大河ドラマ「青天を衝け」は、第29話より明治政府編へと突入。栄一の本領発揮が見れると同時に、民間での活躍の足音も聞こえてくる激動の回が続くことになりそうだ。
本記事では第29話以降の感想と解説をcinemas PLUSライターが記していく。
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第29話「栄一、改正する」感想・解説集
第29話のあらすじ
明治政府に出仕した栄一(吉沢 亮)は、各省の垣根を超えた特命チーム“改正掛(かいせいがかり)”を立ち上げ、杉浦 譲(志尊 淳)や前島 密(三浦誠己)を静岡から呼び寄せる。改正掛は、租税の改正、貨幣や郵便制度の確立など、新たな国づくりのためまい進するが、旧幕臣の活躍を快く思わない一派との対立が生まれてしまう。そんな中、栄一は、久しぶりに惇忠(田辺誠一)と再会する。惇忠は、新政府に平九郎を殺された傷を抱えていた。栄一は、ひそかに温めていた提案を惇忠に切り出す。
第29話の感想
人手不足のなか、改正掛として立ち働く栄一。お千代・うたの再度の引っ越しも済み、改めて家族でともに過ごせることになった。一時はパリへも出向いてしまった栄一だが、こうやって渋沢家が家族団欒の時をともにしている今を思うと、必要な時間だったのだと感じる。
栄一の父母も、家を見にやってきた。栄一のことを「殿様」、お千代のことを「奥様」と呼び出す父。最初はちょっとした口遊びかと思っていたが、「軽々しく名などで呼んでいいものか……」と悩む様子を見ると、あながち冗談でもない様子。
栄一の心中はいかばかりか。父母の前では気丈に笑って見せていたが、その後、「俺が新政府で働いてると知ったら、あにいはどう思うか」と気にする素振りを見せた。
明治政府で働く自分のことを、家族は快く思っていないのではないか。あにい=淳忠はとくに、かつてお上に対し一矢報いると、ともに手を取り合った同士である。栄一が気にかけるのも無理はない。
今だって完全に道を違えたわけではないけれど、栄一のやっていることすべてを心から許してくれるとは……到底思えないだろう。案の定「平九郎は新政府に殺されたんだ」「首を落とされ、亡骸もまだ見つかっていない」と声を荒げる敦忠。どちらの気持ちも汲めるからこそ、ただただ苦しい。
しかし、栄一が新政府を舞台に進めている数々の仕事は、決して無駄ではない。
自らさまざまなアイデアを立て、人々の計画立案も受け入れては迅速に実行に移す。すべては日本を変えるためにやっていること。製紙工場の計画や郵便事業の確立など、今の日本を支える制度を次々と整えたのは栄一の仕事だ。
きっと、それを汲んでくれたからこそ、敦忠は栄一の誘いに乗ってくれたのだ。あにいも新政府に来てくれねえか、という誘いにーー承服しかねる思いはあるのかもしれないけれど、それでも、日本の世を変えたいと願う気持ちは、幼い頃から変わっていないのだろう。栄一も、敦忠も。
–{第30話「渋沢栄一の父」感想・解説集}–
第30話「渋沢栄一の父」感想・解説集
第30話のあらすじ
大阪の造幣局に出張した栄一(吉沢 亮)は、五代友厚(ディーン・フジオカ)と出会う。栄一は、これまでの恨み言をぶつけるが、カンパニーを立ち上げて日本の商業を魂から作り変えたいという五代の話に共感する。一方、新政府の首脳会議では、突然、西郷隆盛(博多華丸)が“まだ戦がたらん”と声を上げる。井上 馨(福士誠治)は、“廃藩置県を断行せよ”との意思表示と理解し、栄一たちに極秘の任務を託す。残された時間はわずか4日…。そして、冬のある日、帰宅した栄一のもとに、父・市郎右衛門(小林 薫)の危篤の知らせが届く…。
第30話の感想
涙なしには観られなかった第30話。
いつか両親との別れのシーンが描かれるだろうと予想はしていたけれど、いざ目の当たりにしてしまうと、なんとも言えず寂しい。自身が危篤状態になっても、「栄一が帰ってきたら、家の者だと思って軽々しく扱わないよう、丁重に」と伝えておく抜かりなさが、なんとも栄一の父らしい。
田舎で生まれ、百姓として生きてきた自分の息子が、まさか天子様の元で働く身分になろうとは。気づいたら栄一は、みるみるうちに力をつけ、役職も上がり、おいそれと軽口を叩けない存在になっていった。そんな息子の姿を見て、複雑な思いもきっとあっただろう。しかし「お前を誇りに思ってる」と口にした瞬間の父の気持ちには、一切曇りはなかったはずだ。
「なんと美しい生き方だ!」
栄一は、自身の父の生き方をそう称した。視聴者全員が、同じように思ったことだろう。
片や、栄一の不貞の証拠(靴下の繕い跡を見ただけで、お千代はそう断定はしなかったかもしれないが)を見てしまったお千代。この頃のお偉いさんは、たとえ愛する妻や子どもがいようとも、本妻とは別の女性を囲うものなのだろうか。それが男の甲斐性と言われた時代なのだろうか。
