門脇麦の魅力:「陰」と見せかけ「陽」でも引き込む

俳優・映画人コラム

(C)2015「二重生活」フィルムパートナーズ

純粋無垢なイメージ通りのソフトな役柄から、見た目からは想像もできないようなハードな役柄まで幅広く挑みその期待を裏切らない、女優・門脇麦。

一環して共通しているのは、誰もを魅了する強力な”ミステリアス”さ。

そんな彼女の魅力を深堀りするべく、ソフト〜ハードな門脇麦を6作品に渡り追っていく。

Lv.1:容姿から所作まで、申し分のない箱入りお嬢様。『あのこは貴族』

(C)山内マリコ/集英社・「あのこは貴族」製作委員会

門脇麦も出演する映画『ここは退屈迎えに来て』(18)などの原作を手掛ける山内マリコと、岨手由貴子監督・脚本作品である『あのこは貴族』(20)。Amazon Prime Videoにて配信中。

超ド級のお坊ちゃま且つ誰が見ても振り返るイケメン・青木幸一郎(高良健吾)を介して出会った、生粋のお嬢様・華子(門脇麦)と地方出身の成り上がり女子・美紀(水原希子)。

東京でおんなじように暮らしているのに、全く異なる世界線を生きているーーお嬢様でもなければ高卒な私からするとどちらにも共感はできないが、どちらかといえば紛れもなく美紀に共感する。大学生の「ちょっとお茶しよ」が5,000円のアフターヌーンティーだなんて誰も思わない。というのも”あのこ”じゃない側のいち意見に過ぎないが。

至純な印象の門脇麦に、上辺の東京しか知らない箱入り娘という役柄は誰が見ても異論はないだろう。

容姿のみならず、所作や雰囲気までをも完全にカバー。
外界の怖さを1ミリも知らない箱入り加減、ファッションやメイク、人との接し方、すべてにおいて”上流の平均値”を保っているあの感じ、そこから形成される意志のなさ…要所要所から「お嬢様が故の隠れたネガティブさ」を感じ取ることができた。

両家顔合わせで幸一郎宅を訪れたときの和室でのお作法はお手本そのもので、幸一郎の両親が華子のことを調査していなかったとしても、一発で結婚を許可していただろう。

門脇麦演じる華子は、”あのこ”そのものだったのだ。

Lv.2:一線を超えない清純さがドキドキを加速させる『うきわ ―友達以上、不倫未満―』

(C)野村宗弘・小学館/「うきわ ―友達以上、不倫未満―」製作委員会

通常、ドラマ夏クールは7月スタートが一般的だが、2021年8月という珍しい時期にスタートしたテレビ東京系連続ドラマ『うきわ―友達以上、不倫未満―』。Paraviにて配信中。

広島で安定した結婚生活を送る中山麻衣子(門脇麦)と中山拓也(大東駿介)。東京への転勤が決まり、社宅に住むことに。隣に住んでいたのは、東京本社で拓也の上司となる二葉一(森山直太朗)と二葉聖(西田尚美)夫妻だった。

うまくいっていると思っていた結婚生活は東京への転勤を機に少しずつ狂い始め、”お互いに配偶者が不倫をしている”という共通点から、麻衣子と一の距離が縮まっていく。

“不倫まで壁一枚ラブストーリー”というコピーさながら、自他共に認める不倫ドラマなのに、際どい描写が一切なくて、ソワソワさせられっぱなしな全8話。なにもない方がエロいってこういうことか…

そう、なにもない、なにもないのだが、なにもないからこその「なにかありそう」な麻衣子の底知れぬ影。この絶妙な雰囲気を醸し出せるのは門脇麦しかいない。間違いない。

門脇麦のみならず、森山直太朗をはじめとして大東駿介、西田尚美、蓮佛美沙子、田中樹(SixTONES)、小西桜子、高橋文哉と全キャストがぴたっとハマりすぎていた。私は原作は読んだことがないのだが、SNSで「原作を裏切らない脚色」という意見も多く見かけた。ドラマ化に感謝。

ただひとつ言えるのは、麻衣子の不倫相手が一でよかったということ。麻衣子、無自覚なのかどうかはわからないが、いろいろと隙がありすぎる。一じゃなかったら最初のデートの帰りか最終話のカラオケで完全に襲われてる。ですよね?

