年の瀬を迎えたSNS上に飛び交う2021年公開映画ベスト10ランキング。筆者も多聞に漏れずランキングを作成しているのだが、それとは別に、大のサウンドトラック好きとして“映画音楽・サントラランキング”的なものを作っている。
といっても映画ベスト10以上に毎度自分の趣向を反映した結果になりがちなので、たとえば「アカデミー賞を予想する上で参考になる!」ようなランキングには程遠い(アクション系サウンドが好きなのでどうしてもそちらに偏る傾向がある)。
そんな個人的かつ趣味満開の映画音楽・サントラランキングを、cinemas PLUSという場を利よ… お借りして発表してしまおうというのだから、我ながらなんとも図々しい。だがしかし、それがライターの特権でもあるのだ。… 編集部の方々ありがとうございます!
さて。いつもは作品(サントラ)単位でランキングを作成しているが、今回はよりピンポイントに的を絞ろうと楽曲単位(劇伴・主題歌・挿入歌)で作成してみた。公式YouTubeで楽曲が公開されている場合はリンクも貼ってあるので、お時間がある時にでも耳を傾けていただけたらと思う。
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- 10位『モータルコンバット』より「Techno Syndrome 2021」/ベンジャミン・ウォルフィッシュ
- 9位『すくってごらん』より「この世界をうまく泳ぐなら」/香芝誠(尾上松也)&生駒吉乃(百田夏菜子)&王寺昇(柿澤勇人)
- 8位『アイの歌声を聴かせて』より「ユー・ニード・ア・フレンド ~あなたには友達が要る~」/土屋太鳳
- 7位『ガンズ・アキンボ』より「Miles Drive Through」/エニス・ロトホフ
- 6位『Mr.ノーバディ』より「Everyone Dies」/デヴィッド・バックリー
- 5位『街の上で』より「エンドロール」/マヒトゥ・ザ・ピーポー
- 4位『竜とそばかすの姫』より「歌よ」/中村佳穂
- 3位『DUNE/デューン 砂の惑星』より「House Atreides」/ハンス・ジマー
- 2位『ベイビーわるきゅーれ』より「最後のタイマン」/曽木琢磨
- 1位『うみべの女の子』より「Girl(on the shore ver.)」/world’s end girlfriend
- まとめ
10位『モータルコンバット』より「Techno Syndrome 2021」/ベンジャミン・ウォルフィッシュ
魔界の皇帝による人間界支配を阻止すべく集結する戦士たち、というあらすじを聞いただけで心の中の中学2年生が血沸き肉踊り出しはしないだろうか。
しかも、日本からはスコーピオン(ハサシ・ハンゾウ)役として真田広之が参戦。因縁の相手であるサブ・ゼロ(ビ・ハン)を演じた『ザ・レイド』のジョー・タスリムと繰り広げる対決は物語の主軸以上の興奮モノだった。
興行的に大ヒット作とまでは呼べなくても(いやTL占拠率でいったら軽く50億は突破してません?)、映画ファンから熱狂的に迎えられたという事実だけでも本作は2021年の映画トピックスとして燦然と輝いている。
そんな本作を音楽面でバックアップしたのは、ハンス・ジマーの門下生にして『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』シリーズや『シャザム!』『透明人間』と近年絶好調のベンジャミン・ウォルフィッシュ。
オーケストラを正統かつ大胆に鳴らすウォルフィッシュが、1996年・日本公開版のテーマ曲をよりアグレッシブにアレンジしたのが「Techno Syndrome 2021」だ。四半世紀前の原曲のカッコよさもさることながら、さらにエッジを利かせているのだからそのリズムに体がノらないはずがない。
血で血を洗う圧巻のバトルシーンが連発する本作にぴったりの楽曲で、普段サントラを購入しない層までこの楽曲をダウンロードしているのも実に新鮮だった。フェイタリティ!!
