明治から昭和にかけて活躍した文豪たちの名を懐くキャラクターによる異能アクションバトルを描く「文豪ストレイドックス」(KADOKAWA)シリーズは、累計850万部超えの大人気作品。メディアミックスも広く展開し、2022年1月7日(金)公開の映画『文豪ストレイドックス BEAST』で初の実写映画化に至った。
本シリーズは“ヨコハマ”を舞台に「ポートマフィア」と「武装探偵社」という2つの組織の対立を中心として物語が展開するが、『文豪ストレイドックス BEAST』で描かれるのは「ポートマフィア」に所属する芥川龍之介と「武装探偵社」に所属する中島敦が、もし逆の組織に属していたら、という“if”ストーリー。2017年から上演されている2.5次元舞台の俳優が続投する形で、キャストをつとめる。
そして、メガホンを取ったのは、多数の特撮作品を手がける坂本浩一監督。アクションシーンに定評のある坂本監督と2.5次元舞台で活躍する俳優との映像の現場では、どのような化学反応が起きたのだろうか。芥川龍之介役の橋本祥平、中島敦役の鳥越裕貴とのエピソードを中心に、坂本監督に話を聞いた。
——人気シリーズの実写映画化ですが、2.5次元舞台のキャストで映画化するということについてはどう思いましたか?
坂本浩一監督(以下、坂本監督):KADOKAWAさんとは2年に1回くらいのペースで作品を撮らせていただいています。それで今回は、2.5次元の舞台をキャストをそのままに映画化したいという新たな試みの企画に驚きました。
今までにキャストさんからご招待いただいて舞台を観に行ったり、自分が手がけた映画が舞台化されたときに携わったり、また、KADOKAWAさんとも2.5次元に近い忍者の舞台をやったことはあったんですが、どっぷりと2.5次元の世界に関わったことはありませんでした。
だから今回、今までとは違うジャンルの方々とご一緒できることがすごく楽しみだったのと、どういう人たちなんだろうとすごく興味がありました。
——TVシリーズなど、もともと映像作品のものと、原作がある作品の映画化という今回とでは、違いを感じましたか?
坂本監督:今までに漫画やアニメ原作の実写化作品を何本か撮らせていただきましたが、プロデューサーによって要求されたものが違っていました。どれだけ実写ならではの部分を付け加えていくのか、原作の要素をどれだけ忠実に活かすのか、というところですね。
今作に関しての重要なポイントは、舞台がすでに何度も上演されてキャラクターが完成しているので、それをどう映画に落とし込んでいくかという作業がひとつ。それから漫画やアニメと同じ世界観を実写でどう表現するか、というところですね。今まで経験した実写化作品とは違う新鮮さがありました。新しい経験ができてとても楽しかったです。
——坂本監督が特に大切にしたところについて、具体的に伺いたいです。
坂本監督:2.5次元の舞台は衣装を含めキャストのビジュアルを原作に可能な限り近付けていると思います。そのコンセプトを崩さず、いかに映像作品としてリアリティを落とし込めるか、というところですね。それは大きなチャレンジでしたが、プロデューサーの倉兼千晶さんも大切にしていた部分なので、衣装のデザインや髪型などは、早い段階から着手していました。
あとは本作の特徴でもある異能力バトルですね。作品に入る前に、実際に舞台を観劇させていただいたのですが、アニメだと縦横無尽にスピーディーに動き回るバトルシーンを、舞台ではアンサンブルの人たちが旗などを使って表現し、その新しい演出方法に衝撃というかインスピレーションを受けたんです。アニメや舞台とは違う実写ならではの表現方法を、特撮での経験を踏まえながら、工夫して考えることにしました。
また、異能力を発動する時の文字が浮かぶ演出や、原稿用紙にタイピングされていくテロップなどは、アニメの手法を取り入れています。あと、ヨコハマの実景は、アニメと同じアングルになるように探し当てて撮影しました。衣装やキャラクターに限らず、アニメとのリンク感を出して、同じ世界観として入り込みやすい仕掛けをしています。
–{坂本浩一監督が感じた、橋本・鳥越の俳優としての魅力}–
——アクションの迫力はやはり、劇場版ならではだと感じました。撮影において、舞台とはまた違うアクションを要求されたと思うのですが、橋本さんや鳥越さんとはどんなやりとりをされたんですか?
坂本監督:二人ともアクションが得意という話は聞いていたんですが、舞台を観て「これだけ動けるんだ。これはすごく面白いぞ!」って実感しました。撮影に入る前に一度キャストに集まってもらって本読みをしたのですが、その日に橋本くんと鳥越くんには残ってもらってアクション練習をしたんです。実際に相手に当てないで見せる舞台のアクションとは違う、映像のアクションを体験してもらいました。アクションにも色々と流派がありますが、自分の流派は実際に相手に当てるので(笑)。お互いの体にパットを巻いて「当てながらやってごらん」と指導したら、2人ともすごくテンションが上がっていましたね(笑)。
2人は仲がいいですし、一緒にお仕事もずっとしているので、息がぴったりなんですよ。それに舞台で場数を踏んでいるから、アクションを覚えるのがすごく早いんです。普通は何度も反復練習をして覚えていくものですが、アクション部の見本を見ただけで覚えちゃうんですよ。後は細かい部分の調整をするくらいです。ここまで吸収力の高いキャストは今までいなかったので、アクションチームもみんなびっくりしていましたね。今回の撮影スケジュールのなかで、あれだけのアクションシーンが撮れたのは、本当に彼らのアクションスキルがあったからこそです。
——監督の想像をも超えるものになったんですね!
