<検証>なぜ日本で『スパイダーマン』だけがヒットし続けるのか?

映画コラム

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2022年最初の週末の1月7日。

ついに『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が日本でも劇場公開されました。

アメリカの公開が昨年の12月17日なので、珍しく随分、本国と時差があっての公開ですね。

今、このタイミングでも言ったら台無しなる大きなネタバレ要素をはらみつつ、それが極端に流布することなく、海の向こうからも情報が流入することなく、無事公開されました。

詳細は伏せますが『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、その思わぬ展開の連続に拍手喝采を送っている人達も沢山いたそうです。思えば昨年も多くのアメコミ映画が公開されましたが、ここまでの熱量のものはなかったです。

振り返ってみるとそもそも、日本でも“スパイダーマンだけは別腹”、”これだけは見る!”という人たちが実に多かったのではなかったかと思います。

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ヒットと大ヒットの目安

全米のオープニング興行収入が『アベンジャーズ/エンドゲーム』に続く歴代2位の2億6,000万ドル超えを記録した『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』。

その後も勢いは止まらず、興行収入は6億ドルを突破、すでに全米歴代TOP10入りをはたしていて、今後も、どこまで数字を伸ばしてくるのか大変注目が集まっています。

日本でも『鬼滅』の興行収入が400億円を突破したとか、『シン・エヴァ』が100億円を突破したことなどが”映画のヒットにリアルな数字が付随する形“で一般のニュースでも取り上げられたりして、本当の意味での”ヒット”や”大ヒット”の日本国内基準のようなものも、少しずつ伝わってきているのではないかと思います。

実際に2021年末までで、興行収入100億円を越えた映画は38本、200億円以上の映画は7本しかありません。現在、ここに『呪術廻戦 0』が食い込んできそうなので楽しみなのですが……。

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100億円、200億円の話をした後ですと、だいぶスケールダウンした様になりますが、全国公開規模の映画は邦画でも洋画でも興行収入10億円を突破するとまず“ヒット”した、成功したと言えます。

これが50億円前後となるといよいよ社会現象化して、NHKのニュースに取り上げられたりして、”大ヒット”に格上げされます。

口コミ拡大ヒットが大きな話題となった『カメラを止めるな!』が31.2億円。

アカデミー賞を受賞効果もあって日本におけるアジア映画最大のヒットとなった『パラサイト半地下の家族』が47.4億円という興行収入なので何となくイメージがつくかと思います。

2021年の洋画に限って言えば興行収入10億円突破作品は5作品のみ(『ワイル・スピード』『007』『ゴジラVSコング』『エターナルズ』『モンスターハンター』)という状況なので、10億円という数字が決して小さくない壁になっていると言えます。

–{ 数字で見る日本での『スパイダーマン』}–

 数字で見る日本での『スパイダーマン』

“ヒット”と“大ヒット”のリアルな数字を提示したところで、日本の『スパイダーマン』映画の状況を見てまいりましょう。

2002年から2007年にかけてのサム・ライミ監督、トビー・マグワイア主演版『スパイダーマン』興行収入75億円、『スパイダーマン2』興行収入67億円、『スパイダーマン3』71.2億円。

まず、この三部作の数字がすさまじかった

アメコミ映画、ヒーロー映画で、そこまで日本で認知されているとは言い難かった”スパイダーマン”の映画が3作ともすさまじい数字をたたき出したことは、誰もが驚いたものです。

『2』と『3』の時には私も映画館で働き始めていまして、1作目の数字から、映画業界的にも『2』以降はもしかしたら100億円の大台に乗るのでは?という空気感があったものです。

この3部作の後に2012年と2014年にアンドリュー・ガーフィルド主演版“アメイジング・スパイダーマンシリーズ”が始まります。

みんな知ってる“蜘蛛に噛まれるくだり”をイチから語りなおすこのリブート企画については賛否でいうと否の方が少し多くなってしまった感があり、『アメイジング・スパイダーマン』31.6億円、『アメイジング・スパイダーマン2』31.4億円という興行収入になっています。

“サム・ライミ監督版から半減!?”となるとネガティブな響きですが、それでも先に挙げたあの『カメ止め』以上の数字となっていて、しかも1~2で落ちがほとんどないというのは特筆するに値すると言えます。

そして2016年からMCU(=マーベル・シネマティック・ユニバース)に合流したトム・ホランド主演シリーズが始まりますが、こちらが『スパイダーマン:ホームカミング』28億円、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』30.6億円(ゲスト出演作品『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』26.3億円)と高水準をキープ。

そして『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は公開2週目の『呪術廻戦 0』をおさえて、週間ランキングトップを獲得。

