「I am your father」
私はスター・ウォーズシリーズをすべて後追いの形で見た人間で、リアルタイムで観た人間ではない。
果たして1980年5月21日にアメリカの映画館でこの一言を聞いた人たちはどう感じたのでしょうか?
この本当に短いたった1つのセリフが、映画史を変えるほどの伝説を生んでしまうことになろうとは…。
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“純正娯楽冒険活劇”を求めて
生みの親のジョージ・ルーカスはもともとから、 “純正娯楽冒険活劇”を作ろうと思っていたらしいのです。1934年から新聞連載が始まったコミック「フラッシュ・ゴードン」の映画化を望んだところから話が始まったので、この話は間違いなさそうです。
当時はベトナム戦争の影響もあって、アメリカ全体が沈んだ空気の下にあり、映画もまた内省的なアメリカン・ニューシネマが大きな潮流となっていました。
絵空事、娯楽だけを描き続けるハリウッドメジャー・スタジオに反旗を翻した若手クリエイターが“今のアメリカはこれだろ!!”とリアルで、痛々しく、殺伐としていて、時にバッドエンドも辞さない映画たち、のちに“アメリカン・ニューシネマ”と呼ばれる作品群をどんどん突き付けてきました。
まぁ、それはそれで、映画は社会の写し鏡であるという部分がありますから、必要で必然な流れだったのかもしれません。
ただ、“そんな映画ばっかじゃ気が重くなる一方だ!!”という意見もあるわけで、カリフォルニアで映画作りを学んでいた二人の青年は、“俺らが子供頃に観てた、”純正娯楽冒険活劇“=古き良きアメリカが見たい!”と意気投合して、娯楽性に振り切った映画作りを模索し始めます。
そんなことを言い合った2人の映画青年。
1人の名前はスティーブン・スピルバーグ、もう1人の名前はジョージ・ルーカスと言いました。
『スター・ウォーズ』公開前夜
そして、ルーカスは1973年に『アメリカン・グラフティ』を撮り、スピルバーグは1975年に『ジョーズ』、1977年には『未知との遭遇』を撮りました。
ルーカスは「フラッシュ・ゴードン」の映画企画を模索するも、権利関係などで大いにもめて頓挫してしまいます。
その後、代替作品として『スター・ウォーズ』の脚本を執筆しました。戦争映画、西部劇、海賊映画、ラブロマンス、ヒューマンドラマ、さらには日本の時代劇まで取り入れたこの作品は最終的にSF映画となることになります。
上記のような要素を取り入れると、必然的に敵と味方を作る必要があります。
ルーカスが子供の頃に観ていた作品では、ネイティブアメリカン(当時はインディアンと言われてました)や黒人、また各地の非白人系民族などが悪役や敵役で登場していたのですが、80年代を目の前にした時代に、そんな設定を取り込んだりしたら、社会から痛烈な批判を受けることは火を見るよりも明らかでした。
そこで、“A long time ago in a galaxy far, far away….=遠い昔、遥か彼方の銀河で”という舞台設定を持ち込んで、そこで架空の敵・味方を作り上げ、SF映画というジャンルを選ばざるを得なかったと言えるでしょう。
『2001年宇宙の旅』や『猿の惑星』といった偉大な先人もいましたが、SF映画というのは、当時は一段下の子供向けジャンルだとしか思われておらず、それに加えてルーカスは“まだまだこれから”といったキャリアの若手監督でしかありません。
20世紀FOXの首脳陣を口説き落とすのかなりの苦労があり、潤沢な予算を得たとも言えませんでした。
苦労に苦労を重ね、ルーカスの手によって『スター・ウォーズ』が完成します。
しかし、20世紀FOXの首脳陣や同世代のブライアン・デ・パルマなどはラッシュ試写を見て「陳腐な子供だましだ」「B級映画だ」と厳しい感想をルーカスに浴びせ、ルーカスはかなりへこみました。
そんな中、スピルバーグ1人だけ、「この映画はヒットする!大儲けできる!」と言い切ったそうです。
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–{果たして、観客の反応は? }–
果たして、観客の反応は?
完全に自信喪失状態になっていたルーカスですが、『スター・ウォーズ』が公開されると“純正娯楽冒険活劇”に振り切った作品に観客たちは熱狂、世界的な社会現象となるまでの大ヒット作品となりました。
盟友スピルバーグの予言は見事に当たり、“純正娯楽冒険活劇”に飢えていたのは創り手たちだけではなく、観客の中にも多くいたのでした。
結果としてこの2人の信頼関係はさらに深くなり、その後も良き友人であり、良きライバルであり続け『インディ・ジョーンズ』シリーズを生み出すのですが、それはまた別のお話です。
『スター・ウォーズ』の当時の全米歴代一位の大ヒット作にまで上り詰めただけでなく、その年度のアカデミー賞では10部門にノミネート。
編集、美術、衣装デザイン、作曲、録音、視覚効果の6部門を受賞しました。この時、主要部門を受賞したのはウディ・アレンの『アニー・ホール』でしたが、こちらは4部門の受賞にとどまり、最多受賞作品は『スター・ウォーズ』となりました。
もはや、ただの続編では許されない~そして伝説へ
「まるで手のひらを返したように」と言ってしまうと意地が悪いように聞こえてしまいますが、20世紀FOX首脳陣も早々に続編にGOサインを出します。第1作のヒットを受け、ルーカスは続編とシリーズ化の構想を発表し、『スター・ウォーズ』に後に『エピソード4 新たなる希望』というタイトルがつけられます。
まぁ、これもなかなか斬新で、ヒットした作品が「実は前日談が3つもある作品だったんですよ、それで、これも3部作の1つ目でエピソード6まで作りますよ」というのですから、これから何が起こるのか?これまでに何があったのか?といくらでも想像が膨らみます。
そんな中で、重要なキャラクターとなったのが“シスの暗黒卿”ことダース・ベイダー。
『新たなる希望』では、独裁体制を敷く銀河帝国軍に対抗する反乱軍のプリンセス・レイアのメッセージを受け取った青年ルーク・スカイウォーカーが老師・オビ=ワンと宇宙海賊ハン・ソロとともに宇宙に飛び立ちます。
帝国軍は巨大要塞デス・スターと巨大戦艦スター・デストロイヤーという圧倒的な軍事力で支配を確固たるものにしています。特にデス・スターのスーパーレーザー砲は一発で惑星を粉々にする破壊力。
反乱軍としては何としてもデス・スターを止めなくてはいけません。必死の工作により構造設計図を得た反乱軍は何とか反攻に出ようとします。デス・スターの司令官グランド・モフ・ターキンは構造設計図を奪われても余裕の態度を崩しません。そんな司令官の傍らに黒いマスクと甲冑に身を包んだ、謎の男が控えていました。
その男こそ、ダース・ベイダー。
謎の多き超能力“フォース”を使い、ターキンとも五分五分と言った立ち位置にいるこの謎の男。老師・オビワンとも因縁があるようで2人の決戦もありました。その後、ルークやハン・ソロの活躍もあってデス・スターは破壊。しかし、ベイダーは空中戦の後に戦線離脱し、どこに行ったのかがわからないまま『新たなる希望』の幕はおります。
そして、ついにあの一言が…
【予告編】
『エピソード4 新たなる希望』の公開から3年の時を経て、1980年に『スター・ウォーズ エピソード5 帝国の逆襲』の物語が明らかになります。
ダース・ベイダーは銀河帝国皇帝に次ぐ帝国軍のナンバー2に収まり、その威厳はさらに高まるばかり。デス・スターを破壊された帝国軍の逆襲が始まり反乱軍は散り散りに逃亡することに、そんな中でダース・ベイダーはなぜかルーク・スカイウォーカーに強い興味を抱きます。
罠を張り、レイア、ハン・ソロを捉えたベイダーのもとに、フォースに目覚め始め、仲間の危機を感じ取ったルーク・スカイウォーカーが現れた。
ジェダイの伝説の光の剣“ライトセイバー”を抜き、対峙する2人。
成長著しいルークではありましたが、ベイダーの多彩な攻撃に徐々に追い込まれていきます。そして右手を斬り落とされたルークは絶体絶命の危機に。
その時、ベイダーはとどめを刺そうとはライトセイバーを下げ、手を差し出しながらこう言います。
「I am your father」
この衝撃的な一言で、ベイダーがルークの父親であり、かつてのジェダイの騎士・アナキン・スカイウォーカーであることが明らかになります。
ただの“純正娯楽冒険活劇”だった『スター・ウォーズ』が全世界の映画史に名を残す伝説になった瞬間でした。
以降、シリーズはアナキン・スカイウォーカーを中心に据えたプリクエル3部作。オリジナル3部作の30年後から話が始まる新3部作が作られ、常にアナキン・スカイウォーカーことダース・ベイダーが大きな存在となっていきます。
新3部作におけるダース・ベイダーの扱いについては賛否が分かれるところでしょうが、『スター・ウォーズ エピソード4 新たなる希望』の時にはただの不気味な悪役でしかなかった男は結果的にシリーズ全編に有形無形の影響を与え続けることになります。
「I am your father」
場面が場面なら、なんということのない短いセリフですが、この一言で『スター・ウォーズ』は“純正娯楽冒険活劇”から“壮大なサーガ(叙事詩)”へと大きく変わっていきます。
映画史においてもここまで短く、ここまで影響力のあった言葉はそうはないでしょう。
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(文:村松健太郎)
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