木曜ドラマ「科捜研の女 season21」が、2021年10月14日(木)より放送スタート。沢口靖子主演の大人気サスペンスシリーズが、木曜の夜に帰ってくる。
画像分析やDNA鑑定などの科学技術を駆使し、難解な犯罪捜査に立ち向かう様を描いた本シリーズ。榊マリコ(沢口靖子)の活躍もさることながら、ともに捜査に精を出す刑事・土門薫(内藤剛志)の熱血ぶりも魅力だ。
cinemas PLUSでは毎話公式ライターが感想を記しているが、本記事ではそれらの記事を集約。1記事で全話の感想を読むことができる。
もくじ
第1話レビュー
京都府警科学捜査研究所の法医研究員・榊マリコが科学の力で事件を解決していく「科捜研の女」。2021年に初の劇場版も公開されたテレビ朝日の人気長寿シリーズのseason21がついにスタートした。
京都府警に来たマリコの元夫・倉橋は、二つのことを持ちかける。一つはマリコの警察庁への異動。もう一つは事件の捜査依頼。倉橋の同僚・立岡が京都出張中に転落死したが、警察庁はなぜかこの事件に箝口令を敷いているらしい。元夫の願いを快諾したマリコは、日野所長が止めるのも聞かずに早速捜査を始める。やると決めたらなんとしてもやる。彼女はいつでもそうだ。
なお、マリコにはもう一つ特徴がある。それは、必要ならば上司でも誰でも平気でこき使うこと。今回その標的となったのは土門の部下・蒲原。マリコと一緒に現場で科学捜査をする羽目になり、「スパルタ教師だよ…」とぼやく姿には思わず笑ってしまった。思えばシーズン15で登場したときは土門らと対立していた彼。いつの間にやらずいぶん丸くなったものだ。
捜査の甲斐あってマリコと蒲原は現場で繊維片を発見。ごく小さなものだが、こうした些細な証拠こそ大切だというのが本作の定石だ。そして、事件当日に立石が訪れていたガールズバーが実は闇カジノだと判明。箝口令の理由はこれだった。
宇佐見が鑑定した結果、繊維片は男物のリュックのもの。立岡の所持品らしいが現場では見つかっていない。リュックが盗まれたのではないか…というマリコと土門の主張で藤倉刑事部長も捜査を認め、ようやくいつもの科捜研の鑑定がスタートした。
防犯カメラを解析する亜美に転落シミュレーションを試みる呂太。事件を通報した電話の音声を解析する宇佐見とマリコ。テーマ音楽にのって捜査員たちが科学技術を駆使するお約束の流れはいつ見ても心が躍る。筆者がこのドラマで一番好きなシーンだ。もちろん、土門と蒲原も捜査に動く。立岡は京都で民間の職業訓練センターを訪れ、警察の退職者向けの研修計画を進めていたのがわかった。
その後、立岡のスマホをたどっていった結果、立岡が闇カジノの用心棒・桑名と会っていたことが判明。桑名は元刑事。懲戒免職になった警察官のための研修を進めていた立岡に世話になっていたという。彼の証言によると、立岡は自身が管理していた懲戒免職者リストが暴力団の手に渡ってしまったのを取り戻そうとしていたらしい。そして、桑名は事件当日立岡の転落死を目撃。自身が疑われるのを恐れて立岡のリュックを持ち去ったのだった。事故を通報した音声が彼のものだったことをマリコが明らかにする。
桑名がカジノに隠していたリュックを鑑定する科捜研。結果、立岡を殺したのは職業訓練センターを主催する女性・奥沢だとわかった。リュックに彼女の腕時計のベルトと一致する繊維とチョークの成分が付着していたのだ(職業訓練センターには黒板とチョークがある)。立岡のリストを暴力団に流していた奥沢。それを知って告発しようとした立岡と揉めた末に突き落としてしまったのだった。
この第1話には人気声優・沢城みゆきがゲストで登場。立岡の元妻で数学者の和穂を演じたが、滑舌のよさとのびやかで艶のある声が聞いていて非常に気持ちがよかった。瞳の奥に影を宿して語る姿に学者らしい知性がそこはかとなく感じられ、非常に心に残る演技だったと思う。
なお、結果的に警察庁の面子を潰したため、マリコの異動は白紙になる。ただ、物語を見ていたかぎり、彼女の心の奥底にある答えはとうに決まっていたように思えた。劇中でごく自然に次のような言葉を口にしていたからだ。
「科捜研の仕事は私の天職だと思っています」
「私と土門さんで調べてみる」
科捜研の仕事をする。土門とともに捜査をする。結局はこれらがマリコの中にある揺るがない理念なのだろう。実際彼女はこの使命をずっと全うしてきて、これからもやり続けるに違いないのだから。
科学の力を信じ、周りの者たちを容赦なく巻き込んで事件に挑む榊マリコ。21年目のシーズンも初回から彼女はまったくブレていなかった。今後の活躍が楽しみだ。
※この記事は「科捜研の女 season21」の各話を1つにまとめたものです。
–{第2話レビュー}–
第2話レビュー
2話でも相変わらずやる気満々のマリコ。被害者・佐々浦洋子の服についた血痕などを調べて、何も出なかったらもう一度現場で採取する……と意気込む。さらに、被害者の爪から土壁、着衣から塗料のベンガラが見つかり、神社仏閣に使われるものだと知るやいなや「神社仏閣や京町家を全部調べるしかないですね」と、とんでもないことを言い出す。
さすがに「全部は無理だって!」と日野所長が声を上げたが、「無理でもやります」と涼しい顔のマリコ。彼女は優秀だが無茶ぶりが過ぎるときが本当に多い。ときどき周りの同僚たちにどうしようもなく同情したくなる。
そして、土門と蒲原も捜査に動く。結果、事件を通報した洋子の隣人・沙織や下の部屋に暮らす左官職人の坪倉、洋子の元上司でパワハラをした疑いのある新井典子など、疑わしき人物が数名出てきた。
そんな中、マリコと土門は意外な人物と再会。洋子の部屋を訪れると特殊清掃員が消毒していた。血液などが破壊されてしまう……と慌てて止めるマリコだったが、とりあおうとしない。それは、ダイエット菌事件(劇場版)の際、加賀野亘に心酔していた女性・秦美穂子だった。さらに、特別清掃会社の社長・阿武隈も現れる。
結局、部屋の清掃を止められない中で証拠となるものを探したマリコと土門。アパートをあとにした二人を美穂子が追ってくる。
「二度も奪うつもりですか? 私から道しるべを」
マリコたちによって、加賀野の研究室に入る夢が断たれた美穂子。その後、阿武隈と出会い、死者を弔って部屋を清掃する……という彼の仕事への思いを聞いて特別清掃員になったという。「警察はただ事件を解決するだけ。残された人が絶望の縁にいたとしても、それを救う義務はないし再生する意欲もない」と彼女は言い放つ。
明らかにマリコたちを敵視していた美穂子。劇場版鑑賞済みの筆者からすると、彼女の恨みの方向はちょっと筋違いに感じる。
とはいえ、何かを失ったという点では、彼女も事件の被害者。誰かを恨まないとやりきれず、せっかく見つけた新たな道にマリコが現れたので、また邪魔しに来たように思えてしまったのかもしれない。
その後阿武隈が生前の洋子と会っていたと判明。マリコたちがなぜ隠していたのかと聞くと、彼は「死者の尊厳を守るのが自分の仕事」と答える。洋子は阿武隈の会社に大量処分清掃の依頼をしていたらしい。いわゆるゴミ屋敷の清掃だ。阿武隈が一人で部屋の清掃をしたと知って、阿武隈なら警戒されずに洋子に会える……とマリコは考える。
沙織、坪倉、典子、そして阿武隈。不審な点ありの犯人候補が次々増えていく。そんな中、突破口となったのは、例の土壁とベンガラだった。
実は、沙織がバイトをしているカフェには土壁があり、ベンガラで塗装がされていた。これらの成分を店から宇佐見が採取する。
そして、典子のスマホを調べていた呂太と蒲原は、土壁をバックにした典子と坪倉のツーショット画像、さらにベンガラの塗料が置いてある写真を発見する。
マリコたちが調べた結果、被害者から採取された土壁とベンガラは沙織のカフェのもの。典子のスマホの写真も同カフェで撮影したものと判明した。さらに、典子のスマホに付着していた指紋が洋子の家で見つかったものと一致する。指紋の主=真犯人は、典子の部下で洋子の元同僚の青山美咲だった。
忙しい仕事に耐えられず退職した洋子。仕事を引き継いだ美咲も大量の業務に苦しんでいた。事件当日、塗装の仕事のためカフェを訪れ、上司の典子と職人として入っていた坪倉の写真を撮影。夜に洋子の元を訪れた。しかし、会社の話を聞きたくない洋子から避けられ、思わず逆上して殺害に及んでしまったのだった。
事件解決後、マリコと土門は阿武隈と美穂子の元を訪れて「押収した中にあった」とあるものを見せる。それは美穂子が作ったボディクリーム。大量清掃の際、洋子の手が荒れているのを見た阿武隈が渡したものだった。洋子は自殺するつもりだったが、クリームときれいになった部屋のおかげで思いとどまったのだ……と伝えるマリコに、「すごいですね、警察って。故人の気持ちまで汲み取るんですね」と阿武隈は微笑んだ。
その後、またマリコたちを追いかけてきた美穂子。「社長と仕事がさらに好きになりました。これからも社長についていきます!」と宣言した。やはり、彼女はどこかずれているよう。とはいえ、前よりずっと晴れやかな顔で、信じる目標を掴んだのが伺えた。
美穂子は理解しなかったかもしれないが、決して「事件を解決するだけ」ではなかったマリコと土門。二人は死者の思いを理解し、関わる人々をしっかりとフォローした。それもまた警察の仕事だと、彼らはとっくに知っていたのだろう。
※この記事は「科捜研の女 season21」の各話を1つにまとめたものです。
–{第3話レビュー}–
第3話レビュー
榊マリコ。彼女のトレードマークといえば白衣、そして自転車。本作では自転車で颯爽とやってくる彼女の姿を時折見られる。この3話でも、マリコが自転車を走らせて事件を解決に導いた。
自転車が突如爆発を起こして死亡したIT企業社長・磐田(西ノ園達大)。まず事件の手がかりとなったのは、彼の首筋に付着した金継ぎの成分だった。磐田を恨む者たちのリストに金継ぎの器で珈琲を出すカフェがあり、訪ねていくマリコと土門。するとお店は、アプリ開発会社「ミラクル製作所」のオフィスになっていた。