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9位『すくってごらん』より「この世界をうまく泳ぐなら」/香芝誠(尾上松也)&生駒吉乃(百田夏菜子)&王寺昇(柿澤勇人)
日本の原風景を映し出した奈良のロケーションも美しく、そんな世界の中で徐々に変化していく香芝の心情と吉乃のやり取りが独特な情緒を生み出していて心地いい。
本作の魅力をさらに引き上げているのは、全編を彩る数々のミュージカルナンバー。しかもそれらの歌唱をおこなうのが、歌舞伎・J-POP・舞台でそれぞれ名を馳せる尾上・百田・柿澤なのだから聴きごたえは抜群だ。
特にクライマックスで流れる「この世界をうまく泳ぐなら」はそのタイミングに至るまでの展開が見事で、歌唱中にタイトルを回収する構成と演出は何度観ても唸らされてしまう。
ちなみに本作のサウンドトラックは2021年12月現在で単独販売がなく、Blu-ray初回限定版にのみ付属。どのような展開があってどのような演出が施されているのか気になる方は、ぜひ作品をご覧になって確認していただきたい。
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8位『アイの歌声を聴かせて』より「ユー・ニード・ア・フレンド ~あなたには友達が要る~」/土屋太鳳
公開直後からじわりじわりと口コミが広がり、ロングヒットを記録した吉浦康裕監督のアニメ映画『アイの歌声を聴かせて』。
ポンコツAI・シオンとクラスメイトのサトミが周囲を巻き込みながら絆を深めていくミュージカル作品であり、初回鑑賞と2回目の鑑賞でがらりと印象が変わるほどその物語は奥深い。筆者もこの手の“仕掛け”には弱く、真実が明らかになった時のエモーショナルな衝動は2021年に公開された映画でもトップクラスだと断言できる。
本作はとにもかくにも主人公のシオンがなんとも魅力的で、確かにポンコツな部分もあるのだがそれ以上にボイスキャストを務める土屋太鳳の声が「生きている」ことに驚かされる。
土屋の顔が見えることなく確かにスクリーンの中にシオンが存在していて、彼女が話すたび、突然歌い始めるたびにグっと作品の世界観に引き込まれてしまうのだ。そんなシオンがサトミのために歌う「ユー・ニード・ア・フレンド ~あなたには友達が要る~」は、だからこそ観客の心を魅了する。
シオンがなぜサトミの前に現れたのか、なぜサトミの幸せを願うのか知った上で改めて楽曲を聴くと、シオンの目線を通して一気に世界が尊く美しいものに見えてくるはず。
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7位『ガンズ・アキンボ』より「Miles Drive Through」/エニス・ロトホフ
そのぶっ飛び具合に磨きをかけた主演作『ガンズ・アキンボ』は、ラドクリフが両手に拳銃を埋め込まれてナイトガウンにアニマルスリッパで街を逃げ回るという時点で“引き”が強い。また筆者個人としては作品自体の面白さはもとより、生活様式が一変し軒並み話題作・注目作の公開延期が続いた時期に公開され、気持ち的にスカっとした印象深い作品でもある。
ラドクリフ演じるマイルズのキャラクター造形からもわかるとおり、とにかく本作は従来のサスペンスアクションとは一線を画したノリで突き進む。やりたい放題といえばそれまでだがしっかり演出と物語が噛み合っているので、その流れに身を任せることで作品世界に酔いしれることができる1本だ。
それだけにエニス・ロトホフによる音楽はテンションが高く、中でもチェイスシーンを盛り上げる「Miles Drive Through」はサントラ随一の疾走感を味わうことができる。ドイツ人作曲家らしいデジタルビートは、まさに「クール」のひと言。
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–{6位~4位。4位には『竜とそばかすの姫』が。}–
6位『Mr.ノーバディ』より「Everyone Dies」/デヴィッド・バックリー
主演のボブ・オデンカークがまさにハマり役で、“一見ごく普通の中年男がブチギレて大暴れ”という物語の大筋に説得力を与えることに見事成功・貢献している。その正体は誰でも序盤で気づけるような展開だが、それでも一切飽きさせることなくクライマックスまで駆け抜けるのだからめっぽう面白い。
