「僕の姉ちゃん」のドラマ化でも話題になった漫画家・益田ミリの人気漫画「スナック キズツキ」が連続ドラマ化!2021年10月7日より放送スタート。
原田知世が、傷ついた人がたどり着くちょっと変わったお店“スナックキズツキ”の店主トウコを演じる。「深夜にくすっと笑って、心が少しだけ軽くなるような、胸の奥がじんわり温かくなるような、これまでありそうでなかったユニークなドラマ」と原田が言うように、観た人の心をほっとさせてくれる物語だ。
cinemas PLUSでは毎話公式ライターが感想を記しているが、本記事ではそれらの記事を集約。1記事で全話の感想を読むことができる。
もくじ
第1話ストーリー&レビュー
第1話のストーリー
傷ついた人だけが辿り着ける店“スナックキズツキ”。最初の客は、コールセンターで働く女性・中田優美(成海)。日々のクレーム対応や、恋人(小関)とのすれ違いでストレスを抱えている彼女は、夜道に光る看板に誘われて初めてスナックに入る。 美味しい食事と飲み物、そして、店主のトウコ(原田)が奏でるギターに合わせて熱唱!傷ついた人の心を癒すスナックが、今夜営業開始します!あなたも一息つきませんか?
第1話レビュー
疲れが蓄積された金曜日の深夜、究極の癒しドラマ「スナック キズツキ」がスタートした。映画化決定で注目を集める2019年のヒットドラマ「あなたの番です」で再ブレイクを果たした原田知世が主演を務め、ちょっと不思議な「スナック キズツキ」のママ・トウコと、そこに訪れる傷ついた客との交流を描く本作。第1話は、冒頭から視聴者を安らげる要素が満載だった。
何より大和田伸也のナレーションがいい。
「誰かに騙されたわけじゃない。誰かに裏切られたわけでもない。泣きたいほどひどい目にあったわけではないけれど、ほんの些細な出来事に心が傷つくこともある。なんでもないような顔をして過ごしても少しずつストレスは溜まっていく。まるでタンスの裏の綿埃のように」
低音の落ち着いた声色で放たれる語りは、とても優しいけれどある意味残酷だ。今日一日、心に負った傷やモヤモヤを容赦なく思い出させるから。今回の客・中田優美がふと路地裏にある「スナック キズツキ」を訪れた時に流れるオープニングが、私たちを不思議な世界へと案内してくれる。
本作の舞台「スナック キズツキ」はごく普通のスナックに見えて、実はそうじゃない。まずトウコがいい意味で“ママ”っぽくないというか、どちらかと言えばオーガニックカフェの店長っていう感じ。そして、スナックなのにお酒は提供していないという。
優美は驚きながらも注文し、ほっと心を撫で下して今日一日あったことを思い出す。
彼女はコールセンターのオペレーター。毎日クレーム対応に追われ、ユーザーの怒りの声に心をすり減らしている。この日かかってきたのは安達よしみ(平岩紙)という女性からで、最初から威圧的な態度だ。助けを求めて目配せした上司も、我関せずと微笑むだけで全く頼りにならない。
だけど優美はその夜、彼氏の潤(小関裕太)とデートの約束をしていた。どんなに辛いことがあっても、楽しみがあれば何とか持ち堪えるよね…と思わず共感してしまう。なのに悲しいかな、そういう時に限ってなにもかも上手くいかないのだ。
潤はけっして悪い彼氏ではない。働き者だし、どんなに忙しくても遅れてデートにやってきて、ちゃんと「ごめん」と謝ることができる。だけど自分はお腹が空いていないからと箸休めみたいなメニューばかり頼んだり、優美の話を受け流したり、休日に“彼女と遊ぶ”という選択肢が全くなさそうな感じで絶妙にもやもやする。
そんな「痛い」と口にするほどではないけれど、あると気になってしまう“ささくれ”のような傷を抱えた優美。口当たりまろやかなソイラテとスパイスの効いたカレーを提供するだけで、トウコは彼女の話を聞くわけでも、アドバイスするわけでもない。
なのに、演じる原田知世の母性溢れる笑顔だけで心安らいでいく気持ちはものすごくわかる。
シュールだったのはトウコがおもむろにギターを取り出し、優美の即興ソングに合わせてメロディを奏でる場面。ここで優美は溜め込んだ気持ちを吐き出していくのだが、ちょっと音程が合っていないところや、トウコのゆるい合いの手が逆に味を出している。
ふと、成海璃子は哀愁を漂わせるのが上手いなと感じた。ブレイクのきっかけとなった「瑠璃の島」では親の育児放棄により施設で育ち、心に傷を負った少女、2019年には「フルーツ宅急便」で借金返済のためにデリヘルで働く女性を演じていたが、彼女は常に共感せずにいられない魅力を放っている。
今回もどこか痛々しくて、それでいて「どうか幸せになって!」と願ってしまう愛おしい女性を好演した。スナックを訪れた次の日、何も状況は変化していなくとも心新たに仕事へ打ち込む姿にそっと勇気をもらえる。
本作は「スナック キズツキ」と同じように、観た人の心を癒してくれる物語だろう。
最後に時間が巻き戻され、優美がクレーム対応する場面へ。どうやら第2話は、クレーマーである安達よしみに焦点が当たるようだ。
※この記事は「スナック キズツキ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第2話ストーリー&レビュー}–
第2話ストーリー&レビュー
第2話のストーリー
傷ついた客だけがたどり着く“スナック キズツキ”。コールセンターにクレーム電話をしていた安達さん(平岩紙)もまた、傷ついている。わがままな客や同僚、電車での迷惑行為…いつも、自分ばかり損していると嘆く。しかし、スナック店主のトウコ(原田知世)と一緒にピアノを弾きながら、自らの愚痴を歌にすると、不思議と心が晴れやかに…。今日もまた、トウコの不思議な癒しの力で、誰かの心が救われます!