同社の社員が作るアプリは、冷蔵庫の残り物で京料理が作れる「なんでも京料理」や、近くにいるマッチョをAIが教える「カモン、マッチョ」など。いずれもまだ欠点ありだが、なかなかユニーク。「なんでも京料理」などは、完成すればそれなりに人気を集めそうな気もした。
社長の越智(松尾諭)が開発したアプリで、磐田が主催するアプリコンテストに参加していた彼ら。しかし、舞台上で磐田から批判され笑いものになってしまった。
なにかと争いを繰り返し、どうにもまとまりのない「ミラクル製作所」の面々。後からわかったが、越智が磐田を見返すために作った会社らしい。越智いわく「ムカつく奴ってエネルギーになるし」。社員はみな磐田に恨みを抱き、かみ合わなくとも同じ憎しみのおかげでやってこれたという。
捜査を進めると、越智が事件当日、磐田に会いに行っていたのが判明。オフィスで金継ぎのカップを割って成分が付着した服のまま出かけて、爆発を目撃。彼が遺体に触れたため金継ぎの成分が付いたらしい。とはいえ、越智は犯行を否定した。
その後、自転車に仕掛けられた爆弾は激しい振動で爆発するものだとわかる。事件現場にはガタガタした石畳があり、磐田がその道を通ると想定済みでの犯行だったようだ。
磐田のスマホを調べると、中にあったのは越智が作ったアプリ。これは散歩やサイクリングの最中にラーメン屋の前を周って香りで満腹中枢を満足させ、ダイエットをサポートする…というもの。ラーメン店から営業開始時と終了時に通知を送ってもらい、それを元にルート案内するのだという。これを使えば石畳への誘導もできるかもしれない。「だったら試してみるしかないわね」とマリコは決意する。
自転車に乗って出発するマリコと呂太(渡部秀)。事件が起きたのと同じ曜日(水曜日)・同じ時間にアプリの案内ルートで爆発現場に到着できるかを調べる実験だ。
普段乗り慣れているだけあって、軽やかに自転車を進めるマリコ。しかし、次々美味しそうなラーメン店に案内され、これで匂いだけで満足とか絶対に無理では?と思ってしまう(実際、筆者は見ていてかなりラーメンが食べたくなった)。そして、現場近くまで来ると、アプリは石畳とは反対側の道を指定。ラーメン屋「豚新丸」の前で爆発した時刻になってしまった。
「豚新丸」に入ったマリコたち。先週の水曜日に営業していたかを訊ねると、以前は水曜定休だったが、先週から年中無休にしたと答える店主。ただ、犯行当日は開店してすぐマッチョな男たちが来店。こぞって特大の“横綱盛り”を注文して麺やスープがなくなり、早めにお店を閉めたという。
横綱盛りが何人前なのかを知りたがるマリコに「知りたきゃ食べてみな」という店主。特大の器にたっぷりの具がのったラーメンを食べながら「もしかして…」とマリコは頭をめぐらせていった。
定休日だったはずのお店が営業すれば、アプリの案内ルートが変わってしまう。なので、犯人はお店を閉めるためにマッチョな男たちを雇ったのでは…と考えるマリコたち。
「カモン、マッチョ」で探したところ、ラーメンを食べたのは大学のレスリング部員たちだとわかる。彼らの元を土門と亜美(山本ひかる)が訪ねると、報酬を置きにきた真犯人が防犯カメラに映っていた。犯人はアプリコンテストに優勝した会社の社長・水瀬悠真(伊島空)。磐田から「優勝を撤回するかも」という話を受けて憤慨したため犯行に及んだのだった。
なぜ磐田はコンテスト結果を覆そうとしたのか。
それは越智の会社の女性社員に会い、彼女の息子が「いい匂い」と食べ物にうっとりするのを見たからだった。貧乏で、隣の家から漂うおかずの匂いとともに白飯を食べる子ども時代を思い出した彼。食べ物の匂いは幸せなものだと気づいたのだ。だからこそ越智のアプリを試して、場合によっては優勝を差し替えよう…と、あの日アプリを起動して自転車を走らせたのだった。
今回、ちょいちょい笑ってしまったのが、上司のフォローにいそしむ蒲原(石井一彰)。「映える」を「はえる」と言った土門に「“ばえる”です」と耳打ち(やはり土門は流行りに疎かった…)。さらに、マリコに無茶ぶりされ苦虫を噛み潰す日野(斉藤暁)に、越智の言葉を借り「ムカつく奴は仕事のエネルギーになるって…」と声をかけていた。
他の若者二人・呂太と亜美はともにマイペースで空気を読まないタイプ。それだけに、周りを気遣いができる彼は意外と貴重な存在かも…と今更気づいてしまった。
なお、この3話で一番驚きだったのは、マリコが“横綱盛り”ラーメンをほぼたいらげていたこと。大食漢には全く見えないスリムなスタイルの彼女。しかし、人一倍ガッツがあり、科捜研の仕事に全身全霊で取組んでいるだけに、実はかなり食欲旺盛なのかもしれない。
※この記事は「科捜研の女 season21」の各話を1つにまとめたものです。
–{第4話レビュー}–
第4話レビュー
「靴だけきれい」
被害者のピカピカの靴を見てそう口にするマリコ(沢口靖子)。
殺された横沢(湯浅崇)は3年前に亡くなったプロ野球選手・上杉栄太(梅原勇輝)の異父兄弟。栄太の妻・明里(音月桂)が靴磨き職人だと知ったマリコたちは彼女に会いに行く。
明里の夫は生前横沢の借金を肩代わりさせられていた。つまり殺す動機があるともいえる彼女。しかし、事件当日は常連客の靴を磨いていたという。
彼女の話を聞いたマリコは、突然次のように言い出した。
「私に靴磨きを教えてもらえませんか?」
明里とともに靴磨きを始めるマリコ。しかも磨くのは土門(内藤剛志)の靴。サンダルを履いて「なんで俺の靴なんだよ」とぼやく彼がなんともおかしかった。丹念に指でクリームを塗るマリコ。見ていた蒲原(石井一彰)が「マリコさんて普段から靴磨きするんですか」とたずねると、「するわけないだろ」と土門は答える。いったい彼はどんな感情だったのだろう。
ただ、この靴磨きにはちゃんと理由があった。手がかりの入手だ。
科捜研は土門の靴を鑑定。付着した明里の指紋は被害者の靴の指紋と一致した。つまり横沢の靴を磨いたのは明里。しかもそれを隠していた。
その後、事件当日明里が急きょ外出していたとわかる。また店にあった靴職人の道具「ポンポン」が凶器の形状と一致。証拠が次々出てくる。しかし、間違いなく彼女が犯人だという確証にはなかなかたどりつけない。
結局、謎を解くカギとなったのは、横沢の手に付着していた油・木蝋(もくろう)だった。
明里の店の品々を鑑定した結果、木蝋が塗られていたのは栄太の遺品のグローブ。しかし、同品に横沢の指紋は付着していなかった。
そして、明里のスマホのメールから、彼女の外出は万引きした息子を迎えに行ったものと判明。息子・健太(栗田倫太郎)に会ったマリコは、野球をやっている彼に「グローブには木蝋を塗るものなの?」とたずねる。普通は専用のグリスを塗ると答えた健太。ただ、彼は木蝋を使う人物に心当たりがあった。
それは明里の常連客・赤宮公達(ダンカン)。かつて栄太の後援会長だった彼が遺品のグローブを木蝋で磨いたのだ。古いスポーツ用品を途上国に送る活動もしている赤宮の自宅ガレージには、木蝋で磨いたグローブが大量にあった。
横沢の指紋があるか調べよう……と赤宮家から持ち込んだグローブを鑑定する研究員たち。普段は面倒な仕事にぼやきもする彼らだが、いざというときのチームワークは抜群。グローブを一つ一つ調べる気が遠くなるような作業に全員で取組む姿が気持ちいい。
努力の甲斐あって、マリコたちは横沢の指紋が付いたグローブを発見。つまり、真の犯行現場はグローブが保管されていた赤宮家のガレージ。殺したのは赤宮家の嫁・遥(村崎真彩)だった。
遥の夫は横沢の脱税の手助けをしていた。横沢がそれをネタに恐喝してきたため、遥は義母と協力して彼を殺害。明里の店から持ち出したポンポンを凶器に使ったのだった。
無罪だった明里。マリコと土門は彼女に謝罪し、健太が万引きした真意を明かしていく。自分が問題を起こして野球をやめれば母が無理に靴磨きをしないですむと考えた健太。母思いの息子に、明里はきれいな靴でお客が前向きになるのを願って磨くのはとても楽しい仕事なのだ……と伝えるのだった。
明里のような専門の職人が登場する場合も多い「科捜研の女」。プロの仕事の工程や道具が見られるのも本作の醍醐味で、今回も靴磨きの手仕事や道具のポンポンがなんとも興味深かった。
また、この4話で嬉しかったのは、今シーズン初の風丘早月(若村麻由美)の「まいど!」が聞けたこと。いつも解剖結果と差し入れ持参でやってくる彼女。今回のおやつはフルーツ大福だった。美味しそうなお菓子が出てくることもまた本作の魅力なのだ。
※この記事は「科捜研の女 season21」の各話を1つにまとめたものです。
–{第5話レビュー}–
第5話ストーリー&レビュー
ピアノコンクール最終予選の前夜、審査委員長・ハンナ(ミルタ)が殺害された。
容疑者は事件当日現場を訪れた4人。ピアノ練習を行った山崎(山岸門人)、佐光(渋谷飛鳥)、戸村(川野直輝)の3人のコンクール出場者と調律師の和田(崎山つばさ)だ。
まずあやしく思えたのは和田。現場のピアノを調律した後に鍵盤を拭いておらず、遺体から見つかった繊維と同じ成分のフェルトを所持。いろいろ不審な点がある。しかし、彼の道具を鑑定したところ凶器になりうるものがいくつもあり、わざわざフェルトを使うだろうか?とマリコ(沢口靖子)は疑問に思う。
そんな中、蒲原(石井一彰)が新たな情報を持ち込む。実はかつてピアノ留学してハンナに師事していた和田。ハンナにピアノを酷評され演奏家への道を断念したため、事件当日ハンナと顔を合わせたくなくて急いでその場を離れたことを明かす。彼は去るときフェルトをピアノの下に落としていた。
一方、出場者たちも事件当夜のアリバイが証明できない。しかも、佐光の母がハンナにお金を渡そうとして拒否されていたり、山崎が実は病を抱えてコンクールに挑んでいたりとさまざまな事実が明るみに出てくる。おかげで、なかなか犯人が特定できない。
