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師走。年末。一年の終わり。
いい大人なのでもうサンタさんはやってこないが、Twitterに #2021年映画ベスト10 的なハッシュタグが飛び交うこの時期がやってきた。
ただただベスト10を並べてみてもおもしろくないので、2021年にミニシアター(本記事では1スクリーン200席程度までの映画館とする)で観た映画ベスト10としてみる。
洗い出してみると、自ずと”そこまでメジャーではないかもしれないけど、みんなにもっと知ってほしい映画”10作品が集結した。
完全に趣味に偏ってますが、それでは、どうぞ。あ、ネタバレは一切ありません。
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第10位:『14歳の栞』@ホワイトシネクイント
生粋のクリエイターが集うコンテンツスタジオ CHOCOLATE Inc.、初の長編映画である『14歳の栞』。
これは、ただの青春リアリティ映画なんかじゃない。実在する中学校の、実在する2年6組の、実在する生徒35名に密着したという、異色のドキュメンタリー映画だ。
2021年3月5日よりホワイトシネクイントで公開されたものの、チケットがなかなか取れない週末が続くほどにはSNSでの口コミが広がっていた。ようやく映画にありつけたときに感じたこと。観た人の話を聞くのと実際に観るのとでは雲泥の差があった。
『14歳の栞』は、完全に”映画”という規格を越えていた。
何者でもない人たちの何でもない物語。だからこそリアリティがあり、自身の学生時代の記憶がふつふつと湧いてきてなぜだか涙が溢れてしまう。
一生映像として残るという、ある種リスキーとも取れるこの企画を提案した人たちにも受け入れた人たちにも、大きな拍手を贈りたい。
第9位:『成れの果て』@新宿シネマカリテ
ドラマ「ただ離婚してないだけ」、映画『佐々木、イン、マイマイン』『街の上で』などで異彩を放つ萩原みのりが主演を務める『成れの果て』。
元々は舞台作品だったものを映画化したという本作品は、ヒューマンドラマと一括りにするには耐え難い、醜悪で壮絶な人間関係を暴いた激動の一本となっている。
全登場人物にノンストップで襲いかかる過酷な状況に、観ているこっちも思わず「しんどい!重すぎる!しんどい!!」と叫びたくなるにも関わらず、最後の最後で追い込まれた人間の狂気を目の当たりにし、驚愕した。
誰にも共感できないけど同情はしてしまう、でもこんなことを登場人物に聞かれたら「同情なんてごめんだよ」と逆上されそうなので絶対に言えません。
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第8位:『猿楽町で会いましょう』@ホワイトシネクイント
映画『うみべの女の子』やソーシャルドラマ「みせたいすがた」などでじわじわと人気を集める石川瑠華と、映画『サマーフィルムにのって』『先生、私の隣に座っていただけませんか?』などで好評を博した金子大地が主演を務める『猿楽町で会いましょう』。
石川瑠華演じるユカのぶっ飛んだメンヘラ度合いには終始イライラさせられた(褒めてる)。だがしかし、本当にいそうなのよこういう子。
女優になるために上京するも、お金がなく風俗店のようなところで働くしかなくなるなど、どんどん闇落ちするユカの姿には心が傷んだ。
このような描写のある作品を観るたびに、売れない女優に残された道は・売れる女優になるための方法は、本当にこのような現実しかないのかと嫌気がさす。もちろんそれだけではないが、現実世界には本作のような闇落ちがあるのも事実。
賛否両論はあるだろうが、すぐそばに転がってそうな物語がリアルな描写で映し出されており、個人的にはぶっ刺さりまくった。
