<2021年公開映画TOP10>「あなたのベスト10は?」って訊かれたから私的に書くが、ネタバレすると1位は誰がなんと言おうと『ビーチ・バム』だ

映画コラム

編集部から毎月出されるお題をもとにコラムを書く「月刊シネマズ」。今月のテーマは「2021年、あなたのベスト10」だそうだ。

「あなたの」と言われたので、おそらく私のベスト10を出せば良いのだろう。だが、「何の」ベスト10かは規定されていない。

なので別に「今年食ったからあげクンベスト10」とか、「モデルナを打って辛かったことベスト10」とか、「酔っ払いが発した迷言ベスト10」とかを提出しても問題ない気がする。しかし、今回のようなケースでは奇をてらうと大体滑り倒すので、本サイトが主に映画を取り扱っている点を鑑み「2021年に公開された映画ベスト10」あたりが無難だろう。それでは以下、TOP10でございます。

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【第10位】デカい画面で、デカい音で映画を鑑賞する素晴らしさを思い出させてくれた『DUNE / 砂の惑星』

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2021年のコロナ禍により、我々は映画館の休業〜席数を半分にしての営業〜通常営業まで、あらゆる形態の映画館を目撃、あるいは体験した。そして多くの人は、コロナ以前と比べて映画館に行く回数が減ったはずだ。

映画館から足が遠のくと、不思議と行かなくとも平気になるもので、家でNetflixを観ながら「別にこれでもいいよなあ」とつい思ってしまった。なんて人も少なくないだろう。そんななか、「とにかくデカい画面で、そしてデカい音で、映画を観る体験の素晴らしさ」を改めて感じたのが本作『DUNE / 砂の惑星』である。

どこか知らない星の美術館巡りをしているような荘厳な風景が巨大なスクリーンに映し出され、聖書をめくるような手付きでなされていくストーリーテリング。そして「俺が! ハンス! ジマー! です!」と自己紹介をしてくるかのように爆音で叩き込まれるハンス・ジマー印の劇伴……にはちょっと笑ったが、まさしく「映画館で観るべき映画」であり、映像と音を「浴びる」心地よさを教えてくれる。

「ちょっと長すぎ」「冗長」「アクションシーンがもっさり」といった指摘は各所でなされていたものの、長すぎや冗長といった意見に関して述べるならば、原作ではアトレイデス家の引越しすらなかなか終わらないので、史実に基づいているとも言える。にしてもヴィルヌーヴは比較的コンパクトにまとめたと思うし、アクションシーンは『メッセージ』の爆破シーンや『ブレード・ランナー2049』の格闘シーンを持ち出さずとも、もう仕方ない(笑)。

これらはすべて「ヴィルヌーヴの刻印」みたいなものなので、ノレる人はノレるし、ノレない人は無理だろう。いずれにせよ、正当な評価は完結してから、といったところだろうか。

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【第9位】今世紀最高のベネディクト・カンバーバッチを目撃した『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

一部場にて11月19日(金)公開
Netflix映画「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
12月1日(水)よりNetflixにて全世界独占配信開始

とにかく「嫌」な映画である。全編を通して漲るような緊張感に溢れ、その中核を成すベネディクト・カンバーバッチの名演は、ドクター・ストレンジよりも遥かにストレンジであり、今やキャリアの頂点だと言ってもどこからも文句は飛んで来ないだろう。

主な登場人物は4人だ。カンバーバッチに加えて、控えめで柔和な弟ジョージをジェシー・プレモンスが、彼に見初められて結婚。カンバーバッチから激しい憎悪を向けられる未亡人ローズにはキルスティン・ダンストが配役されている。ローズの連れ子を演じるコディ・スミット=マクフィーも、3人のハイスキルな演技に押されていない。

通常、脚本と演技、演出などが完璧であるならば、映画は安心して観ていられそうなものだが、本作はとにかくこちらを不穏にさせ続ける。人にはあまり薦められないが、気になる方はぜひご覧になって欲しい。

広大な牧場という開放的な空間と対比された恐ろしいまでの閉塞感は「田舎なんてこんなモンでしょ」レベルではない。鑑賞している方ですら息が詰まるほどの、実質的な空気の重みは、これがジェーン・カンピオンの最新作であると雄弁に語る。

【第8位】若き日のフュリオサはソフィア・ブエナベントゥラが演じるべきだと思わせる『MONOS 猿と呼ばれし者たち』

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「2021年に公開された映画のなかで、最も美しい景色は?」と訊かれたら、迷わず「『MONOS 猿と呼ばれし者たち』の少年・少女兵たちが生活する、雲上の丘である」と答える準備はできているが、未だ誰にも訊かれないので今書いた。

本作の監督はアレハンドロ・ランデス。「アレハンドロ・ランデス」。既に名前が巨匠っぽいが、名前負けせずに美しくも恐ろしい混沌を見事に描き出した。

またミカ・レヴィによる劇伴も美しく、しかも必要最低限だけ使用している点も好印象で、徹底的な抑制を感じる。念の為に書くが「控えめ」とか「地味」とかそういう意味ではない。