第2話のレビュー
「人はみな、傷つきながら、傷つけながら生きてる。」をコンセプトとした本作。あっという間に一週間が過ぎ去り、また砂埃みたいなモヤモヤが心に積もった。
どうしてあの人は平気で誰かを傷つけるのだろう?いいなあ、自分勝手に生きられて。だけど、もしかしたらあの人もまた同じように傷ついているのかもしれない。
第2話でトウコ(原田知世)のスナックに辿り着いたのは、総菜屋で働く安達よしみ(平岩紙)。コールセンターに苦情を入れ、イライラをぶつけていた彼女も誰かを傷つける一方で、傷ついた人間だ。
安達さんは一言で表すと、“損する人”。「言ったもの勝ち」という言葉があるけど、一つの主張が通るときには絶対裏に我慢した人がいる。安達さんは歯医者の予約をしているのに、同僚の急なシフト変更依頼に応じてしまうし、残り1つのクロワッサンを別の人に譲ってしまう。ひたすら優しい。でも誰かがそれを見て褒めてくれるわけでもなく、モヤモヤは溜まりに溜まってゆく。
特にバスのシーンなんて、思わず「わかるな〜」と零してしまうほど既視感があった。電車でもそうだが、大股開きで席に座っている人。運賃を払うときにもたついて、後ろの人を困らせる人。笑顔で寛容なフリをしていても、「私だったら、もっと他の人の迷惑にならないようにするけどね」と心の中でチクリ呟いてみたりする。
誰もが完全なる善人ではいられない。安達さんはイライラをコールセンターのオペレーターにぶつけた。本来それは、自分を傷つけた相手にぶつけるべきもの。だけど、ちょうど今クール放送されている「それでも愛を誓いますか?」に登場するセリフを借りるならば、“言わないで後悔すると癖になる”。今日こそ、自分の思っていることを言うぞ!と意気込んでいても、いざ相手を目の前にすると怖気づいてしまうのだ。
こちらの主張に対する相手の反応に傷つくくらいなら、自分が我慢したほうがマシ。一方、コールセンターのオペレーターは顔が見えない相手だから言いたいことがスラスラと出てくるのだろう。
だけど、誰かにつけた傷は自分に跳ね返ってくる。安達さんはオペレーターを傷つけながら、そんな自分にまた傷ついていたのだ。
トウコがそんな安達さんに提供したのは、ラッシーとミネストローネ。刺激のない毎日を送る中田さん(成海璃子)にはちょっとスパイスの効いたカレーを振る舞っていたが、今回は“甘さ”と“温かさ”で誰かの優しさが足りない安達さんを包み込む。
ロールピアノでセッションする二人の演奏シーンもやっぱりシュールだけど、癒される。「潰れかけた店でピアノを弾く」というフレーズを歌うトウコ。冒頭でこぐま屋さん(浜野謙太)が言った余計な一言を、意外にも気にしているところが可愛い。
そんな彼女に触発されて、安達さんも自分の愚痴を歌に乗せていく。気持ちを吐き出すことで気づけたのは、他人を優先してばかりで放ったらかし続けた自分自身。きっと安達さんが一番自分のことを傷つけてしまっていたのだろう。トウコにひたすら甘やかされた安達さんは、心の蓋にしまい込んだ傷を取り出して癒すことができた。
トウコの優しさが安達さんを温めたように、安達さんの優しさもまた誰かを温めている。傷つけられた分、誰かを傷つけるのではなく、優しくされた分、誰かに優しくしたい。そのためには自分をとことん甘やかす必要があるのだ。
劇的に自分を変えられなくても、「ご来店時ラッシー1杯無料」の名刺がきっと安達さんを助けてくれる。
※この記事は「スナック キズツキ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第3話ストーリー&レビュー}–
第3話ストーリー&レビュー
第3話のストーリー
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今回スナック キズツキを訪れる傷ついた客はサラリーマンの佐藤悟志(塚地武雅)。会社では後輩(小関裕太)の態度が気になるが口に出せず、自宅では母親(丘みつ子)との地味な二人暮らし…。スナック店主のトウコ(原田知世)が佐藤に勧めるのは、なんとエアギター!『人生の成功ってなんだ!?』今までためこんでいた不満をシャウトする。
第3話のレビュー
いつもなら見逃してしまうのに、何だかまっすぐ家に帰りたくない時にふらっと立ち寄りたくなるのが、お酒のないスナック キズツキ。
今夜のお客様は、前話登場の安達さん(平岩紙)が乗ったバスの隣席で大股を開いて座っていた佐藤悟志。通称、サトちゃん(塚地武雅)だ。
たまに電車やバスなど、公共交通機関に乗っていると思う。佐藤さんのように大股開きで席を独占していたり、電車のドア脇を何が何でも死守していたり、満員電車に平気でリュックサックを背負ったまま乗り込んだり……。マナーを守らない人たちは普段どんな顔をしているんだろう?と。
きっと家でも会社でも、我が物顔で威張っているに違いない。いや、意外と普段はペコペコしていて、一人の時は気を張らずリラックスムードに浸っているのかもと妄想が広がる。
サトちゃんはどちらかといえば、後者だ。広告代理店で営業を務めるサトちゃんさん。後輩はどんどん昇進して、自分の上司になっていく。会社の花形である企画部の社員には、モヤっとするような態度を取られる。
お酒が呑めないから飲み会にも誘われず、母と二人暮らしの家に帰るだけ。仕事で溜めたストレスを発散しようにもできない。塚地武雅が演じているだけで哀愁が漂っているのに、ひっそりと息を潜めるように日々を送るサトちゃんの姿はとにかく切ない。
もしかしたら、電車でちょっとイラっとするあの人たちもサトちゃんと同じような痛みを抱えているのかなと思ったら、今後見る目が変わりそうだ。
でも、サトちゃんは決してつまらない人間なんかじゃない。甥っ子が大学を合格したお祝いに文句も言わず5万をパッと払ったり、母親に代わってわざわざコンビニまでご祝儀袋を買いに出かけたり、何気ない言動一つひとつに優しさが溢れている。
出かけたついでに立ち寄ったスナック キズツキでは、実は“乗り鉄”という会社の人も家族でさえも知らないであろう一面が浮かび上がる。とっても味わい深いキャラクターなのに、誰もその魅力に気づいてないなんて勿体無い。