公開から4日間で動員111万人以上、興行収入16.9億円を上げました。

これは『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』オープニング対比で動員・興収ともに約130%前後となり、興行収入30億円突破は確実と思われ、“トム・ホランド主演のスパイダーマン映画”で最大級のヒット作になることが確実となり、”スパイダーマン神話”の継続が果たされようとしてます。 

さらに、派生企画のスパイダーマンバース作品の『ヴェノム』22.5億円、『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』18億円以上と合格ラインを越えてきていることにも注目です。

ちなみに、“アベンジャーズ”シリーズは『アベンジャーズ』36.1億円、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』32.1億円、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』37.4億円、『アベンジャーズ/エンドゲーム』61.3億円となっています。

”さすがに『エンドゲーム』はすごいね!!”と思われるもしれませんが、よく見ると”サム・ライミ監督版”三部作のどの1つも越してはいません。

つまり日本で一番ヒットアメコミ映画は何を隠そう2002年の「スパイダーマン」になるのです。

さらに”マーベルは黙っていても大ヒットでしょう?”という意見もあるかと思いますが、“非アベンジャーズ”で“非スパイダーマン”のMCUの最大ヒット作『アイアンマン3』25.7億円。

どのスパイダーマン映画より下の数字です。さらに言えば10億円のラインに到達していないものもかなりあります。

2021年も『エターナルズ』こそ12億円を記録しましたが、『シャン・チー』『ブラック・ウィドウ』は10億円以下で、“最近のマーベル”であってもヒットするとは言い難いのです。

アメコミ界でマーベルと並ぶ二大巨頭のDCコミックス原作映画に目をやると、映画史に名を残す傑作中の傑作と言われた、クリストファー・ノーラン監督の”ダークナイト3部作”は『バットマン ビギンズ』14億円、『ダークナイト』16億円、『ダークナイト ライジング』19.7億円にとどまっています。

DC作品は10億円以下もざらで、20億円を唯一越えたのが『ジョーカー』の50.6億円となっています。

『ジョーカー』を素直にアメコミヒーロー映画としていいか微妙な気分になりますが、それ以外のスーパーマン作品、バットマン作品はことごとく20億円の壁を乗り越えることができずにいます(『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』18.6億円、『スーサイド・スクワッド』17.6億円、『ジャスティス・リーグ』11億円)

–{なぜ、日本でスパイダーマンだけはヒットし続けるのか?}–

なぜ、日本でスパイダーマンだけはヒットし続けるのか?

最初のサム・ライミ監督版の大ヒットは異常現象と言っていい出来事で、”スパイダーマン映画”というジャンル・ブランドが確立されて、それ以降演じる役者が変わってもスパイダーマンが登場する映画が支持されていることにつながっています。

 アメコミ映画である以前に”スパイダーマン映画”

 ”スパイダーマン映画”は別腹

以上のような区分けが日本でもしっかりと成り立っています。

最初の3つの大ヒットについては、今ほどアメコミ映画が乱発されていないから物珍しさがあったのではという意見も耳にしたことがありますが、当時(今もあまり変わりませんが)アメコミは物珍しすぎて、より一層、普通の人たちは手を挙げないと思います。

同時期のヒット作というと『ハリポタ』や『ロード・オブ・ザ・リング』がありましたが、前者は当時最大級のベストセラー小説の映画化で、後者は長年に渡って地道に普及し続けた作品の映画化なので、経路はちがっても“みんな知っている”という点では共通しています。

一方で、『スパイダーマン』は日本国内でそこまでの存在であったか?は非常に疑問です。

ある一定の世代の人たちは実写特撮(なんとスパイダーマンの初実写化は日本なのです!!)やアニメーション版を見ていた人もいると思いますが、それが2002年当時の劇場に『スパイダーマン』を求めてやってきた観客層のメインだったとは言い難いです。

出演者がビッグネーム揃いだったかと言えばトビー・マグワイア、キルスティン・ダンスト、ジェームズ・フランコ、ウィレム・デフォーというメインの4人は当時も今も映画ファンには訴求しても、一般的な層にまで達している人(例えばトム・クルーズとかブラッド・ピットとかとか)とは言えない存在です。

サム・ライミ監督だって、通好みのホラー映画の達人として映画ファンから信頼度が高かい若きカルト映画監督でしたが、スピルバーグの様に名前で人を呼べるタイプの監督ではありません。

