〈新作紹介〉『愛のまなざしを』メロドラマこそ最大の恐怖!怪談のごとき愛憎が渦を巻くファムファタル恋愛映画の傑作

ニューシネマ・アナリティクス

■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

『UNloved』(01)『接吻』(07)など、今の日本映画界で現代女性の業を描かせて右に出る者はいないであろう、万田邦敏監督の最新作です。

そして今回は一見メロドラマのような形を採りつつ、心の奥底まで一気に凍りつくような瞬間を(男なら特に!?)多々体感させてくれる、まるでホラーのようなファムファタル恋愛映画です。

今回ファムファタルを演じるのは、本作のプロデューサーであり監督としても世界的に著名な杉野希妃。

彼女に惹かれ、やがて堕ちていく精神科医に、『UNloved』『接吻』など万田作品になくてはならない存在の仲村トオル。

さらには彼の亡き妻に中村ゆり、妻の弟に斎藤工が扮していますが、実はこの4人、すべてどこかしらに心の傷を隠し持っていて、次第にそれが露にもなっていくわけですが、そこから醸し出されるものは、あたかも日本の怪談映画のような恐怖の情緒そのもの。

真っ先に連想されるのは「牡丹灯籠」のように、女の愛が深ければ深いほどに男が滅びていくという恐ろしくも甘美な図式が近いかもしれません。

その意味でも杉野希妃の存在感は特筆すべきほどに美しくもおぞましい狂気を発散しており、日本映画には久しくお目にかかったことのないファムファタルとして見事に屹立。
(それでいて『危険な情事』のヒロインのようなモンスターには決してなっていないあたりも秀逸)

シーンによって彼女のまとう衣裳が、そのつど何某かのキャラクター性を物語っているように映えているのも見逃せないところ。

一方で中村ゆりは亡霊なのか? 主人公の妄想なのか?

いずれにしましても、はかなさの中の恐ろしさが姿を見せずともその声色が聞こえてくるだけで恐怖を感じさせてくれます。

狂気と妄想、双方の女に挟まれて、もはや男は堕ちていく他に道はないのだろうと納得させるに足る説得力が、本作にはごく自然にみなぎっているのが最大の魅力ともいえるでしょう。

主人公のクリニックの階段と自宅の階段、こうした美術装置もまた、彼のそのときの心理状態をさりげなく象徴している節がうかがえ、映画館で上映されることを第一とする“映画”を作ろうと思う監督志望者にとって必見のテキスト足り得てもいます。

特に目指してない人でも、ここで繰り広げられる怪談映画のように愛憎渦巻くメロドラマこそは、日本映画ならではの情緒なのかもしれません。

邦洋問わず、久々に愛憎渦巻くラブストーリー“映画”を見せていただいたという満足感に包まれること必至の、この秋を代表する傑作の1本として強くお勧めする次第です。

(文:増當竜也)

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–{『愛のまなざしを』作品情報}–

『愛のまなざしを』作品情報

【あらすじ】
患者の話に耳を傾けてくれると評判の精神科医・貴志(仲村トオル)。だが、6年前に亡くした妻・薫(中村ゆり)のことを想ってはむせび泣き、薬で精神を安定させる日々を過ごしていた。そんなある日、貴志のもとに綾子(杉野希妃)が患者としてやって来る。治療関係を超えて貴志と気持ちが通じ合い始めた綾子は、やがて貴志に寄り添うようになる。しかし綾子は、貴志の亡き妻への断ち切れない思いや、薫との子供・祐樹(藤原大祐)の存在を知り、猛烈な嫉妬心に苛まれ、独占欲が膨らんでゆく。そして綾子は、薫の弟・茂(斎藤工)に近づき……。 

【予告編】

【基本情報】
出演:仲村トオル/杉野希妃/斎藤工/中村ゆり/藤原大祐/万田祐介/松林うらら/ベンガル/森口瑤子/片桐はいり

監督:万田邦敏

脚本:万田邦敏/万田珠実

上映時間:102分

製作国:日本