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第7位:『少年の君』@新宿武蔵野館
公開直後より映画界隈で話題沸騰となっていた、中国・香港合作映画『少年の君』。
邦画好きな私はあまり気乗りしなかったものの、周囲より「絶対観に行ったほうがいい」と激推しされ、映画館へ。結果、鑑賞中ハンカチを離せない程には涙してしまう傑作として心に刻まれることとなった。
成績優秀な女子高生・チェン・ニェン(チョウ・ドンユイ)に突如として襲いかかる”親友の自殺”という信じられない事実と、それをきっかけにして巻き起こるあまりにも過酷且つ加速するいじめ。
対して、ストリートに生きるしかない不良少年・シャオベイ(イー・ヤンチェンシー)。集団暴行に遭うことなんてもはや日常。
普通に生きていれば出会うことのないはずの二人が惹かれ合い、残酷にも引き裂かれてしまうまでの過程にある”格差社会”をベースとした事件が本当に辛すぎて目を背けてしまいたくなる。
映画『パラサイト 半地下の家族』とはまた異なる、上(上級国民)・中(一般国民)・下(下流国民)という三つの階層の分断。そんな中で描かれる究極の愛を、ぜひ体感してほしい。
–{6位〜4位まで一気に発表!}–
第6位:『ずっと独身でいるつもり?』@シネクイント
ドラマ「M 愛すべき人がいて」「最愛」など、女優としての飛躍が話題な田中みな実の映画初主演作品となった『ずっと独身でいるつもり?』。
結婚に悩むライター・まみ(田中みな実)、自由な独身女子・由紀乃(市川実和子)、フォロワーはいても孤独な主婦・彩佳(徳永えり)、終焉を迎えつつあるパパ活女子・美穂(松村沙友理)。異なる生きづらさを抱える女性4人の物語は、20〜30代女性にとって凶器ともなり得るほどの威力を持つ。
「女だから」とか、「結婚=幸福」「独身=孤独」とか、「あーもうまじでうっせぇわ」とAdo並に叫びたくなる固定観念。それらを吹き飛ばしてくれる力強いラストにスカッとさせられた。
制作陣やストーリー、キャストから女性客が多いことが想像できるし、実際に観に行ったときも観客の9.5割が女性だったけど、女性にフィーチャーした作品だからこそ男性に観てほしいと切に願う。
女優・田中みな実の迫真の演技もさることながら、橋爪淳のイケオジ加減に完全にやられた。
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第5位:『由宇子の天秤』@ユーロスペース
監督・脚本・編集・プロデューサーと大役を担った春本雄二郎による完全オリジナル作品『由宇子の天秤』。
“ドキュメンタリーディレクターの由宇子(瀧内公美)を中心としたストーリー”という前情報しか知らないまま観に行った筆者には、あまりにも衝撃が強すぎた。とあるシーンを境に、予想だにしない方向に物語が進んでいく。
ドキュメンタリーディレクターとして、正しさを突き詰めていくことを生業としている由宇子が、突如逆の立場に置かれてしまったら。その後が描かれていないからこそリアルだし、できることなら見たくない。”自分のことを必要とする人のために尽くしすぎる”由宇子がこれ以上苦悶する姿に耐えられる自信がないからだ。
また、本作品の中で重要な役柄を務める新星・河合優実にも注目してほしい。
映画『佐々木、イン、マイマイン』『サマーフィルムにのって』『偽りのないhappy end』と、立て続けにまたたく間に足跡を残している彼女。どの映画を観ても全く異なる印象の河合優実であり、唯一無二な存在感として光り輝く不思議な魅力を持つ。
河合優実演じる小畑萌の不気味さには、最初から最後まである種の恐怖を感じさせられる。
“正しさ”とは何なのか?
