(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
2020年から続くコロナパンデミックのため、今年も世界の映像業界は困難な一年を過ごすことになりました。しかし、苦しい中でも大きな変化の胎動が感じられる年ともなり、劇的な変化がうねりをあげて始まった、そんな年になったのではないでしょうか。
そこで、cinemas PLUS の年末企画として、今年の映像産業の変化を象徴する10大ニュースを取り上げて、2021年を振り返ってみたいと思います。
ニュースを選びながら、筆者が感じたのは、様々な点で、20世紀に確立された映像産業の構造や常識は完全に形を変えようとしているのだ、ということです。今回取り上げたニュース一つひとつが、別々の側面からそれを物語っていると思います。
取り上げるニュースの順番は、話題性や影響の大きさを考慮したものではなく、順不同です。
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- 1:韓国ドラマ『イカゲーム』がNetflix史上最高の視聴数を記録
- 2:緊急事態宣言再び。映画館への理不尽な休業要請の余波
- 3:『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』全世界累計来場者約4135万人・総興行収入約517億円の大記録到達
- 4:『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が100億円超えで有終の美
- 5:劇場か配信か。コロナで加速したディズニーの新戦略
- 6:U-NEXTが米ワーナーメディアと独占パートナーシップ契約を締結
- 7:Amazon、MGMを買収
- 8:ファスト映画が示した「タイパ」重視の価値観
- 9:ハラスメント、低賃金労働…映画産業の体質改善急務
- 10:濱口竜介監督、海外映画祭で絶賛の嵐
- おまけ:『劇場版 呪術廻戦 0』大ヒットスタート
1:韓国ドラマ『イカゲーム』がNetflix史上最高の視聴数を記録
近年、配信を中心に躍進する韓国ドラマですが、今年9月に配信開始された『イカゲーム』が全世界でNetflix史上最高の視聴数を獲得しました。
これまで世界市場でトップに君臨するのは、なんだかんだハリウッド作品でしたが、韓国国内で製作された全編韓国語の作品がトップを取ったというのは、映像産業全体の歴史を振り返ってみても画期的な出来事です。韓国コンテンツの質の高さは以前から、アジアでは以前から注目されていましたが、それが世界的に認められるまでになりました。
これは単純に韓国の躍進というだけにとどまらず、「映像産業はハリウッドの天下」という常識を覆す事態です。韓国コンテンツはNetflixだけでなく、Disney+も製作に参入するなど、今最も世界から注目を集めていると言っても過言ではありません。今後、世界の映像産業に多大な影響を与える存在になっていくでしょう。
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2:緊急事態宣言再び。映画館への理不尽な休業要請の余波
昨年から続くコロナパンデミックは2021年になっても、映像産業を苦しめています。ハリウッド映画の話題作の公開目途が立ちづらく、満足な番組編成ができない映画館を、さらに不可解な線引きによる休業要請に苦しめられました。
ゴールデンウィークに発出された、東京都、大阪府、京都府、兵庫県の4都府県に対する休業要請は、大きな痛手でしたが、協力金は1日あたり2万円という雀の涙のような金額でした。
4月25日から5月11日まで続いた緊急事態宣言ですが、東京都と大阪府は延長を決定。しかし、東京都は当初、映画館には休業要請するが、舞台の劇場はOKとするなど不可解な線引きを行い、映画ファンも業界団体もこれに対して抗議することとなりました。
2021年の冬、日本の感染状況は落ち着いており、映画館は通常営業できる状態に戻っています。しかし、一度遠のいた客足を取り戻すのは大変なこと。今年の興行成績は2019年対比で、6割前後に留まりそうで厳しい状況が続いています。
感染力の強いオミクロン株の状況次第では、2022年にも理不尽な対応をされる可能性があるでしょう。そのとき、迅速に抗議の声を上げる、現状を変えるためにコミットすることが大切だと学ばされた年となりました。
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3:『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』全世界累計来場者約4135万人・総興行収入約517億円の大記録到達