今回紹介する作品の中では、最新作となる『うきわ』、少し大人になった門脇麦が垣間見えた。

–{Lv.3:あまりにも恐ろしい、分断された人種の確執『太陽』}–

Lv.3:あまりにも恐ろしい、分断された人種の確執『太陽』

(C)2015「太陽」製作委員会

劇団イキウメを率いる劇作家であり演出家・前川知大の舞台劇を映画化した作品、『太陽』(15)。U-NEXTやAmazon Prime Videoで配信中。

バイオテロによって、人口が幻滅した21世紀初頭。ウィルスへの抗体を持つ代わりに、紫外線に耐えることができないという弱点を持つ上流階級の新人類・ノクスと、ウイルスの感染を免れた下流階級の旧人類・キュリオという分断をテーマにした物語。内容は違えど、今このタイミングで観ると。コロナウィルスが連想される箇所がありゾッとした。

キュリオの村で生きる、ノクスに憧れを持つ奥寺鉄彦(神木隆之介)と、幼い頃母がノクスになるため村を出ていった経験から貧しい村で精力的に活動すると心に決めている生田結(門脇麦)。

キュリオは、転換手術でノクスになることができる。対象となるのは成人前の若者のみで、申請して抽選で対象者が決定する。当初、映画の登場人物も観ている側も鉄彦がキュリオになるもんだとばかり思っていたに違いない。結果、キュリオになったのは結。

変換手術の最中には、激しい反応が起こる。人間からなにか別の物体に転生する様をまじまじと見せつけられるような凄まじいシーンだった。村でひっそりと暮らしていた結からは考えられない、内からの開放。

無事ノクスになった結は、父(古舘寛治)と鉄彦の顔を見に、ノクスとキュリオを分断する境界線地点で落ち合う。

そこに存在しているのはたしかに結なのだが、なんというか、完全に別人なのだ。存在自体がキュリオの何十倍もイキイキとしていて、とんでもなく眩しい。父と鉄彦もおそらくそのことに気が付いていて、「本当にもうあっち側にいってしまったんだな」というどこか悲しそうな様子が伺えた瞬間が一番苦しかった。

『太陽』という作品の中で、同じ役柄で、同じ見た目で、あそこまで「変わってしまった人」を表現した門脇麦のカメレオン女優っぷりに拍手喝采。

Lv.4:他人の生活に夢中になって自分の生活がおざなりになる『二重生活』

(C)2015「二重生活」フィルムパートナーズ

直木賞作家・小池真理子原作、岸善幸の映画初監督作である『二重生活』(16)。NetflixやAmazon Prime Video、U-NEXTで配信中。

大学院で哲学を学ぶ、至って普通な学生・珠(門脇麦)は、ゲームデザイナーの拓也(菅田将暉)と同棲中。ふたりのベッドシーンから映画はスタートする。

さっそくあらすじからそれるが、事後、おっきめのTシャツを雑に被り、メガネをかけて、ベランダでタバコを吸うシーンの門脇麦がたまらない。『さよならくちびる』(19)然り、門脇麦のあの感じでタバコを吸う役柄全般、好きすぎる。

話を戻して…素敵な恋人と暮らしながらなんの不自由もない大学生活を送る珠だったが、担当教授の篠原(リリー・フランキー)から修士論文の題材に”哲学的尾行”を提案されたことから珠の生活は一変する。
隣人であり、裕福な暮らしをしていそうな石坂(長谷川博己)をたまたま本屋で見かけ、興味本位で尾行をはじめる。尾行初日からとんでもない秘密を暴いてしまい、どんどん”哲学的尾行”に夢中になっていく珠。

他人の”二重生活”を覗いていたつもりが、どんどん珠の日常に侵食して、気付いたときにはそばにいた拓也はもういない。引き返せないところまできてしまっていた。

どちらかという至極真面目な珠が、非日常なスリルに興奮してのめり込んでいくその姿に観ているこちら側までゾクゾクとさせられたと共に、もう今はない拓也のデスクがあった空間を見つめ、涙を流しながら論文を書き進める珠からはただならぬ意志の強さを感じた。

観終わったあと、ちょっとだけ尾行してみたくなっちゃうから、要注意。『二重生活』での不真面目モードな門脇麦にもハマらないよう、要注意。

–{Lv.5:門脇麦史上最強の陽キャ。『チワワちゃん』}–

Lv.5:門脇麦史上最強の陽キャ。『チワワちゃん』

(C)2019「チワワちゃん」製作委員会

漫画『ヘルタースケルター』や「リバーズ・エッジ」を手掛けた岡崎京子原作を、若手映画監督の新鋭・二宮健により映画化された『チワワちゃん』(19)。NetflixやAmazon Prime Videoで配信中。

