『劇場版 呪術廻戦 0』エヴァのシンジくんが転生して可愛い女の子と相思相愛になる夢小説として観た感想

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『劇場版 呪術廻戦 0』が歴史的な特大ヒットをしている。公開日の12月24日からわずか3日で観客動員は190万人、興行収入は26億円を突破。興行収入100億円超えも確実視されており、『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』が打ち立てた記録にどれだけ迫れるかにも注目が集まっている。

そんな同作について、大いに話題になっていることがある。それは「エヴァじゃん」「シンジくんじゃん」ということだ。何しろ本作の主人公の乙骨憂太は、『エヴァンゲリオン』シリーズの主人公の碇シンジによく似ている。内向的で己の存在意義などについて自問自答をする性格はもとより、声優が同じく緒方恵美なのだから。

もちろん、緒方恵美は不安定な心を持ち悩み傷つくも、前を進もうとする少年をこれ以上はないというほどに熱演している。原作者の芥見下々は、乙骨憂太の配役が決まった時に「元々『中性的で、柔らかさ、優しさがあった上で、大きな感情の振れ幅・落差もある』イメージを持っていましたので、緒方恵美さんに演じていただけると決まった時、ピッタリだと思いました」と語っており、その言葉通りのキャラに最大限にマッチしていた。

だが、『エヴァンゲリオン』というシリーズおよび碇シンジというキャラクターの声はあまりに「強力」であり、そちらを思い浮かべてしまうことには、はっきり賛否両論がある。個人的にはそれも含めて楽しめたのだが、「主人公があまりに碇シンジ」がどうしても気になってしまう方も、こう思えば良いのではと考えたことがある。それは、「シンジくんが転生して(ヤンデレ化しているけど)可愛い女の子と相思相愛になることができた!」という視点である。

作品の見方は十人十色。逆に考えるんだ、『劇場版 呪術廻戦 0』をエヴァの続編やスピンオフ、いや夢小説だと考えるという意見があってもいいではないか。以下からは、シンジくんが転生し『呪術廻戦』の世界に転生したと妄想できる理由を、核心的なネタバレにならない範囲で記していこう。

とはいえ、滲み出てくる程度のネタバレはあるので、予備知識なく観たい方は先に本編をご覧になってからお読みいただきたい。

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1:アスカや綾波レイも転生してきたのかもしれない

「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」(C)カラー

『劇場版 呪術廻戦 0』には碇シンジだけでなく、惣流(式波)・アスカ・ラングレーに近いポジションのキャラがいる。禪院真希だ。戦闘の経験では格上のため高圧的な態度で、初めこそ主人公に命令口調でツンツンしているのだが、不意に彼の言葉に勇気づけられたりもするなど、共通点がたくさんある。アスカもこの世界に転生したと考えてもいいじゃないか

そして、感情表現と口数が少なく、碇シンジとすれ違うばかりだった綾波レイが、今回の『劇場版 呪術廻戦 0』では天真爛漫で明るい性格の祈本里香に転生したとも考えてもいいじゃないか。人間の姿の時の祈本里香が、乙骨憂太と相思相愛で将来の結婚を誓い合うのは、「綾波レイがそうできなかった」ことと考えると嬉しく思える。

しかし、祈本里香は幼い頃に交通事故で亡くなり、怨霊化し暴走するかもしれない強大なパワーを持ってしまう。見た目も、使徒を彷彿とさせる化け物になってしまっている。しかし、そうであっても、乙骨憂太は彼女を愛し、そして呪いを解くための修行と戦いに身を投じるのだ。

『エヴァンゲリオン』シリーズにおいて、碇シンジは初めこそエヴァンゲリオンに乗ることに躊躇していた。そんな彼が戦うようになっていく大きな理由は、何よりも綾波レイのためだ。その綾波レイを優先するがあまり、世界中を破滅させかけたこともあった。『劇場版 呪術廻戦 0』の乙骨憂太もまた、祈本里香のために全てを捧げるような性格の持ち主であり、彼女を最優先に考え行動し戦う。やはり、憂太はシンジが転生した人間と考えてもいいではないか!

余談だが、『劇場版 呪術廻戦 0』には緒方恵美の他にも三石琴乃、関智一、山寺宏一など『エヴァンゲリオン』シリーズと共通する声優たちが出演している。それぞれが演じるキャラもまた転生したと考えてもいいのかもしれない。

–{2:「大切な人の生き死にが歪められたこと」も相反するようで似ているかもしれない}–

2:「大切な人の生き死にが歪められたこと」も相反するようで似ているかもしれない

『呪術廻戦』と『エヴァンゲリオン』には、他にも相対するようで似ていることがある。それは、「大切な人の生き死にが歪められたこと」についての価値観だ。

『エヴァンゲリオン』シリーズにおいて、碇ゲンドウは妻のユイの死をきっかけに狂気に飲み込まれ、組織ゼーレのシナリオ下で「人類補完計画」を遂行しようとしていた。その理由のひとつは「死んだはずのユイにまた会いたい」であり、それは人類全員を巻き込むエゴイズムに満ち満ちている行為でもあった。