トウコ(原田知世)はそんなサトちゃんと、丁寧に豆から挽いたコーヒーを飲みながらフィンランドへ“エア旅行”に出かける。ストリートビューを使って、首都ヘルシンキの中央駅からスタートし、カフェや港へ。コロナウイルスの影響でまだまだ海外旅行は難しい状況だが、たまにはこういうシミュレーションゲームのような旅行も悪くない。
オルゴールのBGMに合わせて、砂時計が落ちるようにゆったりと流れるトウコとサトちゃんだけの時間。だけど、そんな雰囲気を良い意味で(?)ぶち壊すかのように毎度お馴染みの演奏タイムが始まる。
今回の楽器はなんと、世界大会が開かれるほどフィンランドで有名な“エアギター”。スナック キズツキに似つかわしくない激しいミュージックが流れ、「言いたいことがある〜」と、まるでどぶろっくのネタみたいな歌をうたい始めるトウコ。サトちゃんも戸惑いながら意を決して参加し、愚痴をぶちまけていく。
シュールだけど、サトちゃんが歌に乗せた「人生の成功ってなんだ?そのキーワード。それじゃ人生がまるで商売みてえじゃねえか!」という魂の響きが胸に刺さる。
他人の人生を評価する権利なんて、誰にもない。会社での肩書とか、既婚者だとか独身だとか、子どもがいるとかいないとか。サトちゃんをはじめ、私たち人間はつい他人の人生と比べてしまうけど、一体誰に見栄を貼ろうとしているのだろう。
少なくとも、トウコはそんなこと一つも気にしていない。こぐま屋さん(浜野謙太)がバイトリーダーという肩書を失っても、その人自身の魅力は変わらないように。そう、私たちはみんな毎日をさすらいゆく“一匹狼”なのだ。エアギターという楽しみを見つけたサトちゃんに幸あれ。
※この記事は「スナック キズツキ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第4話ストーリー&レビュー}–
第4話ストーリー&レビュー
第4話のストーリー
今回スナック キズツキを訪れる客はイケメンの瀧井潤(小関裕太)。彼女の中田(成海璃子)にはそっけなく、上司の佐藤(塚地武雅)にもちょっと生意気なリア充男子…かと思ったら彼もまた傷ついていた。お金持ちばかりのBBQ。初めて見る世界で、自分を小さく感じてしまう。今回、店主トウコ(原田知世)のおもてなしは、なんと“詩の朗読”!?そして温かいだし巻き玉子が彼の心を解きほぐしていく。
第4話のレビュー
ずっと気になっていた、中田さん(成海璃子)の彼氏で、サトちゃん(塚地武雅)の会社で働く瀧井くん(小関裕太)。彼女には素っ気なく、いつもマイペースで、サトちゃんにもちょっと生意気な態度を取る。イケメンだし、リア充感満載な彼が「スナック キズツキ」第4話のお客さんだ。
でも、そんな瀧井くんを演じているのは最近ドラマに引っ張りだこの小関裕太。「来世ではちゃんとします」や「ラブコメの掟〜こじらせ女子と年下男子〜」をはじめ、多くのドラマで小悪魔系男子を演じているが、過去にあった何かしらの出来事で傷を抱えている設定が多い。
小関裕太はイケメンで何も悩みなんてなさそうなのに、どこか影があり、「この人何かあるな」と想像させるのが上手いのだ。
だからこそ、瀧井くんも気になる。コンビニで奨学金返済をしている時に見せる、憂いを帯びた表情。友人に運転手を頼まれ、駆り出されたお金持ちばかりが集まるBBQで、場違いな感じがして気まずそうに時間を持て余したり。どんどん第一印象が覆され、モテるのに女友達から「家に上がってく?」と誘われても「それはダメでしょ」ときっぱり断る真面目さに全女子の心が射抜かれる音がした。
瀧井くんがBBQでキラキラ系男女の洗礼を受けている時、トウコ(原田知世)はこぐま屋さん(浜野謙太)がお金持ちのお客さんからもらった立派なメロンを嬉しそうに抱える。
どうやら今回は、お金にまつわる話題のようだ。スナックの看板を壊してしまい、お店に入ってきた瀧井くんにトウコは村上春樹の小説『ノルウェイの森』の一節について話す。
「(お金持ちであることの最大の利点は)お金がないって言えることなのよ。たとえば私がクラスの友だちに何かしましょうよって言うでしょ、すると相手はこう言うの、『私いまお金ないから駄目』って。逆の立場だったになったら私とてもそんなこと言えないわ。私がもし『いまお金ない』って言ったら、それは本当にお金がないっていうことなんだもの」
その言葉を聞いて、瀧井くんは友達に美大進学をやめた理由を聞かれ、ごまかしたことや、BBQで高いワインの名前を知ったかぶりしたことを思い出す。彼は本当のことを言えなかった。周りに「かわいそう」と思われて、惨めな思いをしたくなかったから。
※この記事は「スナック キズツキ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第5話ストーリー&レビュー}–
第5話ストーリー&レビュー
第5話のストーリー
今回“スナック キズツキ”を訪れる客はコンビニ店員の富田希美(徳永えり)。アルバイトの傍ら続ける転職活動は全く思うようにいかず、ひそかに思いを寄せていたお客さん(小関裕太)には、気づいてさえもらえず…。今回の店主トウコ(原田知世)のおもてなしは、なんと“しりとり”!「ありふれたものでいいから 確実な明日が欲しい」という気持ちを、世界一おいしいココアとともに、解きほぐす。
第5話のレビュー
大人になると、友達に「最近どう?」って聞くのが少し緊張する。学生時代までみんな横並びで走っていたのに、社会人になった瞬間、それぞれのペースで道を進むようになるからだ。
一生独身でいいと言っていたあの子が結婚した。いつの間にか同級生のあの子は2人目の子どもを産んだらしい。会社の同期はどんどん昇進していく。
「なのに私は」
そうやって周りと比べては落ち込む。スタートは一緒だったはずが、どうしてこうも差が開いてしまうんだろう。
「スナック キズツキ」第5話では、女優・徳永えりがそんな焦燥感を抱えるリアルなオトナ女子を体現した。
富田さんは2回転職したのち、コンビニでアルバイトをしながら就職活動に励んでいる35歳。実家暮らしで、両親からのプレッシャーもひしひしと感じながら日々暮らしている。
