映画『ブラック・ウィドウ』から始まったマーベル・シネマティック・ユニバースのフェーズ4。
同時進行でDisney+ (ディズニープラス)
で進んでいるドラマシリーズ「ワンダ・ビジョン」「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」「ロキ」とともに“サノス”との激闘を経た後の新たな世界を描き始めています。これらの作品はこれまでのシリーズのキャラクターと要素をもとにしていて“過去の貯金”を切り崩している状態が続いていました。
そんな中、今年9月に『シャン・チー/テン・リングスの伝説』が公開され、これまでに登場しなかったヒーローが新規に登場、名実ともにフェーズ4の本格スタートと言えます。
そして、早くも勝負作として投下されたのがこの『エターナルズ』です。
監督はアカデミー賞監督の『クロエ・ジャオ』
007シリーズの『007スカイフォール』でサム・メンデス監督がメガホンを取ることが明らかになったとき、シリーズにアカデミー賞監督が参戦すると大いに話題になりました。
そして、MCU(=マーベル・シネマティック・ユニバース)も26作目の『エターナルズ』にして、ついにアカデミー賞監督が登板。それも、今年『ノマドランド』で受賞したばかりのクロエ・ジャオというフレッシュなチョイス。
と言っても、『エターナルズ』撮影中はまだ『ノマドランド』でアカデミー賞を獲る前なので、大抜擢に近い形ですね。
『エターナルズ』は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズ以来となるMCUのチームヒーローものとなります。
さらに、ジェンマ・チャン、リチャード・マッデン、ブライアン・タイリー・ヘンリー、ローレン・リドロフといった近年活躍が目覚ましいキャストにサルマ・ハエック、“マブリー”ことマ・ドンソク(ドン・リー名義)、そしてアンジェリーナ・ジョリーなどの重鎮が加わったオールスターキャスト映画でもあります。
思えば冒険の連続だったMCU
MCUの歴史を紐解くと最初から“冒険的な思考”の連続でした。
そもそも、アメリカでの原作の認知度が高かったとはいえ2008年の時点で『アイアンマン』をシリーズ1作目に選び、さらに当時まだスキャンダラスなイメージが残っていたロバート・ダウニー・Jrを主役に据えるということからしてかなり冒険でしたね。
以降もメインキャスト・メインスタッフを黒人だけで固め、結果アメリカで社会現象化となり、アカデミー賞作品賞にノミネートされた『ブラック・パンサー』などなど、要所要所でマーベルは大冒険をし続けていました。
『アイアンマン』の1作目の発表当時から“いろいろなヒーローを登場させたのちに、『アベンジャーズ』としてまとめる”ことは宣言されていましたが、本気にしていた人はどのくらいいたのでしょうか?
個人的には『ハリー・ポッター』シリーズを全巻映画化するという企画を聞いた時以来の“無謀さ”を感じたものです。
結果がどうなったかは改めて語らなくてもいいともいますが、『エターナルズ』までに25本の長編映画が登場。どれも相応以上の大ヒットを記録、世界興行収入のランキングを席巻しました。
あまりのヒットの仕方と作品の数から“MCU作品を映画としてカウントしていいのか?”というような、ちょっとすごいツッコミが入ったりもしています。
超人であり”心”を持った者たち『エターナルズ』
【予告編】
MCUの前作の『シャン・チー/テン・リングスの伝説』に続いて、新規のヒーローを描くことになる『エターナルズ』。全く新しいヒーローの物語を始めると同時に、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』以来となる“チームヒーロー”です。
MCUにはこれまでもサノスやチタウリなど“生きた樹木”などの宇宙からの存在や、神話の世界の神様やエルフなど、“明らかにホモサピエンスではない存在”が登場。時には親子や兄弟姉妹で登場したりもしました。彼らはみな、人間を超越した能力を持っていましたが、それと同時に“ものすごく人間臭い”連中でもありました。
『エターナルズ』もまた、一般的なホモサピエンスとは比べ物にならないほどの超常的な能力を持ちつつ、“心”を持ち“思い悩む”集団です。
中には数千年単位で恋愛関係にあるものいれば、(人間世界でいうところの)LGBTQ、障害を持つ者もいます。
クロエ・ジャオ監督は『エターナルズ』を多くの事柄を抱えるキャラクターの群像劇として描きました。もちろんマーベルの(しかもかなりの)超大作ですので、スケール感を感じさせる世界観の描写や多種多様なアクションもたっぷりと描かれます。
