2021年「魅力的な映画ポスター」ベストテンを独断で大発表!

デフォルト

(C)カラー

2021年、時は師走。この時期になると、様々な媒体が映画ベストを発表する。SNSでも映画好きが、おもいおもいのベストテンを発表するだろう。ふと、映画ポスターのベストテンを決めてもいいのではと感じた。

今や、毎週のように膨大な映画が公開される。

筆者が観たい映画をどのようにして決めるのかを考えた際、重要なのはポスターヴィジュアルだ。魅力的なポスターが作られる映画は内容も面白い傾向がある。そこで今回は2021年映画ポスターベストテンを発表する。では、早速10位から発表していきましょう!

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第10位『リカ〜自称28歳の純愛モンスター』

(C)2021映画「リカ 自称28歳の純愛モンスター」製作委員会

形容しがたい青の背景に、肌色と白のコントラストが特徴的なドレス姿。この肖像画にどこか禍々しいものを感じたのは筆者だけだろうか。『リカ 自称28歳の純愛モンスターのポスターはシンプルながらも、不穏な空気を匂わせることに成功している。

高岡早紀演じるリカの傾いた顔とタイトル『リカ 自称28歳の純愛モンスター』、そして惹句「惚れたら、死ぬ。」がフレームの外側に向かっていく。見るものは、リカの小悪魔な肖像と対峙し、カメラ目線ではない彼女の視線を辿るうちに、フレームの外側(=不可視領域)へと吸い込まれる。文字がその視線の誘導を手助けしてくれる。これにより肖像から感じる印象とは異なる展開を予感させるのだ。案の定、劇中では想定外の珍事が散りばめられていた。シンプルな構図だからこその力強さが感じられた。

日本公開日/2021年6月18日

監督/松木創

出演/高岡早紀、市原隼人、内田理央

第9位『コントラ  KONTORA』

(C)2020 KOWATANDA FILMS. ALL RIGHTS RESERVED

『コントラ  KONTORA』のポスターはある瞬間を捉えている。静なる存在だ。にもかかわらず『コントラ KONTORA』では、今にも動き出しそうな間瀬英正の身体表象に惹きこまれた。肉体を硬直させようとする動きと肉体を解放させる動き、そのせめぎ合い。横方向の動きの捌け口として、彼は天を見て叫ぼうとする。ポスターでは、上部の空間を広く取り、ギュッと凝縮された、下部分の構図と雄大なスペースの中で惹句やタイトルを配置していく上部。閉塞感からの脱出を描いた本作を象徴するポスターに仕上がっていた。

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日本公開日/2021年3月20日

監督/アンシュル・チョウハン

出演/円井わん、間瀬英正

第8位『街の上で』

(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

絵画的とよく言われるが、絵画的とは一体なんだろうか?

絵画とは日常や世界観のある一部分を切り出したものだ。現実世界において、目に映るものは雑然としており、絵画は雑然とした風景を整形して、空間を制御する役割がある。つまり絵画的とは、ある日常の一瞬が整形されて提示された様子を示すのであろう。

今泉力哉監督の『街の上で』のポスターはまさしく絵画的に作り込まれている。光が差込む、その先を辿ると若葉竜也の顔に辿り着く。彼の目線の先には赤い本がある。そして、この映画のタイトルが『街の上で』であることが分かる。サラッとペンで描いたようなタイトル。題に反して、空間は室内である。また暖色の中に翳りがあり、若葉竜也演じる荒川青の表情も少し暗い。つまり、このポスターは柔らかいタッチの画に反して、辛辣な人間ドラマを描いている予感を匂わせているのだ。

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日本公開日/2021年4月9日

監督/今泉力哉

出演/若葉竜也、穂志もえか、古川琴音

第7位『クラッシュ 4K無修正版』

(C)1996 ALLIANCE COMMUNICATIONS CORPORATION, IN TRUST

金属について思い浮かべたとき、最初に硬いイメージを持つ者は多いはずだ。そんな金属が、歪み引き裂かれていたら、ただごとではないと思う。デヴィッド・クローネンバーグの『クラッシュ』は、肉体と金属の交わりを描いた作品。それを象徴するように、人体の切り傷のように生々しく破損した車を全面に捉え、タイトルの一部が、その傷に侵食する。

『クラッシュ 4K無修正版』のポスターは金属の歪みを通じて官能をどこまで表現できるかに挑戦し、不気味な空間を生み出した。つまり、『クラッシュ 4K無修正版』のポスターはデヴィッド・クローネンバーグの世界観へ誘うことに貢献したであろう。

日本公開日/2021年1月29日

監督/デヴィッド・クローネンバーグ

出演/ジェームズ・スペイダー、ホリー・ハンター、イライアス・コティーズ

–{6位〜4位にランクインした作品はあの作品!}–

第6位『グレタ ひとりぼっちの挑戦』

(C)2020 B-Reel Films AB, All rights reserved.