そんな富田さんにとって、唯一の楽しみになっているのがコンビニによく訪れる瀧井くん(小関裕太)を接客すること。ご存知の通り、彼には中田さん(成海璃子)という彼女がいる。でも、別に富田さんは瀧井くんと付き合いたいわけじゃない。何か心の拠り所になるものが欲しいだけだ。
だけど就活が上手くいかなくて落ち込んでいたある日、道端でばったり会った瀧井くんに気づいてもらえなかった富田さん。
誰にも見つけてもらえない。誰かの、何かの役に立つわけでもない。そんな寂しさを抱えた富田さんは、自分と同じようにひっそりと佇むスナックキズツキを訪れる。
ホットココアができるまでの間、唐突に始まったトウコ(原田知世)とのしりとり。しかも「りんご・ごりら・らっこ」なんて、ありきたりなものじゃない。
「ホットココア。飲みたくなるってまあまあ疲れた日」というトウコから始まったしりとりで、富田さんは自分の気持ちを零していく。
「ありふれたものでいいから、確実な明日が欲しい」
そこにあるのは漠然とした不安。お金持ちになりたいとか、歴史に名を刻みたいとか、そんな贅沢が言いたいわけじゃない。ただ自分は生きててもいいんだって思えるような瞬間がほしいだけ。
そんな富田さんに返したトウコの言葉は、ホットココアのようにじんわりと心を温める。
「だけど私たちは出場している、この歴史に。歴史の上に否応なしに積もっていく塵みたいなものかもしれんがな」
確実な明日なんて、本当は誰も手にすることなんてできない。富田さんの妹が離婚を決めたように、みんなが明日どうなるかわからない不安を抱えている。歩いて、走って、立ち止まって、時々引き返して。一人ひとりがそうやってゴールに向かい、この世界のレースは続いている。
※この記事は「スナック キズツキ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第6話ストーリー&レビュー}–
第6話ストーリー&レビュー
第6話のストーリー
今回スナック キズツキを訪れる客は主婦の中島香保(西田尚美)。タワマン高層階での暮らしに、息子は京大合格と、恵まれた日々…かと思ったら、彼女もまた傷ついていた。周囲にあえば息子の話ばかりで、自分の人生って…と、未来ある若者がうらやましく見える日々。今回、店主トウコ(原田知世)のおもてなしは、ミラーボールに照らされながらの歌とダンス!?甘酸っぱいリンゴジュースと共に、無敵だったあの頃を思い出す。
第6話のレビュー
今夜の「スナック キズツキ」は、なんだか母のことを思い出す回だった。
大学に合格した私を抱きしめ、一緒に喜んでくれた母。受験の時は私ももちろん頑張ったけど、母はそれ以上に私をサポートするのが大変そうだった。そんな母に、周りの人は言った。「お疲れ様」と。
第6話のお客さんも、同じように子どもが受験を終えたばかりの母親・香保さん(西田尚美)。ちなみに第3話に登場したサトちゃん(塚地武雅)の妹でもある。
香保さんは、息子が京大に受かってホッと一安心。タワマン高層階に暮らし、何不自由ない生活を送っている。
はたから見れば羨ましい限りだけど、自分の母親にも道端でばったり会った同級生にも、息子の大学合格を称賛され、「お疲れ様」と言われることに何だかモヤモヤしていた。
まだまだ若輩者の私だけれど、香保さんの気持ちはわかるような気がする。息子と一緒に頑張った分、抜け殻のようになってしまう気持ち。自分を労るために温泉に行こうと思っても、母親に「これからもっとお金がかかるでしょ」とそれとなく釘を刺され、何を相談しても夫は「君に任せるよ」と投げやりで、親身になってくれない。
青春のど真ん中にいる女子高生たちの姿を見て、「若いっていいなあ」と思った帰り道、香保さんはトウコ(原田知世)に声をかけられる。
そのまま休憩がてら「スナック キズツキ」に入り、フレッシュジュースを注文した香保さん。ふと、思い出す。
物語は遡り、第2話。香保さんは惣菜屋で働く安達さん(平岩紙)に、鯖の欠けた身を綺麗なものに変えてほしいと注文していたのだ。安達さんは何気ないそのやり取りに疲弊していたが、実は香保さんも密かに気にしていた。
「図々しくて、押しが強くて。そんな大人にはなりたくないと思っていたのに」
ルーズソックスを履いて、友達とダンスを踊り、好きな人の何気ない言動にドキドキした日々。
そんな思い出に浸る香保さんを、かつて“時をかける少女”だった原田知世演じるトウコは「今夜ふたたび、無敵になってみる?」という一言であの頃に引き戻す。
ミラーボールに照らされながら、楽しそうに踊る西田尚美と原田知世の競演シーンは見ものだ。二人は2014年のドラマ「紙の月」で共演。その際、西田尚美は映画「時をかける少女」を観て育った世代で、ずっと原田知世に憧れていたことを明かしていた。
変わらぬ美しさで、今なお女優として最前線で活躍する同世代の二人。歌っている内容は現実への嘆きだが、とびきりの笑顔で踊り狂うキュートな姿に元気をもらった人も多いのではないだろうか。
「人生100年時代」と言われる今、40代・50代なんてまだまだ若い。こぐま屋さん(浜野謙太)のように「俺の人生、この先もっと輝く予定です」と周りにアピールして、常に今が最高!と言えたら。
そう言えば、うちの母は先日高校の時に好きだった人と再会し、「昔より今の方が綺麗だね」と褒められて喜んでいた。そうそう、その笑顔が私たち下の世代にとっても、未来への希望となるのだ。
※この記事は「スナック キズツキ」の各話を1つにまとめたものです。
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–{第7話ストーリー&レビュー}–
第7話ストーリー&レビュー
第7話のストーリー
今回スナック キズツキを訪れる客はサトちゃん(塚地武雅)の母、佐藤ヨシ子(丘みつ子)。独身の息子を心配する一方で、夫に先立たれ、友人とも疎遠になり、どこか孤独な日を過ごしている。今回の店主トウコ(原田知世)のおもてなしは、トウコのアコーディオン演奏に合わせて歌うシャンソン!? 「人生何が起きるかわからない」。初めてのスナックで、初めてオニオンスープを食べる。
第7話のレビュー
誰かに縛られるのは嫌なのに、自由って時々苦しい。
「時間が有り余るようになったら、やりたいことも、一緒にやる人も、いないなんてねえ」
