『劇場版 鬼滅の刃』2.5次元舞台好きが観た<赤裸々な>感想

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アニメをほとんど見ず、漫画もあまり読まない筆者が「鬼滅の刃」と出会ったのは、2020年1月。すでに社会的人気作品だったにもかかわらず、2.5次元舞台「鬼滅の刃」の初演で初めてこの作品に触れた。(推し俳優のひとりが主演を務めるという理由だけで観に行った)

原作やアニメを知らなくてもちゃんと楽しめる構成なのは大前提で、音楽や美術で作りこまれた世界観に圧倒され、かの有名な「俺は長男だから…」のセリフに涙し(のちに原作ではそんなに大きく扱われていないシーンと聞いてびっくりする)、いつもなら原作を手に取るところ、あえてステージだけで追いかけてみたいと思って、他の媒体には手を出さずにいた。(なお、推しは冨岡さんである)

その甲斐あって、8月に上演された続編の舞台「鬼滅の刃」其の弐 絆では、感情を表に出さない冨岡さんの意外な心中やしのぶさんの過去を新鮮な気持ちで知ることができ、こういう楽しみ方も2.5次元舞台の一つだよなぁと思った。

※この記事には、劇場版『鬼滅の刃 無限列車編』および、舞台「鬼滅の刃」其の弐 絆のネタバレが含まれています。

「キメステ」の続きが気になりすぎて『無限列車編』を鑑賞

そんな筆者がなぜ急に劇場版の『無限列車編』を観ようと思ったのかといえば、「キメステ」のラストが無限列車編へ続く形で終わっていたから。つまり、続きが気になって仕方なかったのである。

だって、あんなにファンに愛されている煉獄さんなんだから、炭治郎にも慕われ、読者・視聴者にも魅力的な人だと認知されている状態での無限列車編だと思っていたのに。「キメステ」は、しのぶさん以外の柱とはほぼ関わりがないまま、蝶屋敷を出て無限列車の前でかまぼこ隊がわーきゃーしている展開で終わるのである。

煉獄さんとの関わりもないまま、コナン映画のようなキャストのセリフで構成された次回予告で舞台は幕を閉じ、私の頭は「????」となっていた。

そして、次回作まで待てないせっかちな筆者は、ついに禁断(?)の円盤に手を出すのであった…。

煉獄さんのことは好きになれない気がした

映画が始まってまず最初に思ったのは、キャラクターたちの声が舞台版と違和感がないということ(普通は舞台がアニメと変わらないという感想をもつところであろうが、許してほしい)。

それだけ、キャストたちがアニメファンの期待を裏切らないように、キャラクターのイメージを尊重し、丁寧な役作りをしているということで、映画とは関係ないところで感動してしまった。

逆にアニメだからこそ、と思ったのは、炭治郎の手がぼろぼろに描かれていること。これは、客席とステージに距離がある舞台では気づきづらい点である。

さて、煉獄さんといえば、「うまい!うまい!」「よもやよもや」がネットミームとしてひとり歩きしているキャラクター。さっそく、お弁当を食べている煉獄さんが登場し、「うまい!うまい!」と叫ぶ。周りも引いてるし、空気の読めなさが怖い!

さらに、炭治郎たちと話す煉獄さんからは、他の柱にはない陽キャ感がほとばしっている。この人、なんでこんなに自信満々なんだろう。好きにはなれないタイプかもしれない…。

そんなことを思いながら、「(だから柱である)俺が来た!」というセリフに「僕のヒーローアカデミア」の頼れるヒーロー・オールマイトの姿を重ねつつ、「でも、でも、煉獄さん、死んじゃうんでしょ〜!?!?」と私の心の善逸が叫ぶ。

–{煉獄さんの過去を知って手のひら返し}–

よもや!よもや!煉獄さんの過去を知って手のひら返し

魘夢の声はCMで聞いていたので、「キメステ」に登場したときも「あれ…?この人、無限列車の人では…」と思っていた。こんなに早く登場するの?まぁ、下弦の鬼だし、ラスボスではないよね…?

そんな魘夢に眠らされた煉獄さんの夢の中で、彼の過去を知ると、なんであんなに陽キャなのかが明白になった。

いきなり重い過去をぶち込まれて、つらい!つらい!だから、煉獄さんってあんなに明るいんだね…。弟と話している姿を見て思う。やっぱり、長男はつらいよ。

柱になっても父親から相手にされず、それでも腐ることなく、弟には事実を伝えながらも優しく接する気遣いができて、もうこの時点で、みんな煉獄さんのこと好きにならないわけがないんですね。(手のひら返し)

そして、切り開かれた煉獄さんの無意識領域で燃える炎が、その消えない情熱を表現していることにもぐっとくるわけで。

炭治郎がいい子なのは知ってる

魘夢との戦闘シーンは「キメステ」でどう演出されるのかな、とワクワクしながら観ていたけれど、そんな中、衝撃の事実が発覚。

「列車と融合ってやべえやつだな!鬼にルールないんかい!」

その辺は、ちゃんと原作を読んでいれば鬼のルールがわかるんでしょうか…?

