タイムトラベル映画はロマンに満ちている。実際にはあり得ない現象を描く題材だからこそ、映画のイマジネーションが最大限に発揮される、ある意味では作り手の力量が最もダイレクトに現れるジャンルとも言えるだろう。
ここでは、タイムトラベル映画の中から、2021年以降に劇場公開または配信が開始された厳選5作品を紹介しよう。なんと2022年1月7日から早くも「母娘版『バック・トゥ・ザ・フューチャー』」とも言える快作が公開されるので、このタイミングで紹介しておきたかったのだ。
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1:『こんにちは、私のお母さん』(2022年1月7日より劇場公開)
『こんにちは、私のお母さん』は2022年1月7日より劇場公開される中国映画だ。全世界の興行収入はなんと900億円で、39歳にして主人公の女子高生も演じたジア・リン監督が「世界最高の興行収入を獲得した女性監督」の名誉に輝いたメガヒット作だ。
物語は、母と共に巻き込まれた交通事故をきっかけに、20年前の1981年にタイムスリップするというもの。過去で家族や友人のために孤軍奮闘する小さな物語は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に近い。「自分が消えてしまわないように」奔走した『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とは逆に、本作は「母に苦労をかけさせないためにお金持ちと結婚してもらおうと頑張る(自分がたとえ消えようとも)」という、切なさも感じさせる物語となっている。
とは言え、本作の基本は思いっきりコメディ。ダメダメに思えて実は芸達者な主人公の奮闘や、周りが勘違いしていくシチュエーションにケラケラと笑えるだろう。さらに、1980 年代の中国の風景は、それを知らない日本人にも懐かしさや輝きを感じさせる。当時のバレーボールというスポーツの興隆やブラウン管テレビの普及などは、それよりも前の日本の高度経済成長期もどこか彷彿とさせる。
なお、ジア・リン監督は、本作の元となったコントを自身の母との実際の突然の別れを経験したからこそ作り上げ、さらに3年かけて今回の映画のために脚本を書き直したそうだ。だからこそ作品には「親孝行」にまつわる想いがたっぷりと込められており、さらには「あるトリック」が仕込まれていて、思いがけない感動もある内容にもなっていた。
タイムスリップの設定や物語運びには少し「ゆるい」ところがあるのも否めないが、それ以外は万人が笑って泣けて楽しめる。しかも「あれってどう思う?」と観た人に解釈の余地も残している、単純明快な面白さと奥深さを備えたエンタメとして理想的だ。こんなにも楽しい中国映画が日本にやってきたんだから観ない手はない。新年最初に観る映画としても超おすすめだ。
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–{お腹に穴が空いた謎の生物までもがタイムトラベル?}–
2:『トゥモロー・ウォー』(Amazonプライムビデオで見放題)
Amazonプライムビデオで2021年7月より独占配信中の、人類とエイリアンの戦いを描く、定番ど真ん中なSFアクション映画だ。あらすじは、2051年からタイムトラベルをしてきた戦士たちが現代に現れ、30年後のエイリアンとの戦いのために兵士を集い、元軍人で高校教師の主人公も戦いに赴くというもの。未来で「これから起こる」危機を知らされる発端から『ドラゴンボール』の「セル編」を思い起こす方も多いだろう。
元々は劇場公開予定だったものの、新型コロナウイルスの流行のために断念され、配給権がAmazonに売却されたという経緯がある。そのため映像は超ハイクオリティで、エイリアンたちとの攻防戦はド迫力。荒廃した近未来の世界も凝りに凝りまくっていて、過去と未来のつながりを示すサプライズもあるなど、タイムトラベルもののツボをしっかり抑えている。とにかく、スケール感のある娯楽作を見たい方におすすめだ。
主演のクリス・プラットが他の作品よりも幾分マジメな役に扮しており、J・K・シモンズのさすがの存在感も見所だ。「未来人のテレポーテーションのやり方雑だな!」などのツッコミどころがあるのはご愛嬌。できる限り大画面で、音響も良い環境を整えて観たほうが良いだろう。
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3:『フランメルズの大冒険』(Netflixで見放題)
2021年11月より配信中の、Netflixオリジナルのアメリカ・中国合作のアニメ映画だ。本作は良い意味でマンガ『邦キチ!映子さん』でも紹介されそうな(してほしい)「珍作」と言える。何しろ、ドーナツ状にお腹に穴が空いている謎の生物が主人公であり、なぜ穴が空いているのか、その生物学的な理由などは語られないのだから。
