2021年11月12日より、人気小説を映画化した『カオス・ウォーキング』が公開される。本作の目玉は、『スパイダーマン』新シリーズでおなじみのトム・ホランドと、『スター・ウォーズ』続三部作で見事に女性主人公を演じきったデイジー・リドリーの共演だろう。
初めに断言しよう。「世界の孫」と呼ばれるほどにキュートさが親しまれているトム・ホランドが、史上もっともかわいいのが本作だった。トム・ホランド萌えキャラ選手権があればスパイディを超えて1位。優勝(筆者調べ)。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の2022年1月7日の日本公開はまだまだ先なので、その前に彼の魅力を再確認する絶好の機会である。
そんなわけでトム・ホランドのファンは是が非でも観てほしいし、気が強い女の子のデイジー・リドリーの前であたふたしながらも信頼を得ようとがんばる関係性はさらに萌えるので、ディストピア(ポストアポカリプス)を描いた作品なのに桃源郷かなと思ってしまった。さらにネタバレにならない範囲で『カオス・ウォーキング』の魅力を記していこう。
1:ネタバレ王子への罰かと思うほどの頭の中ダダ漏れギャグ
あらすじはこうだ。時は西暦2257年、人類は環境破壊の進んだ地球を離れて「ニュー・ワールド」という新天地にたどり着いたが、そこでは女性は死に絶え、男性は頭の中の考えが「ノイズ」と呼ばれる現象であらわれてしまう。ある日、街で最も若い青年のトッドは、墜落した偵察船の唯一の生存者となった女性のヴァイオラと出会う。トッドは星全土を支配しようと企む首長から、彼女を守ると決意するのだが……。
こう書くとものものしい印象を持たれるかもしれないが、簡潔に内容を記せば「頭の中がダダ漏れになった世界での逃避行SFアドベンチャー」である。つまり、ただでさえかわいいトム・ホランドが「やべ〜考えていること全部バレちゃう〜」という状態で、それでも大好きな女の子のためにがんばるのだ。そんなの萌える!萌えるに決まってるじゃないか!あと犬も萌える!
そして、劇中ではその「思考がダダ漏れ」なことがコメディとして活かされている。主人公は普段から自分の名前を頭の中で繰り返して考えていることを気取られないようにしていて健気だし、男の子だから恋に落ちた女の子を守るだけでなく「いい感じ」になりたいとも願ってしまう。そうした「バレちゃヤバい」気持ちそのものがとある「仕掛け」をもってギャグにしてくれているのが面白いのだ。
また、世界の孫の他にも、トム・ホランドの愛称(?)には「ネタバレ王子」がある。数々の映画の公開前にネタバレと言える情報をSNSに書き込んだり口走ってしまうネタバレ常習犯だったため、作り手側も彼に完全な脚本を渡さないなどの対策を講じていたのだ。今回の『カオス・ウォーキング』で彼が演じるのは「考えていることを好きな女の子にも強制的にバラされてしまう」ために苦悩する役なので、「ネタバレ王子への罰かな?」と思うほどだったのだ。トム・ホランドのネタバレ王子ぶりをシャレとして流せない、いまだに許せないと感じている人も必見。彼がドギマギするたびにニッコニコになることだろう。
–{絶望的な世界観なのにカラッと楽しめる内容に}–
2:絶望的な世界観なのにカラッと楽しめる内容に
本作『カオス・ウォーキング』の魅力は「気楽に楽しめる」ことにもある。上映時間は109分とタイトであるし、物語も目的地までの逃避行という一本道でわかりやすく、前述したようなコメディ描写も強めで、絶望的なはずの世界観と辛い出来事と相対するような、意外なカラッと明るい雰囲気もあるのだ。
公開中のSFアクション映画『DUNE/デューン 砂の惑星』や『エターナルズ』は、上映時間が長めで壮大なスケール感もある作品だった。そういう映画ももちろん良いのだが、いつも高級フランス料理だと疲れちゃうから、たまには素朴なおにぎりやジャンキーなハンバーガーも食べたい……そんな例えが合っているかは微妙だが、とにかく観ていて疲れない、それでいてわかりやすいエンタメ性があって、万人がおいしくいただけるのが本作なのだ。
こうなったのは、ダグ・リーマン監督の作家性のおかげでもあるだろう。例えば『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2017)も(脚本家は異なるが)ハードなSF作品のようでいて実際は「同じ時間を繰り返してしまう」主人公の困惑を黒い笑いをもって描くことにも面白さがあった。さらに、ダグ監督は「ラストカットの切れ味」にも定評があるのだが、本作も「これぞダグ監督作品のラストだ!」と思える、スパッと気持ちが良い結末を用意してくれている。
さらに、共同脚本を手がけたクリストファー・フォードは、『COP CAR コップ・カー』(16)や『スパイダーマン: ホームカミング』(17)や『クローブヒッチ・キラー』(21)などの映画で「子どもが悪役である大人から逃げたり、または逃れらない対決をする」物語を手がけた方であり、(今回の主人公は子どもというより青年だが)『カオス・ウォーキング』の逃避行の物語もそれに通じているのである。今回は追いかける大人であり悪役が、みんな大好きイケオジ俳優の頂点マッツ・ミケルセンということもたまらない。
あえてちょっと残念だったところをあげると、せっかく「頭の中ダダ漏れ」の設定が面白く、それ以上のパワーを有する超能力も提示されているのに、それらが攻防戦にあまり活かされていなかったこと。ほんの少しだけ「騙し討ち」に活かされる程度では物足りない、もっと襲いくる敵との知恵を振り絞ったバトルが観たかったのだ、というのが正直なところだ。
それでも、豪華なキャストたちは原生林や激流の川の中での激しいアクションもこなしていいるし、バラエティ豊かな見せ場があるので全く飽きさせない。設定だけを拾い上げれば、それこそダークで重圧なSFにもできただろうが、本作は「そうはしなかった」ことにこそ魅力と面白さがある。
とにかく「あー楽しかった!」と劇場を後にできるテンションの映画を求める方、そしてやはりかわいいトム・ホランドを五臓六腑に染み渡らせたい方は必見と言える1作だ。
(文:ヒナタカ)
–{『カオス・ウォーキング』作品情報}–
『カオス・ウォーキング』作品情報
【あらすじ】
西暦2257年、ニュー・ワールド。そこは、汚染した地球を旅立った人類が辿り着いた新天地のはずだった。だが、男たちは頭の中の考えや心の中の想いが、ノイズとしてさらけ出されるようになり、女は死に絶えてしまう。そのため、この星で生まれた最も若い青年トッド(トム・ホランド)は、一度も女性を目にしたことがなかった。ところがある時、地球からやって来た宇宙船が墜落し、トッドはたった一人の生存者となったヴァイオラ(デイジー・リドリー)と出会い、ひと目で恋に落ちる。ヴァイオラを捕えて利用しようとする首長のプレンティスから、彼女を守ることを決意するトッド。2人が逃避行を繰り広げる中、行く先々でこの星の驚愕の秘密が明らかになっていく……。
【予告編】
【基本情報】
出演:トム・ホランド/デイジー・リドリー/マッツ・ミケルセン/デミアン・ビチル/シンシア・エリヴォ/ニック・ジョナス/デヴィッド・オイェロウォ
原作:パトリック・ネス
監督:ダグ・リーマン
脚本:パトリック・ネス/クリストファー・フォード
上映時間:109分
映倫:G
製作国:アメリカ・カナダ・香港