史実を見る限り、栄一は女性問題には大層だらしなかったようである。このまま、ある程度史実に沿って今後の物語が進むのだとしたら……。考えるだに、見守るのが怖くなってしまう。
少々困った面もある栄一だが、仕事の面では大いなる業績を残し続けている。
明治4年7月14日の廃藩置県に合わせ、藩札がなくなってもいいように、市井の人々への補償金はいくら必要なのかを藩ごとに洗い出したという。三日三晩寝ずの仕事だったようだ。新しい日本をつくるため、人々の暮らしをより良くするため、どれだけ栄一が奔走したかを忘れてはいけない。
–{第31話「栄一、最後の変身」感想・解説集}–
第31話「栄一、最後の変身」感想・解説集
第31話のあらすじ
栄一(吉沢 亮)たちは、日本で初めてとなる銀行づくりに乗り出した。さっそく、豪商の小野組、三井組に協力を依頼するも難航。民間の合同によって銀行をつくりたい栄一と、独自に銀行をつくりたい三井は対立し、三野村利左衛門(イッセー尾形)と熾烈(しれつ)な駆け引きを繰り広げる。
そのころ、富岡製糸場の操業を始めたい惇忠(田辺誠一)は、工女が集まらないことに悩んでいた。西洋式への誤解から、「生き血を取られる」とうわさが立っていたのだ。誤解を解かねばならない。惇忠は、娘のゆう(畑 芽育)に伝習工女になってほしいと頼み込む。
第31話の感想
これまで数々の”変身”を遂げてきた栄一。31話では、そんな栄一の”最後の変身”が描かれる。
お役人・栄一の偉業として「銀行設立」と「富岡製糸場設立」をメインに描かれた今話。「商人の力をもっと大きくするために銀行をつくる」と動き出した栄一は、小野組と三井組に声をかけ、合同で銀行作りに協力してくれるよう頼むことに。
お互いに仲の悪い双方は最初こそ渋ったものの、「こんなことで仲違いしているなら、どちらにも大事なことは任せられない。即刻、官金(政府の金)を返すように」と栄一に申し付けられると、三井組・小野組ともに合同での銀行設立を承諾した(ちなみに、三井組はその後独自で銀行を設立。現在の三井住友銀行の前身となっている)。
牢から無事に釈放され、栄一のツテで大蔵省での仕事をしていた喜作は、栄一の手腕を目撃し複雑な表情である。
上手くやり込められた三井組が、栄一に苦言を呈する場面も。上から下の者を押し込めるようなやり方に、「栄一さんもお役人ですな」「私たち商人は、お上の顔色を伺うのみ」「徳川の世と変わりませんな」と……。
これを聞き、若い頃の苦い思いを蘇らせる栄一。役人だからといって居丈高に振る舞う上の者たちに対し、誰よりも憤ったのは栄一だったはずだ。そんな世を変えたいと奮起したからこそ、今、ここにいるはずなのに。
この時に抱いた思いは、今話の終盤において自宅を訪ねてきた西郷隆盛や、お千代に対しても吐露している。「高いところから物を言うだけの己は、心地が悪い」と。西郷は「後悔はするな」と呼びかけ、お千代はただ優しく微笑んだ。
それにしても、お千代は忍耐強い人だ。栄一が大阪で妾(くに)を取ったと知っても黙って耐え、妊娠していることがわかっても「お前様の子です、ともに暮らし、育てましょう」と受け入れて見せた。その後、深くため息をつく彼女の様子が描かれたが、史実においてもお千代は同じ選択をしている。彼女あってこそ、栄一は多くの偉業を成し遂げられたに違いない。
栄一が行った仕事のひとつである「富岡製糸場の設立」にも触れよう。
「生き血を抜かれるかもしれない」などの不穏な噂が広まり、ひとりも工女が集まらずに苦心していた製系場。惇忠が娘の”ゆう”に「伝習工女になってくれないか」と頼んだことで、ようやく人が集まるようになった。翌年には500人もの工女によって駆動する工場となり、女性の社会進出の先駆けとして知られることになる。
栄一は決して品行方正に生きてきた人ではない。しかし、今の日本がしっかり経済をまわしながら自立できているのは(果たして日本は”自立”しているのか、といった観点には疑問を抱かれる方もいるだろうが)、確実に彼の偉業あってこそだろう。
「やはり俺の道は、官ではない」
「一人の民なんだ」
これが、栄一の最後の変身だ。一人の百姓として、商人として、民として生きようとする彼の視界には、いったい何が見えているのだろう。次回もともに見届けたい。
–{第32話「栄一、銀行を作る」感想・解説集}–
第32話「栄一、銀行を作る」感想・解説集
第32話のあらすじ
栄一(吉沢 亮)は明治政府を辞め、第一国立銀行の総監役として、新たな道を歩み始める。開業後、駆けつけた五代友厚(ディーン・フジオカ)は、“商いは化け物”、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)していると栄一に助言する。そのころ、三菱を率いる岩崎弥太郎(中村芝翫)は、大蔵卿に就任した大隈重信(大倉孝二)と結びつきを強め、海運業で急成長していた。そんな中、ゑい(和久井映見)が体調を崩し、東京の栄一のもとに身を寄せることに…。
第32話の感想
放送後に追記します。
(文:北村有)