今夜の「スナック キズツキ」は、そんな7人目のお客さん・ヨシ子さん(丘みつ子)の言葉が胸に刺さる回だった。
5年前夫に先立たれ、中年の息子と二人暮らしを営むヨシ子さん。ちなみにその息子は第3話のサトちゃん(塚地武雅)、結婚して今は離れて暮らす娘が第6話の香保さん(西田尚美)だ。
どちらもすでに立派な大人だが、やはり母親として心配事は絶えない。特にサトちゃんは独身で、家事全般はヨシ子さんが背負っているため、「もし自分がいなくなったら?」と不安に思っていた。
そんなヨシ子さんを見かねて、香保さんは言う。「いつまでも世話焼いてないで、お母さんも好きなことしたら?」と。だけど、今更もうやりたいことなんてないし、友人ともいつの間にか疎遠になり一緒に何かを楽しむ人もいない。
ヨシ子さんの砂埃みたいに降り積もる傷は、以前トウコ(原田知世)のスナックを訪れる前に香保さんが抱えていたものと少し似ている気がした。人は学校を卒業すると就職したり家庭を持ったり、それぞれの“役割”を与えられる。人生は長いようで短くて、忙しく日々を送っていたら、あっという間に歳を重ねてて。
子供たちが巣立ち、仕事も定年を迎える頃にようやく長年縛られてきた“役割”から解放される。時間にも余裕ができる。だから多くの人は理想の老後ライフを思い浮かべているけど、いざその時になってみると案外ヨシ子さんのように空っぽのような気持ちになるのかもしれない。
そんな時、ふらっと立ち寄った「スナック キズツキ」でヨシ子さんの人生は再び色づくことになる。もちろん、何か劇的な出会いや出来事があったわけじゃない。
初めて訪れたスナックで飲む初めてのオニオンスープと、トウコのアコーディオン演奏に合わせて歌うシャンソン。トウコ流のシュールなおもてなしは、ヨシ子さんにとって全てが新鮮だった。
♪〜自治会の帰り道、路地裏のスナックに一人で入って初めて会った人の前で歌ってる(ヨシ子)
♪〜人生何が起きるかわからない(トウコ)
♪〜そうよ思いがけないことばかり、退屈なんてしてられないわ(ヨシ子)
行き当たりばったりで作ったものなのに、なんて素敵な即興ソングなのだろう。どことなく哀愁は漂っているけれど、けっして“可哀想”じゃない。
人生は思い通りにいかないことばかりで、「こんな筈じゃなかった」と思うこともある。だけどまたヨシ子さんのように、細く長く続いた道の先で人生を輝かせてくれるものにバッタリ出会うこともあるのだ。
ヨシ子さんはトウコにシャンソンのチケットを貰い、自分と同じように夫に先立たれ、独身の娘と二人暮らしの女性を誘う。子ども同士をお見合いさせるのではなく、自分たちが友達になることにしたのだ。
「久々にレコードを聴こうと思って」と嬉しそうに話すヨシ子さんの笑顔と、その横顔を見つめるサトちゃんの優しい表情が何よりのベストシーンだった。
※この記事は「スナック キズツキ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第8話ストーリー&レビュー}–
第8話ストーリー&レビュー
第8話のストーリー
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今回スナック キズツキを訪れる客は香保の同級生の南裕子(堀内敬子)。言うことを聞かない子供たちにも、ヘルパーの仕事でもモヤモヤがたまる日々…。今回の店主トウコ(原田知世)のおもてなしは、なんと“タップダンス”!おいしいシュークリームとコーヒーに癒され、「感謝の言葉が欲しいわけではないけれど、誰かにわかってもらいたい」という気持ちを、タップにぶつける。
第8話のレビュー
トウコ(原田知世)が店主を務めるスナックには、いつも傷ついたものたちが訪れる。言いたいことが言えなくて損ばかりしている人、不確かな将来に焦燥感を抱えている人、歳を重ねて自由になった途端、孤独感に襲われた人。
それは他人から見れば、取るに足らないような痛みかもしれない。普段なら日常の中にそっと溶け、消え入るようなもの。だけど、彼らはふと立ち寄った「スナック キズツキ」で抱えた傷を“成仏”させる。誰もがお店を出るときには、まるで憑き物が落ちたような顔をしているのだ。
でも、これまでのストーリーを思い出してほしい。トウコは一度だって、訪れた客の事情に深入りしたことはなかったじゃないか。占い師のようにズバリ相手の悩みを当てたり、目から鱗が落ちるようなアドバイスをしたり、はたまた「辛かったねえ」と相手の気持ちに寄り添ったり。そんなことは一切せず、ただ「今日もお疲れさん」と丁寧に作ったドリンクと食べ物を振る舞う。まるで実家にいる母のように。
その雰囲気に癒されながらも、トウコが面白いのは多少の“強引さ”も併せ持っているところ。突然朗読やしりとり、ピアノセッションなどに客を誘って、断る間もなく自分のペースに引きずり込んでいくトウコ。そして意図してかせずかは分からないが、戸惑っていた客も流れに身を任せている間に砂埃のように溜まったモヤモヤを吐き出していく。
第8話で登場したのは、パートで働きながら家事や子育てに追われる南さん(堀内敬子)。子どもたちは言うことを聞かないし、ヘルパーの仕事で伺った家でも邪険に扱われる。朝から晩まで働きづめ。そんな時、立ち寄ったスナックでゆっくりとアイスコーヒーとシュークリームを味わった南さんは知らぬ間に涙を流していた。
そこで何も聞かず、そっとティッシュを差し出すトウコの行動が印象的だ。南さんに専用のシューズを履かせて、タップダンスを一緒に踊るトウコは『シンデレラ』に出てくる魔法使いのよう。感謝の言葉が欲しいわけではないけれど、誰かにわかってもらいたい。そんな地団駄を踏みたくなるような気持ちを、南さんはタップにぶつけた。
「スナック キズツキ」は客と視聴者にとって、溜まった鬱憤を次の日に持ち越さないようにするための場所。前半のゆったりした時間に癒されたら、後半は我慢しがちな自分を思いっきり解放する。
お店を出たらそこには全く変わらない世界があり、現実は容赦なく続いていくのだろう。だけど胸のつっかえが取れ、また新たな自分で一歩を踏み出せるような気がする。そんな不思議な力が、この場所には存在するのだ。
最終回までもう少し。この物語が幕を閉じても、おそらくトウコは私たちの知らない場所でひっそりとスナックの看板を出している。