狂気に向かって突っ走っていく少年・少女兵は全員で8人いるが、そのなかでもランボー(ソフィア・ブエナベントゥラ)の存在感は素晴らしい。『マッド・マックス 怒りのデスロード』の前日譚である『フュリオサ』が公開予定だが、今からでも遅くはない。アニャ・テイラー=ジョイよりもソフィア・ブエナベントゥラにやらせるべきだ。

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【第7位】思い出補正?でもそんなの関係ないね『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』

(C)カラー

マジで完結したので驚いた。正直ランキングに入れるか、それとも番外として記載するか悩んだのだが、結局ランクインさせた。思い出補正というか、リアルタイムで追いかけた感慨も手伝ってはいるが、極私的ベスト10だからして構わないだろう。
1995年から2021年までのおよそ26年間、26年もあれば人間だいぶ変わるもので、私の好きなキャラも綾波→アスカ→マリへと26年かけて変遷していった。

こと本作のマリは凄まじく、なんかもう「ありがとう」としか言えない。男は誰しも、駅のホームでマリのような女性の手引きにより、世界が広がるのを切望しているのだ。だが、現実の世界にマリは登場しない。この事実は旧劇で実写映像を観せられたときよりも結構心に来る。あと、1995年時点では碇シンジと同じくらいの年齢だったのに、もう碇ゲンドウとの方が年が近い事実も、結構心に来る。

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–{6位〜4位まで発表!}–

【第6位】現代と60年代を鮮やかな手付きで同期してみせた『ラストナイト・イン・ソーホー』

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映画の選曲させたら今や世界一。エドガー・ライトの最新作。相変わらずのエドガー・ライトの手付きで現代と60年代のロンドンを鮮やかに同期させてみせる。

選曲のセンスも相変わらず素晴らしく、とくにエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)がパーティーで居場所がなかった。そんな彼がBeatsのヘッドフォンを装着し、60年代の音楽を再生すると、そこでかかっていた現代の楽曲と低音が完全に同期するシーンは、映画における音楽の使い方を確実にネクストレヴェルまで引き上げたと思う。

ただ、性暴力描写があるため、人によってはフラッシュバックしてしまう可能性がある。未見の方はご注意を。

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【第5位】この手の映画は苦手なんです。けれど『Summer of 85』

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この手の映画は苦手である。というとちょっと語弊があるかもしれない。少なくとも、「あ、観に行こうかな」と自発的に映画館には行かない時点で、「さほど興味がない」と表現したほうが正しい気がする。

だが本作は、そんな私の意識を転換させてくれた。青春映画としても素晴らしい仕上がりだと思うし、アレックス(フェリックス・ルフェーヴル)を口説き落とすダヴィド(バンジャマン・ヴォワザン)の行動は「絶対に断られないように誘導してくる」ので、下手なホラーより余程怖い。

昔、中目黒の焼き鳥屋で飲んでいて、身長190cmのオカマに巧みな話術で誘導され、家まで送らされ、これまた巧みな話術で気付けばオカマ宅で飲み直していたのをなぜか思い出したが、とにかくダヴィドの誘導する能力は桁違いで、思わず「これなら俺も抱かれてしまうかもしれん」と要らぬ心配をするほど。

それはさておき、ひと夏の初恋や別離を描いているものの、フランスの青空のせいなのか、冒頭で流されるThe Cureのせいなのかはわからないが、とにかく風通しが良い映画である。劇中でアレックスが起こす行動(というか運動)は、まさに名前を付けられない感情が表出しており、その運動はどんな踊りよりも滑稽だが、美しくもある。思春期に味わう喪失の大切さを教えてくれる名作だ。

【第4位】実は映画館で観てない。しかも最後の曲を最初に観た『アメリカン・ユートピア』

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全盛期には週に3回ほど違う人に『アメリカン・ユートピア、あれすっごい良かったけど観ました?』と訊かれたので、なぜか天の邪鬼が発動し、最後まで映画館に足を運ばなかった。

私は結構なトーキング・ヘッズファンであり(正確にはティナ・ウェイマスがトップで、次点にデヴィッド・バーンが位置する)、スパイク・リーも大好きである。つまり嫌いになれる要素がひとつも無い。だが、繰り返すが劇場では未鑑賞である。

しかし、この年末に某音楽バーで飲んでいたところ、爆音で聞き覚えのあるコーラスとイントロが流れ出し、映像が映し出されている壁に目をやると、裸足のデヴィッド・バーンが楽隊を引き連れるように行進しながら「Road to Nowhere」を歌っていた。

映像は凄まじいほど幸福なヴァイブスに満ちあふれており、その衝撃は手にしていたクラガンモアのソーダ割りを落としそうになるほどで、ちょっと泣いた。

正直、この体験だけでも年間TOP10に余裕で食い込むのだが、一応フェアではないのでレンタルし、全編通して鑑賞した。無論最高である。スパイク・リーの静かなる怒りを感じられるのも良い。本作はデヴィッド・バーンの作品でもあり、スパイク・リーのフィルモグラフィのなかでも輝き続ける1本になるはずだ。