音楽を担当したデヴィッド・バックリーは、ハンス・ジマー一派かつハリー・グレッグソン=ウィリアムズの下で修業を積んだ人物。それだけにクライマックスバトルの「Everyone Dies」はジマーとハリー・グレッグソンの“いいとこどり”なロック調のアクションスコアで、本作サントラどころかバックリーの作品群の中でも激アツな部類に入る。
そもそも考えてみてほしい。ブチギレたオデンカークにラッパーのRZA、嬉々としてショットガンをぶっ放すクリストファー・ロイドの3人が並んだ絵面なんて、その時点で大勝利確定ではないか。そんな映像とアクションを支える音楽が、生半可なものであるはずがないのだ。
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5位『街の上で』より「エンドロール」/マヒトゥ・ザ・ピーポー
ほどよい距離感を保ちつつ役者をフィルムに収める今泉力哉監督の真骨頂ともいえ、若葉竜也を中心に穂志もえか・古川琴音・萩原みのり・中田青渚の女優陣が絶妙なバランスで絡み合う。フレッシュなキャストを揃えてなお肩肘張ることなく鑑賞できる作品であり、コントを見ているような(劇場では実際にあちこちから笑い声が漏れていた)淡々と落ち着き払った空気感もまた大きな魅力だ。
マヒトゥ・ザ・ピーポーが歌う「エンドロール」は、若葉演じる荒川青がふらりと立ち寄ったライブハウスで流れる楽曲。流れる、というよりもマヒトゥ・ザ・ピーポー本人がアコースティックギターを奏でながらしっとりと歌いあげている。
おそらく「エンドロール」は聴く人によって受け止め方が異なり、青のようにじっと聴き入る人がいればカレン演じる“メンソールの女”のように一筋の涙をこぼす人もいるかもしれない。「エンドロールに名前がなかった 名前がなかった だからぼくら 旅を続けなくちゃ 旅を続けなくちゃ」という歌詞が染み入ると同時に、見果てぬ世界を夢見させてくれるように想像力を湧きたたせてくれる。
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4位『竜とそばかすの姫』より「歌よ」/中村佳穂
母親を失ったことがきっかけで歌をうたえなくなった少女・すずが、「U」で歌姫ベルとして世界中から支持を集めることに。すずとベル役にはシンガーソングライター・中村佳穂が抜擢され、すずの日常シーンはもちろんベルの歌唱シーンでも中村の圧巻のパフォーマンスが響き渡る。
本作からの選曲において「メインテーマの『U』じゃないのかよ」と言われてしまいそうだが、ここは敢えて中村が作詞した「歌よ」を推したい(もちろん『U』も素晴らしくて大好きな1曲)。
劇伴担当の1人ルドウィグ・フォシェルが作曲・編曲を手掛けた「歌よ」は、ベルが歌うボーカルナンバーながらントラでは前半パートでオーケストラによるスケール感たっぷりのサウンドが流れる。ベル(すず)と観客が巨大な仮想世界を目の当たりにした時の高揚感に相応しい楽曲であり、大切な人を失った心情を歌い上げるベルのパフォーマンスシーンへとつながっていくシームレスな流れは実にスマート。
特に中村の歌声と壮大なオーケストラサウンドが融合したサビは圧巻で、観客は「U」の世界に誘われると同時にベルというキャラクターに共感できるはずだ。動画は中村による本曲のピアノ引き語りMVをどうぞ。
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–{3~1位。1位はまさかの作品が!?}–
3位『DUNE/デューン 砂の惑星』より「House Atreides」/ハンス・ジマー
砂の惑星デューンこと惑星アラキスを舞台に対立するアトレイデス家とハルコンネン家の壮絶な戦いを、ヴィルヌーヴ監督のビジョンが冴えわたる圧倒的なビジュアルセンスで描き上げた。
音楽を担当したハンス・ジマーは筋金入りの原作ファンであり、自身がその作曲を担当する日を夢見てこれまで映像化された作品を観ていなかったほど。ついに念願叶ったジマーの本作に対する熱量は近年稀に見るほどすさまじく、3種類のサントラとトレーラーミュージックをリリースしている。本編版サントラもさることながらスケッチブック版の聴きごたえも抜群なので、本編に使用されていないのが本当に惜しい。
特に本編でも印象的なバグパイプのサウンドをたっぷり堪能できるのが今回選んだ「House Atreides」。13分55秒にもおよぶ大作だが、その約3分の1を使って延々とバグパイプとドラムリズムが鳴り響くパートがある。アトレイデス家の権威と威厳を象徴する佇まいであると同時に、ジマーらしさを存分に味わえる1曲だ。
本編サントラのバグパイプに物足りなさを感じた人には、ぜひともこの楽曲をおススメしたい。