MVっぽさもある、青春群像劇。どういう作品?って聞かれたら、私は「令和版オレンジデイズ(の、上位互換)」と答える。原作者の代表作に『ヘルタースケルター』が挙げられることから、映像の雰囲気にどことなく蜷川実花っぽさを感じたのも納得。

導入はギラギラとしたクラブシーンからはじまるが、物語としては「東京湾バラバラ殺人事件」が題材となっている。被害者の身元は、”チワワちゃん”こと千脇良子(吉田志織)。

いわゆる人生の夏休みを謳歌するミキ(門脇麦)、ヨシダ(成田凌)、ユミ(玉城ティナ)、ナガイ(村上虹郎)、サヤカ(古川琴音)ら男女数名のグループ。ミキの元カレでもあるヨシダがチワワちゃんをナンパしたことから、ミキたちとチワワちゃんの交流がスタートする。

チワワちゃんとは。

ミキにとってのチワワちゃんもそうなのだが、「めちゃくちゃかわいいしいい子だけど自分の近くにいたら嫌な女ランキングで堂々の第1位を飾りそうな女の子」だ。ただ、チワワちゃんのことを誰も憎めないというあたり、嫉妬をも超える魅力を持っているということ。

序盤登場直後、チワワちゃんは「中学のときは背おっきくなりたくて、いっっっっっっっっぱい牛乳飲んだんだけど、結局おっきくなったのは〜おっぱいだけだったー!っていう」と元気に叫び、その場にいる男子一同 高揚、女子一同 失笑。特に同性からすると、普通、こんな子と絡まないよね?でも、ミキたちの輪にすんなり溶け込み、いつの間にか常に中心にいる存在となるチワワちゃん。

そんなチワワちゃんに嫉妬のような羨望のような、複雑な思いを持つミキ。なにを隠そう、ミキはもともとチワワちゃんの立ち位置にいたからだ。

物語やミキの人物像からおわかりいただけたかと思うが、本作品の門脇麦は「門脇麦史上最強の陽キャ」に違いない。趣味の延長線上でモデルをこなし、周囲からはかわいいかわいいと囃し立てられ、スクールカースト高めな子たちとつるみ、浴びるように酒を飲んでタバコを吸い、朝までクラブで踊り倒すミキ。

ソフトなイメージが一気に覆される『チワワちゃん』、陽キャな門脇麦にもノックアウトされること間違いなし。

Lv.6:今、観ている門脇麦は本当に門脇麦なのか。最上級にハードな『愛の渦』

((C)映画「愛の渦」製作委員会

演劇ユニット『ポツドール』の同名舞台劇の映画化作品、『愛の渦』(14)。ポツドール主宰の劇作家・三浦大輔が映画用に脚本を書き下ろし、メガホンもとったという。NetflixやAmazon Prime Videoで配信中。

いやー、この映画はすごい。振り切りすぎていてすごい。なにを観させられてるんだろうと思うほどの123分間。

門脇麦でいう『愛の渦』、松坂桃李でいう『娼年』。

「乱交パーティー」というキーワードで、検索しなければ出てこないとあるホームページ。営業時間は午前0時~5時。料金は男性・20,000円、女性・1,000円、カップル・5,000円。六本木にある豪華なマンションの一室。そこに、ニート、女子大生、フリーター、保育士など様々な人間が集まる。

門脇麦は、蚊も殺せなさそうなそのおとなしい見た目からは想像もできないほどの”誰よりも性欲が強い”女子大生を熱演。オーディションで大抜擢され、一躍時の人となるキッカケにもなった作品でもある。

ソフト〜ハードになる門脇麦に共通して言えるのが「その独特な雰囲気からは想像もつかないようなイメージとのギャップ」。

端から見た目からしてやばそうな役柄というものはあまりなく、『あのこは貴族』のようなソフトなイメージそのまんまか、『二重生活』や『愛の渦』のように「え、この子こんな感じなのにあんな感じなの!!?」ととんでもないギャップを見せられてしまうか。意外性があればあるほど目が離せなくなってしまうのだ。

((C)映画「愛の渦」製作委員会

“一貫して門脇麦”であることは誰の目にも明らかなのに、まったく別の顔を持つこの唯一無二なミステリアスさ、これからもあらゆる作品で翻弄され続けるだろう。

(文:桐本絵梨花)

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