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–{1位に見事輝いたのは?}–

【第3位】『バーフバリ』かと思って観に行ったら『野火』だった。『ジャッリカットゥ 牛の怒り』

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本当は8位くらいにしようと考えていたのだが、順位をああじゃないこうじゃないと組み替えていたらとうとう3位にまで上り詰めてしまった奇作が『ジャッリカットゥ 牛の怒り』である。

今年いちばんの「なんか良くわからねぇけど、すんげぇもん観た」案件。キャッチコピーの「暴走牛VS1000人の狂人」はまさにその通りで、牛はオマケで狂人たちが一夜の狂宴を繰り広げる。

鑑賞前は『バーフバリ』シリーズのようなテンションを想像していたのだが、蓋を開けてみればそれは地獄の釜の蓋であり、その中身は『野火』(塚本晋也版)だった。と思ってしまうほど、要は「なんか人間が変わっちゃう」映画である。

本作は、テンションよりも湿度が高い。一部超絶ハイテンションな人間もいるが、冷房が効いた映画館の中ですら狂人たちの、インドの夜の熱気を感じられるほどで、とにかく暑苦しい点が最高だ。

冒頭の黙示録の引用から始まり、『サウンド・オブ・ノイズ』のようなサウンドメイク、そして四方八方から飛んでくる音響設計は映画館でないと絶対に味わえない。なのでサブスクやレンタルなどでの鑑賞はあまりおすすめできない。

ありとあらゆるインド映画の枠を超える、というか今やジャンルものとなっている「インド映画」へ対する偏見をブチ壊す傑作で、忘れ去られてしまうのはあまりにももったいない。もし映画館で観れる機会があるならば、ぜひ鑑賞してみて欲しい。

【第2位】青春の色ってどんな色?何から何まで最高な『少年の君』

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2019年の中国・香港合作映画だが日本では今年公開。中国には高考という全国統一入学試験があり、日本とは比にならない受験戦争が繰り広げられている。勉強しかやることがないものだからストレスが溜まり、それは「いじめ」として発散される。本作もまた、いじめが大きなファクターとなっている。

いじめ描写はかなりエグく、ときたまネットの海に放流されるリアルな「中国イジメ動画」と比較してなんら遜色はない。なので、過去にいじめられた経験があるといった方は注意して欲しい。フラッシュバックしてしまう可能性がある。

主人公は進学校に通う少女だが、彼女はひょんなことからいじめの標的にされてしまう。その彼女のボディガード、というか心を通わせていくのが不良少年のシャオベイ(イー・ヤンチェンシー)だ。

2人の交流はとても心があたたまるし、ネタバレになるので言及は避けるがとてつもなく哀しい。とにかく、青春映画として完璧な1本。ところで、なぜ中国や台湾、あるいは東南アジアを舞台とした恋愛青春映画は、良い感じのシーンでバイクに二人乗りするのだろうか。

【第1位】自由で、バカで、最高な『ビーチ・バム』

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確か6月くらいに観た気がするが、それ以来『ビーチ・バム』が1位を独走し続けている。あまりに自由で、バカで、楽しく、そして哀しい映画だった。

本作は2019年にアメリカで公開されているが、2021年に日本で観ることができて本当に良かった。鬱屈した世情のなかで底抜けに明るく、健康的で、幸せなグルーヴに満ちていたからである。

登場人物たちの多くはモラルの欠片もなく、無茶苦茶な人間ばかりなのも良い。「ああ、そうだ、映画って、こんなに自由なんだよな」と爆笑しながらもしみじみしてしまう。むしろコロナ禍においては「もしかしたら、こいつらの方が人間としてギリでまともなのでは」と思ってしまうほどだ。

2021年は2020年よりも厳しい年だった。正直言えば仕事もあんまりなかったし、移動も制限されていた。自分では結構平気な面をしていたつもりだったが、無意識のうちに「食らってしまっていた」のは間違いない。そんななかで『ビーチ・バム』を映画館の暗闇で孤独に摂取することにより、少なくとも私は浄化された。その抗体価は半年経った今でも保持されている。

以上、極私的なTOP10を開陳してきたが、今回ランクインしたなかで、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』と『アメリカン・ユートピア』を除いてはすべて映画館で観た。もちろんランクインしていない作品も相当数あり、多くは映画館で鑑賞している。

今年、緊急事態宣言により映画館は強烈な打撃を受けた。協力金の少なさはもちろん、行政に振り回され、理不尽な仕打ちを受けまくったと思う。大変ななかでも踏ん張って、映画を絶やさぬよう火の番をしてくれた、すべての映画関係者に大いなる感謝を。来年の年末には、こんな結びを書かずに済むよう祈る。2022年も、皆様に素晴らしい映画体験が待っていますように。

(文:加藤広大)

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