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2位『ベイビーわるきゅーれ』より「最後のタイマン」/曽木琢磨
そんな気分にさせてくれる阪元裕吾監督の『ベイビーわるきゅーれ』は、女性暗殺者コンビのクールなアクションとオフビートな会話をバランスよく両立させた奇跡的な作品といっても過言ではない。そんな映画は記憶をたどっても見つからず、観客から絶大な支持を受けた意味も納得できる。
「最後のタイマン」というタイトルからもわかるとおり、本曲はクライマックスの伊澤彩織vs三元雅芸による壮絶なファイトシーンに用意された楽曲。2人のタイマンは今年屈指のアクションシーンでもあり、今後製作される邦画アクションの新たな指標となったのではないだろうか。
従来のアクションと比較しても格段に手数が多く、そのスピード感は瞬きすることすら許されないほどだ。そんなシーンを支える楽曲もまた躍動感にあふれ、エレキギターにストリングス、ドラムリズムが畳みかけてくるサウンドはハリウッド級。映像と音楽がぴたりと合致することで生まれる相乗効果が抜群に高く、クライマックスを飾るに相応しい1曲となった。
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1位『うみべの女の子』より「Girl(on the shore ver.)」/world’s end girlfriend
中学生男女の思春期を大胆な性描写も含めながら描いた点はもちろん、主人公の少女・佐藤小梅というキャラクターに感情移入すればするほど彼女が迎える結末に胸を締めつけられてしまうのだ。
小梅はかつて告白してきた同級生・磯辺恵介に取り返せない青春を捧げるかたちになり、“好き”でもなかったはずなのに彼女の中で磯辺という存在が膨れ上がっていく。演じる石川瑠華と青木柚の演技力もあって小梅と磯辺がスクリーンの中で確かに息づいているからこそ、その余韻はいつまでもずしりと胸にのしかかる。
やわらかく優しげなトーンで始まる「Girl(on the shore ver.)」は、エピローグからエンディングにかけて流れる楽曲。ストリングスの美しい音色が新たな目標を見つけて笑顔を見せる少女の成長を祝福する一方、やがて生じるノイズが彼女の背負った業のように思えてならない。
どれだけ少女が肉体的・精神的に美しく成長しようと、そのノイズは観客に植えつけられた余韻のようにいつまでも深く強く鳴り響き続ける。ああ… 曲を聴くだけで、物語を思い浮かべるだけで切ない。これも青春の呪いというやつの1つなのだろうか。
ちなみに本曲はこの映画のために作曲されたわけではなく、2016年発表のworld’s end girlfriendのアルバム「LAST WALTZ」に収録された「Girl」が原曲。アレンジが加えられているとはいえ映像と重なると「この曲以外は有り得ない!」と断言できるほどマッチしていて、逆に「Girl(on the shore ver.)」以外の楽曲が使われていたなら映画(と余韻)の印象は違うものになっていたかもしれない。
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まとめ
案の定アクション系のスコアに偏りはしたものの、まさか『うみべの女の子』にもっていかれるとは筆者自身も予想外だった。
作品そのものと同じように映画音楽も個々人の感性で受け取り方が変わり、どんなサウンドやメロディが琴線に触れるかは誰にも予想できない。だからこそ映画音楽に耳を傾ける楽しみがあり、「これは」と思える楽曲に出会えた時の喜びはいつまでも忘れないでいたい。
現時点でわかっているだけでも、2022年の映画音楽・サントラも話題作が目白押しだ。
個人的にはマイケル・ジアッキーノの『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』、ハンス・ジマーの『トップガン マーヴェリック』、RADWIMPSの『余命10年』、菅野祐悟の劇場版『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』、澤野弘之の『バブル』、渋谷慶一郎の『ホリック xxxHOLiC』、佐藤直紀の『GHOSTBOOK おばけずかん』あたりを楽しみにしている。映像とともに、どんな映画音楽が観客の心をワクワクさせてくれるか楽しみだ。
(文・葦見川和哉)
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