グレタ・トゥーンベリと聞いてあなたは何を思い浮かべるであろうか?

あなたが思い浮かべたそのイメージをポスター全体を使って表している。スウェーデンカラーである水色と黄色のコントラストに、グレタ・トゥーンベリの姿。そして、雨のように降り注ぐ文字の一番大きいパートを読むと、彼女のイメージが出来上がる。しかし、本作は彼女の内面に迫ったドキュメンタリー。表層的な認知から、深層レベルに導くドキュメンタリーである。細かい雨のような部分に描かれた彼女の長いメッセージが、この映画の目的を伝えている。クリエイティブながらも本質に迫ったポスターと言えよう。

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日本公開日/2021年10月22日

監督/ネイサン・グロスマン

出演/グレタ・トゥーンベリ、スヴァンテ・トゥーンベリ、アントニオ・グテーレス

第5位『ほんとうのピノッキオ』

copyright 2019 (C)ARCHIMEDE SRL – LE PACTE SASLE PACTE SAS

薄暗い背景に突如侵入する肌色の線。その正体を辿ると、木の人形が何か言いたげな表情をしている。「ピノッキオの冒険」の映画化であることが分かると同時に、不気味の谷の住民のような気持ち悪い造形に好奇心がくすぐられることでしょう。

日本の映画ポスターでは背景を工夫することがよくある。アレサ・フランクリンの伝記映画『リスペクト』を例にする。海外版ポスターでは暗闇の中スポットライト がチラつくデザインであったり、背景が緑色のものだったりするが、日本版ポスターでは豪華絢爛な背景が用意されている。

『ほんとうのピノッキオ』の場合、背景を暗めの色彩にすることで、ピノッキオの存在感を強めた。また、画を分割するように、鼻をフレームいっぱい捉えることでより一層不気味さが増す。構図は変えずとも、大胆な工夫によって映画の魅力を伝えたいい例と言える。

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日本公開日/2021年11月5日

監督/マッテオ・ガローネ

出演/ロベルト・ベニーニ、フェデリコ・エラピ、マリーヌ・ヴァクト

第4位『ヴィム・ヴェンダースレトロスペクティブROAD MOVIES/夢の涯てまでも』

(C) Wim Wenders Stiftung 2014

2021年は『ケリー・ライカートの映画たち 漂流のアメリカ』や『ジム・ジャームッシュ レトロスペクティブ2021』といった旧作企画が充実していた。いずれもポスターに力が入っており、観賞意欲をかき立てられるものがあった。その中でも群を抜いて良かったポスターが『ヴィム・ヴェンダースレトロスペクティブROAD MOVIES/夢の涯てまでも』だ。

『アメリカの友人』のシーンを2枚並べたシンプルな作りであるが、広大な大地を独占する快感と旅先で起こるトラブルの魅力が伝わってくる。2020年から世界は新型コロナウイルスが蔓延し、海外旅行ができなくなってしまった。旅への渇望を癒すように、ロードムービーの魅力を伝える。ヴィム・ヴェンダース映画の中から最も夢の涯てまで誘う画を見つけ、シンプルに提示した力強さがあった。

日本公開日/2021年11月5日

監督/ヴィム・ヴェンダース

–{3位〜1位を大発表!}–

第3位『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』

(C)カラー

今年は余白を巧みに使った映画ポスターが多かったように思える。例えば、『MONOS 猿と呼ばれし者たち』では、緑の空気渦巻く画を引き立てるように、隅にタイトルや惹句を記載した。また『マルジェラが語る”マルタン・マルジェラ”』では、白紙の端に縦書きでタイトルや映画情報を記載する斬新なポスターに仕上がっていた。公の場に姿を表さないマルタン・マルジェラの特性を汲み取り、余計な色を観客に与えない工夫が施されているのだ。

