2021年12月3日よりアニメ映画『フラ・フラダンス』が公開される。結論から言えば、本作はフラダンスに向き合う「社会人1年生」の女性たちの「青春スポ根もの」として、真っ当に作られた良作だ。豪華なスタッフによる丁寧な作劇やダンスシーンの楽しさ、実力派のキャストが声をあてた多彩なキャラクターの可愛らしさなど、子どもから大人まで万人が楽しめる要素が揃っていた。さらなる魅力を記していこう。
1:個性が豊か(すぎる?)なキャラクターの魅力
あらすじはこうだ。高校卒業後の進路に悩む夏凪日羽(なつなぎひわ)は、かつて姉が勤めていた「スパリゾートハワイアンズ(実在するリゾート施設)」のポスターを見て衝動的に、新人ダンサー=フラガールの採用試験に応募する。未経験ながらも採用された日羽は、仲間と共にフラガールへの道を歩み始める。だが、新人5人の足並みはなかなか揃うことがなく、初ステージでとある大失敗をしてしまい「今までで一番残念な新人たち」とまで言われてしまう。
まずは、個性が豊かなキャラクターが本作の魅力。未経験で不安いっぱいで「ふらふらしている」主人公(福原遥)、プロ意識が高くしっかり者の全国大会優勝経験者(美山加恋)、ぽっちゃり体型で和やかなギャグも言うムードメーカー(富田望生)、ハワイ出身のおっとり系かつ変わり者(前田佳織里)、笑顔に自信がないがコンプレックスに向き合う努力家(陶山恵実里)など、多様な魅力を備えているためすぐに好きになれるし、自分に似たキャラに感情移入ができるだろう。
それぞれの個性が豊か「すぎる」がゆえにメンバーは初めこそ衝突してギクシャクして、大失敗もしてしまうのだが、そこから彼女たちがどのように前を向き始め、切磋琢磨して成長し、お互いにお互いを支え合う仲間となっていくか……が見所になっている、まさに、王道のスポ根ものをストレートにやり切っている作品であるのだ。
それらのキャラクターたちの設定は、実際に現地で取材した情報を基に構築したものが多いという。主人公が姉の後を継いでダンサーになるという設定は映画オリジナルであるが、フラガールズ甲子園で優勝した人、子どもの頃からステージを見ていて応募した地元出身の人など、実際のダンサーたちの動機を物語に取り入れている。実に「アニメ的」と思える要素(ハワイ出身の女の子が語尾に「にゃあ」をつけて他メンバーから「やめて」と言われるなど)もあるが、現実に基づく地に足のついたキャラ造形もなされている、だからこそ彼女たちが魅力的に思えることこそが本作の長所だ。
また、主要メンバー5人以外のボイスキャストも豪華だ。山田裕貴やディーン・フジオカが演じるキャラも魅力的であるし、さらには早見沙織、上坂すみれ、東山奈央、三木眞一郎、木村昴など、大人気声優陣も脇を固めている。映画やアニメだけでなくゲームも手がけている大島ミチルの音楽も聴きどころで、フィロソフィーのダンスによる主題歌「サンフラワー」も心地良い余韻を与えてくれるので、エンドロールの最後までぜひ聴き入ってほしい。
–{現役ダンサーの動きを取り入れたスタッフのこだわり}–
2:現役ダンサーの動きを取り入れたスタッフのこだわり
本作で総監督を務めた水島精二は、周防正行監督(1992年の『シコふんじゃった。』など)や矢口史靖監督(2001年の『ウォーターボーイズ』など)が作るような青春映画をアニメーションで作りたいという夢を、本作で達成できたと語っている。水島精二の過去の監督作『夏色キセキ』や『アイカツ!』で描いてきた「音楽」「青春」、さらには「アイドル」という要素も今回の『フラ・フラダンス』にはあり、その作家としての経験が存分に活かされたのも間違いない。
その水島総監督の構想と、後述するプロジェクトの「応援する」大きなテーマをまとめたのは、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』シリーズや映画『若おかみは小学生!』の吉田玲子による脚本だった。王道のスポ根を盛り上げる基本を押さえつつ、主人公と姉の関係を説明しすぎないように「余白」を生かして示すなど、その手腕は今回も存分に発揮されていた。
