最初に、今年の正月映画でもっとも映画ファン的興味を以って見ておくべき作品はこれ!と、個人的に強くプッシュしておきます。
『ベイビー・ドライバー』(17)などイケてる映画の達人エドガー・ライト監督によるホラー映画と聞いて身構えながら見始めると、デザイナーをめざす1960年代大好き現代少女(トーマシン・マッケンジー)がイギリス・ソーホーの街で下宿暮らしを始めたところ、何と1960年代にマインド・タイムスリップ。
そのあたりの描写が実にオシャレで可愛く映えわたるキュートなファンタジーとして展開が続いていくので、確かに面白くはあれ、これのどこがホラーなの?
……などと首を傾げていたところ、ふと気が付くといつのまにかこれがとてつもない恐怖のドラマへとすり替わっていくのです。
そのあたりの流れの変わり方が実にお見事で、またそこに至るまでのさまざまな映画的ウンチクやオマージュに満ちたショットの構築に、映画ファンならニンマリしっぱなし。
総じて彷彿させられるのはアルフレッド・ヒッチコックやダリオ・アルジェントなどのサスペンスやホラーの趣向で、キャメラワークや画面構図、色彩感覚など至るところに映画ファンなら思わず身を乗り出してしまうような描写が満載。
時折、どこまでCG合成なのかアナログ的な撮影なのかわからないほどに秀逸な幻影ショットも登場してきます。
ヒッチコックに傾倒していたブライアン・デ・パルマ映画独自のカミソリの切り方なんてものにも、久々にお目にかかった次第。
またイギリスの1960年代はもとより今の時代をも象徴する007を彷彿させる要素も満載で、『007/サンダーボール作戦』(65)の看板が映るのはわかりやすいところで、それ以外にも『女王陛下の007』(69)のボンドガールとして知られたダイアナ・リグ(惜しくも本作が遺作となりました)や『007/ゴールドフィンガー』(64)のマーガレット・ノーランの出演!
さらには『蜜の味』(61)『ナック』(65)などのリタ・トゥシンハムや『コレクター』(65)『唇からナイフ』(66)などのテレンス・スタンプといった、1960年代を象徴する名優たちまで!
もっともそういった錚々たる面々に囲まれながら、一瞬たりともひるむことなく堂々と作品世界の主軸となり続けるトーマシン・マッケンジー&アニャ・テイラー=ジョイ、ふたりの若手女優の抜群の存在感によって映画はサスペンスフルな中に瑞々しい情緒を湛え、さらには1960年代からおよそ半世紀過ぎての女性たちの意識、即ち自立心の育みなども巧みに描かれています。
映画的に豊穣な醍醐味はもちろんのこと、サスペンス・ホラーとしての秀逸な構築、キャストの魅力によってもたらされるポップでオシャレな中のダークな世界観など、どこから斬っても見応えのある、2021年に日本で公開される映画のトリとして見ておくにふさわしい快作です。
大作話題作目白押しの中、ぜひこういった珠玉の作品に注目していただけたら幸い、いやこれはもう映画好きを自称している方は絶対的に必見!と強く訴えておきましょう!
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(文:増當竜也)
–{『ラストナイト・イン・ソーホー』作品情報}–
『ラストナイト・イン・ソーホー』作品情報
ストーリー
ファッションデザイナーを夢見るエロイーズは、ロンドンのソーホーにあるデザイン専門学校に入学。だが、同級生たちとの寮生活に馴染めず、アパートで一人暮らしを始めることに。そんなある日、エロイーズが眠りにつくと、夢の中で、60年代のソーホーにいた。そこで歌手を夢見る魅惑的なサンディと出会ったエロイーズは、身体も感覚も彼女とシンクロしていくのだった。夢の中の体験が現実にも影響を与え、充実した日々を過ごすエロイーズ。タイムリープを繰り返す彼女だったが、ある日、夢の中でサンディが殺されるところを目撃してしまう。さらに現実では謎の亡霊が現れ、次第にエロイーズは精神を蝕まれていく……。
予告編
基本情報
出演:アニャ・テイラー=ジョイ/トーマシン・マッケンジー/マット・スミス/テレンス・スタンプ/マイケル・アジャオ ほか
監督:エドガー・ライト
公開日:2021年12月10日(金)
製作国:イギリス