そんな中、突破口を開いたのは、ピアノを弾く際の「運指(指運び)」に気づいた日野所長(斉藤暁)だった。
運指は、同じ曲でも奏者によって異なる。ピアニストは手や指のサイズを考えて最も弾きやすい運指で演奏する。だから、同じ曲なら何度弾いても同じ運指になる……と日野は解説する。
「面白いでしょ?」という日野に「面白さがわかりません」「それが事件と何の関係があるんです?」と返すマリコ。上司にもまったく気を使わない直球ぶりがなんとも彼女らしい。
しかし、鍵盤の指紋を照合した結果、事件当日の練習中に一度だけ運指を変更した奏者がいたと日野が明かすと、マリコは顔を輝かせる。遺体の首に爪のかけらが付着しており、犯人は犯行時に怪我した可能性が高い。つまり犯行後にピアノを弾き、怪我のために運指を変えざるを得なかったのでは?というのが日野の見立てだった。
そこで、マリコたちは実況見分を決行。和田が調律し、山崎、佐光、戸村の3人にピアノを弾いてもらって撮影。運指やピアノ内部のハンマーフェルトの画像を解析していく。演奏方法にアプローチする科学捜査。こんなやり方もあるのかと感心させられる。
鑑定した結果ついに犯人が判明。事件当日、運指を変えて演奏したのは戸村だった。
年齢制限があるコンクールに年齢詐称をして挑んでいた戸村。それに気づいたハンナに辞退をせまられたため、和田のフェルトを使って殺害したのだった。
予選の結果は、戸村が優勝。しかし、次点の佐光が本選に進むことになる。山崎は舞台上で倒れて入院。ピアニストを目指す彼らをめぐる事件は、晴れ晴れしいとはどうにも言い難い結末となった。
この5話で、重要な手がかりを見つけたのは日野。かつて見事なトランペット演奏を披露したこともあり、音楽の知識もあるに違いない彼ならではのお手柄だった。
マリコのストレートな返しに「嫌な言い方~」「嫌な聞き方~」と嘆きつつも、怒らず皆にわかりやすく説明していた日野。日頃舐められがちだが、やはり科捜研のまとめ役。知識と鑑定力と包容力を兼ね備え、いざというとき、とても頼りになるリーダーなのだ。
※この記事は「科捜研の女 season21」の各話を1つにまとめたものです。
–{第6話レビュー}–
第6話レビュー
刺殺された横井友哉(松木賢三)。彼は京都府中部の山田村のご当地キャラグッズを所持していた。
山田村は“天空和尚”が奈良時代に彫った観音菩薩像が人気の土地。しかし、村を訪れた横井は仏像の年代に因縁をつけたという。年代は2年前に鑑定済みだと住民たちは主張。ただ、村長(生田智子)は意味ありげな顔をし、寺の住職の松野(町井祥真)は鑑定書類をなくしたという。2年前の鑑定結果を村が隠していて、事実を知った横井が村の誰かを恐喝していたのでは?と睨むマリコ(沢口靖子)と土門(内藤剛志)。
そんな中、捜査線上に山田村出身の3人の若者が浮かび上がる。
一人は、“鑑定王子”として知られる一条礼司(元木聖也)白いスーツのイケメン鑑定師だが、日野所長(斉藤暁)いわく「なんだかうさんくさくない?」な雰囲気も感じさせる。ちなみに一条役の元木聖也は「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」で、銀色のスーツにキザなセリフが持ち味の高尾ノエルを演じていた。
そもそも菩薩像を天空和尚作と認めたのは一条。おかげで山田村は人気を集めるようになった。ただ、もしも仏像が奈良時代に作られたものではない……となると、彼の鑑定も間違いということになり信用はガタ落ちする。だとすれば、横井を殺す動機は十分にあるといっていい。
二人目は横井のビジネス仲間だったという窪塚(岩井拳士朗)。一条や松野とも旧知の仲らしい彼は「(村が)インチキ御本尊で儲けている」と横井に話したことを認める。
そして、三人目は住職の松野だ。
仏像の年代を鑑定しようとマリコたちが寺を訪れたとき、なぜか仏像がなくなっていたが、その際、宇佐見(風間トオル)と日野が2年前の鑑定結果の情報を知らせる。そこには仏像の素材は10世紀=平安時代に伐採されたものだと書かれていた。松野は村のためにこの事実を隠してきたが、事実を知る横井が現れ金銭を要求されたという。
なお、仏像を持ち去った犯人は程なく特定。現場に特徴のある足跡が見つかり、一条がよく履いている靴と一致。村境のコンビニの防犯カメラにも彼の車が映っていた。これら証拠を亜美(山本ひかる)と蒲原(石井一彰)が一条に突きつける。淡々と鑑定結果を提示する亜美のそばで蒲原が着実に問い詰め、それぞれの先輩(マリコと土門)によく似てきたなあ……そと感じた。
その後、天空和尚が西暦770以降に布教の旅に出たと知ったマリコは、「もしかして……」と閃いた。
実は、775年に大量の宇宙放射線が降り注いで大気中の放射性炭素の濃度が急上昇する「775年イベント」なる事象が起きていた。昨年判明したもので、2年前の鑑定のときは未発見だった事実だ。
一条が隠した場所から仏像を入手したマリコたちは、「775年イベント」を踏まえて改めて仏像を鑑定。年輪に含まれる炭素の減り方を調べた結果、仏像は天空和尚の時代に作られたものだと判明した。
自身の鑑定が正しかったのを知った一条は事実を明かす。実は彼も鑑定のミスをネタに恐喝されていたのだ。しかし、横井との待ち合わせ場所に行くと既に彼は死んでいたという。疑われるのを恐れて現場で触れてしまった凶器のナイフを持ち去った一条。その後、マリコが鑑定すれば鑑定士生命が終わると考え、仏像を盗んだのだった。
そして、一条が提出した凶器のナイフから、マリコは新たな突破口を見つける。
「真実はしいたけが教えてくれるわ」
ナイフにはしいたけの菌糸の一部が付着していた。しいたけは山田村の名産品だ。株を特定するため、マリコたちは山田村でしいたけ狩りを決行する。
鑑定の結果、ナイフに付着したしいたけの原木は窪塚の実家のものと判明。彼こそが横井を殺した犯人だった。
村の出世株の一条を妬んでいた窪塚は、横井に仏像の秘密を明かして一条を恐喝するよう仕向けた。しかし、横井は松野や村長までも脅し始める。「村の連中手あたり次第揺さぶってやろうかな」という彼の言葉を聞いた窪塚は、たまらず背中を刺してしまったのだった。
この6話には、元木聖也の他に「仮面ライダーエグゼイド」でグラファイトを演じた演じた町井祥真、「SUITS/スーツ」の館山健斗役などで知られる岩井拳士朗がゲスト出演。注目株の若手俳優たちによる豪華共演回となった。それぞれのやり方で生まれた村を守ろうとする若者を演じた彼ら。「青いよな。村の空は」と心を通じ合わせていくラストは、悲しくもすがすがしかった。
今回、山田村に赴いたマリコは同僚たちにお土産を買ってくる。宇佐見にはしいたけ茶、亜美にはUSB、呂太(渡部秀)にはお菓子。そして、日野には入浴剤を渡して「ゆっくり温まってくださいね」と労わった。日頃自身が無茶ばかりして上司のストレスを増やしているのを、実は彼女も自覚しているのかもしれない。
※この記事は「科捜研の女 season21」の各話を1つにまとめたものです。
–{第7話レビュー}–
第7話レビュー
特撮OB/OGの出演がなにげに多い「科捜研の女」。現レギュラーにも「仮面ライダーオーズ/OOO」の仮面ライダーオーズ/火野映司を演じた渡部秀と「仮面ライダーW」でヒロインをつとめた山本ひかるがいる。
この7話では、「仮面ライダー鎧武/ガイム」の主役を演じた佐野岳、「仮面ライダードライブ」で敵のブレンを演じた松島庄汰らが登場。「仮面ライダー」出身者の豪華揃い踏みとなった。
アイドルグループ「TT-Nimo」のオーディション合宿に参加していた豊原輝(清水学)が殺される。容疑者は同じくオーディション参加者の大我(佐野岳)、剣人(松島庄汰)、ユズキ(川野快晴)らにプロデューサーのサニー(斉藤陽一郎)、さらにまかない担当者にダンス教師などだいぶ大人数だ。
マリコ(沢口靖子)たちが捜査のために合宿場を訪れると、候補生たちはダンスの真っ最中。踊り続ける彼らをやめさせようとマリコは輪の中に入るが、周りと同じ手振りで踊る羽目に。普段自転車移動で鍛えているおかげか、なかなかの機敏な手つきで楽しませてくれた。
現場で見つかったおもな手がかりは3つ。遺体の口と鼻に付着したピンクのフェイクファー、靴底に付いていたさつま芋(合宿場で候補生たちが干し芋を作っていた)、そして、縞模様で先がとがった謎の部品だ。
フェイクファーは残念ながら現場で見つかった他のアイテムと成分が一致しなかった。一方さつま芋はサニー、剣人、大我、ユズキの4人の靴にも付着。このおかげで容疑者を絞り込むことができた。
捜査を進めていくうちに、被害者の輝が泣き虫キャラのユズキはチューブのわさびをなめて涙を出している……とサニーに密告していたのがわかる。これを聞いたとき、筆者は思わず吹き出してしまった。すぐ涙をこぼすユズキによくこんなに泣けるものだなと感心していたのに、なんという小賢しさよ……である。そして、輝は「他にも秘密を持っている奴を知っている」という言葉を残していた。
その後、もう一つ残った手がかり=謎の部品は、TT-Nimoのオリジナルグッズであるぬいぐるみの一部と判明。ぬいぐるみはピンクのフェイクファーを使って作られていた。
そこで、マリコたちはポリグラフ検査を実施。これはいわゆる“嘘発見器”。容疑者たちに「凶器はぬいぐるみですか?」と質問して反応を測定する鑑定だ。
検査の結果、反応があったのは剣人と大我。剣人はかつて人をぬいぐるみで殺す役を演じた…と釈明するが、一方大我は激しく動揺。実は彼は昔の彼女との間に子どもがいて、ぬいぐるみは彼がTT-Nimoファンの娘のために手に入れたもの。元恋人から父親として認めてもらえなかった彼は、TT-Nimoに入れたら娘が見てくれるかもしれない……とオーディションに参加したのだった。
