「志村けんとドリフの大爆笑物語」(C)フジテレビ
「2021年に活躍した俳優」と聞いて、みなさんは誰を思い浮かべるだろうか。山田裕貴は間違いなくその1人に入るだろう。どんな役も誠実に確実に演じる彼は、もはや俳優界の宝と言っても過言ではないと思う。
ドラマ「ここは今から倫理です。」の主演をはじめ、ドラマ「青のSP―学校内警察・嶋田隆平—」「ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜」などに出演したほか、出演映画は『ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜』『東京リベンジャーズ』『燃えよ剣』の3本が公開された。そして12月は寺山修司原作の舞台「音楽劇 海王星」で主演を務めている。
また12月27日には、昨年2020年に亡くなった志村けんの活躍を描いた「志村けんとドリフの大爆笑物語」では志村けんを演じる。
本記事では、2021年の作品を中心に彼の出演作をいくつか挙げ、彼の俳優としての魅力を紐解いていきたい。
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映画『東京リベンジャーズ』ドラケン役
©和久井健/講談社 ©2020 映画「東京リベンジャース」製作委員会
人気漫画「東京卍リベンジャーズ」の実写映画で、山田は吉沢亮演じるマイキーこと佐野万次郎の相棒・ドラケンこと龍宮寺堅を演じた。好きな漫画やアニメが実写化するとき、多かれ少なかれファンは不安な気持ちになるものだと思う。どんなに好きな俳優・演技がうまいと思っている俳優だとしても、「イメージに合うかどうか」はまた別の話で、実際観るまで何とも言えないということも多いし、キャスティングの時点で観るのをやめてしまう人もいると思う。
だが山田裕貴に関しては情報を知った時点で「山田裕貴なら大丈夫だろう、きっとうまく演じてくれるだろう」と安心できる数少ない俳優の一人だ。実際スクリーンで、この安心は確信に変わった。ドラケンは185センチの長身に辮髪(べんぱつ)、さらに頭にドラゴンのタトゥーが入っているという個性的なビジュアルで、3次元でこのかっこよさを出すのは難しいだろうなと思った。
しかし想像を良い意味で裏切ってくれた。地毛を辮髪にし、15cmのヒールが入ったブーツでアクションをこなすことでかっこいいドラケンを再現。容姿だけではなく、佇まいも話し方もドラケンそのものだった。演技の説得力が半端ないのだ。
©和久井健/講談社 ©2020 映画「東京リベンジャース」製作委員会
原作ファンも多い話題作だったため、映画館に行く人が例年より少ないと思われる今年でも周囲だけでそこそこの数の知人が観に行っていたが、ほぼ全員が彼のドラケンを絶賛していた。「演技がうまい」なんて言葉では片づけられない、彼の役への理解度の深さを感じた。
三枚目を演じることも多い彼のかっこいい姿を見せてくれてありがとう……と本人及び関係各所にお礼を言いたい。かっこいい役も面白い役もやりきる山田裕貴、本当に素晴らしい。
–{ドラマ「ここは今から倫理です。」高柳役(主演)}–
ドラマ「ここは今から倫理です。」高柳役(主演)
©NHK「ここは今から倫理です。」
ミステリアスな倫理教師・高柳とさまざまな悩みや問題を抱える生徒たちの関りを描く漫画が原作の本作では、主役の高柳を演じた。原作漫画を一部読んだことがあったため、独特な高柳という人物を彼がどう演じるのか気になっていたが、初回放送の時点で素晴らしすぎて感動した。
表情・声色・目つき、すべてが高柳だったからだ。何を演じてもその人らしさが残る俳優もそれはそれで魅力的だが、山田裕貴の役ごとに生まれ変わっているかのようなハマりっぷりにはいつも心惹かれてしまう。
表情の緩急も素晴らしかった。基本高柳は表情豊かなほうではなく、例えば第1話ではほぼ無表情なのだが、とある話をする時だけ笑顔になる。その一瞬の笑顔に心を掴まれてしまうような感情の動きがあった。こんな先生、高校にいてほしかった。
–{ドラマ「ハコヅメ」山田役}–
ドラマ「ハコヅメ」山田役
©日テレ「ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜」
新米刑事・川合(永野芽郁)が完璧な元エース刑事・藤(戸田恵梨香)本人と出会い、辞めようとしていたところから警察官として目覚めていく物語。名字が同じ役を演じた山田は、三浦翔平演じる源とペアを組みつつ、一期上の先輩である藤と源にこき使われるというキャラクター。三浦翔平とのギャグっぽいやりとりが、物語を明るく彩ってくれた。
警察手帳をなくしてマジ泣きしたり、藤の色仕掛けにほだされて源との作戦を台無しにしたり、激務で全然モテず、せっかく合コンに行っても呼び出しがかかってしまったり……と面白シーン満載な一方で、人の気持ちを読み取ってさりげなく気遣ってくれるようなところもあり、愛すべきキャラだった。
シリアスもギャグもどっちもいいの、ほんとたまらん。
舞台「海王星」猛夫役(主演)