さて、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』である。「さらば、全てのエヴァンゲリオン。」と画を貫くように中央配置された惹句。その文言を読み、視線をズラすと、碇シンジ、綾波レイ、式波・アスカ・ラングレー、渚カヲル、そして真希波・マリ・イラストリアスの姿が確認できる。陰惨とした地獄の底を魅せた前作『Q』に対して、爽やかな空気が漂う。

まるで卒業式が終わり、校門前で羽を広げているような感傷的な構図に涙すらした。本作が完成するまでに10年近い長い長い時がかかった。このポスターの空白には、観客の想いを書き込むスペースがあり、また彼ら/彼女らの空白を埋める物語であることを示唆している。

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日本公開日/2021年3月8日

監督/庵野秀明

出演/緒方恵美、林原めぐみ、宮村優子

第2位『セミマゲドン』

(C)コンマビジョン

『セミマゲドン』ほど口ずさみたくなる映画はそうそうないであろう。個性的なサメ映画を中心に日本のファンへ送り届けるコンマビジョンが放った最終兵器『セミマゲドン』。邦題はもちろん、ポスターも好奇心揺さぶられるものとなっていた。デカデカと描かれたタイトル『セミマゲドン』、そこには無数のセミが様々な角度で、人間を狙っている。背景には業火が見え、事態の深刻さが伺える。男は銃を構えているが、その矛先にはセミはいない。圧倒的物量のセミに死の予感を感じさせる。

惹句は「最終蝉戦争(セミマゲドン)、勃発。」あまりにも甘美なポスターに、Don’t wanna close my eyes.瞳を閉じたくなくなることでしょう。

日本公開日/2021年8月12日※セル・配信スルー

監督/デヴィッド・ウィリス

出演/デヴィッド・アギレラ、ネイサン・アレクサンダー、ニコール・アンソニー

第1位『あのこは貴族』

C)山内マリコ/集英社・「あのこは貴族」製作委員会

門脇麦演じる富める者・華子と水原希子演じる貧しき者・美紀の関係を描いた『あのこは貴族』。双方の辛辣な力関係がポスターにも現れている。このポスターが提示された時、あなたは門脇麦、水原希子どちらに注目するだろうか?

その答えはおそらく前者であろう。都会が映る真っ白な背景を背に、黒い服装に身を包んだ彼女の姿が確認できる。背筋を伸ばし、上品な座り方をする彼女。この構図を前に我々は思わず、『あのこは貴族だ』と言いたくなるであろう。

ふと、左に目を向けると影から顔を出すように水原希子の存在がいる。黒背景に少し青味がかかった服に身を包む。門脇麦と比べて上の方に顔がある。本来であれば、最初に水原希子へ視線が向くはずが、なぜか門脇麦へと視線が向いてしまうのは筆者だけだろうか。

区切られた空間の中で極端に白の領域と黒の領域が分かれたとき、我々は前者に目を向けがちだ。それは暗闇の中で光を探す感覚に近い。その白の領域の中心を支配しているのは門脇麦であり、いくらビシッと構えていても主導権を奪うことができない。『あのこは貴族』における残酷な境界線を象徴する映画ポスターに仕上がっていた。

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日本公開日/2021年2月26日

監督/岨手由貴子

出演/門脇麦、水原希子、高良健吾

2022年に期待したいポスター像

2021年は、いくつか問題となる映画ポスターがあった。『MONSOON モンスーン』では、本国のポスターでは存在していた同性の恋人が消されたものとなっていたし、フランソワ・オゾンの『Summer of 85』ではバイセクシャルのダヴィッド(バンジャマン・ボワザン)のピアスを消したポスターが物議を醸した。

もし同性愛描写があることを隠すためにこのような変更を行っているのだとしたら問題である。映画の魅力を伝えることこそ映画ポスターの役割であり、映画内の重要な要素を隠してしまうことは魅力を損ないかねない。

また、『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』の映画ポスターでは、役者のシワが除去されたものとなっている。これも役者本来の魅力を損なっていることはもちろん、シワがある人=美しくないとルッキズムに陥っているとも言える。

映画ポスターは、魅惑の世界へ導く存在だ。それだけに、映画本来の魅力を引き出すポスターを2022年も期待したい。2021年は同性愛を扱った映画ポスターに課題があっただけに改善されることを祈る。

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(文:CHE BUNBUN)