鑑賞後、取り憑かれたように考え込んでしまう作品だ。
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第4位:『アナザーラウンド』@シネクイント
第93回アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『アナザーラウンド』。
洋画をあまり観ない私が、公開前から「絶対観る」と決めていた本作品。なんたって、マッツ・ミケルセンはボトルごと酒飲んでるし、コピーは”人生に祝杯を”。こんなの、酒好きが観ないわけにはいかない作品でしょう。
就職や結婚など人生における大きなイベントを終えて、特段楽しみもないパッとしない毎日を送る4人の男たち。そんな彼らが思いついた”常に酔った状態をキープする”というとんでもない実験により、冴えないおっさんから一変、意気揚々としたイケオジに変貌していく様が愉快でたまらない。
だが、この映画を観るにあたって、ひとつだけ気をつけていただきたいことがある。
「4人の男たちが酒をキッカケとしてただただ人生が充実していく映画」と認識したまま観はじめてはいけない。決して間違ってはいないのだが、後々、本作品が”本当に伝えたいこと”が見えてきたときにあまりのつらさに逃げ出したくなってしまうからだ。
そう、『アナザーラウンド』は、ただのコメディ映画じゃない。酒が”娯楽”から”依存”に変わっていくことによる”快楽”から”苦難”へのコントラスト、そして、観終わってはじめて理解できる”人生に祝杯を”のコピーの意味。
酒飲みな人にもそうじゃない人にも観てほしい作品だ。
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–{ミニシアター系映画1位に輝いたのは?}–
第3位:『空白』@角川シネマ有楽町
映画『ヒメアノ~ル』の吉田恵輔監督によるオリジナル脚本作品である『空白』。古田新太、松坂桃李、田畑智子、藤原季節、寺島しのぶと、豪華俳優陣が名を連ねる。
スーパーで万引きしようとした女子中学生・花音(伊東蒼)。そのスーパーでは頻繁に万引きが起こっていたようで、見かねた店長・青柳直人(松坂桃李)はその女子中学生のことを必死に追いかけ、あと少しで追いつくというところでなんと彼女は車に轢かれてしまう。うん。あらすじだけでもわりとしんどい。
事故と言うには花音サイドが不憫すぎるし、事件と言うには店長サイドがかわいそうすぎる。そこに切り込んでくるのが花音の父・添田充(古田新太)なのである。
もうこの古田新太、いや、充の狂乱度合いが異常で、そこらへんのホラー映画なんかよりも怖い。もちろん、娘が死んでしまっている(当人としては当時”殺された”気持ちでいる)のだから同情はする。するけれども!にしても!ヤバさが限界突破しすぎている!!…「こんなんなら殺されたほうがましだ」と思ってしまうほどに、精神的にじわじわと追い詰めてくるモンスター父親・充の恐ろしい形相が頭から離れない。
これを受けて、ありえない程の生き地獄を味わうことになる店長は気の毒なんてもんじゃないし、その周囲でうろちょろとするーー無論本人としては助けを差し伸べているつもりなのだがーースーパーの店員・草加部麻子(寺島しのぶ)も相当にイタイ。
深海の渦に飲み込まれてしまうような展開が続く分、終盤では観ている誰もが温かい涙を流すだろう。その人にとっては何気ない言葉が、誰かにとっては助け船だったりするーーそんなラストシーンを経てはじめて「この映画を観てよかった」と感じてもらえることを願う。
第2位:『スパゲティコード・ラブ』@ホワイトシネクイント
映像クリエイターとして活躍する丸山健志による監督作品『スパゲティコード・ラブ』。
丸山氏はさまざまなCMやMVのディレクションを手がけており、中でもMONDO GROSSO「ラビリンス [Vocal : 満島ひかり]」のMVは最高としか言いようがなく、香港の雑然とした風景に満島ひかりの秀逸な表現力は一度見た人の心を掴んで離さない。
「スパゲティコード」とはIT用語で「解読困難なほど複雑に絡み合ったプログラミングコード」という意。このワードを映画のタイトルに入れ込むセンスに感服。
『スパゲティコード・ラブ』は言葉の意の通り、東京でもがき苦しみながらも生き続ける13人の若者たちの青春群像劇だ。
ストーリーはもちろんのこと、魅了されるのは個性が光るキャストたち。
映画『ドライブ・マイ・カー』でヒロインを務めた三浦透子、映画『うみべの女の子』でW主演を務めた青木柚など、2021年に見事功績を残した若手俳優はもちろんのこと、映画初出演となるモデルの香川沙耶や上大迫祐希など、2022年に注目必至であるフレッシュな顔ぶれまで。
特に心を唸らせられたのが、親の七光りと言われ続けることに苦しむ天才広告クリエイター・黒須凛を演じた八木莉可子。