対して『劇場版 呪術廻戦 0』の乙骨憂太は、「僕は呪術高専で里香ちゃんの呪いを解きます」と信念を持って宣言する。それは、「里香ちゃんが僕に呪いをかけたんじゃなくて、僕が里香ちゃんに呪いをかけたのかもしれません」と自分に責任があると考えためでもあった。何より、乙骨憂太は碇ゲンドウとは真逆で「死んだ大切な人とこの世でずっといられる」ことを、(呪いという)歪んだものをもって達成されることを望んでいないのだ。

テレビアニメ「呪術廻戦」第1話 ©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

また、原作「呪術廻戦」の1巻でも、そちらの主人公の虎杖悠仁は、愛する祖父については「正しく死ねたと思う」と考え、目の前でオカ研の先輩2人を殺そうとする呪いについては「こっちは間違った死だ!」と思っていた。つまり、『呪術廻戦』は、大切な人の生き死にが(呪いによって)理不尽に歪められることへの憤りが確実に込められている作品でもある。

『エヴァンゲリオン』シリーズにおける碇シンジは、前述した通り綾波レイを優先しすぎるあまり、父のゲンドウと同じ轍を踏みかねない危うさもあった。『劇場版 呪術廻戦 0』の乙骨憂太もまた同様に祈本里香を最優先に考えていたが、彼は最終決戦でどのようなことを里香に頼んだだろうか。里香はその後にどのような諫言を憂太にしただろうか。2人の価値観は、つまるところは憂太が「失礼だな」に続けて言う、ある2文字の言葉に集約される

目の前の敵の夏油傑は、その前に「自己中心的だね、だが自己肯定か」と自身への殺意を口にする乙骨憂太のことを評しており、それもまた正しい分析ではあるだろう。五条先生が序盤に口にしていた「愛ほど歪んだ呪いはないよ」という持論にも大いに納得できる。

だが、最終的には、大切な人への大いなる愛情、その危うさを描きつつも、それを純粋なものとして肯定してみせる『呪術廻戦』という作品の精神性が、死んだ大切な人との間違った再会を願う様を描いた『エヴァンゲリオン』シリーズと地続きで考えることで、より素晴らしいと思えたのだ。碇シンジが到達した結論とはまた違う「答え」を、乙骨憂太が体現してくれたように思えたことも、また嬉しい。

–{3:やはり碇シンジではなく乙骨憂太だった}–

3:やはり碇シンジではなく乙骨憂太だった

実際の本編での乙骨憂太は、やはり緒方恵美の声質と演技もあって、碇シンジそのものに見える時もある。特に終盤のシリアスなシーンで乙骨憂太は「死んじゃダメだ!」というセリフを放つのだが、碇シンジの「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ!」をどうしても思い出して困ってしまった、というのも正直なところだ。

だが、最終的には「やはり碇シンジではなく乙骨憂太という人間だ」とも思うことができた。特に前述した「失礼だな」に続けて言う、ある2文字の言葉は、碇シンジでは放てないものだろう。ずっと自問自答を続け優柔不断なところが多かった碇シンジに対して、乙骨憂太は悩むことがあっても結論を出すのは早く、その信念を確固たるものとして宣言する。2人の明確な違いが、その2文字に刻印されていたと思うのだ。緒方恵美のこのセリフの表現そのものにも、シビれるような感動があった。

何より、『劇場版 呪術廻戦 0』の物語に触れて、乙骨憂太という1人の人間のことが大好きになれた。人生において不可避な大切な人の死に遭遇する時に、彼のことを思い出して、少し強くなれる方もきっと多いと思う。碇シンジの「その先」に進んだような強さを持つ乙骨憂太を、心から賞賛したい。

(文:ヒナタカ)

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–{『劇場版 呪術廻戦0』作品情報}–

『劇場版 呪術廻戦0』作品情報

ストーリー
辛酸・後悔・恥辱……人間が生む負の感情は呪いと化して日常に潜む。呪いは世にはびこる禍源であり、最悪の場合、人間を死へと導く。そして、呪いは呪いでしか祓えない……。

高校生の乙骨憂太は幼少の頃、結婚の約束を交わした幼馴染・祈本里香を交通事故によって目前で失い、呪いと化した彼女に憑かれて苦しんでいた。そんななか、乙骨は最強の呪術師・五条悟が教師を務める、「東京都立呪術高等専門学校」に転入、「生きてていいという自信が欲しい――」と、里香の呪いを解くことを決意する。

同級生の禪院真希、狗巻棘、パンダと共に呪術師として歩み出す。一方、かつて一般人を大量虐殺し、高専を追放された最悪の呪詛師・夏油傑が彼らの前に現れる。

「来たる12月24日、我々は百鬼夜行を行う」

果たして、乙骨は夏油を止められるのか、
そして、里香の解呪の行方は……。

予告編

基本情報
声の出演:緒方恵美/花澤香菜/小松未可子/内山昂輝/関智一/中村悠一/櫻井孝宏 ほか

監督:朴性厚

公開日:2021年12月24日(金)

製作国:日本