〈新作紹介〉『花椒(ホアジャオ)の味』香港、台北、重慶に住む異母姉妹の絆。それは世界中の人々の真の願い

ニューシネマ・アナリティクス

■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

2021年11月6日よりドキュメンタリー映画『我が心の香港 映画監督アン・ホイ』が公開されるアン・ホイがプロデュースした、3人の異母姉妹のピリリと味わい深い絆を描いた“家族”の映画。

家族の関係性にこだわることの多いアン・ホイですが、彼女が監督として白羽の矢を立てたのはヘイワード・マックでした。

日本ではなかなか作品をお目にかかれる機会は少ないものの、彼女もまた2007年に監督デビューして以来、映画祭や映画賞の常連として活躍し続ける才人です。

サミー・チェン(真面目で頑固な長女ユーシュー)、メーガン・ライ(中性的でクールな次女ルージー)、リー・シャオフォン(派手でさっぱりした三女ルーグオ)という、バラバラな個性の3人のキャスティングが実にはまっていて、彼女たちが一堂に会することで醸し出される不可思議な魅力が本作最大のポイントといってもよいほど。

突然のゴキブリの来襲に3人が大パニックを起こしたり(しかもこの3姉妹、ゴキブリを父親の生まれ変わりと思い込み!?)、無理やり花椒を食べさせるあたりも微笑ましい限り。

(宣材プレスの受け売りではありますが)彼女たちが住む場所も香港、台北、重慶で、さらにはトンネル、堤防、ロープウェイといったアイテムが、彼女たちそれぞれの性格はもとより、亡き父との関係性なども巧みに物語っているあたり、お見事としかいいようがありません。

これによって彼女たちの日常描写も、より一層深みのあるものとして映えわたっていきます。

キャストの個性を役として活かすため、ロケーションや細かな美術、衣装などにも繊細に気を配ってこそ、真に“映画”ならではの醍醐味ともいえるでしょう。

ケニー・ビーやリッチー・レン、アンディ・ラウといった男優陣、リゥ・ルイチー、ウー・イエンシューといった女優陣の出演も効を奏し、鑑賞後は華やかな印象をもたらす秀作。

(そして火鍋を食べに行きたくなる!)

音楽を日本人作曲家の波多野裕介が担当し、こちらも秀逸であることも特筆しておきます。

それにしても、本作の中で描かれる香港と台湾と中国に住む3姉妹の麗しき連帯の姿とは、それこそが中華圏に生きる人々が(そして世界中の人々が)、真に願い続けているものを反映させたものなのかもしれません。

(文:増當竜也)
 
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–{『花椒(ホアジャオ)の味』作品情報}–

『花椒(ホアジャオ)の味』作品情報

【あらすじ】
疎遠になっていた父が突然、店で倒れた。ユーシュー(如樹)は会社から病院に駆けつけるが、もう亡くなった後で話すこともできなかった。久しぶりに店を訪れたユーシューは、渡された父の携帯から自分の名前に似た知らない名前を見つける。葬儀の日、台北からプロのビリヤード選手でボーイッシュな次女ルージー(如枝)、重慶からオレンジの髪色で表情豊かな三女ルーグオ(如果)が現れ、初めて3 人の異母姉妹が顔を合わせる。香港島大坑(タイハン)にある、父が経営していた火鍋店「一家火鍋」は、賃貸契約がまだ残り、解約すれば違約金も発生するし、従業員もいる。ユーシューは父の店を継ぐことを決心する。しかし、誰もレシピを知らないため、常連客の望む“父の麻辣鍋”のスープが作れない。客足は少しずつ遠のく。ルージー、ルーグオも駆けつけ、三姉妹はなんとか父秘伝の味を再現しようと奮闘する。 

【予告編】

【基本情報】
出演:サミー・チェン/メーガン・ライ/リ・シャオフェン/リウ・ルイチー/ウー・イエンシュー/リッチー・レン/ケニー・ビー/アンディ・ラウ

監督:ヘイワード・マック

脚本:ヘイワード・マック

音楽:波多野裕介