乃木坂46・与田祐希の魅力|“ピュアさ”を強みに女優として躍進

俳優・映画人コラム
(C)井上堅二・吉岡公威/講談社 (C)2020映画「ぐらんぶる」製作委員会

女優・与田祐希。

と聞くとまだまだしっくりこないという方のほうが多いのではないかと思う。それもそのはずで、まだまだ出演作も少なく他の現役メンバーと比べても露出度はそこまで多くはない。しかし、私は『ぐらんぶる』で彼女の演技を見てからというもの、必ずや女優として注目を浴びる日が来るだろうと感じていた。

与田はまた「日本沈没-希望のひと-」(TBS系)に出演しており、さらには「ほんとにあった怖い話」(フジテレビ)でも主演を務めるなど、女優として注目を集め始めている。

まだ世間的に大きく知られていない、このタイミングでぜひ知ってもらいたい……ということで与田祐希の魅力について書き連ねていたい。

3期生のエース・与田祐希とは?

与田は乃木坂46のファンにはもはや語るまでもない主要メンバーのひとりとは思いつつ、どういうキャリアを歩んできたのか知らない方も多いと思うので書かせていただきたい。

2000年5月5日生まれ、記事掲載時点で21歳の与田は2016年9月の「乃木坂46 3期生オーディション」に合格し、3期生の中核メンバーとして活動。そこから約1年という短いスパンにも関わず、18thシングル『逃げ水』において大園桃子とともにセンターに抜擢されることが発表され、世代交代を大きく匂わせるサプライズとなった。

3期生の中では最も選抜回数の多いメンバーであり、現在乃木坂46の楽曲イメージを構成するひとりとして与田の存在は欠かせないものとなっている。

2017年12月には3期生として初の1stソロ写真集『日向の温度』(幻冬舎)を発売。続いて2020年3月に発売された2ndソロ写真集『無口な時間』(光文社)は、イタリアを舞台にちょっぴり大人びた印象的なカットが話題となり、累計発行部数20万部を突破するヒットを記録した。

またファッション誌『bis』(光文社)と『MAQUIA』(集英社)ではレギュラーモデルとして活躍するほか、ソロで多数のテレビ番組への出場や女優としても数々のドラマや映画に出演しており、個人での活躍も目立ってきている。

与田の魅力をひとことで言えば、誰からも愛される天性の才能を持っているということだろう。メンバー内で最も低いとされる身長も愛される要素ではあるが、『乃木坂工事中』(テレビ東京系)内での企画「Wセンターをもっと良く知ろう」で披露された「学校に筆箱を忘れてリモコンを持っていく」というド天然エピソードや同番組の「奇想天外!与田クイズ!」でのメンバーが驚愕してしまうほどの調子外れな回答の数々など、個性的なパーソナリティも人を惹きつける要素になっている。

次項からは与田の出演作を振り返りながら、女優としての魅力を紹介していきたい。

–{「モブサイコ100」で女優業を本格始動}–

「モブサイコ100」で女優業を本格始動

(C)ONE・小学館/ドラマ「モブサイコ100」製作委員会

与田は濱田龍臣が主演を務めたドラマ「モブサイコ100」が女優としての本格的なデビューとなったのはあまり知られていないのではないだろうか。

濱田演じるおかっぱ頭の冴えない主人公・影山茂夫(通称モブ)が超能力を駆使してド派手なバトルを繰り広げるサイキックストーリーで、ドラマの他にもアニメも放送されている大人気シリーズ。

与田が演じるのは主人公の幼なじみでちょいちょい言葉を間違えて使ってしまう天然ボケを持っているが、クラスのマドンナというポジションというヒロインとしてはかなり個性的なキャラクター。初のドラマ出演ながらいきなりヒロインのポジションを任されている。