詳細はネタバレになるので言えませんが、これまで解禁されている予告編からは想像もつかないような大掛かりなクライマックスが用意されていますので、ぜひ映画館でお楽しみください。
その一方で、個々に多くの問題や悩みを抱えつつ、地球の危機に立ち上がる“エターナルズ”の面々の姿を見ると、『ノマドランド』の“ノマド達”が重なります。ここにきてマーベルコミックス原作の大型企画であり、SF&アクション超大作である『エターナルズ』の監督をクロエ・ジャオが任された理由が腑に落ちた感じがしました。
–{事前予習一切必要なし!『エターナルズ』本編を見終えて}–
事前予習一切必要なし!『エターナルズ』本編を見終えて
【特報】
今回、とあるご縁で一足先に『エターナルズ』本編を見てきたのですが、最初の感想は“超実験作”だなということです。
キャストの面やキャラクター設定の面でも国際色と多様性を大いに取り込んだ作品でした。
クロエ・ジャオ監督も『キャプテン・マーベル』のアンナ・ボーデン、『ブラック・ウィドウ』のケイト・ショートランドに次ぐ三人目の女性監督であり、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のデスティン・ダニエル・クレットンに次ぐ二番目のアジア系監督となり、新たな試みを感じさせます。
マーベルはフェーズ3あたりから新進気鋭の監督を抜擢する例が増え、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』から『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』2部作を手掛けたルッソ兄弟や新たな『スパイダーマン』シリーズを手掛けるジョン・ワッツ、『マイティ・ソー』の近作を手掛けるタイカ・ワイティティなどMCUに関わったことで大きくステップアップした監督たちが多数います。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を担当し、『スーサイド・スクワッド“極”悪党、終結』を手掛けたジェームズ・ガンもその1人ですね。
今回も長編映画はこれで4本目のアカデミー賞監督になったクロエ・ジャオ監督を引っ張ってきました。
企画的にはもう何年も前から下ごしらえがあったはずなので、おそらく『ノマドランド』の公開前、長編デビュー作の『Songs My Brother Taught Me』と『ザ・ライダー』だけで『エターナルズ』を任せるという決断が下されたことになります。
長編デビュー作の『Songs My Brother Taught Me』は日本では長らく劇場未公開作品でしたが、10月31日にWOWOWで『兄が教えてくれた歌』というタイトルで日本初解禁となる放映がされました。
ドルで“億単位”のビジネスはまだまだ未知数な部分が多い女性監督の可能性を信じて託すというのは日本ではあまりない話ですよね。
映画にもクロエ・ジャオ監督が脚本家として参加していることで、実験的な部分が多数、盛り込まれています。超人であるエターナルズを通して“人間の優れている点”と“醜さ”を浮き彫りにして見せるのは、一瞬マーベル映画とは思えない展開。
ただ同じマーベルの別路線の『X-MEN』シリーズなどを思い出すとわかると思うのですが、ヒーローの活躍を描くことで、市井の一般人の在り方や、社会情勢の在り方、時代の動きを描くのがアメコミの一つの特徴でもあり、アジア家女性が“今この瞬間”にアメコミ超大作を作という意味がはっきりと感じられるとも言えます。
ストーリーの部分でいえば、おそらく予告編や事前の情報で得られているものはことごとくひっくり返してくると言ってもなんら問題ありません。
詳細のネタバレはアメリカ本国から「何も言わないで!!」と言われるほど過敏になっているので、できませんが、本編を見た後に予告編を見直すと“予告編は思い切り仕掛けてきた”ことがわかります。
本編鑑賞の前と後で、こんなにイメージの変わる予告編になるとは思いもしませんでした。
『シャン・チー/テン・リングスの伝説』もMCUの過去作の貯金をあまり使わない、独立性の高い作品でしたが、『エターナルズ』はもっと独立性の高い作品で、アメコミ映画というよりは壮大なファンタジー映画を見ているよう気分になります。
よくマーベルの映画の話になると「もうシリーズを追いかけきれてないから、見てもわからない」といった言葉を聞きますが、『エターナルズ』は本当にこれまでのシリーズを見る必要はありませんとはっきり断言できます。
MCUは今回で26本目の映画となりますが、ここまで独立性の高いものを、このタイミングで投入してくるというのも、かなり斬新な試みと言えるでしょう。
MCUはこれからどうなる?