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暗い話題の後には明るい話題を紹介します。昨年から上映の続いた『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が国内興行収入400億円の大台を突破。世界各地でも公開され、総興行収入約517億円の大記録を達成しました。
アメリカ市場ではコロナ禍の休業明けに公開され、他の上映作品が少なかったとはいえ、週末動員ランキングで1位を獲得。非英語映画の作品として歴代最高の成績を記録しました。
この大記録は、コロナ禍の奇跡の興行として語り継がれることになるでしょう。
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4:『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が100億円超えで有終の美
(C)カラー
庵野秀明総監督の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ最後の作品、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が興行収入102億円を記録。最後の最後で100億円の大台を突破しました。
コロナ禍で度重なる上映延期の末、緊急事態宣言明けの翌日3月8日月曜日から封切りという前代未聞の対応でしたが、それが逆にファンの気持ちを後押しした結果となり、大ヒットとなりました。
今年は新国立美術館で大規模な庵野秀明展が開催。『シン・仮面ライダー』の監督就任も発表され、改めて庵野秀明という作家の評価が高まった年になりました。
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–{コロナで加速したディズニーの新戦略}–
5:劇場か配信か。コロナで加速したディズニーの新戦略
2020年に本格スタートを切ったディズニーの配信サービス「ディズニープラス」は、コロナ禍の巣ごもり需要の中、急速に加入者を増やし、ディズニー側も期待の新作を劇場公開を経ずにディズニープラス独占で配信するようになりました。
2021年は、ディズニーも劇場公開を再開しますが、ディズニープラスと劇場公開、2つの軸をどうバランスを取っていくのかを模索。劇場再度の軋轢もありつつ、公開後45日後にディズニープラスで配信開始という新しいウィンドウルールが生み出されました。今後、この45日という日数がスタンダードになっていくと思われます。
配信と劇場公開を巡っては、『ブラック・ウィドウ』の主演スカーレット・ヨハンセンが、インセンティブ契約を巡ってディズニーを提訴したニュースもありました。最終的には新たな合意のもと和解が成立しましたが、これも配信と劇場公開をめぐる新たなルール策定の過程のひとつとして重要な動きでした。
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6:U-NEXTが米ワーナーメディアと独占パートナーシップ契約を締結
アメリカ企業が席巻する配信プラットフォーム市場ですが、国産プラットフォームのU-NEXTがアメリカのワーナーメディアと独占契約を結び、HBO Maxの作品を独占配信することが発表されました。
この締結で重要なのは、国産プラットフォームが米国産のプラットフォームと戦えるだけのコンテンツを獲得したことです。U-NEXT
は月額料金がやや高額ですが、その分作品のカタログ数は非常に多く、映像だけでなく電子書籍なども充実しており、Netflixやディズニープラスとも違った楽しみ方が可能。たとえば、筆者はマンガ原作のテレビアニメを観て、続きが気になったら電子書籍でマンガを買って読んでいます。月額料金は高めですが、1ポイント1円で使えるポイントが毎月1200ポイント付与されるので、それを使って電子書籍を買っています。
国産プラットフォームを持つことは、日本のコンテンツ産業全体にとっても非常に重要なこと。今後は国産オリジナルコンテンツも充実させて競争力を高めていってほしいです。
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–{Amazon、MGMを買収}–
7:Amazon、MGMを買収
このニュースはコロナによる業界勢力図の変化を象徴するニュースでしょう。Amazonが「007」シリーズなどを擁する映画会社MGMを買収しました。100年近い歴史を持つ老舗中の老舗の映画会社ですが、コロナによって新作の公開ができず、経営難に陥っていたところを配信競争でコンテンツを拡充したいAmazonの思惑が重なり買収が成立しました。
買収額は約9,300億円で、これはこれまでのAmazonの買収案件で2番目に高額。配信プラットフォーム競争は、独占コンテンツをいかに増やすかの勝負になってきていますが、一番手っ取り早い方法は買収です。今後、映像産業は配信プラットフォームを持つ事業者を中心に寡占的な競争になっていくと思われ、今回の買収はその先駆けとなるのではないでしょうか。
