タイトルを見て、思わずドキッとされた方はさぞ多いことでしょう(私がそうです……)。
いつでしたか老後の資金に2,000万円くらいは必要と騒がれたことがありましたが、まあなかなか普通の家庭でそれを成すのは大変なことでもあります。
その意味では本作の舞台となる後藤家、節約上手な主婦・篤子(天海祐希)の日頃の努力でそこそこお金を貯めてきていたほうではありましたが、やはり人生何が起きるかわからないもので、ひょんなことから貯金は崩れ落ちるかのごとくどんどんなくなっていく!?
(ホント、人生、一寸先は闇ですよね……)
本作はそういったトラブルの数々を通して、現代日本のお金の問題をコミカルに示唆していきますが、決してHOW TOもののようにウンチクを垂れ流すようなことはなく、あくまでも人間悲喜劇の“映画”として楽しく魅せこもうとしていくあたり、前田哲監督の意地みたいなものが見え隠れしているといっても良いでしょう。
テレビドラマでは漢(おとこ)前な役柄が多い天海祐希ですが、ここでは平凡ともいえる普通の主婦を魅力的に演じていることもまた映画ならではの冒険心の賜物とも思えるとともに、彼女の俳優としての実力に改めて感嘆させられます。
一方で自由奔放で浪費家といった非凡な姑・芳乃を演じる草笛光子の名優としてのオーラは、これを体感するためだけに映画館へ赴いても十分に入場料金の元は取れるといっても過言ではありません(コントまがいのシーンまで三谷幸喜とともに喜々としてやりきる素晴らしさ!)。
また平凡な嫁×非凡な姑の構図は決して安易なバトルの域に落ち込むことなく、むしろお互いがお互いを認め合う共闘関係へと誘われていくあたりもすがすがしく、さらにはこうした関係性は両者がデュエットする「ラストダンスは私に」が指し示すかのような壮麗かつ楽しいものへと導かれていきます。
思えば草笛光子は松竹歌劇団、天海祐希は宝塚歌劇団と、共に華やかながらも厳しいショービジネスの世界を潜り抜けてきた本物のエンタテイナーであり、こうした秀逸な人材をもっと日本の映画&テレビ界は活かすべきと、本作を見ながら改めて痛感されっぱなしなのでした。
なお、本作はコロナ禍の影響で公開が丸1年遅れましたが、その間の国内外の深刻な状況を経て、ようやく緊急事態宣言が解けて「さあ、これから人生どうなる?」といった今後の不安と希望が入り混じる現在のほうが、よりスムーズに共感しやすいものになっている気もしています。
(文:増當竜也)
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–{『老後の資金がありません!』作品情報}–
『老後の資金がありません!』作品情報
【あらすじ】
節約がモットーの平凡な主婦・後藤篤子(天海祐希)は、家計に無頓着な夫・章、フリーターの娘・まゆみ、大学生の息子・勇人と暮らす日々。夫の給料と自身がパートで稼いだお金をやり繰りし、憧れのブランドバッグも我慢してコツコツと老後の資金を貯めていた。ある日、病気の舅が亡くなり、章の妹・志津子と葬式代を誰がいくらを出すかで揉め、結局400万円近くも支払うことに。さらに、パートの契約が更新されず、篤子はクビを言い渡されてしまう。そんな折、まゆみの婚約者が家にやって来る。メタルのバンドマン・琢磨は、見かけによらず地方実業家の御曹司であった。半年後の結婚式は格式高い麻布寿園で行いたいというが、費用は折半。篤子は多額の出費予定に慄きながら、なんとかまゆみを送り出したのも束の間、章から会社が倒産したという連絡が入る。夫婦揃っての失業、減り続ける老後の資金。窮地に立たされた篤子は、レンタルモップの解約、そして車の売却と次々に節約改革を実行。だが篤子の努力もむなしく、お金は出ていくばかりであった。高級ケアマンションで暮らす姑・芳乃の今後について、志津子と話している最中、篤子は思わず芳乃を引き取ると口走ってしまう。やがて、芳乃を迎え新たな生活が始まるが、高級和菓子屋に嫁いだ芳乃はお金の使い方が奔放で、またまた出費がかかる始末。果たして篤子に幸せな“老後”は訪れるのか……。
【予告編】
【基本情報】
出演:天海祐希/松重豊/新川優愛/瀬戸利樹/加藤諒/柴田理恵/石井正則/若村麻由美/友近/クリス松村/高橋メアリージュン/佐々木健介/北斗晶/荻原博子(経済ジャーナリスト)/竜雷太/藤田弓子/哀川翔/毒蝮三太夫/三谷幸喜/草笛光子 ほか
原作:垣谷美雨
監督:前田哲
脚本:斉藤ひろし
製作国:日本