–{日本での大ヒットの理由}–

日本での大ヒットの理由

当時の興行ランキング度動向を見てみると、2002年5月に公開された『スパイダーマン』は7週連続で国内ランキング1位をキープしています。

GW明けに公開され、そのまま夏休み映画の『スター・ウォーズエピソード2』まで日本の映画興行を引っ張り続けました。

数字的にも前週比の落ちが少なく高水準をキープし続けています。

ここから読み取れることは、以下の4点です。

1:『スパイダーマン』を最初に多くの人が見た

2:最初に見た人達からいい評判が拡がった

3:それを聞いた人たちが、見てみようかと、公開から少し経ってから映画館に向かった

4:最初に見た人達の多くがリピーターになった

人気を支えたのはやはり『スパイダーマン』が”シンプルに良い映画”だったということ、”日本人が見ても良い映画”だったということでしょう。

 ”あなたの親愛なる隣人”の二つ名を持つスパイダーマン。

彼は等身大の若者としての将来や生活、恋愛や友人などについて思い悩みます。

この悩み、苦境に立つヒーローというのは異色でした(それは今2022年においても変わりありません)。強く逞しくあろうとするヒーローは古今東西、国内外で数多く存在し続けてきました、そんな中で等身大で、しかも万国共通で普遍的な事柄に思い悩む青年スパイダーマンことピーター・パーカーの姿は、日本人にとって非常に新鮮で、なおかつ親しみを強く感じる対象になりました。

やはり、この魅力が大きかったと思います。

アメリカのコミックヒーローである以前に、我々にとってピーター=スパイダーマンは“思い悩む若者”で“親愛なる隣人”となったのです。

またもう1つの名言”大いなる力には大いなる責任が伴う”というものも、どこの国の人であっても通用する概念でした。

CG技術が発達し、それまでは実写映像では描けなかったスパイダーウェブという独自のアクションをスクリーンに焼き付けることができたことも大きいでしょう。

ヒーローの超人度合いも仮面ライダーやスーパー戦隊を見てきた我々の共通項と近い度合いのだったも効果的でした。

オリジナリティあふれるアクションに、国境を越えた普遍性を持つキャラクターが重なったとき“スパイダーマン映画”はヒーロー映画、アクション映画、そしてアメコミ映画の枠を超えた“スパイダーマン映画”へと昇華したということになります。

その後も日本人の心を捉え続け、アメコミ映画もヒーロー映画も食傷気味だけど“スパイダーマン映画だけは別腹”という現象を生んでいるのではないでしょうか?

–{『ノー・ウェイ・ホーム』ロスの人へ次の一手}–

『ノー・ウェイ・ホーム』ロスの人へ次の一手

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は劇場公開が始まったばかりですが、どうしても次を気にしてしまうのもまた“人の性”です。

大きな朗報と言えるのが、トム・ホランドとソニー・ピクチャーズが新たな“スパイダーマンの3部作”の制作を発表したことでしょう。とはいえ、まだ制作決定の段階なので、映画は何年か先になってしまいます。

直近でいうとソニー・ピクチャーズによるスパイダーマン・ユニバースの新タイトル『モービウス』が公開待機中です。またマーベルモノではないのですがトム・ホランド主演のアクション大作『アンチャーテッド』も公開予定作品に並んでいます。

『モービウス』はコロナ禍で延期が続いている作品で、全米公開がまた3月から4月へ延期になってしまいました。コロナ禍のため日程がどうなるかわかりませんが、アメリカより2日早い5月4日に日本公開となる『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』があります。

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の直後の話になると思われ、さらに特筆すべき点は監督が『スパイダーマン』の最初の3部作のサム・ライミ監督ということでしょう。

今後公開される作品でロスを凌ぎつつ、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』で大きく総括された先の“スパイダーマン映画”がどうなっていくか今から、楽しみにしましょう。

(文:村松健太郎)

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–{『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』作品情報}–

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』作品情報

ストーリー
ピーター(トム・ホランド)はミステリオ(ジェイク・ギレンホール)を倒したものの、デイリー・ビューグル紙がミステリオの遺した映像を世界に向け公開。ピーターがスパイダーマンであることが暴かれ、ミステリオ殺害の容疑をかけられてしまう。ピーターは大切な人に危険が及ぶことを危惧し、共にサノスと闘ったドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)に自分がスパイダーマンだと知られていない世界にしてほしいと頼む。しかしドクター・ストレンジが呪文を唱えたところ、時空が歪み、マルチバースの扉が開かれてしまい……。

予告編

基本情報
出演:トム・ホランド/ゼンデイヤ/ベネディクト・カンバーバッチ/ジョン・ファヴロー/ジェイコブ・バタロン/マリサ・トメイ/アルフレッド・モリーナ

監督:ジョン・ワッツ

公開日:2022年1月7日(金)

製作国:アメリカ