市場の寡占・独占化は必ずしも全体にとって良い結果になりませんが、当面はこの流れは続くでしょう。
8:ファスト映画が示した「タイパ」重視の価値観
ファスト映画とは、YouTubeなどで映画を無断でアップロードし、字幕やナレーションをつけて解説する動画を指す言葉で、多くは約2時間の作品を倍速再生して圧縮したものにあらすじを載せて投稿されています。今年になって、この言葉がメディアで取り上げられ、実際に摘発もされています。
投稿者の多くは広告費目当てのもので、有罪判決は妥当なもの。しかし、こうした動画が人気となった背景を考えると、そこには時代の変化が複雑に絡み合っています。2時間ある映画を、2時間かけずに内容を把握できる「タイパ(タイム・パフォーマンス。時間あたりの効率の良さを示す言葉)」の良さが受けているわけです。これまでの著作権侵害はコンテンツに金をかけたくない「コスパ(コスト・パフォーマンス)」重視の考えでしたが、ファスト映画はそれに「タイパ」の価値観が加わっています。
劇場での映画鑑賞って、一回1900円で約2時間拘束されるので、コスパとタイパの価値観の反対にあるわけです。これらの価値観の増大に映画という産業は対応できるのかというのは、ファスト映画が駆逐されても、重大な課題として残されています。
9:ハラスメント、低賃金労働…映画産業の体質改善急務
あらゆる業界で、労働環境の改善が叫ばれる時代になりましたが、映画産業も例外ではありません。これまで見過ごされてきた労働問題の改善は、映像産業でも急務の問題として浮上しています。
アップリンクのパワハラ問題、京都でミニシアターを運営するシマフィルムの低賃金労働問題や、制作現場の長時間労働、東映社員のセクハラと過重労働告発、さらには映画雑誌『映画秘宝』の恫喝事件など、2021年は労働をめぐる様々な問題が噴出した一年になりました。
これらの問題は、今年多く発生したというより、これまで見過ごされてきた問題にスポットライトが当たるようになったということです。
それは問題解決のための第一歩で、その一歩を意義あるものにするためには、ウヤムヤにせず、問題に向き合う姿勢が必要です。
人口減少時代に突入した日本は、どの業界も人材を確保するのに必死な様子。労働環境の改善をせねば優秀な人材は集められない時代になっています。
実際、好きな映画が誰かの犠牲で作られていると思うと、素直に応援できないと感じている映画ファンも増えており、映画ファンを増やすためにも労働問題の改善は重要だと思います。
10:濱口竜介監督、海外映画祭で絶賛の嵐
(C)2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会
今年は、濱口竜介監督が世界の映画賞を席巻しました。ベルリン国際映画祭で『偶然と想像』審査員グランプリ受賞、『ドライブ・マイ・カー』がカンヌ国際映画祭で脚本賞含む4冠受賞を皮切りに、世界の映画祭、批評家から絶賛が相次いでいます。
12月に入り、アメリカでは賞レースシーズンが本格的に始まりました。各映画賞で『ドライブ・マイ・カー』の受賞ラッシュとなっており、アカデミー賞ノミネートの期待が高まっています。この勢いはポン・ジュノ監督の『パラサイト』を彷彿させ、国際長編映画賞のみならず、脚色賞や作品賞など主要部門も十分に狙える状況になってきました。
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おまけ:『劇場版 呪術廻戦 0』大ヒットスタート
C)2021「劇場版 呪術廻戦0」製作委員会 (C)芥見下々/集英社
12月24日に公開開始された『劇場版 呪術廻戦 0』が、初日の3日間で観客動員190万人突破、興行収入は26億円の大ヒットスタートとなりました。
2021年の公開映画としては最も大きなスタートを切った作品となっており、100億円を超えるのはほぼ確実と思われます。今後どこまで『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の記録に迫れるのかが注目されます。今年は、昨年から続く『無限列車編』の大ヒットで始まり、『呪術廻戦 0』で終わる1年となりました。少年ジャンプ作品のアニメ化は、続々と発表されており、この勢いがどこまで大きくなるのか、来年以降も目が離せません。
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映像コンテンツをめぐる状況は、上映と配信の関係、さらには現代人の価値観の変化、労働問題の改善と様々な要素が複雑に絡み合い、変化の激流が起きています。2022年は映像産業にとってどんな年になるでしょうか。コロナ禍を抜け、配信も劇場もたくさんのコンテンツがなんの気兼ねなく楽しめる状況になるといいですね。
(文:杉本穂高)
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