『君たちはどう生きるか』はいつ完成するのでしょうか?

富野由悠季監督(80歳)には、そろそろガンダムとは別のオリジナル新作映画を作っていただきたいという想いもファンの本音として偽らざるところ。

先日『銀河鉄道999』(79)ドルビーシネマ版上映のイベント・トークで登壇したりんたろう監督は、1月22日に81歳の誕生日を迎えます(彼の新作も見たい!)。

海外に目を向けると、『イメージの本』(18)以降の新作が途絶えているジャン=リュック・ゴダール監督(91歳)の現在が気になるところ。

『エクソシスト』(73)『恐怖の報酬』(77)のウィリアム・フリードキン監督(86歳)も、2011年の『キラー・スナイパー』以後の新作が発表されていません。

ME TOO運動の影響で過去の家庭内スキャンダルが再燃してしまったウディ・アレン監督(86歳)は、さすがにもう新作を撮るのは難しいかもしれません。

『ゴッドファーザー』(71)『地獄の黙示録』(79)のフランシス・フォード・コッポラ監督(82歳)は『ヴァージニア』(11)を発表した後、『ゴッドファーザーPARTⅢ』(90)を再構築した『ゴッドファーザー〈最終章〉:マイケル・コルレオーネの最期』(20)や、『地獄の黙示録ファイナルカット版』(20)と、過去作の再編集に勤しんでいるご様子。

『フラッシュダンス』(83)『危険な情事』(87)のエイドリアン・ライン監督(80)は、今年新作“DEEP WATER”が発表される予定です。

以下、ざっと思いつくままに……(80歳以上に絞って)。

『脱出』(72)『クィーンアンドカントリー』(14)のジョン・ブアマン、88歳。

『レッズ』(81)『ハリウッド・スキャンダル』(16)のウォーレン・ベイティ、84歳。

『殺しのドレス』(80)『ドミノ 復讐の咆哮』(19)のブライアン・デ・パルマ、81歳。

『未来世紀ブラジル』(85)『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(18)のテリー・ギリアム、81歳。

『マイ・ビューティフル・ランドレット』(85)『ヴィクトリア女王最期の秘密』(17)のスティーヴン・フリアーズ、81歳。

『サスペリア』(77)『ダリオ・アルジェントのドラキュラ』(12)のダリオ・アルジェント、81歳。

『ハンバーガー・ヒル』(87)『ガーデン・オブ・エデン』(08)のジョン・アーヴィン、81歳。

『ストリート・オブ・ファイヤー』(84)『レディ・ガイ』(16)のウォルター・ヒル、80歳。

そして『タクシー・ドライバー』(76)『アイリッシュマン』(19)のマーティン・スコセッシ監督は、2022年にいよいよ80の大台へ!

2015年に106歳で死去したポルトガルの名匠マノエル・ド・オリヴェイラ監督は、105歳で『レステルの老人』(14)を発表しました。

日本の新藤兼人監督も2012年に100歳で亡くなる前年に『一枚のハガキ』(11)を発表し、ベテランならではの気概を大いに見せつけてくれました。

これからも映画は新しい世代の台頭によってどんどん変わっていくことでしょうが、一方ではまだまだ頑張れるベテラン勢にも、自身の誇りと貫禄をぜひ実績に転化させながら示し続けていただきたいものです。

(文:増當竜也)

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