事件当日のことを明かしていく大我。あの日、大我の秘密を知った輝はサニーにばらそうとぬいぐるみを持ち出していた。輝と対峙した大我は「言いたかったら言えや」と告げて一度は立ち去ったが、ぬいぐるみにしまっておいた娘の写真を返してもらおうと戻った際に輝の遺体を発見。疑われるのを恐れてぬいぐるみを隠したと語った。
大我が隠したぬいぐるみを鑑定して見つかったのは、被害者の血が付着する指紋。真犯人=剣人のものだった。
かつて家庭内暴力をしていた剣人。事件当日輝からその過去をばらすと言われて動揺した彼は、昔出演した映画を思い出して輝をぬいぐるみで窒息死させてしまったのだった。
アイドル候補生たちの執念のもつれから起きたこの事件。結局、オーディションは中止。「無駄な努力しただけだった」と気落ちする大我だったが、マリコは彼にオーディション動画を見せる。生配信の際、大我の娘が応援コメントを寄せていたのだ。
彼の努力は決して無駄ではなかった。おかげで、かけがえのない家族のアイドルになれたのだから。
※この記事は「科捜研の女 season21」の各話を1つにまとめたものです。
–{第8話レビュー}–
第8話レビュー
第8話の舞台は最新のAIを研究する京都AIセンター。二酸化炭素消火装置が作動し、サーバールームにいたネットニュース記者・高階浩也(野田晋市)が二酸化炭素中毒で亡くなった。
センターの主任・宮越優真(美村里江)は、黒服が似合うミステリアスな美女。凛として透明感のあるマリコ(沢口靖子)と対峙するシーンはまさに美女たちの共演で、思わず見惚れてしまった。優真は研究所のセキュリティを司る優れたAI“UMAⅡ(ユマ・ツー)”が、高階を危険な人物と判断して排除したのでは……と推論する。
高階を殺したのはAIなのか? この人ならぬ容疑者が科捜研の面々を悩ませる。とはいえ、難解な事件でも決して諦めないのがマリコと土門(内藤剛志)。殺人の動機を調べるという土門に対しマリコは「物証を探してみる」とうなずく。二人のチームワークはいつでも明快だ。
研究所のサーバールームを調べるマリコと呂太(渡部秀)は、扉の下で擦ったような痕を発見。呂太が採取キットを取りに部屋を出てマリコは一人残るが、扉がロックされているのに気づいてパニックに。ゲスト用IDを持っていってしまった呂太がすぐに戻ってことなきを得たが、もしやAIがマリコを閉じ込めて消そうとしたのか…とヒヤヒヤさせる場面だった。
鑑定した結果、擦り痕はモバイルバッテリーのものと判明。高階が最近購入していたのと同じものだ。閉所恐怖症の高階はサーバールームに入った際に扉を閉めきることができず、ストッパー代わりにモバイルバッテリーを置いていた。
マリコたちが改めてセンターを捜査すると、優真のロッカーからモバイルバッテリーが出てくる。しかし、優真は動揺することなく前日に仕掛けたという防犯カメラの映像を見せた。映っていたのはセンターの前主任・中垣(近江谷太朗)がロッカーのそばに立つ姿だった。
実は高階は中垣にとって息子の敵。かつて高階が書いた記事でストーカー呼ばわりされ誹謗中傷を受けたことで息子は自殺してしまったのだ。センターに取材に来た高階を見たときから復讐心をつのらせていった中垣。高階が優真について調べているのを逆手にとってサーバールームにおびきだし、二酸化炭素消化装置が作動するよう設定して殺害したのだった。
AIの犯行かとも思われた難事件を見事解決したマリコ。優真に「AIには殺人は犯せない。正確にいえば、人が手を貸さない限り不可能だということです」と言い切る姿がとても清々しかった。科学と人の力を信じている彼女らしい言葉だ。
ただ、優真については一抹の謎が残った。
高階はネット上でフェイクニュースを捏造する「負のインフルエンサー」を追っていたらしい。彼のパソコンにはAIセンターのIPアドレスを記したメモが残っていた。
そして、中垣のパソコンで見つかったのは、誹謗中傷で家族や友人を失った人が集まるサイトの履歴。そこには復讐を肯定するような言葉が並んでいた。
これらから考えられるのは、優真こそが負のインフルエンサーで、ネット上で中垣の復讐心を煽り高階を殺すよう仕向けたのではないか……ということ。
美しく不適な笑みを浮かべ続けていた優真。彼女の真意は何だったのだろうか。
※この記事は「科捜研の女 season21」の各話を1つにまとめたものです。
–{第9話レビュー}–
第9話レビュー
新春一発目の「科捜研の女」は、2時間スペシャル。長嶋一茂、大林素子ら豪華ゲストが出演し、いつも以上に困難な事件に挑むマリコ(沢口靖子)たちの姿が描かれた。
前半の舞台は、和歌山の警察病院。研修に参加したマリコと宇佐見(風間トオル)は、他県から来た科捜研の研究員たちと出会う。
「地元の事件のニュースで知っている警察官を探してしまう」「平気と思われてエグいホラー映画に誘われがち」などの“研究員あるある”で盛り上がる同業者たち。そんな中、一人だけズレた発言を繰り返すマリコがなんともおかしい。薄々そうではないかと思ってはいたが、彼女のようにしょっちゅう現場に赴く法医研究員はやはり珍しいようだ。
研修会場では、もしや恋?という場面も展開。講師としてやってきた科警研の丸山(長嶋一茂)は美しいマリコの笑顔に一目惚れし、宇佐見も若い女性の化学研究員・堀日菜子(小島梨里杏)から好ましい視線を向けられる。マリコはなにげに男性に好意を寄せられることが多いのだが、宇佐見のそれはちょっと珍しい気もする。ただ、そもそもハンサムで温厚。かつ仕事もでき美味しいお茶まで淹れてくれる彼。女性にモテないわけがない。
そんな中、突如、大阪の法医研究員・牧英子(寒川綾奈)が死亡してしまう。
土砂崩れで捜査員が現場に来れない中、マリコはいつも以上に本領発揮。管轄の刑事が止めるのも聞かず、警察庁にいる元夫・倉橋(渡辺いっけい)の名前で脅し(?)をかけつつ捜査を進めようとする。結局、現場の研究員たち、さらに京都にいる呂太(渡部秀)や風丘(若村麻由美)の力も借りて、遺体の頭の傷から凶器の形状を調べ、解剖まで行ってしまう。
マリコの勝手ぶりに「もう動かんといてくれ」と嘆きだす和歌山県警の刑事たちが気の毒ではあったが、努力の甲斐あってマリコたちは死因を特定。牧は頭を殴られて首を絞められ、時間をかけて窒息死する稀な症例であったのがわかる。
実習前、牧とトイレで一緒になっており、牧の首に指紋が付着していたことから疑いをかけられたのは堀。ただ、その後、牧の遺体に付着した堀の指紋の成分はハンドクリームだとわかり、マリコたちにそのクリームを使っているか聞かれた堀は否定した。
そして、堀もまた鴨川で遺体となって見つかる。
堀の遺体や所持品を鑑定するマリコたち。途中で資料汚染か?と思われる懸念も見つかり、捜査はいつにも増して難航する。
しかし、今回は味方がたくさんいてくれた。研修で知り合った他県の研究員たちがマリコたちの鑑定に協力。土門刑事(内藤剛志)も和歌山県警とともに現場を捜査し、牧が頭をぶつけたのはシャッターだと突き止める。さらには、かつての科捜研所長で現在は大型放射光施設・SPring-8の技官をつとめる宮前(山崎一)の助力もあり、ようやくマリコたちは真実を探し当てた。
牧と堀を死に導いたのは、大阪の化学研究員・若林(西尾塁)だった。
発端は大阪府警で起きた資料汚染問題。牧に責任があると思われていたが、実際にミスをしたのは若林。そのことに気づいた牧は、あの日、若林に「科警研の講師に検証してもらう」と言い放ち、止めようとした若林に腕を掴まれた拍子にシャッターに頭をぶつけて倒れてしまう。その後、若林がハンカチの上から首を絞めたせいで遅延性の窒息を起こしたのだった。
犯行直後の若林とすれ違った堀は、彼のハンカチを拾っていた。ハンドクリームの話で真実に感づいた彼女は、宇佐見とともに鑑定しようと京都都府警に向かう。しかし、道中で若林に薬剤を細い針で投与され意識を朦朧とさせながら橋から転落してしまったのだった。
新春スペシャルらしく、いつも以上の見応えがあった今回。何よりも京都、奈良、和歌山など各地域の研究員たちが力をあわせた、言うなれば「オール科捜研」の活躍が胸熱。科学の力を信じる戦士はマリコたちだけじゃなく、こんなにもいたのだ……と心が躍った。
そして、“科警研の男”とマリコの関係の方は、すんなりと非常にあっけない決着。一緒に食事しようと電話をかけてきた丸山に彼女が返した言葉は、「お気持ちだけありがたくいただきます」「丸山先生とのお仕事だけの関係を汚染させたくありませんから」。仕事第一でマイペースな彼女らしい答えだった。
誘われるマリコのそばで少し怖い顔をして見守り、マリコが断ると笑っていた土門。今回彼と丸山が顔を合わせることはなかったが、もし会っていたらどんなことになっていたのやら……だ。
※この記事は「科捜研の女 season21」の各話を1つにまとめたものです。
–{第10話レビュー}–
第10話レビュー
山中で暴力団のフロント企業社員・才賀(小堀正博)の遺体が発見される。彼は鼓を抱えて死んでおり、頭部に爪でひっかいたような傷があった。
マリコ(沢口靖子)たちが諸々鑑定した結果、事故ではなく殺人の可能性が高くなる。あやしいと思われたのは烏丸署の生活安全課係長・高安(林家正蔵)。才賀が所持していた鼓に彼の指紋が付いていたのだ。鼓は区民会館のもので、高安はそこで“防犯公演”と称して特技の神楽をよく披露していた。
また、遺体解剖で才賀の胃から会館近くのサンドイッチ店の「明太コロッケサンド」と思われる内容物が見つかる。店長の間宮(吉住)も才賀がサンドイッチをテイクアウトしたと証言。そして、防犯カメラで才賀がサンドイッチを携えて区民会館を訪れる姿が確認された。
顔、歩容、骨格、服装の認証の合わせ技である “フルパターン認証”を使って才賀の足取りを追うマリコたち。しかし、そんな中、高安が警務部の監察下に置かれることが決定。刑事時代に暴力団に捜査情報をもらしていた疑いがあり、前々から目をつけられていたらしい。