※この記事は「スナック キズツキ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第9話ストーリー&レビュー}–
第9話ストーリー&レビュー
第9話のストーリー
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今回スナック キズツキを訪れるのは裕子の娘で芽衣(吉柳咲良)。17歳の芽衣は、大学進学のことばかり気にする大人達にもやもやするが実は夢がある。そんな中、片想いの人にばったり出会い良い感じの雰囲気になるが…。雨宿りで訪れたキズツキでホットサンドを食べる芽衣。今を大切にしたい芽衣は今ここにいる私って、価値がないってことなのかな』とトウコに打ち明け、今の自分を忘れないためにと驚きの方法を提案する。
第9話のレビュー
都会の路地裏でひっそりと営業する「スナック キズツキ」。そこに辿り着くものはみんな何かに傷つき、そしてまた誰かを傷つけている。そんな痛みや罪悪感をひと時“忘れたい”という気持ちが、彼らをキズツキに向かわせるのかもしれない。
だけど、今夜キズツキに訪れた少女は痛みもすべて“忘れたくない”と願う。
彼女の名前は芽衣ちゃん(吉柳咲良)。南さん(堀内敬子)の娘で、進路に悩む17歳の高校生だ。
芽衣ちゃんがベランダで気になる人の姿を見つめながら、友だちとお昼ご飯を食べる光景が眩しい。あまりの眩しさに思わず目を細めてしまうほど、キラキラと輝いている。
将来のことばかり気にする大人たちに不満を抱えている芽衣ちゃんだが、無理もない。
「生きてる分だけ荷物も多くなる」。こぐま屋さん(浜野謙太)がそう語るように、大人になると色んな責任がのしかかる。会社で与えられた役割を果たさなきゃいけない、大切な家族を養っていかなきゃならない。そんな重い荷物を少し軽くする、学歴やステータスがあれば……。そう思って子供たちにはつい口を出してしまうが、1秒たりとも見逃せない宝物のような日々が学生時代には詰まっている。
けっして楽しいことばかりじゃない。学生の頃だって、もう立ち直れないかもしれないと思うほど深く傷つくことがある。
芽衣ちゃんはこの日、失恋した。気になる人に彼女がいたのだ。
トウコ(原田知世)がスマホの操作を教えてもらったお礼に振る舞ったホットサンドを一口食べ、芽衣ちゃんは涙を流す。南さんも前回、シュークリームを食べて泣いてたっけ。食べ物を口にすると、安心して思わず涙が出ちゃうところに血の繋がりを感じる。
だけど、たくさん傷ついたはずなのに、「17歳の自分をずっと覚えていたい」と失恋した思い出ごと抱きしめる芽衣ちゃんは強い。傷ついた今日を記憶に留めるため、雨の中に飛び出す姿を見て、清竜人が歌うオープニングテーマ「コンサートホール」の冒頭フレーズを思い出した。
♪ 愛されず愛さずに 傷付けられず傷付けずに 生きていけたらいいな
笑わず怒らずに 涙せず喜ばずにいられたら どれだけ楽で苦しいかな
私たちは誰かを愛するからこそ、傷つく。傷つくからこそ、誰かを愛さずにはいられない。
涙が出るほど辛い日もあるから、嬉しいことがあった時に思い切り喜ぶことができる。
それはいつも対になっていることを、芽衣ちゃんは教えてくれた。地団駄を踏むような日々を越えた南さんの瞳に、夢を語るキラキラとした芽衣ちゃんの表情が映るように。
第9話は、芽衣ちゃんの輝きを目の当たりにしたトウコの、いつもとは違う表情が印象的だった。一度は夢を叶えたものの、背負い続ける自信がなく手放してしまったというトウコ。
「真っ直ぐだけだとぶつかって、その度に傷ついて……傷だらけだよ」
いつもそっと傷ついた者たちを迎える彼女もまた、傷ついているのだ。次週はトウコの過去を知るヒントとなりそうな、瀧井くん(小関裕太)の兄・和也さん(八嶋智人)がキズツキを訪れる。
※この記事は「スナック キズツキ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第10話ストーリー&レビュー}–
第10話ストーリー&レビュー
第10話のストーリー
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瀧井潤(小関裕太)は兄の和也 (八嶋智人)と久々に再会しお酒を飲みながら近況を語らう。兄は家庭を支え、祖母の面倒も見、弟想いである。帰り道、瀧井はスナックキズツキを見つけて驚く。そこは亡き父が営んでいた場所だったからだ。昔と変わらぬ佇まいに父との思い出が蘇る。すると現在の店主トウコ(原田知世)が昔から備え付けてある電話を指差し「天国の父親と話してみれば」と提案する。瀧井が恐る恐る受話器をとると…。
第10話のレビュー
ピンクの公衆電話にルーレット式のおみくじ機、お店のロゴが入ったマッチ……。「スナック キズツキ」には、昭和レトロな純喫茶の雰囲気がある。
お店は相当長い間この場所にあるのだろうと思ったが、確かトウコ(原田知世)が営業を始めたのは5年前。それより前にトウコがいるカウンターに立っていた人物が第10話で明らかとなった。
少し駆け足でお店に辿り着いたのは、第4話でチラッと登場した瀧井潤くん(小関裕太)の兄・和也さん(八嶋智人)。今は仕事で大阪に住んでいるが、出張で東京にやって来た。
久しぶりに居酒屋で落ち合い、潤くんの好物であるだし巻き卵を食べる瀧井兄弟。それは亡くなった二人のお母さんがよく作ってくれていたもの。思い出話にはいつも少しだけ寂しさが滲む。
ふと気になったのは、お父さんの存在。その人こそ、最初に「スナック キズツキ」を営んでいた店主だった。
和也さんは亡き父の店が今どうなっているのかが気になって、キズツキに立ち寄った。トウコは5年前にこの店に出会い、店名も変えず居抜きの形でスナックを始めたという。
昔と変わらぬ佇まいに、心なしか安堵した表情を浮かべる和也さん。潤くんを妊娠している母が里帰りしている間、父と二人で暮らしていた頃の思い出が蘇る。
潤くんと和也さんのお父さんは、明るく家族想いな人だった。夢見がちなところもあり、キズツキの2号店を出すと張り切っていたことも。しかし、志半ばでお父さんは病に倒れてしまう。お店を出す時にあちこちで借りた多額の借金を残して……。