坂本監督:超えました(笑)!二人が上手いのでカットを割って誤魔化す必要がないから、自分が思っていたプランよりも長回しをしましたね。
——ちなみに他の俳優さんで、もっとアクションを撮ってみたかったなという人はいますか?
坂本監督:泉鏡花役の桑江咲菜ちゃんがすごくアクションもうまくて、かっこいいですよ。以前彼女が出演した他の作品を担当したアクションチームからも、すごくアクションができる子だよと事前情報を聞いていたのですが、今回ご一緒させていただき実感できました。
あとは、織田作之助(谷口賢志)がメチャクチャかっこいいです!彼も以前特撮作品に参加していましたが、ここまで銃メインのアクションはやったことがないと話していました。でも、動くとその動作ひとつひとつがすべて決まります。流石ですね!2丁の銃をかっこよくバンバン撃つシーンがあるのですが、そこもカットを割らずに実際の迫力が体感できるシーンになりましたね。今作のキャスト陣はどなたもかっこいいアクションをしているので、ぜひ注目していただきたいです。
——では、アクション以外の部分で、橋本さん、鳥越さんを撮っていてどんなことを感じたか、教えてください。
坂本監督:アクションと同じで、記憶力ですね。舞台だと3時間分くらいのセリフ量を一気に覚えると思うのですが、映画の撮影でも同じようにセリフをすべて覚えて来てくれます。長台詞でも、現場で一切台本を見ない。それがやっぱりすごいなと思います。長い台詞でも、全部完璧に覚えてきてそれをちゃんと表現してくれる。舞台で何度か演じているキャラでもあるので、それぞれの表現力も豊かでしたね。アップを撮ったときの目力がすごく強く、アニメから入ったファンの方々も、キャラクターが実在しているという錯覚を起こすと思います。
二人は今までとは逆の立場を演じているわけですが、各キャラクターの奥深さについて精通しているからでこそ演じられるんだと思います。2人とも的確に表現していたので、現場で段取りするときに自分から細かい指示を出すというよりは、ふたりが感じたことをどう映像としてキャプチャーしていくかに集中できました。これまで何度も芥川と敦を演じ、信頼し合う2人だからこそ、実現できたんだと思います。
彼らは次にどういうことをしてくるだろう、自分はそれに対してどう反応したらいいだろう、というキャッチボールをするのが毎日の楽しみでもありましたね。
——橋本さん鳥越さんそれぞれで、印象的だったことがあれば伺いたいです。
坂本監督:橋本くんはセリフがないシーンでも、表情だけで様々な感情が伝わってくるのがすごい。全編を通しての芥川の心情の変化というのが、橋本くんのちょっとした表情の変化ですごくうまく現れています。自分も撮影が進むにつれて芥川にだんだんと感情移入していって、最後には大好きになっていました。それは撮っていた自分だけなく、作品を観た人にも感じてもらえると思います。
鳥越くんはすごくプロフェッショナルな人ですね。いつも楽しく現場を明るくしてくれるムードメーカーですが、カメラが回ると、すっと顔つきが変わって憑依したかのようにお芝居をするんです。みんなを引っ張っていく力もすごくて、本当に助かりました。
——2.5次元というと女性向けというイメージがあるかと思うんですが、本作はアクションの迫力も含めて、男性が見ても面白い作品になっていますよね。
坂本監督:もちろん、すべての方に楽しんでほしいですね。そう、原作者で本作の脚本も担当された朝霧カフカ先生がダークな作品がお好きで、脚本のト書きなどにもバイオレンスな描写が出てきます。それをどこまで表現できるか、というところもこだわりました。2人とも怪我をしたり血を吐いたりというカットが多かったんですけど、バイオレンスをやりすぎて、グロいって女性が引くんじゃなくて、それが美しく見えたらいいなと。血糊メイクが2人ともすごくかっこ良くセクシーなんですよ。その辺は男が見てもかっこいいと思うし、女性が見ても美しいと思えるような、バランスで表現ができたらいいなと思っていましたね。
特撮が好きで興味をもってくださった方にも、燃え要素が随所にあり観やすいと思いますし、いろんな人たちに観ていただきたいなと思います。
観てくださる方々はすでに「文スト」のファンの方が多いかもしれないですが、漫画からアニメ、小説、舞台と数あるメディアミックスを展開している中で、同じ「文スト」の世界観に実写版というのをうまく組み込めるように作ったので、総合的に作品を楽しんでいただく中の一本として、この実写版も仲間に入れてもらえたらな、というのが今の僕の願いです。
–{映画『文豪ストレイドッグス BEAST』作品情報}–
映画『文豪ストレイドッグス BEAST』
【予告編】
【公開日】2022年1月7日(金)公開
【キャスト】橋本祥平 鳥越裕貴
谷口賢志 田淵累生
紺野彩夏 桑江咲菜/植田圭輔
輝馬 長江崚行 桑野晃輔 堀之内 仁 広川 碧 齋藤明里
村田 充 岸本勇太 南 圭介/荒木宏文
【原作】角川ビーンズ文庫「文豪ストレイドッグス BEAST」
【監督】坂本浩一
【脚本】朝霧カフカ
【音楽】岩崎 琢
【主題歌】GRANRODEO「時計回りのトルク」
【配給】KADOKAWA
【公式サイト】https://bungo-movie.com/
【公式twitter】https://twitter.com/bungo_movie
(C)映画「文豪ストレイドッグスBEAST」製作委員会