そして、マリコたちが才賀の動きを追跡した結果、高安が才賀に呼ばれて暴力団の宴会で芸を披露していたことが判明。それを才賀が暴露しようとしたなら殺す動機になりうる……と土門(内藤剛志)と蒲原(石井一彰)は疑う。
高安が監視下に置かれて聴取できなくなる前に、なんとか彼と接触したい土門たち。しかし、神楽を練習するため外に出かけた高安の居場所がわからない。そこでマリコは大胆な作戦を思いつく。
「特別な動きをしている相手なら、動作認証が使える…!」
特殊な動作のサンプルをAIに読み込ませれば、同じ動作をする人を防犯カメラで検出できる。そこで、科捜研の5人は高安と同じ芸に挑戦することに。
袴姿になり、傘回しや皿回しを始める面々。呂太(渡部秀)と亜美(山本ひかる)は飲み込みが早いようで程なく上達。一方宇佐見(風間トオル)と日野(斉藤暁)は苦戦。そして、マリコは見事な獅子舞を披露。あの機敏な動き、一体いつどこで習得したのだろうか。
マリコたちのかくし芸のおかげで、土門と蒲原は無事高安を見つける。だが、話をしてわかったのは、あの日彼が会館で才賀に会ってサンドイッチを受け取ったこと。そして、サンドイッチを食べずに会館の館長(高橋かおり)にあげたこと。犯人だという確証は結局得られなかった。
しかし、その後に意外なところから事件の謎が解ける。鍵となったのは風丘(若村麻由美)が差し入れたサンドイッチ。才賀がテイクアウトしたあの店のものだ。ほぐし肉を使ったサンドイッチを見た宇佐見が殺人の凶器を思いあたり、そこからついに真犯人が浮かび上がっていった。
才賀を殺したのは、サンドイッチ店の店長の間宮だった。
会社勤めをしながら副業でお店を開いた間宮。しかし、不幸なことに店舗の大家が才賀だった。事件当日、店を訪れた才賀は正体を明かし、間宮とのツーショット写真をネタにお金を要求。間宮は思わずその場にあった道具で彼を殴打してしまう。その拍子に才賀は肉をほぐす調理用熊手に頭をぶつけて死亡してしまった。
遺体を山中に運んだ間宮。その際、警察の目をそらすべく才賀が区民会館から盗んできた鼓を彼の手に持たせたのだった。
反社と関りあるお店だと知られたら…と追い詰められて才賀を殺してしまった間宮。「どうすればよかったんですか…」と嘆く彼女を見て、警察に知らせてくれていたら……と思わずにいられなかった。才賀に「警察に言っても写真はアップするから」と言われてそれすらできないと思ってしまったのかもしれないが、京都府警に相談していたなら、きっとマリコや土門が力になっただろう。
今回、かくし芸を使った前代未聞の鑑定をやってのけた科捜研。また、この10話で、マリコはなぜか「ラッキーよ」の言葉を連発していた。獅子舞や傘回しが登場し、マリコの言葉も含めてなんともおめでたさを感じさせる新春らしい回であったと思う。
※この記事は「科捜研の女 season21」の各話を1つにまとめたものです。
–{第11話レビュー}–
第11話レビュー
正月早々公園で、デジタル舞子の本条奈々(三澤紗千香)の遺体が発見される。
「デジタル舞子」とはスマホ一つで舞子を呼び出し、写真撮影をしたり踊りを見せてもらったりできるサービス。アプリでオーダーするとGPSで一番近くにいる舞子が来てくれる。コスパ重視、IT活用の21世紀型サービスといってよさそうだ。
「デジタル舞子」のオフィスを訪れたマリコ(沢口靖子)たちは、代表の椎名美月(川津明日香)や若い男性ながら舞子をしている速水(野島透也)、テクノロジー面で協力しているIT会社・社長の庄司直樹(南圭介)らから話を聞く。舞子たちは、GPS機能付きで心拍数などを計って健康管理ができるウェアラブルセンサーを使用しているという。
今回は、このセンサーが事件の謎を解く重要なカギになった。
奈々のGPS履歴をたどって現場を調査した結果、事件当日、彼女が居酒屋で帯にワインをかけられていたとわかる。しかし、宇佐見(風間トオル)が帯を鑑定したときワインは検出されなかった。実は居酒屋で営業したのは奈々ではなく速水。奈々から突然仕事を代わってほしいと頼まれたのだという。
あの夜、奈々はどこに行ったのか? マリコから聞かれた速水は、庄司に会いに行ったのでは……と推測。奈々は庄司目当てで舞子になったふしがあり、最近頻繁に彼の会社を訪れていたのだ。しかし、庄司は美月と交際中。そのため、美月と奈々は険悪になりかけていた。
その後、美月も事件の夜に庄司の会社を訪れていたのが判明。恋愛がもつれたドロドロの末に美月が殺したのか……と、見ているこちらも不安が高まる。しかし、思わぬところから意外な真実が明らかになった。
教えてくれたのは奈々のかんざし。デジタル舞子が髪に挿す鳩と稲穂がついたかんざしは、想いを寄せる相手に鳩の目を描いてもらう風習があるという。奈々のかんざしを調べた結果、かつて美月が撮影用に目を入れたものと判明。奈々は密かにかんざしを差し替えていた。好きな相手=美月が目を描き入れたものを使いたかったからだ。
奈々の想いを知ってショックを隠せない美月。そんな中、蒲原(石井一彰)がデジタル舞子のお客たちが詐欺にあっていた情報を持ち込む。奈々はこの件で庄司を疑って彼に近づいていたのだ。
事件当日、美月が電話したとき「ケリをつけますから」と言っていた奈々。美月から奈々との会話の録音データを入手したマリコたちは音声を分析。すると、ウェアラブルセンサーの音が鳴り響いた。それは心拍数の上昇を知らせる警告音。つまり、奈々は心拍数が上がる場所=坂道にいたのだとマリコは思いつく。
奈々が歩いた可能性のある坂道を調べる科捜研の面々。ヒールの高めのシューズで軽やかに走るマリコに、スニーカーを履き「よーいドン」で疾走する亜美(山本ひかる)。各自の個性が出て面白い。
結果、マリコは奈々の草履に付着していたのと同じ黄色い塗料が塗られた場所を発見。そこは奈々を新年会に呼んだイベント会社社長・上里(佐渡山順久)の家だった。
庄司からデジタル舞子の顧客データを入手し、でたらめな健康器具を売りつけていた上里。庄司を疑っていた奈々は、事件当夜、彼と庄司が電話で話しているのを聞いて録音。速水に仕事を代わってもらい庄司の会社に行ったが庄司が不在だったため、上里の元へ行き、彼に殺されてしまったのだった。
初めて美月の踊りを見たときに世界が変わった……と話していた奈々。舞子になったのは美月を慕っていたからであり、不幸な死を遂げたのも美月とデジタル舞子を守ろうとしたためだった。事件解決後、マリコから奈々の残したかんざしを差し出された美月は、涙ぐみながら受けとった。
今回は、「ウマ娘 プリティーダービー Season2」などで知られる声優・三澤紗千香と「仮面ライダーセイバー」でヒロインを演じた川津明日香がゲストで登場。ともにチャーミングな舞子姿で物語に華を添えてくれた。
また、この11話で、筆者は街中で捜査をする亜美の姿に心が和んだ。道を歩いたり犬の毛を採取したり、先輩のマリコとはまた違う、お散歩しつつ発見しているような雰囲気の彼女がなんともかわいらしかったのだ。Season13から加入してパソコン関係で手腕を発揮し、今や「もう一人の科捜研の女」といってもいい亜美。いつか彼女メインのスピンオフなど作ってくれないものだろうか。
※この記事は「科捜研の女 season21」の各話を1つにまとめたものです。
–{「第12話レビュー}–
第12話レビュー
百貨店のオフィスで見つかった女性の遺体。被害者は商品企画部の三宅由莉(篠原真衣)だ。
洋服を定額で借り放題できるサブスク(サブスクリプション)の責任者だったという由莉。これを聞いて「サブの責任者とは?」と聞き返したのは土門(内藤剛志)。以前、「映える=ばえる」だと蒲原(石井一彰)に教えてもらっていたこともあったが、彼はどうにも流行りに疎いらしい。
由莉は、一流ブランド「ミサヤマモト」の48万円の“女優コート”のサブスク利用を可能にした功労者。事件発覚後、この女優コートが一枚現場からなくなっていたのがわかる。殺した犯人が盗んだのだろうか。
遺体から繊維片とベトベトする付着物を見つけたマリコ。鑑定した結果、付着物は接着剤に使われるポリアミド、繊維片は女優コートのものらしいと判明する。
その後、女優コートをめぐるトラブルを抱える女性たちが次々登場。コートを置き引きされ、買取料金の問題で由莉と揉めていた借主の一人・島田茜(大久保桜子)や自身のブランドのサブスク展開に反対していたデザイナーの山本ミサ(藤真利子)らにマリコたちは話を聞く。
さらに、サブスクサービスのポスターモデルである女優・川久保純(桃月なしこ)にも接触するマリコ。しかし、川久保もまた車上荒らしにコートを盗まれていた。
川久保が着ていたものとサブスク用の3着の計4着しかない女優コート。3枚が既に盗まれ、次に狙われるのは残る1枚を着た人物に違いないと気づくマリコたち。土門と蒲原は街中で赤いコートを着た女性(納言・薄幸)を見つけて、もしや?と声をかけるが、女性いわく「いや、女優コートじゃねんだよなあ、これが」。ネットで買ったという彼女のコートは2980円の安物だった。
結局、土門たちは百貨店に調べてもらって借主を見つけ出す。女優コートを借りた顧客は、なんと風丘早月(若村麻由美)だった。案の定、コートを着た風丘はヘルメットをかぶった何者かにコートを奪われそうになる。
風丘が襲われたと知って駆けつけるマリコ。風丘は犯人の足に爪を立てた手を洗いもせず待っていた(手にはおそらく犯人の痕跡が残っている)。このあたり、さすがマリコの長年の盟友だ。
風丘のコートは娘の亜矢(染野有来)がサブスクで選んでくれたもの。その現物を前にしたマリコの口から出た言葉は、もちろん「鑑定させていただけますか?」
その後、マリコは、鑑定=女優コートの縫製をほどいてバラバラにするというとんでもないことをやってのけてしまう。
ほどいてみた結果、コートから遺体に付着していたのと同じポリアミドを含む接着芯が見つかる。そこには山本ミサの筆跡で銀行の口座情報が書かれていた。