そのせいで後に遺された妻と二人の息子は苦労したが、和也さんはちっともお父さんを恨んでいなかった。きっと家族を大切に思っていた父の姿を覚えているからだろう。
思い出すのは、和也さんが弟を「潤」と名付けた時にお父さんが見せた優しい笑顔。結局和也さんより一回り以上年下の潤くんがお父さんと過ごせたのは短い間だったが、その分、和也さんがお父さん代わりとなり潤くんをずっと守ってきたのだと思う。
早くに死んだ親父にもう心配すんなって伝えたい。そう寂しげな笑顔で語る和也さんに、トウコは昔懐かしい公衆電話で思いを伝えてみては?と提案する。
恐る恐る受話器を取る和也さんだったが、話し始めると天国の父と母に伝えたいことが溢れ出す。お店が健在だったこと、子どもが生まれたこと、弟と二人で何とかここまでやってきたこと。近況を報告する和也さんの口ぶりは本当に会話しているみたいで、受話器の向こうから「うん、うん」と頷く声が聴こえてきそうだ。
いつも笑顔で苦労を顔に出さない和也さんだけど、ずっと父と母に「よくやったな」と褒められたかったのではないだろうか。それでも一つも弱音を零さず、心配をかけないように「俺たちは大丈夫だから」と言葉をかける和也さんの優しさが胸に沁みる。コミカルでお茶目なイメージがある一方で、どこか哀愁のある八嶋智人だからこそ成し遂げられる名演だ。
傷ついた者たちが辿り着く「スナック キズツキ」には、互いを思いやる家族の大切なストーリーが詰まっていた。
そして、第10話の終盤にはトウコが5年前までマンガ家だったことも明らかに。しかし、こぐま屋さん(浜野謙太)は話を深掘りせずにお店を去る。あまり多くを離したがらないトウコの雰囲気を即座に察した彼にも、夢を諦めた過去があるようで……。
第11話では、常におちゃらけているが、豊富な人生を歩んできたと思われるこぐま屋さんにスポットライトが当てられる。
※この記事は「スナック キズツキ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第11話ストーリー&レビュー}–
第11話ストーリー&レビュー
第11話ストーリー
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今回スナックを訪れる客は配達に来ているこぐま屋さん(浜野謙太)。いつも元気なひょうきん者…かと思ったら彼もまた傷ついていた。若い人ばかりのお笑い養成所。ネタ見せでは全くウケず、相方ともコンビ解消…それでも夢は諦めきれなくて…今回、店主トウコ(原田知世)のおもてなしは、なんと“漫才”!?クリームソーダを飲みながら夢について話し、漫才を始める二人。トウコらしいツッコミで、気づけば暗い気持ちも晴れやかに!
第11話のレビュー
12月19日放送の『M-1グランプリ2021』(ABCテレビ・テレビ朝日系)で、ボケ担当・長谷川雅紀(50歳)とツッコミ担当・渡辺隆(43歳)によるお笑いコンビ「錦鯉」が優勝。最年長王者の誕生は、全国の”おじさん”に勇気と希望を与えた。
その2日前に放送された「スナック キズツキ」。第11話でスポットライトが当たったのは、いつもトウコ(原田知世)のスナックに飲料を配達しているこぐま屋さん(浜野謙太)だ。彼の本名は上田健一。酒屋でバイトをしながら、お笑いの養成学校に通う上田さんは、在りし日の錦鯉を見ているようだった。
いつも笑顔で明るい人にだって悩みはある。かつて漫画家だったトウコの過去に深く踏み入らなかった彼にも、何か抱えているものがあるのだろうと思っていた。
夢を追う若者が集まるお笑い養成所。その中で上田さんは、10歳年下の同期・山田くん(リクロジー)とコンビを組んでいる。しかし、ある日突然、山田くんからコンビ解消の申し出が。仕方なくピンでネタ見せをすることになった上田さんだったが、山田くんは早々に別の人とコンビを組んでいた。しかも、上田さんのネタより遥かにウケている。
「夢を見るのは簡単だけど、夢を見続けるのはしんどいな」
一人のお客さんとしてキズツキを訪れた上田さんは、そうトウコに零す。上田さんの言葉は、以前トウコが女子高生の芽衣ちゃん(吉柳咲良)に語った「夢って、叶っただけじゃダメなんだ。離れないように背中に括り付けて、歩き続けなきゃなんない」という言葉と被った。
誰に強制されたわけでもないのに、夢は良くも悪くもその人を縛り続ける。大人になってもお小遣いをくれる母親の背中を見送り、元相方から「上田さんって面白くないですよ」と現実を突きつけられ……。そんな惨めな思いをしても、夢を捨てきれない上田さんの思いが突然始まったトウコとの漫才で炙り出される。
夢を手放した人と、夢を諦めようとしている人。二人の漫才はクスリと笑えて、同時に切ない。顔は笑っているのに、心は泣いている。まさにそんな上田さんの状態を表しているようだ。
「もう俺、お笑い辞めちゃおっかな」
トウコは寝たふりをして、上田さんの問いかけをスルーした。夢を諦めるか、このまま追い続けるか。判断を下せるのは、第三者ではなく本人だけ。ここまで、苦しい時も楽しい時も夢と共に歩み続けてきた上田さんだけだ。
その先の未来は誰も保証できない。だけど錦鯉が証明してくれたように、人生には“どんでん返し”が起こり得る。信じるか信じないかは、いつだって貴方次第。
※この記事は「スナック キズツキ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第12話ストーリー&レビュー}–
第12話ストーリー&レビュー
第12話のストーリー
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スナックには『本日休みます。』の張り紙。店主トウコ(原田知世)は法事のため実家に帰っている。思い出の場所と共に、亡き父のことや夢半ばで諦めた漫画家時代に思いを馳せる。スナックキズツキ今日のお客さんは、まさかのトウコ自身。偶然居合わせたこぐま屋さん(浜野謙太)にオムライスを振る舞い、自分やお客さんの日々のモヤモヤを音楽に乗せてデュエット!スナック キズツキは今夜もきっとどこかで営業中。心温まる最終話!