そして、禰?豆子を人間に戻すためではなく、自分を刺した相手を人殺しにしないために死ねないという炭治郎。知ってる、炭治郎はそういう子だよ〜!!このシーン、めっちゃ「キメステ」で観たい…。

でも、夢の中で家族にひどい言葉を投げかけられる炭治郎がどうなってしまうのか、内心ヒヤヒヤしてしまった。「そんなことをいうはずがない!」と叫ぶ姿に、魘夢だけでなく私もまだまだ炭治郎のことがわかっていないんだなと反省するのであった。

【関連記事】「鬼滅の刃」竈門炭治郎の5つの魅力:ただの良い人で終わらない“炭治郎らしさ”とは

–{煉獄さんにかけられた呪い}–

煉獄さんは悲しきヒーローである

猗窩座が登場して、いよいよラスボスのおでましか。登場シーンと戦闘中のBGMがめちゃめちゃかっこいい。

「キメステ」も基本、和テイストのBGMだけれど、主にギャグシーンなどで時折使われる洋テイストの曲がかっこいいのだ(「其の弐」では、伊之助が己の強さを主張せんと歌うロックと、機能回復訓練の全容を知った善逸が怒り叫ぶメタル系の楽曲がとてもよかった)。作品のメリハリとして効いていると思っていたけど、アニメの雰囲気を継承しているところもあるのかもしれないなと勝手に思った。

猗窩座戦は、意外と伊之助に状況判断能力があるなぁとか、初対面で杏寿郎って呼ぶの馴れ馴れしいな!とか思っていたけど、「ちょっと待って、この後こいつ倒さなきゃいけないんだよね!?」と、冷静(?)になったところで、煉獄さん!!出ました名台詞!!

「俺は俺の責務を全うする!」

CMでも使われたほど有名なこのセリフの裏に、床に伏す母からの言葉があったことを初めて知った。強きものが弱きものを助けるべきという真っ当な教えではあるが、親の言葉は子にとって呪いでもある。それも、存命しない相手からの言葉であればなおさらだろう。

もしかしたら原作で何か言及されているのかもしれないけれど、炭治郎やしのぶさんのように個人的な事情や鬼への復讐心があるわけでもなく、純粋に人々を守るために見返りを求めず柱として戦う煉獄さんの存在はヒーローそのものだと思った。ただし、生まれながらにしてのヒーローではなかったのではないだろうか。

その心の中にはいつだって母の言葉があったはず。死に際に母親へ問いかける姿が、それを物語っている。

映画をみる限りでは、煉獄さん自身には母親の言葉に囚われている自覚はおそらくなかったと思うし、だから柱として真っ直ぐに戦えていたのだと思うけれど、本人に自覚がないからこそ、視聴者側のこちらとしては余計にそれが悲しく感じられた。別の生き方をしたとして、誰が彼を責められようか。

ああいう時代だったからこそ、その言葉が彼の道標になっていたのかもしれないけれど、鬼殺隊に入っていなければ若くして命を落とすこともなかっただろう。弟には自由に生きてほしいと願った言葉から、自分が何か(それは長子ということに尽きるのかもしれないけど)に縛られている感覚はあったんじゃないかなぁと思った。

“煉獄さんの女”が量産されたのも納得の2時間

「無限列車編の前に、煉獄さんの出番がたくさんあったのでは?」という当初の想像に反して、煉獄さんの魅力は2時間弱の劇場版に詰め込まれていた。

炭治郎たちにとっても未知の相手である煉獄さんのストーリーに終始しているので、映画で初めて「鬼滅の刃」に触れる人でも話に置いていかれることなく、スッと世界に入っていくことができる。本作で“煉獄さんの女”が量産されたのも納得である。そもそも2時間あると思えないほど、あっという間だった。このスピード感も、鬼滅人気の一端なのかもしれない。

筆者は劇場版を履修してしまったために、「キメステ」の無限列車編が上演されたときには涙なしでは観られないだろうと、今からハンカチを用意して臨む所存である。

舞台「鬼滅の刃」初演はアマゾンプライム・ビデオで配信(要課金)しているので、もし興味をもった方がいたら、観ていただけたらうれしい。

「其の弐」は、ステージ後方が傾斜になっている舞台セットが迫力あるアクションを見せるのに天才すぎたので、こちらも円盤発売や配信の折には多くの人に観てほしいなぁと思う。

【関連記事】「鬼滅の刃」炭治郎たちの成長の起点:煉獄杏寿郎の死は必要だった……?

(文:大谷和美)

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–{『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』作品情報}–

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』作品情報

ストーリー
鬼殺隊剣士の竈門炭治郎たちは、蝶屋敷での修業を終え、次の任務の地・無限列車に向かう。無限列車では短期間のうちに40名以上の行方不明者が出ており、先に送りこまれた仲間の剣士も全員消息を絶ったという。鬼となった妹の禰豆子を連れた炭治郎と善逸、伊之助の一行は、鬼殺隊最強の剣士・柱の一人である炎柱の煉獄杏寿郎と合流し、闇を往く無限列車の中で鬼と立ち向かう。

予告編

基本情報
出演:花江夏樹/鬼頭明里/下野紘/松岡禎丞/日野聡/平川大輔/石田彰/小山力也/豊口めぐみ/榎木淳弥 ほか

監督:外崎春雄

公開日:2020年10月16日(金)

製作国:日本