弟とお金の件で揉めた際に隠し口座の情報をコートの接着芯に書き込んでいたミサ。相次いだコート盗難は口座情報目当てのものだった。そして、コートを盗んだ犯人はミサが弟と争うのを見ていた一人・川久保のスタイリストの稲葉(奥田ワレタ)。犯人逮捕に役立ったのは風丘の爪から採取した犯人の皮膚組織だ。ただ、稲葉はコートを盗んだことは認めるも殺人については否定した。
稲葉が自供した後、京都府警にやってきたのは茜。まだサブスクの権利があるのでコートを返してほしい……と蒲原に詰め寄るが、コートは既に引き裂かれたと聞かされショックを受ける。
そんな茜を見かねた風丘は一緒にミサの元へ行き、「コートを元に戻してほしい」と頼む。彼との初デートに女優コートを着ていきたい……という茜の想いに心動かされたのか、承諾するミサ。しかし、風丘たちが持ち込んだうちの一着を見た彼女は「うちで仕立てたものじゃない」と気づく。
調べた結果、女優コート以外にも同じミシンをかけた衣装が見つかる。つまり、誰かがサブスクで借りた衣装をほどいて縫いなおしたのだ。おそらくパターンを盗んでコピー用品を作るために。
由莉を殺した犯人は、女優コートのもう一人の借主・菊池江梨花(しまずい花奈)だった。
仲間とブランド物にそっくりな服を作って売っていたという彼女。ブランドの服のラインがなかなか再現できなかったためサブスクで本物を借りてばらしていた。あの日、縫い直しに気づいた由莉から「一流には一流の理由がある」と言われて、怒りのあまりにハンガーで殴ってしまったのだった。
事件解決後、茜は女優コートを着て彼とデート。恋がうまくいきそうな彼女を見守りつつ、「サブスクも悪くないわね」とつぶやくミサとともにマリコと風丘は祝杯をあげた。
今回は、「魔進戦隊キラメイジャー」の敵幹部・ヨドンナ役で知られる桃月なしこや「宇宙戦隊キュウレンジャー」のハミィ/カメレオングリーンを演じた大久保桜子、「ドクターX」の蛭間華子役などでおなじみのベテラン女優・藤真利子など、女性ゲストが多数出演。真っ赤なコートをまとっていつになく艶やかな風丘の姿も見られて、非常に華やかな回となった。
そして、個人的に、激安コートで土門と蒲原を見事に翻弄した“ニーキュッパの女”こと納言・薄幸に今回の着こなし大賞を贈りたいと思う。
※この記事は「科捜研の女 season21」の各話を1つにまとめたものです。
–{第13話レビュー}–
第13話レビュー
キャンプ場で見つかった遺体。被害者はボートの販売代理店をしている南郷朋親(山西規喜)だ。
“ソロキャン”に来ていたと思われる南郷。他に同じ場所でキャンプしていたのは5人。動画投稿にいそしむ野川桜子(小林万里子)、カップルの高見沢萌(市瀬由宇)と根室成人(竹田和哲)、そして、黒石萬作(斉木しげる)と森末未来也(藤田富)だ。
キャンプ道具を鑑定する科捜研。結果、検出された気になる成分は、現場にあったコーヒーミルの取っ手及び被害者のポンチョに付着していたみょうばん。また、黒石や森末の指紋も見つかった。
当初、被害者の姿を見ていないと嘘をついていた黒石たち。マリコ(沢口靖子)たちは改めてキャンプ場を訪れ、黒石が持っている火起こし用のメタルマッチを調べさせてくれと頼む。すると、「これでたき火を着けることができたら調べてもいい」と黒石は言う。
メタルマッチの使い方など知るはずもないマリコ。しかし、道具の素材から方法を導き出して、見事なたき火を作ってみせた。さすがは科学者だ。
マリコの火起こしに感心した黒石。殺人事件に巻き込まれたくなくてだまっていたが、あの日、南郷に声をかけられて夕食とコーヒーをご馳走したと明かした。例の取っ手は黒石のコーヒーミルのものだった。
火起こしや料理などを森末から教わったという黒石。「黒ちゃん」「師匠」と呼びあう二人の間には、キャンプを通して年齢差を越えた友情が生まれているようだ。
一方土門(内藤剛志)の捜査で、南郷がクルーザー購入のできそうな金持ちを探していたのが判明。さらに、黒石が大手企業のCEOであるのもわかった。南郷は黒石に近づきたくてキャンプに来たのだろうか。
そんな中、亜美(山本ひかる)が桜子から入手したキャンプ場の映像を解析。映っていたのは南郷とピンクのフードを被る人物。現場でピンクの上着を着ていたのは森末一人だ。
映像には黒石の姿もあった。マリコたちが森末と南郷を目撃したのでは?と問いただすと、黒石は森末を庇うためにだまっていたと認める。日々「社長」という肩書を背負って生きる彼にとって、何者かなど関係なく親しくしてくれる森末はかけがえのない友人。彼との時間を失いたくなかったのだ。
土門の取り調べを受けた森末は、南郷と面識があったことを白状。リゾート会員権の営業をしている彼は、南郷から会員権を買う代わりに顧客情報を教えるよう言われたという。
森末はスマホに入っていた黒石の写真を南郷に見られていた。南郷がキャンプ場に来たのはやはり黒石目当て。なお、森末は黒石が社長であるのをとうに知っていた。
南郷に顧客情報を流すことなく、黒石がお金持ちと知りながら営業をかけもしなかった森末。仕事に苦戦している不器用さも伺え、筆者は悪質な犯罪を犯すような人間にはちょっと思えなかった。
そして、例のみょうばんの正体がわからずすっきりしなかったマリコは、風丘(若村麻由美)が緑色のたき火の写真を見せたときに、ついに事件解決のヒントを見出していく。
「熱を加えると色が変わる……」
みょうばんに含まれるカリウムは炎色反応で紫色になる。犯人は、あの夜みょうばんでたき火の色を変えて楽しんだカップルの一人=萌だった。彼女の上着もまた温度変化で色が変わる素材。事件当時、炎で色が変化していたのだ。
デートでおしゃれするためのお金欲しさにキャンプ場で物を盗んで売っていた萌。あの夜、黒石のミルを盗もうとして南郷に目撃され、争っているうちに死なせてしまったのだ。この身勝手極まりない犯行を供述した彼女に「(キャンプを)本当に楽しめたのか!」と土門は雷を落とした。
森末が自身の素性に気づいていたことにショックを受ける黒石。森末は経済誌でそれを知ったという。ただ、わかった際に「宝くじに当たった気分」になりはしたものの、彼にとって黒石はやはりキャンプ仲間の「黒ちゃん」。友だちだと思っていた……と悲しむ黒石に彼が伝えた言葉は「友だちじゃない。師匠だよ」。最上の親しみをこめたものだった。
「またキャンプに行こう」と絆を深めるキャンパーたち。彼らを見守りながら、黒石を見習って立場や仕事を忘れて楽しめる趣味を見つけては……と土門はマリコにすすめる。マリコの答えは「科学より楽しめることってある?」
それでいいと思う。彼女は科捜研が仕事であり趣味でもある生粋の科学者なのだから。
※この記事は「科捜研の女 season21」の各話を1つにまとめたものです。
–{第14話レビュー}–
第14話レビュー
死者の記憶が別の人に乗り移った?
この不思議な話を科捜研に持ち込んだのは呂太(渡部秀)。近所に住む少年・賀茂井大翔(潤浩)の前に、他界した父の記憶を持つ男が現れたという。
なお、呂太は小学生の大翔にスケボーを教わっているらしい。日野(斉藤暁)たちは若干飽きれ気味だったが、基本誰に対してもタメ口視線で接するマイペースな彼らしさが伝わってくる。
科学で解明しきれていない記憶のメカニズムという点からこの話に興味を抱いたマリコ(沢口靖子)。早速大翔に会いにいく。
公園でマリコたちが見たのは、大翔に親しげに接する男性(橋本じゅん)。彼は「臓器提供意思表示カード」を所持していた大翔の父・賀茂井健治から腎臓を提供され、その際に記憶も一緒にもらったと話す。しかも「お父さんは殺されたんだ」と意味深な言葉を残してその場を去った。
一ヵ月前に階段から転落死したという賀茂井。彼は大学の准教授で、記憶を生物の細胞そのものに蓄えられるという学説「セルメモリー(細胞記憶)」を研究していた。
賀茂井の死は単なる事故ではないかも?と考えたマリコ。賀茂井の研究室を訪れて、研究員の高平理香子(柳美稀)や、研究に出資している企業の社員・児玉(石田剛太)らに話を聞く。
さらにマリコたちは大翔の母・恵美(遊井亮子)をたずねて賀茂井が事故当時着ていた服を提供してもらう。鑑定した結果、謎の第三者の指紋が見つかった。
翌日、新たな殺人事件が発生。児玉が遺体となって見つかったのだ。
児玉の解剖を担当した風丘(若村麻由美)に記憶の移植について話すマリコ。自分が病気で風丘から臓器をもらったとする……という彼女のたとえを聞いて、風丘が思い浮かべたのは「まいど!」とお菓子と解剖結果を携えてやってくるマリコ。なかなかさまにはなっていたが、当の風丘は「いやいやないないない……だめ!」と否定。自身のお株をとられるのは不本意らしい。
その後、賀茂井の服に付いていた謎の指紋が児玉のものと判明。児玉が賀茂井を殺害し、賀茂井の記憶を持つあの男が復讐のために彼を殺したのでは?という記憶の移植ありきの仮説が浮かび上がる。
もう一度大翔にあの男の話を聞こうと公園に行くマリコ。しかし、そこへ恵美もやってくる。塾をさぼってスケボーに熱中する息子をしかりつけ、夫についても「知らない誰かに臓器は残しても、私たちには何も残してくれなかった」と悲痛な言葉を口にした。
そんな中、謎の男の正体がようやくわかる。彼の本名は笠城覚士。仮釈放中の前歴者だった。
記憶の件で笠城を問いただすマリコたち。そこで医者の風丘があることにひっかかる。
「移植医療において個人情報の管理は徹底されているから、レシピエント(移植を受けた人)がドナーを知るなど不可能なはず……」
気になった風丘が笠城のお腹を調べると、そこにあったのは盲腸の手術をした傷のみ。彼は嘘を付いていたのだ。笠城の服役理由は詐欺だった。
遺体を発見して賀茂井が所持していたお金を盗んだ笠城。その後、臓器提供のことや賀茂井の研究内容を知って、記憶が移った芝居を思いついたという。なんとも人騒がせな話だが、最初はお金になると思ったけれど、自分の息子と同じ名前を持つ大翔と話しているうちに何かしてあげたくなった……という彼。人間味があり憎めなかった。
