2021年12月17日(金)、世界最速で日本で劇場公開された『マトリックス レザレクションズ』。
2003年に連続公開された前々作『マトリックス リローデッド』、前作『マトリックス レボリューションズ』から18年ぶりのシリーズ4作目となります。
主演はもちろん、キアヌ・リーブス。
映画デビューしたのが1985年で『リローデッド』『レボリューションズ』2部作までが18年、そして今年『レザレクションズ』が公開される2021年は2部作以降から数えて18年です。
キアヌ・リーブスの俳優人生において大きな転機となった『マトリックス』を受けての続編の『リローデッド』『レボリューションズ』2部作がちょうどキャリアの中間地点になっています。
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節目の多い俳優
『マトリックス リローデッド』『レボリューションズ』がちょうど、俳優人生の前半と後半を分けるマイルストーンになっていると言いましたが、キアヌ・リーブスは、そのキャリアを追っていくと節目の多い俳優人生の持ち主です。
1985年にテレビ映画で10代の俳優らしく、分かりやすい学生役でデビュー。
1989年の『ビルとテッドの大冒険』がスマッシュヒットを記録して最初のブレイクポイントを迎えます。この時すでに20代半ばでしたが、キアヌ・リーブスは馬鹿でノリのいいヘビメタ好きな高校生を好演。昨年まさかのシリーズ第3弾が登場してファンを驚かせましたね。
その後『バックマン家の人々』『殺したいほどアイ・ラブ・ユー』、当たり役に回帰した『ビルとテッドの地獄旅行』と続けて、キアヌ・リーブスはちょっとひねったコメディ映画をフィールドとする若手俳優の一人となります。
ジョニー・デップやニコラス・ケイジなどの、この世代の俳優たちは結果的にブロックバスター映画の主役を張るようになる人もいますが、そのキャリアはびっくりするほど多種多様で、紆余曲折のある作品群を経由しているパターンが多く、キアヌ・リーブスもそんな俳優の一人です。
コメディジャンルで注目を浴びる一方で、1991年サーフィンと強盗をかけ合わせた『ハートブルー』、リヴァー・フェニックスと共演した『マイ・プライベート・アイダホ』で元祖“ブロマンス”映画にも出演したキアヌ・リーブス。
この2作品は日本で独特なうけ方をされて、キアヌ・リーブスは(日本では) “アイドル的”な人気を得ることになります。
そんな彼が、イメージを一新したのが1994年の痛快アクション『スピード』。
タイトル通りのノンストップアクションでSWAT隊員を演じたキアヌ・リーブスは、『ハートブルー』があったとはいえ、“アクションの人”とは言い難かった人でしたが、この一本で注目のアクションスターとなりました。
この後、2000年前後の『マトリックス』シリーズ、2010年代の『ジョン・ウィック』シリーズとヒットアクションシリーズに出演。
1994年の『スピード』を含めて、1990年代、2000年代、2010年代にそれぞれ、代表作となる大作映画があることになります。
これらの中でも『スピード』以上に大きな節目、転換点となったのはやはり1999年の『マトリックス』でしょう。
それまでなかなか映像にすることが難しかった“サイバーパンク”の世界観をウォシャウスキー姉妹(当時は兄弟)が発達したCG技術に独特のビジュアルセンス、そしてカンフーアクションをミックスして、見事に映画化。
結果、アクション映画としてもSF映画としても映画史に名を残す作品となりました。
1999年の第1作のヒットを受けてウォシャウスキー姉妹は3部作構想を発表。
2003年に『マトリックス リローデッド』『マトリックス レボリューションズ』という続編を連続公開しました。
ここでカンフーアクションにはまったキアヌ・リーブスは、後に『ファイティング・タイガー』というカンフー映画を監督するまでに至っています。
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–{SFの人=キアヌ・リーブス}–
SFの人=キアヌ・リーブス
キアヌ・リーブスの同世代にはジョニー・デップ、ニコラス・ケイジ、トム・クルーズ、ロバート・ダウニー・ジュニア、ブラッド・ピットどのトップスターがいます
そんな、彼らと比べてもキアヌ・リーブスはSFジャンルの作品が非常に多い俳優です。
そもそも、最初のブレイクポイント『ビルとテッドの大冒険』からしてSF要素のある映画でしたが、やはり節目となったのは『マトリックス』3部作。
この3部作の後、一気にSFジャンル作品が増え、『コンスタンティン』『スキャナー・ダークリー』『イルマーレ』『地球が静止する日』『47RONIN』『レプリカズ』などなど3部作から今回の『マトリックス レザレクションズ』までの間にバリエーション豊かなSF作品に立て続けに出演しています。