第12話のレビュー
♪ 街のどこかの小さなスナック
路地を進んだずっと奥 キツツキの絵が目印さ
あなたの話を聞くために きっと今夜も営業中
日々の生活の中で傷ついた人がふと立ち寄りたくなる「スナック キズツキ」。クリスマスイブの夜に放送された最終回では、心の傷をそっと癒すトウコ(原田知世)の優しい歌声がプレゼントされた。
「本日休みます。」の張り紙を残して、久しぶりに帰省したトウコ。目的は若くして亡くした父(村松利史)の法事に参加するため。父が営んでいた実家の洋食屋は姿かたちを変えず、トウコの帰りを待っていた。
どこか懐かしい佇まいや、居心地の良い雰囲気はキズツキに似ている。ふとカウンターの棚に目をやると、そこにはかつて漫画家だったトウコの作品や賞状が飾られていた。娘の活躍を喜んだ父と母がお客さんに自慢したくて飾ったのだろう。ここは、夢を追いかけていたトウコが机に向かってペンを走らせていた思い出の場所だった。
あっという間に時は流れ、母(稲川実代子)から手渡されたのは一通のハガキ。新人漫画家のトウコを支えてくれた当時の担当編集が退職する知らせだ。
漫画雑誌で連載を持たせてもらい、夢に邁進していたトウコだったが、その矢先に父が病で倒れた。看病のために週末は東京から実家に帰るという忙しい日々を送りながらも、必死で漫画を描き続けたトウコ。しかし、無情にもそんな彼女に担当編集から連載打切りが告げられる。
「夢って、叶っただけじゃダメなんだ。離れないように背中にくくりつけて歩き続けなきゃなんない」
以前トウコがポツリと呟いた言葉の意味がようやく分かった。漫画家をはじめ、多くの人が夢見る職業は競争率が高い。活躍の場を獲得するため、心休む間もなく常にライバルと競い合わなきゃならないのだ。
連載終了からしばらくして父が亡くなり、トウコは夢を手放した。
そして5年前、トウコは立地が悪くて長らく買い手がつかなかった「スナック キズツキ」に出会う。実家の洋食屋みたいで、初めて訪れたとは思えないその場所でトウコはお店を開くことにした。
子育てがひと段落して孤独を感じていた主婦、学生時代を謳歌する女子高生、夫に先立たれて暇を持て余す老女、父と母を早くに亡くし二人きりで生活を営んできた兄弟……。
そこには意図せず、傷ついた人たちが集まってきた。誰かに話を聞いてもらいたい帰り道、なぜか目に留まる「スナック キズツキ」の看板。控えめな佇まいだけど、不思議と誰もがお店に吸い込まれていくのは彼らとトウコの傷が呼応したからかもしれない。
思い出の香りを胸いっぱいに吸い込んでトウコが東京に戻ると、お店の前にはいつものようにこぐま屋さん(浜野謙太)がいた。お昼を食べ損ねた彼に、トウコはオムライスを振る舞う。ケチャップライスがきちんと卵に包まれた昔ながらのオムライスは、トウコが東京に旅立つ日、父が作ってくれたものだ。
「まだまだ伸び代があるってことで」。そう言ってトウコはオムライスのてっぺんに、お子様ランチのような旗を立てる。
ここまではトウコがお客さんをもてなすいつもの光景。だけど実は、トウコが今日のお客さん。お腹いっぱいになって満足したこぐま屋さんにマイクを渡され、トウコは冒頭の曲を歌う。
透明感あふれる優しい歌声はこれまで訪れたお客さんたちの心に寄り添うだけじゃなく、トウコ自身の人生を讃えているようにも聴こえた。
誰のことも傷つけず、誰にも傷つけられない人生なんてどこにもない。みんな何かしら心にモヤモヤを抱えていて、それは日々の疲れとなり蓄積していく。大したことないと思っていても人間とは不思議なもので、心の傷は時に命をおびやかしかねないのだ。
そんな中、ほっと落ち着け、気持ちをいろんな方法で発散させてくれるトウコのスナックはRPGの回復ポイントみたいだった。そして、このドラマも。ゲームをクリアする魔法は使えないけど、また旅へ出られるように疲れ切った心と身体を癒せる場所。トウコの傷も、笑顔で帰っていくお客さんを見送る度に小さくなっていったのかもしれない。
体力を回復しては旅に出てを繰り返すことに何の意味があるのかはわからない。でもある日、思わぬプレゼントが落ちてきたりもする。トウコが帰った実家で、自分が描いた漫画のファンだという女の子に出会ったように。
スナックのカウンターで、久しぶりにトウコは漫画を描き始めた。タイトルは「スナック キズツキ」。この物語はトウコがお客さんとの出会いを綴ったエッセイだったのねと、微笑みが溢れる最終回だった。
(文:シネマズ編集部)
※この記事は「スナック キズツキ」の各話を1つにまとめたものです。
–{「スナック キズツキ」作品情報}–
【「スナック キズツキ」作品情報】
【番組名】
ドラマ24 『スナック キズツキ』
【放送日時】
2021年10月8日(金)深夜0時12分スタート!
【放送局】
テレビ東京、テレビ大阪、テレビ愛知、テレビせとうち、テレビ北海道、TVQ 九州放送 ※テレビ大阪の放送日時は未定
【主演】
原田知世
【出演】
成海璃子 平岩紙 塚地武雅 小関裕太 浜野謙太
【オープニングテーマ 】
清 竜人「コンサートホール」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
【監督】
筧昌也、湯浅弘章
【脚本】
佐藤久美子、今西祐子
【チーフプロデューサー】
阿部真士(テレビ東京)
【プロデューサー】
濱谷晃一(テレビ東京)、井上竜太(ホリプロ)、奥村麻美子(ホリプロ)
【制作】
テレビ東京・ホリプロ
【製作著作】
『スナック キズツキ』製作委員会
【公式HP】
https://www.tv-tokyo.co.jp/kizutsuki/
【公式Twitter】
kizutsuki_tx
【公式Instagram】
kizutsuki_tx