彼らは走る代わりにタイヤのように体を横向きにして回って爆走する。穴が大きく丸く空いている者は仲間から尊敬の眼差しでみられる。さらには「お腹にナイフが刺さったと思ったら穴が空いてから大丈夫だった!」とか「現代でドーナツを同胞だと認識したけど動かないから死んだと思って心臓マッサージをすると中身が飛び出てきてスプラッター」とか、かなりブラックなギャグがあったりするのだ。そんな穴空き謎生物の七転八倒ぶりとツッコミ不在の恐怖で脳がバグりそうにもなるが、観ているうちに慣れてくるし、ちゃんと可愛らしくも見えてくる(感じ方には個人差があります)。
それでいて、タイムトラベルものとしてはちゃんと面白い。過去の歴史的な出来事が現在に大きく影響を及ぼす様、劇中で起こった問題を「運命だから」と諦めずに未来を変えるために奔走する過程は、子どもから大人まで楽しめるだろう。中盤には意外などんでん返しもあって、しっかり驚けるのも嬉しかった。猪突猛進な性格の姉と、彼女に振り回される弟の関係性と成長も見所だ。
ちなみに、原題は「Extinct(絶滅した、消滅した)」。そのタイトル通り、絶滅動物に対する風刺もたっぷりと込められているので、大人は前述したようなブラックなギャグも含めてニヤリとできるだろう。「種の起源」で知られるチャールズ・ダーウィンも登場し、彼もまた爆笑もののセリフを口にするのでお聞き逃しなく。
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–{ホラー版『魔女の宅急便』もタイムトラベル映画だった?}–
4:『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021年12月より劇場公開中)
2022年1月上旬現在も(上映終了した劇場もあるものの)公開中の映画だ。あらすじはアニメ映画『魔女の宅急便』にも近い。「憧れの仕事に就くために都会に進出した女の子が、その雰囲気に馴染めずに一度は塞ぎ込むものの、自分に合った部屋を見つけて再スタートしようとする」流れだけでなく、田舎から出てきたばかりのダサさを気にする(いじられてしまう)様、さらには「トンボ」のように積極的なアプローチをしてくる男の子がいるなど、偶然とは思えないほどに共通点が多いのだ。
そんな本作のジャンルは「タイムリープ・サイコ・ホラー」と銘打たれている。主人公は古い屋敷の一室で、なぜか憧れの60年代のロンドンの夢を見る。初めこそ主人公は華やかなその場所を満喫するのだが、やがて「ある悲劇」がじわじわと、時にははっきりと提示されていく。それが表向きは輝きに満ちているはずのショウビズ界はもちろん、現代の女性もまた遭遇していたであろう恐怖そのものでもあったのだ。R15+指定納得の殺傷シーンや性描写もあるが、それは必要なものだろう。
エドガー・ライト監督は良い意味でオタク気質であり、自分の好きなことを作品の中で提示することにてらいがない作家だ。だが、この『ラストナイト・イン・ソーホー』では思い入れがあるロンドンを憧れのままではなく、その暗部にも切り込んで描くということに、ある種の迫力を感じさせた。そうした問題提起がありながらも、最初から最後までのめり込んで観られるエンターテインメントに仕上がっているので、面白いホラー映画を観たい方にはぜひおすすめしたい。
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5:『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』:(U-NEXTで見放題)
2021年5月より日本でも配信がスタートし、現在はU-NEXTで独占見放題、他配信サービスでもレンタルでの鑑賞が可能な作品だ。2017年に劇場公開された『ジャスティス・リーグ』(以下、劇場公開版)は元々ザック・スナイダーが監督を引き受けていたのだが、娘の突然の死を受けて辞任。その後はジョス・ウェドン監督が継いで完成させたもの、興行と批評の両面において芳しくない結果となってしまった。そして、多くの特殊効果と撮影を追加で行い、莫大な費用をかけて作り出されたのが、この『ザック・スナイダーカット』だ。
劇場公開版の上映時間が120分であったのに対し、『ザック・スナイダーカット』は242分とほぼ2倍。そのため、「ほぼ別作品」と言ってもいいほどの内容になっており、そして絶賛の嵐で迎えられている。特に「フラッシュ」と「サイボーグ」という2人のヒーローのエピソードが丁寧に語られていることはとても大きい。新たなシーンが付け加えられているだけでなく、展開そのものが変わっているシーンもあるので、劇場公開版を観た方も新鮮な気持ちで観られることだろう。6つのパートとエピローグに分けられており、ドラマのように途中で中断しやすい構成になっているのも、家で観るには嬉しいポイントだ。
そして、この『ザック・スナイダーカット』では、劇場公開版にはなかった、タイムトラベルのシーンがあるのだ。誰がどのようにタイムトラベルをするかは、ネタバレになるので書かないでおこう。それは映画全体からすれば「ほんの少し」であるし、厳密にはタイムトラベル映画と呼べないかもしれない。しかし、高揚感に満ち満ちたタイムトラベルは、それ自体に涙が出てくるほどの感動があった。現実ではあり得ないタイムトラベルという夢を、フィクションのヒーローが「叶える」瞬間を、ぜひ見届けてほしい。
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(文:ヒナタカ)