(C)ONE・小学館/ドラマ「モブサイコ100」製作委員会

時折見せるド天然ぶりとクラスメイトの憧れの的としての佇まいを上手く両立して演じていたのが印象的で、初めてのヒロイン役にも関わらず拍子抜けしてしまうほど溶け込んでいた。「変態」を「大変」、「心細かった」を「身体細かったんだ」といい間違える天然キャラは与田の普段のキャラクターともリンクしていて、与田にしか成し得ないヒロイン像を構築していた。

(C)zambi project

一方で、2019年に放送された乃木坂46メンバーが出演しているドラマ「ザンビ」(日本テレビ)では、主演こそ齋藤飛鳥だったが、メインキャストのひとりである甲斐聖役で出演。斎藤、堀未央奈、与田とメインの3人は各期のエースが揃った形となっており、ホラー映画ながら非常に見応えのある作品になっていた。

「モブサイコ100」ではヒロインという立場ながら演技の幅という意味ではそこまで広くなかったが、本作ではホラーということで感情の揺れ幅も大きく、演技力がかなり求められる役柄を好演。

中でも第7話で自暴自棄になる聖を堀演じる実乃梨が強く抱きしめるシーンは、与田は明るいキャラから一転、死を覚悟するしかない絶望的な状況を力強い演技で見せていた。

秋元康が原作・企画で乃木坂46のメンバーが出演しているドラマということで、アイドルドラマとしての側面が強く出ているのは否めないが、乃木坂46が築き上げてきた演劇を基盤とした役者としてのポテンシャルを感じさせるドラマでもあり、与田もまたグループの登竜門である「3人のプリンシパル」で培われた役者力を十分に発揮していた。

–{イメージを大きく覆す“会心の演技”で話題の『ぐらんぶる』}–

イメージを大きく覆す“会心の演技”で話題の『ぐらんぶる』

与田の演技が大きくフォーカスされた作品として挙げられるのが映画『ぐらんぶる』だろう。累計発行部数555万部突破の大人気コミックを原作としながらも、その内容の過激さから実写化は難しいのではと思われていたが昨年についに公開。与田にとってターニングポイントにもなった作品だ。

内容はアニメ版でギリギリという感じだったので、それに現役アイドルが出演するということでどうなるのやらと思ったが、『映画賭ケグルイ』や『あさひなぐ』、後には『映像研には手を出すな!』でも乃木坂46のメンバーを多く起用してきた英勉が監督ということで、与田の奥底に秘めたポテンシャルが上手に引き出されていて、とても良かった。

(C)井上堅二・吉岡公威/講談社 (C)2020映画「ぐらんぶる」製作委員会

与田が演じた古手川千紗は本作のヒロインという位置づけではあるが、そこらの青春ドラマの清純ヒロインを想像していたら、その期待は一気に裏切られることだろう。千紗は白目をむき、金属バットを容赦なく振り回し、人の頭をも踏みつける、いわばクーデレなキャラ。普段の与田とは対照的な役柄である。

エグゼクティブプロデューサーの関口大輔は「原作を読んで千紗役には与田さん以外考えられず、『ぐらんぶる』のような企画に出演依頼しても良いものか悩みましたが、思い切ってオファーしたところまさかの快諾で驚きました。撮影現場では、漫画から抜け出た千紗がそこに存在しているようで不思議に感じたほどでした」と与田の演技を高く評価している。

(C)井上堅二・吉岡公威/講談社 (C)2020映画「ぐらんぶる」製作委員会

主人公の伊織(竜星涼)に対する侮辱的な目線やあわよくば殺しかねない攻撃的な一面を見せる千紗。しかし、ダイビングのこととなると真面目で面倒見が良いという、一役でかなり振れ幅の大きいキャラクターだ。与田の小さな体から繰り出される表情豊かで大胆な演技の数々はまさに会心の演技

与田の演技は高く評価されつつも正直ここまで振り切った演技をできると思っていたファンは少なかったのではないかと思うが、スイッチが入ったときの千紗の佇まいは紛れもなく本物を思わせる完成度だった。女優としての新味を感じられる『ぐらんぶる』はマストで見てもらいたい作品だ。

