〈新作紹介〉『我が心の香港 映画監督アン・ホイ』香港映画に革命を起こした豪快レディの繊細な映画人生

ニューシネマ・アナリティクス

■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

アン・ホイ監督といえば1980年代初頭の香港ニューウェーヴの旗手として、また当時としては珍しい女性監督として世界的に大きな注目を集め続け、現在も創作意欲は何ら衰えることなく新作を連打し続けています。

本作はそんな彼女の映画人生を振り返るドキュメンタリー映画ですが、これを見ると改めて作品群の多くが自分の人生を反映させたものであることがよく理解できます。

特に反日教育を受けながら育った十代なかばに母親が日本人であることを知ったことから始まる母子の葛藤と和解というモチーフは『客途秋根』(90)で色濃く描かれています。

もともと『獣たちの熱い夜 或る帰還兵の記録』(81)や『望郷 ボートピープル』(82)での難民問題、『女人、四十。』(95/このとき音楽を担当した大友克英が、今回の音楽を任されています)などの老人問題など社会派的題材を採り上げることの多い彼女の作品ですが、実質はそういった題材をモチーフにした人間ドラマばかりであり、そこには国家や個人の配信や裏切りなどの要素が盛り込まれることも多々ありますが、最終的にそれらの諸問題の中から「救済」を見出せるような仕組みになっているのが大半です。

一方ではアクションものも手掛け、中でも武侠超大作『清朝皇帝』2部作(87/ビデオタイトル『風と興亡』、DVDタイトル『書剣恩仇録』)は敬愛する深作欣二監督の『柳生一族の陰謀』(78)『里見八犬伝』(83)などに大きくインスパイアされた作品として、日本でも知られています。

本作を見ると、実にズバズバとものを言い、短気で、ヘビー・スモーカー。

しかしながら決して独りよがりになることなく周囲の意見を求めることも忘れません。

何よりも取材場面の諸所で豪快に屈託なく笑う彼女のあっけらかんとした個性は、それゆえでしょうか、今回はツイ・ハークにホウ・シャオシェンにアンディ・ラウにシルヴィア・チャンなど、数多くの映画人が彼女をリスペクトしながら取材に応えてくれています。

もちろんこれが初監督作品となったマン・リムチョンの目線も畏敬の念にあふれているのは一目瞭然なのでした。

なお、本作は2017年の香港返還20周年をクライマックスに据えた2020年作品ではありますが、その翌年たる現在の香港が置かれた実情を彼女はどう考え、これからどう創作活動を続けていくのか、その動向も正直気になるところではあります。

※アン・ホイがプロデュースした映画『花椒(ホアジャオ)の味』が2021年11月5日から公開されます。

(文:増當竜也)

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–{『我が心の香港 映画監督アン・ホイ』作品情報}–

『我が心の香港 映画監督アン・ホイ』作品情報

【あらすじ】
「客途秋恨」(1990年)や「女人、四十。」(1995年)などの作品で世界的に知られる香港映画の巨匠アン・ホイは1980年代以降、ツイ・ハークやパトリック・タムらとともに香港ニューウェーブの旗手として、香港映画の発展に大きく貢献してきた。ダイナミックな時間の流れに沿いながら、アジアの女性監督のトップランナーとしても歩んできた彼女は、中国で生まれ、5歳のときに家族で香港に移住、ロンドンで映画を学んだ。まさに、東洋と西洋の出会いや香港魂を体現する存在でもある。日本人の母との慎ましやかな日常生活や香港への思い、女性としての生き様、エネルギッシュな撮影風景のほか、シルヴィア・チャン、アンディ・ラウ、ホウ・シャオシェン、フルーツ・チャン、田壮壮など、香港・台湾・中国映画界の重鎮たちが彼女の作品と人柄について語るのを通して、彼女の実像に迫る。 

【予告編】

【基本情報】
出演:アン・ホイ/ナンサン・シー/ツイ・ハーク/フルーツ・チャン/ティエン・チュアンチュアン/ホウ・シャオシェン/アンディ・ラウ /ジャ・ジャンクー/シルヴィア・チャン

脚本:マン・リムチョン

音楽:大友良英