映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』が私たちに残すもの

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森山未來・伊藤沙莉W主演の映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』が2021年11月5日に全国劇場公開&Netflixで全世界配信される。

森山未來演じる佐藤は、ある日偶然、昔の恋人・かおりのSNSアカウントを発見。それをきっかけに、「かつて自分よりも好きになった人」に思いを馳せる。何よりも普通であることを嫌ったかつての恋人・かおりを演じるのは、Netflix作品では「全裸監督」に出演し話題となった伊藤沙莉だ。

監督を務めるのは、今作が映画初監督となる森義仁。犬童一心や阪本順治の元で助監督として経験を積む傍ら、音楽グループ・サカナクションのPV「三日月サンセット」を手がけるなど幅広く活動してきた。

原作である同名小説は、作家でありテレビ美術制作会社の社員である燃え殻によるもの。Web上で連載された小説が、出版されるや否やベストセラーを記録した。

観た人の若い記憶を刺激し、苦い思い出を想起させるであろう本作。『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、私たちに何を残すのか。

※本編の内容に触れた箇所があります。記事閲覧の際にはご注意ください※

–{それぞれの「あの頃」を思い出し、懐かしさに襲われるシーン満載}–

それぞれの「あの頃」を思い出し、懐かしさに襲われるシーン満載

「人間の80%はゴミ、残りの20%はクズ」

『ボクたちはみんな大人になれなかった』観賞後、心に深く刺さって抜けないセリフをひとつ挙げるとしたら、これだ。私たち人類は、ほとんどがゴミでクズ。聞いた瞬間は「マジか……」と落ち込んだけれど、よくよく考えればゴミやクズだってそう悪いものではない。不思議と、この映画を見終えた後ならそう思える。

観る人それぞれの「あの頃」を思い出させるスイッチが満載の作品である。オザケンを筆頭に、次々と出てくる1990年代のカルチャーたち。

正直、筆者自身は北海道の田舎で90年代を過ごしたので、都会中心のカルチャーにはあまり馴染みがなかった。しかし、それでもいい。共通じゃなくても、各々で思い出せる90年代を辿ればいいのだ。苦い記憶も苦い思い出もあるだろうけれど、それらを自然に思い出させるスイッチがこの映画にはあると思う。

いわゆる「サブカルチャー」に筆者も憧れた。普通や一般的であることを嫌って、というより怖がって、奇をてらうことに命をかけていた思春期。そんな心の動きでさえ「その他大勢」だったのかもしれない。普通でゴミでクズみたいなものだったのかもしれないけれど、それで何が悪いんじゃい! とも感じる。

結局、普通が一番なのかもしれない。普通じゃなきゃこの世の中を生きられないのかもしれないし、そもそも普通で在り続けるために生きるのかもしれないし、生きることに一生懸命になっていたら自然と「普通だね」と言われる状態になるのかもしれない。

あれだけ普通で在ることを忌み嫌っていたかおりが、普通に結婚して普通に子供を産んで普通の家族を作っていた。普通って、なんなんだろう。普通であることの是非を問うこと自体が、すでに普通な気がしてくる。

けれど、やっぱり思う。この映画を観た後なら違和感なくこう言える。

普通で良いし、普通が良いんだ。普通である自分が最高に愛しく思える作品だ。

森山未來&伊藤沙莉W主演!安心して観られるキャスト陣

『モテキ』『怒り』『アンダードッグ』など数々の作品で唯一の存在感を確立してきた森山未來。2021年に開催された東京五輪の開会式でのダンスも記憶に新しい。

彼が今回の主演・佐藤を務めるのに加え、忘れられない彼女・かおり役を演じるのが伊藤沙莉だ。近年では「いいね!光源氏くん」が話題となり、「大豆田とわ子と三人の元夫」でナレーションを務めるなど、その印象的な声を生かした活躍も目立つ。

この映画は、現代から過去へと少しずつ遡っていく構成で描かれる。冒頭で「どうやら佐藤には忘れられない相手がいるらしい」と観客に伝わるが、その相手がどんな人物でどのような交流をしていたのかは、後半になるにつれ明らかになるのだ。二人がどのようにして出会い、どんな過程を辿りながら信頼関係を構築してきたのか、物語が進むにつれ切なさも加速する。

結局のところ、なぜかおりがいきなり姿を消してしまったのか、はっきりとしたことはわからないまま終わる。他に好きな人がいたのかもしれないし、そもそも佐藤と一緒にいたのは一時の迷いだったのかもしれない。行動や言動に突拍子もないかおりは、最後も「今度CD持ってくるからね」の一言で連絡が取れなくなってしまう。何年も経った後に、SNS上で結婚していることを知るのだ。

一般的な映画だったら「どうして二人は別れることになってしまったの!?」「佐藤はこの後かおりと連絡を取らずに終わるの!?」と気になって仕方ないところだが、不思議とそんな不完全燃焼感は抱かずに済む。

それはひとえに、森山未來や伊藤沙莉をはじめ、脇を固める名キャスト陣はもちろんのこと、監督・脚本・撮影・照明・美術スタッフなど、映画制作に欠かせないスタッフの手腕によるところが大きい。

どのピースが欠けても、この映画は成立しなかった。本作の佐藤とかおりが、些細なきっかけを手繰り寄せ、忘れられない時間をともに過ごしたように。私たちも、この映画のことを折に触れ思い出すことだろう。

(文・北村有)

–{『ボクたちはみんな大人になれなかった』作品情報}–

【作品情報】

公式サイト:
https://bokutachiha.jp/

【ストーリー】
1995年、ボクは彼女と出会い、生まれて初めて頑張りたいと思った。「君は大丈夫だよ。おもしろいもん」。初めて出来た彼女の言葉に支えられがむしゃらに働いた日々。1999年、ノストラダムスの大予言に反して地球は滅亡せず、唯一の心の支えだった彼女はさよならも言わずに去っていった。

志した小説家にはなれず、ズルズルとテレビ業界の片隅で働き続けたボクにも、時間だけは等しく過ぎて行った。そして2020年。社会と折り合いをつけながら生きてきた46歳のボクは、いくつかのほろ苦い再会をきっかけに、二度と戻らない“あの頃”を思い出す……。

【キャスト・スタッフ】
原作:
燃え殻

出演:
森山未來 / 伊藤沙莉
萩原聖人 / 大島優子
東出昌大 / SUMIRE / 篠原篤
平岳大 / 片山萌美 / 高嶋政伸 / ラサール石井

監督:
森義仁

脚本:
高田亮

音楽:
tomisiro