–{「日本沈没-希望のひと-」のオリジナルストーリーでは主演も}–

「日本沈没-希望のひと-」のオリジナルストーリーでは主演も

(C)TBS

現在放送中のドラマ「日本沈没-希望のひと」では与田は居酒屋の看板娘として出演している。物語が内包するシリアスな雰囲気とは一転して、天海啓示(小栗旬)と常盤紘一(松山ケンイチ)が訪れる居酒屋でのやり取りは与田の愛々しいキャラの存在もあって、唯一心が安らぐ温かい場所となっている。

またオリジナルストーリー「最愛のひと~The other side of 日本沈没~」(Paravi)で与田は板垣瑞生とW主演という形で出演。本編とは異なりこちらはがっつりとラブストーリーとなっており、与田のヒロインとしての才覚がこれでもかと発揮されていて、乃木坂46ファンならば見逃せない。本編ともリンクしているのでドラマのファンも必見の内容となっている。

余談ではあるが、作中において『乃木坂工事中』で与田が描いていた不気味なラクダの「西園寺さん」が登場しているなど、思わず微笑んでしまいそうな乃木坂46のファン向けの要素が盛りだくさんなのも個人的には推しポイントだ。

本編での与田の立ち回りも気になるところだが、板垣演じる蒔田奇跡との恋路も今後どのように発展していくのかも注目したい。

–{3期生の活躍が目立つ乃木坂46 与田祐希は山下美月に続けるか}–

3期生の活躍が目立つ乃木坂46 与田祐希は山下美月に続けるか

(C)TBS

2021年はとりわけ乃木坂46の現役メンバー、OGメンバーの映画・ドラマ出演が活発となっており、10月クールで言えば、西野七瀬の「言霊荘」(テレビ朝日系)、生駒里奈が「真犯人フラグ」(日本テレビ系)、若月佑美が「アンラッキーガール!」、山下美月が「じゃない方の彼女」(テレビ東京系)などテレビで見ない日はないほどの活躍ぶりを見せている。

中でもグループの内外問わず3期生の活躍は顕著となっており、それを牽引しているのが先日「じゃない方の彼女」の公開タイミングで掲載した山下だ。

→乃木坂46・山下美月の魅力:“あざとい”演技で新境地を開拓した演技派女優

初にプライム帯でのレギュラー出演で話題となった「着飾る恋には理由があって」(TBS系)を始め、女性ファッション誌『CanCam』の専属モデルとしても存在感を発揮、さらには「じゃない方の彼女」において、主人公を誘惑する魔性系女子大生という山下の“あざとい”魅力が強烈な印象を残している。

強烈な個性を手にした山下は、乃木坂46のファンのみならず一般層にまでリーチし、順調なキャリアを歩んでいるが、また一方で彼女に追随する形で女優の階段を登りつつあるのが与田である。

大人っぽさが魅力の山下に対して、与田は“ピュアさ”を演技の中にナチュラルに感じさせることができるのが大きな強みだ。与田の持つピュアさは、ヒロインという立ち回りはもちろん、端役においても絶妙なスパイスとなっている。それは「モブサイコ100」や「最愛のひと~The other side of 日本沈没~」の演技を見ても明らかだろう。

一方で『ぐらんぶる』の強烈な役柄に対しては、与田の持つあどけない雰囲気を残しつつフレキシブルに適応することもできる。今後も強みが活かされた学生役が増えていくことが予想されるが、『ぐらんぶる』で見せたような振れ幅のある役柄をもっとみてみたいと個人的には思う。

「日本沈没-希望のひと-」と「ほんとにあった怖い話」と立て続けに出演作が続いている与田。山下が女優として確固たる地位を築いていったように、与田もまた乃木坂46を代表する女優のひとりとして躍動していくポテンシャルは十分に秘めている。これをきっかけにアイドルファン以外の方にもぜひ知っていただけたら嬉しい。

(文・川崎龍也)