事件当時、賀茂井を抱き起こしていた笠城。犯人につながる証拠があるのでは……とマリコたちは彼の所持品を鑑定する。
結果、笠城のブルゾンからゴム手袋とネイルオイルの成分が検出。賀茂井と児玉を殺したのはネイルオイルを使っていた人物=高平理香子だった。彼女は児玉と一緒に研究費を着服しており、賀茂井がそれに気づいたので突き落として殺害。その後、殺した現場を見ていた児玉が脅迫してきたため、彼のことも刺し殺してしまったのだ。
事件解決後、笠城は大翔と恵美に会いにいき、賀茂井が持っていたスケボー大会のチケットを二人に返した。大翔と恵美が仲直りできるよう家族で試合を見に行こうとしていた賀茂井。それを知った恵美はスケボーに真剣な息子の気持ちをようやく理解。記憶の移植は嘘だったが、別の形で笠城は家族を思う父親の記憶を届けることができたのだった。
記憶が細胞を通して受け継がれる?という超科学的な謎を前にしても、終始科学者らしい姿勢を崩さなかったマリコ。「どんなに突拍子もない仮説でも、ありえないと科学が証明しない限り可能性を排除することはできない」という言葉が非常にかっこよかった。医療従事者の視点から嘘を見破った風丘や「その手の超常現象を信じない。ただ、刑事は疑うのが商売だ」と言っていた土門(内藤剛志)もしかり。自身の領域から事件に立ち向かう明快なプロフェッショナルたちが、本作にはいつでも存在している。
※この記事は「科捜研の女 season21」の各話を1つにまとめたものです。
–{第15話レビュー}–
第15話レビュー
黒鶴山にやってきたマリコ(沢口靖子)と亜美(山本ひかる)。そこで、動画投稿サイトで人気のハンドラー・斯波健三(奥野壮)と救助犬・ゾイのコンビ・“ゾイケン”に会う。
男性の遺体を発見したゾイケン。検視したマリコは殺人の可能性があると睨む。健三は死んでいた男の身元に心当たりはないと語った。
被害者は黒鶴山の開発計画を進める企業の元社員・野口永斗(宇仁菅真)。数年前に山歩きイベントで死亡事故が起きた責任をとって会社をやめさせられたというが、同事故の被害者はなんと健三の母の斯波美苗(辻葉子)。野口を知らないと嘘をついた健三が一気にあやしくなる。
証拠をつかむためには救助犬訓練センターを訪れるマリコと土門(内藤剛志)。健三に「かくれんぼ訓練をさせてください」と頼む。
訓練で見事隠れていた土門を見つけたゾイだったが、彼らの姿を見ていたマリコはある矛盾に気づいてしまう。空気中の臭いをたどる救助犬は風の影響を受けやすく、活動の際は風下から犬を放つのが基本。しかし、事件の日、ゾイは風上から動いていたのだ。
疑うマリコたちを前に、健三を必死に庇ったのは彼の助手の三池寧々子(里々佳)。彼女は健三の幼なじみで、口下手な彼の通訳もしているという。
さすがに風向きだけでは証拠にならない。しかし、そこで土門が新たな突破口を開く。彼はかくれんぼ訓練の際に凶器と条件が一致する石を発見していた。これはお見事。最近現場で動くのがおもに蒲原(石井一彰)だったせいか、刑事らしい鋭さを発揮する土門を久々に見た気がする。
鑑定した結果、土門が見つけた石=模擬ガレキが凶器である可能性が高まり、また、マリコたちが特定した殺害現場でゾイの足跡が見つかる。新たな証拠を突きつけられた健三は、マリコたちに反論しようとする寧々子を制して「警察に行きます」と出頭した。
健三が寡黙なために取り調べは難航。しかし、野鳥観察者たちが殺害現場近くで撮影した映像を入手したマリコたちが真実を探りあてた。
助けが必要な人を見つけた際に「アラート」と呼ばれる一定の音域・長さ・リズムで吠える救助犬のゾイ。映像に入っていた犬の音声を分析した結果、殺害現場の近くでゾイがアラートを出していたのがわかった。つまり、ゾイは殺害現場で遺体を発見していた。ただ、健三が殺したなら、そばにいたゾイがわざわざ「見つけた」と知らせる必要はない。健三は犯人ではなかったのだ。
健三は殺してはいないが嘘をついていた。野口の遺体を事故を装うために動かしていたのだ。理由は寧々子。彼女が数日前にたずねてきた野口を怒鳴りつけていたため、健三は寧々子がやったものと考えてしまったのだった。
そんな中、突如寧々子が何者かにさらわれてしまう。探しに向かった健三とゾイをマリコたちも科学技術でサポートした。
追跡の甲斐あって、マリコたちは山中で寧々子と真犯人を発見。野口を殺したのはゾイケンの動画を撮影していたメンバーの一人・奥山桜(尾本祐菜)だった。
実は、健三の母・美苗が死んだときに一緒にいた桜。美苗は崖から落ちそうになった桜を救った際にあやまって転落してしまったのだ。その一部始終が映った美苗のカメラを見つけた野口が脅迫してきたため、桜は彼を殺害。その後、罪を寧々子に被せようとしたのだった。
この15話で一番のお手柄は、健三の無実を証明し、真犯人も見つけ出した救助犬ゾイ。演じた犬が要所要所で絶妙な表情を見せてくれた。今回は犬の見事な演技と、「“科捜犬”で手一杯だ」という土門の前で「ワン!」と吠えてみせたマリコのかわいらしさに拍手を贈りたい。
※この記事は「科捜研の女 season21」の各話を1つにまとめたものです。
–{第16話レビュー}–
第16話レビュー
科捜研のメンバー・橋口呂太役の渡部秀。彼の出世作といえば「仮面ライダーオーズ/OOO」。先般、完全新作『仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル』が期間限定公開された同作で、主役の仮面ライダーオーズ/火野映司を演じた。
「科捜研の女」第16話では、「仮面ライダーオーズ/OOO」でオーズの相棒・アンクを演じた三浦涼介がゲストで登場。「オーズ」コンビの夢の共演が実現した。
三浦が演じたのは、マリコ(沢口靖子)や呂太(渡部秀)が特別講師として招かれた小学校のスクールサポートスタッフ・古江美智流。6年前に同校で起きた校長の殺人事件で犯人として逮捕された学校写真カメラマンの息子だ。
取り調べ中に亡くなった父の無実を信じ続けている美智流。彼はサポートスタッフとなって学校内を独自に調べ、事件の凶器と思われるハンマーを発見。科捜研の研究員が来校すると知って教室の教卓にハンマーを貼り付けた。このハンマーを児童たちが見つけたことから、マリコや土門(内藤剛志)たちは6年前の事件の真相を追求していく。
もう一人印象的だったゲストは、科学クラブの小学生の榊マリコならぬ坂木麻里菜(芹沢凛)。白衣をまとい「科学は嘘をつかない!」と叫ぶまさに“ミニ・マリコ”な彼女とその仲間たちが、最終的な真相解明につながる重要なヒントをもたらしてくれた。
夢の共演回ということもあってか、今回は呂太も現場の学校で活躍。特にいつになく真剣な顔で小学生たちを怒る姿が胸熱だった。体育館に現れる幽霊の正体を突きとめようと指紋採取した麻里菜たち。彼らがアルミニウム粉末をばらまいているのを見た呂太は顔色を変える。特性を知らないものを無造作に扱った麻里菜たちに「取り扱いを間違えたら危険な物質だってあるんだよ」「正しい科学の知識もないのに好奇心だけで行動してはいけない!」と諭した。
「あの呂太がちゃんとしたことを言ってる……」と失礼ながら筆者は若干驚きもしたが、お気楽でマイペースで食いしん坊ないつもの彼とは違う、聡明な科学者らしい姿は見ていてとても気持ちのよいものだった。
6年前に事件が起きた際に犯行現場である学校にいたのは、当時副校長だった現校長、そして呂太の恩師でもある勝又潤子(大島さと子)や他の教員たち、さらに、遺体の第一発見者である用務員の水口(千原せいじ)だ。
当初、遺体が見つかったとき職員会議をしていた教員たちに犯行は不可能かと思われた。しかし、マリコたちが体育館をよく調べて実験を行った結果、犯人が巧妙かつ大掛かりなトリックを仕掛けて、遺体が人の目に留まる時間をコントロールしていたことがわかる。
結果、教員たちのアリバイは消滅。凶器のハンマーと同じ箱の中にあった釣り針に指紋が付いていた教頭の吉村(岡嶋秀昭)が真犯人だとわかり、6年越しで美智流の父の無実が証明された。
当時、校長のパワハラに耐えきれず殺してしまったという吉村。どうして相談してくれなかったのかと言う勝又に「いじめを受けている子どもはさらなる仕打ちを恐れて声をあげられない。それと同じですよ」と語った。彼の気持ちはわからなくもない。ただ、当時非常に綿密かつしっかりとトリックを練っていた彼。あの労力を何かもっと違う形でパワハラを解決することに使えなかったのか…とも思う。
事件解決後、「みんなのおかげで真相にたどりつくことができた」と麻里菜たちにプレゼントをするマリコ。しかし、彼女が差し出したのは指紋鑑定法の資料。マリコよ、さすがにそれは小学生が喜ぶものではない……。
思わず固まる(というか若干引いている)麻里菜たちに「多少人と違ってても気にせずに好きなことに一生懸命取り組んでいくと、ああいう大人になれるぞ」とフォローを入れる土門。その後、未来の科捜研メンバーになるかもしれない少年少女たちに見送られ、二人は学校を後にするのだった。
最後に、今回、呂太が少年時代を振り返る流れで公開された皆の小学生の頃の写真についても触れておきたい。それぞれのあどけない写真が出てくる中、一番驚かされたのはやはりマリコ。「ふつう~の小学生」だったと語る彼女の子ども時代の姿は超ド級の美少女。さすがは初代東宝シンデレラである。
※この記事は「科捜研の女 season21」の各話を1つにまとめたものです。
–{第17話レビュー}–
第17話レビュー
今回のメインゲストは藤井隆。彼が演じるのは小さな町の診療所で働く医師・椿木陽だ。
厚労省の医系技官・澤部保(小松利昌)の遺体が発見され、現場に赴いたマリコ(沢口靖子)や土門(内藤剛志)たち。藤倉刑事部長(金田明夫)から、遺体の解剖は街の診療所の医師に頼むよう指示が入り、椿木に解剖してもらう。