58年の時を経て舞台化された、寺山修司の未上演の音楽劇。山田演じる猛夫は、父・彌平(ユースケ・サンタマリア)が乗った船がの難破により亡くなったときき悲しみに暮れる。父の婚約者だった魔子(松雪泰子)と出会い、彌平の思い出を語るうちに2人は恋に落ちる。だがそこへ、死んだと思っていた彌平が生還する知らせが届くーーという、悲しい三角関係の物語だ。
山田は父一人子一人で支えあってきた愛する父と恋敵になってしまうという、運命に弄ばれる役どころを演じる。歌唱シーンも多く、初めてお芝居で歌っているのを観たのだが、歌が素晴らしかった。うまいだけでなく、複雑な感情が歌声に乗って伝わってくるような歌声だった。同じ曲が何度も歌われるのだが、物語の状況によって歌声のかなしさが変化していくようだったし、松雪泰子と2人で歌う場面、愛し合っているのが伝わってきた。
歌も歌えるのか山田裕貴、もっとミュージカルでの彼も観たくなってしまった。
–{「HiGH&LOW / ハイアンドロー」シリーズ 村山良樹役}–
「HiGH&LOW / ハイアンドロー」シリーズ 村山良樹役
(C)2022「HiGH&LOW」製作委員会
山田裕貴を語るうえで外せない作品・役柄のひとつが「HiGH&LOW / ハイアンドロー」シリーズの村山だろう。この作品で彼を知ったという人も多いのではないだろうか。凶悪高鬼邪高校の頭・村山良樹を演じた。初登場時は「なんだこいつ、めちゃくちゃヤバいやつじゃん」と思ったのに、話が進むにつれいろんな面が見えて、いつの間にか村山を好きになってしまう。
過去にcinemas PLUSで山田裕貴にインタビューした記事によると、他チームのヘッドの俳優たちのほうが自分より知名度がある中、普通に演じたのではインパクトが残せないと、アドリブをたくさん入れて演じたのだという。
コブラ(岩田剛典)と喧嘩して負けるシーンがあるのだが「人気でも知名度でも勝てない俳優が、役でも負ける。そういう役柄とはいえ、本当に悔しかった」という。喧嘩しか取り柄のない村山と芝居しか取り柄のない自分を重ね「自分の化身みたいに感じる」と語っていたのが印象的だった。
彼のちょっとただものではない演技は、このような演技への強い気持ちから生まれていたと思うと胸が熱くなるし、当時知名度で負けていると言っていた人たちと同じくらい活躍している彼は、来るべくしてここまで来たのだろうと思う。
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スピンオフ映画の『HiGH&LOW THE WORST』での村山も活躍シーンが多く、非常にかっこよかった。山田裕貴は好きだがハイローシリーズは観ていないという人も、これ単品でもいいのでぜひ観てほしい。
–{舞台 Dステ 12th「TRUMP」クラウス役/アレン役}–
舞台 Dステ 12th「TRUMP」クラウス役/アレン役
【#はじめての繭期2021 】
本日20時からスタート?第一夜はDステ12th
『TRUMP』REVERSE(2013年上演)アーカイブの残らない一夜限りの配信です!是非ご覧ください?✨#はじ繭 #TRUMPシリーズ https://t.co/DHpo4HOxtw pic.twitter.com/04GQ5JkmEj
— ワタナベ演劇公式 (@watanabe_engeki) October 20, 2021
2013年の「TRUMP」は、2役を2人の俳優が回替わりで演じるスタイルで、山田はクラウス役とアレン役を演じた。2021年のTRUMPシリーズ企画「初めての繭期」で、山田がティーチャークラウスを演じたREVERSE版がYouTubeで限定配信された。上に引用している画像で、手間に座った瓶底眼鏡をかけてストールをぐるぐる巻いているのがクラウスだ。ちなみに回替わりで演じたアレンは、クラウスの右にいる白い服の青年(この写真では陣内将)だ。
筆者は初めて観劇した「TRUMP」が2015年のもので、陣内将のクラウスが至高と思っていたのだが、山田裕貴のクラウス・陣内将アレンのこの回も大変に素晴らしい。ネタバレしすぎないように役どころを説明すると、クラウスは教え子・アレンに執着する頼りない変わり者の教師で。だが実は大きな秘密を抱えていたり、とんでもない行動に出たりするという複雑な役だ。
前半のギャグっぽいパートと後半あることがわかってからの差が激しいし、寂しさと狂気をあふれさせた表情がすごい。怖いとすら感じた表情、ぜひ観ていただきたいので機会があればぜひ円盤を観てほしい。
山田裕貴は俳優界の宝、来年の活躍も楽しみでならない
さまざまな役で私たちを感動させてくれた山田裕貴。もはや俳優界の宝と言ってもいい存在だと思う。本人がインタビューやTV出演時に言っている「俳優は心の職業」という考え方も本当に素晴らしいし、だからこそここまで来たのだと思う。彼の演技を観るとこの言葉の説得力が増す。
来年以降、山田裕貴がどんな演技を観せてくれるのか。心から楽しみである。
(文:ぐみ)
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