もともと持っていたSF属性に『マトリックス』というビッグヒット作ができたことで、一気に加速した感があります。
かつて『リトル・ブッダ』でシッダールタ王子/ブッダを演じたこともあるキアヌは中国系ハワイアンの血筋を受けていて、中国文化に囲まれて育ったと言い、その出自からどこか国籍不明、年齢不詳なイメージをずっとキープしています。
『スピード』の時などは分かりやすいマッチョなアメリカンヒーローにもなりましたが、その一方で『マトリックス』シリーズのネオ役は(マトリックス内での名前こそトーマス・アンダーソンという絵に描いたようなアメリカ人の名前ですが)カンフーを使いこなし、禅や東洋思想を取り込み、ファッションは和洋折衷という、一見しただけは“どこの国出身者かわからない人”になっています。
キアヌ・リーブスが持ち合わせるこの血脈からくる、独特の年齢不詳さ、無国籍感は彼を”何者にでもなれる”俳優という独自の立ち位置を確立させるに至っています。
一例をあげれば、『コンスタンティン』では悪魔祓いをする霊感探偵を演じ、『地球が静止する日』では平和主義の宇宙からの来訪者クラトゥを演じ、『47RONIN』では(作品の出来不出来、成功か失敗かはさて置き)なんとあの忠臣蔵の世界観の住人になっています。
ハリウッド映画という世界をマーケットにしているビジネスにおいて、その人の出自は武器にもハンデにもなりますが、キアヌ・リーブスはその部分を他にないオリジナリティとして活かして、俳優としてのアイデンティティを完成させました。
また、彼の”年齢不詳感”(今年で57歳!!)も出演作品に時代を感じさせない普遍性(不変性)を与えています。
この“年齢不詳感”は今回の『マトリックス レザレクションズ』で強く感じました。
3部作に続いてヒロインのトリニティを演じるキャリー・アン=モスを見ると流石に時の流れを感じる部分があります。(実年齢よりははるかにお若いですが……)
また『レザレクションズ』には登場しませんでしたが『マトリックス』3部作で指導者モーフィアスを演じたローレンス・フィッシュバーンとキアヌ・リーブスは『ジョン・ウィック』シリーズで再共演を果たしていますが、やはりローレンス・フィッシュバーンも年齢を重ねたなと感じたものです。
しかし、キアヌ・リーブスだけは大げさではなく”時が止まった”かのようです。
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–{SFの人=キアヌ・リーブス}–
時の流れを忘れさせる俳優
今回『マトリックス レザレクションズ』を見て、すぐに頭に浮かんだのが『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』でした。
時代の流れを乗り越えて同じ作り手、同じ演じ手で再定義・再構築されたという部分では『レザレクションズ』と『シン・エヴァ』は共通しています。
共通している部分はありつつも、『レザレクションズ』は実写作品で演じ手の時の流れが如実に出てしまいます。
しかし、その中心にいるキアヌ・リーブスが変わらぬ若々しさを見せてくれたおかげで、3部作からの18年の年月をすぐに忘れさせてくれました。驚くほどスムーズに”4作目のマトリックス”として『マトリックス レザレクションズ』を受け入れられました。
とりあえず『マトリックス レザレクションズ』は独立した、続編のない企画なので“この次”は未定です。
しかし、もしその時が来ても、それがまた18年後あってもキアヌ・リーブスは全く変わらない“ネオ”として我々の目の前に姿を現すことでしょう。
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(文:村松健太郎)
–{『マトリックス レザレクションズ』作品情報}–
『マトリックス レザレクションズ』作品情報
ストーリー
もし世界がまだ仮想世界=マトリックスに支配されていたとしたら、もしネオが救世主ではなかったとしたら……。目に見えるものが真実とは限らない。あなたが疑ったこともないこの世界は、本当に現実なのか。未来を選ぶとき、あなたの世界は一変する。
予告編
基本情報
出演:キアヌ・リーブス/キャリー=アン・モス/ジェイダ・ピンケット・スミス/ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世/プリヤンカー・チョープラー/ニール・パトリック・ハリス/ジェシカ・ヘンウィック/ジョナサン・グロフ/クリスティーナ・リッチ
監督:ラナ・ウォシャウスキー
公開日:2021年12月17日(金)
製作国:アメリカ