法医認定医の資格を持ち、解剖の腕も見事な椿木。町でも救世主として慕われているようだ。ただ、この町では隣の市との合併などの課題が持ち上がっており、彼が働く診療所も病院と統合する可能性があるという。
捜査を進める中で、この椿木が澤部とつながりがあることがわかった。かつて椿木も技官を目指しており、澤部とともに最終面接に残ったのだ。しかし、椿木は「採用試験で一緒になっただけの人なので忘れていた」と答えるのみだった。
そんな中、殺人事件の犯人を探すカギとなったのは、“ジビエ”だ。
この町はジビエ料理に力を入れていた。そして、澤部の体内から鹿肉やアプリコットが見つかる。しかし、ジビエを出す店3軒はいずれも澤部の来店を否定した。
どこかの店が嘘をついている……と睨んだマリコたち。お客のふりをして潜入捜査を開始するが、行く先々で(おもにマリコが)珍道中を巻き起こす。
まず、1つ目の店を訪れたのは呂太(渡部秀)と亜美(山本ひかる)。鹿好きな客を装いつつ鑑定道具を出す二人の姿はどう見てもあやしく、なんともおかしかった。
そして、2軒目の店に来たのはマリコと蒲原(石井一彰)。鹿肉を神妙に味わうマリコだったが、アプリコットが入っているかと聞かれて出した答えは「わからない」。……だろうなと思う。そもそも彼女は食べ物にこだわるタイプではない。そして、マリコは「鑑定すればわかる」と持参したタッパーに鹿肉を詰めようとして従業員に止められてしまう。
最後、ジビエの食事を出している旅館をマリコが訪ねていくと、「旦那様がお待ちですよ」と案内される。部屋にいたのは土門。「面倒だから夫婦ってことにした」という。え、旅館でさすがにそれはどうなの?とドキドキしたが、泊まるのではなく食事するだけだった。
とはいえ、いつでもどこでもムチャをするのがマリコ。鑑定するために押し入れの布団まで出してしまう。おかげで、お茶を運んできた女将(安澤千草)がびっくり。なんともいえない空気になる中、マリコは「泊まりたいわ。あなた」と芝居を始め、布団をかぶり「今すぐ寝たいわ」と言い出す。ごまかすためとはいえ、いろいろどうかと思うぞ……
このひと騒ぎで「完全に変な奴と思われたぞ」と怒る土門だったが、当のマリコは「(警察だとばれてないなら)どう思われたっていいわ」。この潔さはさすがである。
捜査の結果、事件当日、澤部が旅館でジビエを食べていたのが判明。そして、一緒に食事した相手は椿木。当初看護師の境(梶原ひかり)が彼のアリバイを証言していたが、それは庇うための嘘。旅館の女将も境に協力していた。アリバイがなくなって連行された椿木は澤部と面識があることをようやく認めた。
ただ、結局椿木は犯人ではなかった。マリコたちがさらなる捜査と鑑定を行った結果、町の周辺には生息していないエゾシカの骨が凶器だとわかる。そして、その骨には旅館の女将・留福真由美の指紋が付いていた。
留福の旅館ではジビエ料理を売り物にして補助金を受けていた。しかし、ジビエの肉が安定して手に入らないため、ネットで取り寄せた肉を地元ジビエと偽っていたのだ。そして、肉の件で近々に視察が入ると知らされて、ちょうど旅館に来た澤部を視察担当者と勘違いして殺害してしまったのだった。
事件解決後、椿木はマリコたちに本心を明かす。かつて技官になれなかった彼。ライバルの澤部にコネがあったせいだと思っていたが、あの日、澤部と話して彼の仕事に対する覚悟を知り、彼ほどの熱意がなかったからこそ技官になれなかったのだと気づいたのだった。
澤部は椿木に病院に来るよう頭を下げていた。だが、椿木はこの町で医者として働くことにやりがいを見出しており、「自分を純粋な医者にしてくれたこの町で医者を続ける」とマリコたちに宣言した。
帰り道、町民たちから怪訝な顔で振り返られるマリコと土門。「町の人を逮捕した私たちは敵よね」と考えるマリコだったが、「たぶん違うだろう」と土門は否定。彼いわく、蒲原と食事をした後に土門と旅館で布団をしいていたマリコを二股かけている悪女だと皆思ったらしい。
「どう思われたっていい」と言っていたマリコ。しかし、悪女呼ばわりはさすがにちょっと不本意のようだった。ちなみに次回の最終回は、8話に登場したAI研究者の“悪女”とおぼしき宮越優真(美村里江)が再び登場。マリコは彼女と果たしてどんな戦いを繰り広げるのだろうか。
※この記事は「科捜研の女 season21」の各話を1つにまとめたものです。
–{第18話ストーリー&レビュー}–
第18話レビュー
「科捜研の女」シリーズ23年の集大成となる「season21」の最終回。同回は本作を愛するファンたちの心を揺さぶり、そして、心に残るストーリーとなった。
この18話でマリコ(沢口靖子)の前に立ちはだかった最強の敵。それは、8話に登場した天才AI研究者・宮越優真(美村里江)だ。
前回の事件の際、ネットを使って犯罪へと仕向ける「負のインフルエンサー」ではと疑われていた優真。今回も彼女はAI“UMAⅡ”(ユマ・ツー)とともにネットで人の心を巧みにあやつってマリコたちを翻弄する。
相次ぐ殺人事件に絡むネット情報で見覚えのあるハッシュタグを目にしたマリコ。事件の裏に優真がいるのでは……?と睨んで、彼女に会いに行く。そして、“UMAⅡ”の出す答えは完璧だという優真に対して、「仮にAIがそんな答えを出したとしたら、そのAIは壊れている、ただの不良品だと判断します」と言い放つ。
その後、第三の事件が起こる。社会学者の山神芳彦(久保田悠来)が遺体で見つかったのだ。
この事件の捜査で、マリコたちはまさかの誤認逮捕を進めてしまうことに。現場にあったペットボトルをDNA鑑定して犯人だと思われたのは深野拓実(柾木玲弥)。ところが、彼のアリバイを証明する動画がネットに流出する。
釈放された深野はマスコミの前でマリコについて言及。そのため、マリコに関する醜聞が一気にネットで広がってしまう。事態を重く受け止めた藤倉刑事部長(金田明夫)と佐伯本部長(西田健)は、マリコに異動を視野に入れた休職を言い渡した。
天職である科捜研の仕事を取り上げられたマリコ。いつになく弱気な姿も見せる。
だが、盟友・風丘早月(若村麻由美)から「20年以上も科捜研を続けてきたあなたなら、何があっても絶対に勝てる」と言われていた彼女は、結局あきらめはしなかった。仲間たちの協力を得て再び白衣に袖を通すマリコ。鑑定を行って証拠をつかんだ彼女は、山神を殺し、マリコを罠にかけようとした真犯人・優真を土門(内藤剛志)とともに追い詰めていった。
山神を殺した優真の動機は復讐。かつて山神は優真と一緒に大学でAIの研究をしていたが、当時山神の不注意で完成目前のAIがウイルス感染。自らの分身で友人でもあったAIを殺し、さらに「また作ればいい」と機械呼ばわりした山神を彼女は許せなかったのだ。マリコを罠にはめたのもAIを「不良品」と言われたからだった。
AIとネットを駆使して自らの手を汚さず罪を重ねてきた優真。しかし、山神だけは自身で手を下さないと気が済まず、自ら犯行に及んだ。そんな彼女に「あなたも人間だからだと思います」と声をかけるマリコだった。
この最終回スペシャルでは、マリコの仲間たちが犯罪に立ち向かう姿もいつにもまして心を打たれるものだった。
休職でマリコがいなくなって、定時に退社する面々。だが、皆心中穏やかではない。街中のテレビでマリコのニュースに見入る人たちに「これ、嘘だからね!」と訴える呂太(渡部秀)。大好きなパソコンを見たくなくなってしまった亜美(山本ひかる)。家で母と過ごしながらもどこか浮かない様子の宇佐見(風間トオル)。心配してやってきた妻の恵津子(宮地雅子)に「ようやくの肩の荷が降りた」と言いながらも寂しそうな日野所長(斉藤暁)。
自分たちの中にはマリコがいる。そう気づいた彼らは立ち上がった。日野、宇佐見、呂太、亜美は職場に戻って鑑定を再開。解剖結果を届けに来た風丘は「マリコさんが4人もいる」とびっくりしていたが、できるかぎりの鑑定を行い、最後にそれをマリコに託す研究員たちの姿は本当に胸熱だった。
マリコの仲間と言えば、土門(内藤剛志)や蒲原(石井一彰)も忘れてはならない。彼らもまたあきらめず優真の元を訪れるなど捜査に奔走。なお、ストーリー中盤で、気落ちしたマリコの肩を掴み「俺が送っていく」と言った土門の男前っぷりはかなりぐっと来た。
最後、事件を見事解決して科捜研に戻ることができたマリコは、京都府警の屋上で仲間たちと向き合う。一人一人がマリコに思い思いの言葉を伝え、マリコもまた心をこめた言葉を返す。最後に土門が「お前じゃなきゃ、ここまでやってこられなかった」と賛辞を贈った。
「科学は嘘をつかない」と信じて仕事を続けてきたマリコ。彼女の使命感はいつしか周りのみんなに伝染していたみたいだ。マリコがいたからやってこれた……と語る仲間たちにマリコもまた「今まで本当にありがとう」と感謝して、「科捜研の女 season21」は幕を閉じた。
マリコたちの活躍、また見ることができるのだろうか。先のことは現時点ではわからないが、いつか再び会えることを願って極上の科学捜査ドラマを届けてくれた皆に拍手と感謝を贈りたい。
今まで本当にありがとう、マリコ、土門、そして、科捜研。
科学とともに戦い続けた京都の戦士たちに愛をこめて。
(文:シネマズ編集部)
※この記事は「科捜研の女 season21」の各話を1つにまとめたものです。
–{「科捜研の女 season21」作品情報}–
「科捜研の女 season21」作品情報
出演
沢口靖子/内藤剛志/若村麻由美/風間トオル/金田明夫/齋藤暁/西田健/渡部秀/山本ひかる/石井一彰
脚本
戸田山雅司、櫻井武晴 ほか
主題歌
遥海「声」(Sony Music Labels Inc.)
プロデュース
関 拓也(テレビ朝日)
藤崎絵三(テレビ朝日)、中尾亜由子(東映)、谷中寿成(東映)
監督
田﨑竜太、兼﨑涼介 ほか
制作著作
テレビ朝日