さらには、現実のフラダンスの滑らかさをアニメで再現するため、現役ダンサーの動きをモーションキャプチャーで撮って3Dで描くと言う手法が取られている。ダンスシーンは3Dの制作チームに演出を任せながらも、水島総監督の過去作のアニメ映画『楽園追放』や、『D4DJ』というメディアミックスプロジェクトで、3Dアニメを経験してきたことも活かされているそうだ。その他にも、現実にあるビーチシアターをアニメでそっくりそのまま完全再現するこだわりもある。
また、水島総監督だけでなく、綿田慎也監督、キャラクターデザインのやぐちひろこなど、『アイカツ!』に関わったスタッフが多いこともあって、その『アイカツ!』にオマージュを捧げている(であろう)シーンもある。3Dで描くフラダンスの細やかな動きだけでなく、中盤のアイドルのライブシーンなどでも、スタッフの培った経験が活かされているのだろう。
3:綿密な取材に基づく、「仕事」に誠実に向き合う物語
水島総監督は何度も舞台であるいわき市街、スパリゾートハワイアンズを訪れ、新人ダンサー、引退した元ダンサー、スパリゾートハワイアンズのスタッフに取材を重ね、自身が「面白い」「興味深い」と思ったことを脚本に反映させていった。プロのダンサーと聞くとアスリートのようなイメージがあるかもしれないが、実際のスパリゾートハワイアンズのダンサーたちは「就職してダンサーになる」「地場産業で働いている」という意識を持たれている方が多いと感じたのだそうだ。
本作が青春スポコンものというだけでなく、「仕事」に対しても誠実に向き合った作品になったのも、やはり現実に基づいて物語が作られているためなのだろう。中盤の憧れの先輩社員の言葉からは、劇中のフラガールだけに限っていない、あらゆる仕事に携わる人々へエールを送る精神性も大いに見て取れた。
また、『フラ・フラダンス』は東日本大震災で被災した東北3県を舞台とするアニメ作品のプロジェクト「ずっとおうえん。プロジェクト 2011+10…」の1つだ。すでに2021年4月から6月まで『バクテン!!』が放送され、8月には映画『岬のマヨイガ』も公開されていた。今回の『フラ・フラダンス』の主人公である夏凪日羽はいわき市観光応援キャラクターにも就任しており(公式Twitterも開設)、被災地を応援する目的もあって作られている作品なのだ。
そして、劇中の震災への向き合い方は「悲劇は過去にあったが、重くなりすぎないように描く」というバランスだ。しかも、過去への悲劇をも、良い意味での「戸惑い」をも含めたコメディに昇華することで、「これから元気に生きていってほしい」という、未来へ向けた尊く誠実にメッセージも受け取ることができた。それは、震災に限らず、今の困難な時代に生きる全ての人にとってのエールにもなるだろう。
最後に余談だが、本作は現在も口コミによりロングラン上映中のアニメ映画『アイの歌声を聴かせて』との共通点が多い。主人公のボイスキャストが福原遥かつおとなしい性格の少女を熱演していること、女の子同士の関係性が尊いこと、物語に「みんなを幸せにしたい」という尊い想いが込められていること、さらにはしおん(詩音)という名前のキャラがいるなど、複数のシンクロニシティがあるのが面白い。ぜひ、そちらと合わせて劇場でご覧になってほしい。
(文:ヒナタカ)
–{『フラ・フラダンス』作品情報}–
『フラ・フラダンス』作品情報
【あらすじ】
福島県いわき市に暮らす高校生・夏凪日羽(なつなぎひわ)。卒業後の進路に悩む日羽は、かつて姉の真理が勤めていた「東北のハワイ」こと「スパリゾートハワイアンズ」のポスターを見て、衝動的に新人ダンサー=フラガールの採用試験に応募する。未経験ながらも採用された日羽は、鎌倉環奈、滝川蘭子、オハナ・カアイフエ、白沢しおんたち同期と共にフラガールへの道を歩み始めるが、個性豊かすぎる5人の足並みはそろわず、初ステージで、ある大失敗をしてしまう。「今までで、一番ざんねんな新人たち」と呼ばれ、落ち込む彼女たちだったが、恋、ダイエット、そしてフラ……と、いいことも辛いことも分かちあいながら、フラフラしながらも絆を深めていく。
【予告編】
【基本情報】
出演:福原遥/山田裕貴/ディーン・フジオカ/美山加恋/富田望生/前田佳織里/陶山恵実里/早見沙織/相沢梨紗/上坂すみれ/東山奈央/三木眞一郎/中村繪里子/奥野香耶/本泉莉奈/木村昴
総監督:水島精二
脚本:吉田玲子
監督:綿田慎也
上映時間:108分
映倫:G
製作国:日本