もはやアメコミ映画のお馴染みとなったエンドロール時の“次への布石映像”ですが、今回の『エターナルズ』にもあって、今回はかなり大掛かりな仕掛けが2つも仕掛けられているのです。
一部報道やコミコンでのMCUを統括するプロデューサーのケヴィン・ファイギの口から語られていることもありますが、ある“新たなヒーロー”の登場と“驚くべきキャラクターの兄弟”が出現。
今年春の“ポストコロナの仕切り直し”でフェーズ4の10作品の映画のタイトルが明らかになりました。加えてリブート版の『ブレイド』と『ファンタスティック・フォー』に『デッド・プール』の第3弾、『キャプテン・アメリカ』の第4弾が予定されていることも明らかになっています。
しかしながら、現状アメコミ原作の内容や設定から予想するに『エターナルズ』のエンドロールに登場した二つの要素はこの新規作品のどれにも絡まない可能性も。つまりフェーズ5以降の作品になる可能性があります。フェーズ4は“アベンジャーズ”のタイトルを冠した映画がなく、またトム・ホランドの『スパイダーマン』、クリス・ヘムズワースの『マイティ・ソー』もこれで最後になると言われています。
すでにフェーズ3までが大きな“インフィニティ・サーガ”という括りの中にあったことが後追いで語られていて、フェーズ4は旧来のキャラクターの“あり方の決着”と次世代ヒーローへの”世代交代”への色合いが色濃くなっています。
ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』でファルコンが“2代目キャプテン・アメリカ”を襲名したのはその代表例でしょう。アイアンマンもドラマ『Ironheart』という次世代への橋渡し作品が用意されています。
一気に世代交代が始まっているので映画もドラマ(特にDisney+ (ディズニープラス)
作品)も1つとして見逃すことができず、ファンであってもなかなか大変ではありますが、これを乗り切ると新たな世界線が広がると思われますので、全作品網羅するとMCUの大変革を知ることが可能です。
MCUの『エターナルズ』の次は、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』になる予定。ドクター・ストレンジがゲスト出演するほかなんとサム・ライミ版の『スパイダーマン』と『アメイジング・スパイダーマン』の両方のシリーズから横断的にヴィランが登場。アメコミお得意の平行世界=マルチバース方式を本格的に導入することになります。
アメリカでは今年の12月17日に公開予定、日本はこの冬の公開となっています。
『スパイダーマン』はディズニー=マーベル体制とは別にソニー・ピクチャーズ主導のユニバースがあって『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』が日本でも12月3日に公開されますので、こちらもお忘れなく。
『エターナルズ』はMCU新世界線への転換点でしかない
先日、全体としてMCU作品の公開の順延が発表されましたがそれでも2022年以降、1年3~4作品は公開される予定になりました。間に必見のドラマもあるので1年中マーベルを追いかける続ける日々がしばらくは続きそうな予感がします。
そう考えるとフェーズ4の第3作『エターナルズ』はMCUの新たな世界線への転換点でしかないことに気づかされます。
2時間半を超えるSF超大作である『エターナルズ』を“点”というには少し違和感もありますが、MCUはこれから更なる新世界線へ突入していくにちがいない。
(文:村松健太郎)
ーーーーー
cinemas PLUS コミュニティを作りました!
・お気に入りの著者をフォロー&記事のブックマーク
・ムビチケや独占試写会プレゼントのご案内
・週2回メルマガ配信
今後もコミュニティ会員限定のプレゼントやイベントを企画予定!
コミュニティ登録はこちらから↓
https://cinema.ne.jp/auth/register
–{『エターナルズ』作品情報}–
『エターナルズ』作品情報
【あらすじ】
「アベンジャーズ/エンドゲーム」は、始まりに過ぎない──
地球に新たな脅威が迫るとき、7000年にわたり人類を密かに見守ってきた10人の守護者が姿を現す。彼らの名は、エターナルズ。地球滅亡まであと7日…アベンジャーズに次ぐ、新たなヒーローチームの戦いが始まる!
【予告編】
【基本情報】
キャスト:アンジェリーナ・ジョリー/ジェンマ・チャン/リチャード・マッデン/キット・ハリントン/マ・ドンソクほか
監督:クロエ・ジャオ
公開日:11月5日(金) 全国公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン