2021年11月19日より映画『聖地X』が劇場公開され、同時にauスマートパスプレミアムとTELASAでも配信が開始される。
公式サイトや予告編からは、おそらく「身の毛もよだつホラー」と印象を持つだろう。だが、実際の本編は「それだけではなかった」。事前に提示されている情報からはわからない「何か」があり、そのサプライズも含めて楽しめる内容だったのだ。
それでいて二転三転する展開の連続でエンターテインメント性が高く、入江悠監督作品の中では『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(17)にならんで万人におすすめできる映画になっていた。
そのような特徴を持つ作品なので、最大限に楽しみたいのであれば、予備知識なく観たほうがいい。個人的には良い意味で「騙されて」ほしいのだ。豪華キャストによるクセの強いキャラクターそれぞれの魅力も大きく、特に岡田将生と川口春奈のファンは「お互い文句を言ったりするけれど実は大切に想っている」という兄妹役の関係性に萌えられるので至福の時を過ごせるだろう。
以下からは決定的なネタバレはないように書いたつもりだが、「どのような作品か」という特徴は記している。それも知りたくないという方は、先に劇場へ駆けつけて(もしくは配信で観て)欲しい。
※本作は以下のまとめ記事でも紹介している↓
<ネタバレ厳禁>なるべく何も見ずに観たほうがいい映画「11」選 | cinemas PLUS
※以下より、決定的なネタバレは含まないまでも、公式サイトや予告編では明言されていない「設定」については記しています。鑑賞時の面白さを大きく損なうものではありませんが、予備知識なく観たい方はご注意ください。
1:『パラサイト 半地下の家族』のようにジャンルを飛び越える面白さ
あらすじから紹介しよう。小説家志望の輝夫(岡田将生)は、韓国の別荘で悠悠自適の引きこもり生活をしていた。そんな輝夫の元へ、夫からひどい裏切りを受けたという妹の要(川口春奈)が転がり込んでくる。その後に要は商店街で、日本にいるはずの夫の滋(薬丸翔)を見かける。そのあとを追ってたどり着いたのは、巨大な木と不気味な井戸のある和食店だった……。
もうはっきり言ってしまうと、本作は「ドッペルゲンガーもの」だ。「誰かと瓜二つの人物と出会う」というのはそれだけで不気味であるし、本作は「なぜドッペルゲンガーが現れるのか?」という理由を論理的に探る様がミステリー的な面白さにつながっている。同時に、個性豊かなキャラクターたちが予想外の事態に翻弄される様は、ほぼほぼブラックコメディの様相を呈していた。
基本的に家の中という限定空間で展開し、ホラーとコメディを掛け合わせたかのような作風、夫婦間の軋轢や家族の絆(?)も描かれている様は『パラサイト 半地下の家族』(19)にも近い(しかも後述する理由で舞台は韓国)。それ以外にも良い意味で「ジャンルが不明瞭」「どのジャンルかを決めるのは観る人次第」なところがあり、ドッペルゲンガーものという枠組みにさえ囚われない、いろんな映画のジャンルを混ぜ込んだような、もしくは飛び越えたような魅力があるのだ。
それでいて「なんでもあり」というわけではなく、むしろ脚本は統制されており、随所に伏線が込められた「計算され尽くした」内容にもなっている。何より、理解できるはずもない不条理なドッペルゲンガーという恐怖の対象に対して翻弄されるだけでなく、ロジックで解明し立ち向かおうとする様が「面白い」のだ。ジャンルを一言で表すのは難しいが、間違いなく「エンターテインメント」であることを改めて明言しておこう。
2:必然性のあるオール韓国ロケ
本作は『太陽』(2016)と同じく、劇団・イキウメの人気舞台を入江悠監督が映画化した作品でもある。舞台版では地理は明言されていなかったが、本作はオール韓国ロケを実施している。
なぜ舞台が韓国?と思うだろうが、これは韓国と馴染みのあった小出真佐樹プロデューサーの大胆な試みのため。制作プロダクションのROBOTも韓国映画のリメイク『22年目の告白 -私が殺人犯です-』や『見えない目撃者』(19)を小出プロデューサーと共を手がけていたため、「縁」があったのだ。おかげで、韓国映画『犯罪都市』(17)や『悪人伝』(19)のB.A.エンタテインメントをむかえた日韓融合のチームが結成されたのである。
もちろん、短絡的に外国を舞台にしただけではない。このおかげで「日本にいるはず人物がこの韓国にいる」というドッペルゲンガーの不気味さが際立つし、(韓国という国を貶める意図はなく)異国の地だからこその不安感も劇中の恐怖につながっていたのだ。
さらに、日韓のタッグはアクションシーンにも生かされていたと言える。『神と共に』シリーズなどを手がけたアクション監督のジョン・ジョンソクが目指したのは、単にスタイリッシュな立ち回りではなく、「人間離れした得体の知れなさ」を出すことだったそうで、そのショットリストに記されたカット数は60以上に及んだという。
夫(ドッペルゲンガー)役の薬丸翔は、顔に布を被せられ、両手足を拘束された状態で床に投げ出されるようなくだりもあったが、「大きく動かないとコミカルに見えない」というジョン・ジョンソクの指示に全身全霊で応えたこともあったのだという。ホラー、ミステリー、コメディと来て、アクションまでもあるという大盤振る舞い。それはもう、面白いに決まっているではないか!
–{入江悠監督の「オラこんな村イヤだ」な作家性も生かされまくり}–
3:入江悠監督の「オラこんな村イヤだ」な作家性も生かされまくり
前述した通り、『聖地X』は原作となる舞台があり、しかもオール韓国ロケで韓国チームもガッツリ制作に関わるややイレギュラーな制作体制となっている。にも関わらず、はっきりと「入江悠監督の作品だ!」と思えることも脅威的だ。
何しろ、入江悠監督のいちばんの作家性と言えば「オラこんな村イヤだ」。閉鎖的な村社会の嫌らしさや気持ち悪さをねちっこく描き、そのシチュエーションに登場人物が「もうやめてくれ!もういいから彼らを幸せにしてやってくれ!」と本気で願うほどに苦しむことが多い(褒めている)。つまりは良い意味で意地の悪い作家とも言えるのだが、それが本作『聖地X』における「呪われた土地」や「笑えるほどにキモいドッペルゲンガー」という「こんなところに1秒だっていたくない!」な設定とは相性抜群というわけである。
思えば、ジャンルとしては決してホラーとは呼べない『22年目の告白 -私が殺人犯です-』でも、序盤からジャパニーズホラーを思わせる不気味な演出や、心底ゾッとさせる人間の「業」を強く感じさせるシーンもあった。元々、入江悠監督はホラーというジャンルとも相性の良い作家とも言えるのではないか。今回の『聖地X』はホラー以外のジャンルも混ぜこぜだからこその面白さもあったが、今後は入江悠監督によるガチなホラーも観てみたい!と強く思うことができた。
ちなみに、入江悠監督は岡田将生について「無垢で美しいだけではない、三十代になった今の彼の新しい側面を吹き込んで欲しかった」と、川口春奈についても「かつての無邪気さに代わる堂々としたたたずまいを携えながらも、仕事に対する責任感が増しただけ慎重になっているようなところがあって、そうした人生経験がこの役に相応しい」などとキャスティングの理由について語っている。まさにこの目論見通り、『聖地X』の岡田将生と川口春奈は、実力派の若手俳優が役者としてのキャリアと人生経験を重ねたからこその、「大人」としての堂々とした佇まいと熱演を見せている。それでいて、彼らが気の置けない親友のようにも見える兄妹役であり、それぞれの可愛らしさ、その掛け合いに大いに萌えられるのがたまらないのだ。
TELASAで配信中の『ウワキな現場』も要チェック!
『聖地X』はホラーとしての「閉塞感」や「逃げ場のなさ」も重要なので、ぜひ映画館で集中して観てほしいと願える内容だ。だが、配信も劇場公開と同時に行われている作品なので、もちろんそちらで視聴するのもいいだろう。
このために(そうでなくても)TELASAに加入した方に、ぜひおすすめしたい短編映画がある。それは『カメラを止めるな!』(2017)の上田慎一郎監督の最新作『ウワキな現場』である。
あらすじは、浮気現場を目撃したお笑い芸人トリオの1人が、それを元にしたショートコントの練習をするというのもの。ジャンルとしては「サイコホラー」と言える内容であった。
すごいのは、福田麻貴(3時のヒロイン)、加納(Aマッソ)、サーヤ(ラランド)という本職がお笑い芸人の面々の演技がめちゃくちゃ上手いということ!それでいて短い上映時間に、よくもまあこれだけの驚きの展開を詰め込めたものだと、上田慎一郎監督とその妻のふくだみゆきが手がけた脚本に感心するばかりだった。
奇しくも『ウワキな現場』と『聖地X』は、「インディーズ映画で名をあげた監督が」「ホラー映画に挑み」「なおかつ二転三転する展開がエンターテインメントとしてめちゃくちゃくちゃ面白い」という、複数の共通点を持っていた。個人的には万人が面白いと思えるエンタメこそ映画の中でいちばん難しいと思うし、それを作家性を活かして見事に実現した入江悠監督と上田慎一郎監督はやっぱりすごい!とますますファンになった。ぜひ、合わせてご覧になってほしい。
(文:ヒナタカ)
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–{『聖地X』作品情報}–
『聖地X』作品情報
【あらすじ】
夫との生活に嫌気がさし離婚を決意した東要(川口春奈)は、兄・輝夫(岡田将生)が住む韓国の別荘に向かう。妹の突然の訪問に驚く輝夫だったが、要から夫のだらしなさを聞き、彼女の傷が癒えるまで一緒に韓国で過ごすことにする。しかし二人は知らないうちに巨木と井戸が目印の名もなき聖地、“聖地X”に踏み込んでしまう。そこに入った者は、精神を病み常軌を逸し奇妙な死を遂げると言われており、祈祷師が祓おうとしても太刀打ちできずにいた……。
【予告編】
【基本情報】
出演:岡田将生/川口春奈/渋川清彦/山田真歩/薬丸翔/パク・イヒョン/パク・ソユン/キム・テヒョン/真木よう子/緒形直人
原作:前川知大
監督:入江悠
脚本:入江悠
製作国:日本