“黒須凛”という世界観を創り出すために、とことん我を通し続ける彼女。それ故こだわりが強く、プライドが高く、いつのまにか味方は誰もいなくなる。カメラマン・氷室翼(古畑新之)に対して罵声を浴びせるシーンでは、はらわたが煮えくり返る程の苛立ちを覚えた。完全に八木莉可子ワールドに吸い込まれてしまったようだ。
劇中では、13人の若者たちそれぞれからあらゆる名言が飛び交う。中でも、カメラマンを目指し上京する高校生・小川花(上大迫祐希)による攻撃力の高い一言があった。
「ここ東京だよ、一回来ちゃったらもう、帰ったら負けになるところでしょ」
19歳のときに女優を目指して兵庫県から上京した私にとってこの台詞は真意であり、鑑賞後も脳内で繰り返し再生された。
「エモい」とか「ヤバい」とか、そういう曖昧な一言で片付けるのは風潮はよくないかもしれない。でも、どう踏ん張ったってその言葉でしか言い表せない、予断を許さない状況だってある。まさしくそれを表現しているのが『スパゲティコード・ラブ』。地方から上京して夢を追いかけた経験のある人には絶対に観てほしい作品だ。
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第1位:『街の上で』@下北沢トリウッド
映画『愛がなんだ』『アイネクライネナハトムジーク』『mellow』など、恋愛群像的の旗手として名高い今泉力哉監督。そんな彼の”今泉映画最高傑作”と言われている一本こそが、『街の上で』だ。
「誰も見ることはないけど 確かにここに存在してる」
下北沢を舞台にした、なんの変哲もない青年を中心とした、日常でありちょっぴり変な物語。ただ、それだけの映画。
主演を務める若葉竜也は、『愛がなんだ』『あの頃。』と、立て続けに今泉監督作品に出演し、本作では映画初主演を飾るなどして映画ファンからは名を知られていただろうが、お茶の間に浸透したのは朝ドラ「おちょやん」だろうか。”友人にいそう”な自然体な演技が、今泉監督作品によくハマる。
そんな若葉竜也演じる荒川青を取り巻く4人の女性が、いい。すごくいい。
1人目に、おそらく一番モテるだろうけど一番恐ろしい女、青の彼女(元カノ)である川瀬雪(穂志もえか)。とにかくかわいいんだよね、うん。ちょっと性格悪いけど。2人目に、絶妙な距離感が心地いい、古本屋の店員である田辺冬子(古川琴音)。冒頭のナレーションは彼女。多分、冬子が青の一番のファン。
3人目に、青に対するなんとも言えない失礼さがあとを引く、学生映画監督である高橋町子(萩原みのり)。出演時間としてはそう多くはないが、さすがは圧倒的存在感。4人目に、青の周辺領域を最もこじらせる引き金となる重要人物、学生スタイリストである城定イハ(中田青渚)。観た人全員、いずれはイハの虜になる。
他、青が働く古着屋に訪れる複雑な関係すぎる2人・茂(遠藤雄斗)と朝子(上のしおり)、THREEで出会う謎に包まれたメンソールの女(カレン)、下北沢を巡回するお喋りな警察官(左近洋⼀郎)。青がよく通うバーの常連であり、素性がよくわからない男・五叉路(廣瀬祐樹)など、よくもまぁどうやったらこんなに癖のある人たちが集まるのかと感心してしまうキャスティングに脱帽だ。
『街の上で』は、ヒューマントラストシネマ渋谷、下北沢トリウッド、早稲田松竹と3つの異なる映画館で鑑賞した。どの映画館でも共通していたのは他の観客と笑いを共有できる一体感。決して、爆笑の渦が起きるわけではない。なぜか、同じタイミングで、クスクスとした笑いが起こる。これがまた癖になり、ついつい映画館で観たくなるわけだ。
劇中にも登場する下北沢トリウッドで鑑賞する『街の上で』は至高で、観た足で「古書ビビビ」に寄って古本を買ったり、「スズナリ」の前を通ってみたり、「珉亭」でラーメンをすすったり。主題歌であるラッキーオールドサン「街の人」を聞きながら我が日常のようにロケ地を嗜むことで『街の上で』に登場する一員のような気持ちにもなれるので、ぜひ試してみてほしい。
ハラハラするサスペンスやスカッとするアクションが好みな方からすると、平凡すぎるほどには平凡な邦画作品であることは間違いない。でも、日常に溢れかえるクスッとする出来事に、心を救われることもある。そんな体験を、ぜひあなたにも味わってほしい。
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あなたにとっての”心に響いた映画”とは?
2021年公開ミニシアター系映画ベスト10について好き勝手に語らせていただいた理由は、私の心に響いた作品を、この記事を読んでくださった方に少しでも知ってもらって、あわよくば観てもらって、運命的に好きになってもらえたりしたらそれはもう最高だから。
とはいえ、人それぞれ好みは異なるので、あなたにとって心に響いた映画が2021年に見つかっているといいなと、心から願う。
(文:桐本絵梨花)
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