<木村拓哉>2つの魅力:「ザ・キムタク」と「その外側」

俳優・映画人コラム

『検察側の罪人』 (C)2018 TOHO/JStorm

「木村拓哉と言えば?」

この問の回答は100人いれば100通りと思われる。その中にはネガティブなものも含まれていると思うが、少なくとも筆者はネガティブな印象を抱いていないため、ネガティブ評は他のところでやっていただきたい。

今回木村拓哉という人物について文章を紡ぐのは大変恐縮だが、映画『マスカレード・ナイト』公開というせっかくの機会なので率直な木村拓哉評を記していきたい。

読者のみなさまには、是非ともここで記すこと云々よりも、みなさま自身が思う「木村拓哉と言えば?」をSNSなどでコメントしていただきたい。

俳優論よりもまずはやっぱりSMAPなんだ

触れてはいけない的に思われることもあるが、やはり木村拓哉と言えばSMAP時代を語らずにはいられない。

とは言っても筆者は1986年生まれの男性で、決してSMAP全盛期に超大ファンだったというわけではない。あれこれ詳しいことを記せないのは申し訳ないが、2002年の「世界に一つだけの花」超大ブームの最中で青春時代を過ごしたため、自然とSMAPは日々の生活に溶け込んでいた。

高校が西武線の小川駅にあった筆者は、その帰りに友人らと国分寺や恋ヶ窪のカラオケ店でSMAPの曲を口ずさんだ。「世界に一つだけの花」や「青いイナズマ」などで盛り上がって、「オレンジ」などでしんみりと締める。しかし、共学なのに男どもでしか行った記憶がなく、しんみり終わるのもアレとなり、なぜかみんなで「いざゆけ若鷹軍団」を歌って締めたこともあった。SMAP全然関係ない脇道に話が逸れそうなので強制的に本題に戻そう。

とにかく、筆者の高校時代は自然とSMAPが会話に出る時代であった。なお、当時はMD全盛期であった。

音楽的な側面ももちろん記憶にあるが、合わせてやはり「SMAP×SMAP」の記憶も残っている。筆者は小学生の頃に「TVチャンピオン 小学生料理人選手権」に触発され、料理は今でも趣味としている。「SMAP×SMAP」のBISTRO SMAPは、青春の1ページに刻まれた。いや、人生の1ページに刻まれたと言っても過言ではない。何なら今の時代の俗に言う「時短レシピ」の先駆けだったのではとすら思う。

ここまで記しておわかりの通り、ここまではまだSMAPの思い出話だ。そう、SMAPは全員好きだった。

解散してしまった理由は表に出ているもの、噂されているもの、さまざまな複合要因と私は考える。誰かを悪者とする噂や報道は全てが立証できるものではない。そういったものは信じないようにしている。よって、解散した今でも全メンバーが好きだ。

そんなSMAP全盛期の思い出を語った上で、その当時を含む個人的な木村拓哉の出演作のイメージ話へと進んでいきたい。

–{「HERO」からが鮮明に覚えている時期}–

「HERO」からが鮮明に覚えている時期


(C)フジテレビ

「木村拓哉のドラマで何が好きか」という問いがあれば、必ず「ロングバケーション」「ラブジェネレーション」「ビューティフルライフ」などが出てくる。

しかし1986年生まれの筆者にとっては、1996年から2000年にかけてはまだおこちゃまであった。何かおぼろげな記憶こそあるが、親が見ていた傍らでの記憶でしか無い。後から見て名作であったので、後悔はしているがリアルタイムの思い出ではない。

その先、2001年の「HERO」が筆者にとって木村拓哉の出演ドラマで「おもしろい!」と釘付けになったものだった。「HERO」は、木村拓哉の代表作の一つで間違いないが、筆者にとっても代表作の一つだ。

破天荒な久利生公平という役柄にハマり、中学生ながらに司法の世界への興味も抱いた貴重な体験だった。破天荒なのにカッコいい。後述する「ザ・キムタクのイメージ」だからこそ男も惚れる男に仕上がっていたと思う。

なお、「HERO」を巡っては、当時中学校内で「松たか子VS大塚寧々」というとても生産性のない論争が繰り広げられた。大塚寧々派の我々は、当初勢いがあった。しかし、気付けば劣勢で、あれは人生で初めて石田三成を疑似体験した瞬間でもあった。また話が脇道に逸れた。次の作品へ話を移そう。

–{「GOOD LUCK!!」は特別な作品}–

「GOOD LUCK!!」は特別な作品

(C)TBS

筆者は小学生の頃から「将来の夢は飛行機の客室乗務員になること!」と夢を抱いていた。小学生の頃連れて行ってもらったハワイ。今は無きノースウエスト航空で行ったが、その際の男性パーサーがカッコよくそれに憧れたのがきっかけだった。

中学生になってもそれは変わらず、夢実現へのモチベーションだけで英検2級まで取得し、英語に強い高校へ進学した。合わせて飛行機ヲタク感も出てきて、「月刊エアライン」を購読し始めたのもこの頃であった。

その延長線で、運命のドラマと出会う。高校生2年生の時にテレビ放送されたドラマが「GOOD LUCK!!」だ。

ANAが全面協力し、木村拓哉が新海元という副操縦士を演じた作品だ。飛行機についてヲタク化していたこともあり、放送翌日に友人らから様々な質問をされ、「ここが面白かった!」とか、「実際の機長は特定の機種しか操縦しないから、B747-400型機を操縦した後の着陸映像がB777-200型機なのはおかしい。まあイメージ映像に過ぎないのだろう」と生産性の無い会話を鮮明に記憶している。女子が引いてたのも覚えている。許さない。

この新海元がまあイケメンで、「ぶっちゃけ」を連発していたのも覚えている。柴咲コウ演じるツンデレ整備士との恋模様も盛り上がったが、何よりも新海元が一度怪我をした後で副操縦士へ復帰し、ホノルル便で監査を受ける最終回がとても感動的だった。

この新海元を木村拓哉以外が演じている姿は全く想像できない。

以前にバラエティ番組の「モニタリング」で勝地涼が仕掛けたドッキリの際に自らの演技のイメージを語っていたことがあった。

「だって自分だっていわれてるもん。何やったってキムタクだっつって。しょうがないよね、人がそういうんだから。でも、それはそれだし。」

前述した「ザ・キムタクのイメージ」というものだ。

何やったてキムタクと叩く意味がわからない。木村拓哉だからこそ「ザ・キムタクのイメージ」を築き上げられたわけであり、この「GOOD LUCK!!」は「ザ・キムタクのイメージ」だからこそおもしろい作品になったのだ。

–{「華麗なる一族」の衝撃}–

「華麗なる一族」の衝撃

「GOOD LUCK!!」の後に、「プライド」や「エンジン」などに出演し、これらでもカッコよく「ザ・キムタクのイメージ」をしっかりと体現していた。

筆者は「GOOD LUCK!!」にハマり過ぎていたため、そこまでハマらなかったが、ドラマとして楽しんだのは間違いない。

そしてその次の出演作「華麗なる一族」で衝撃を受けた。

当時はもう大学生であり、当時は「沈まぬ太陽」をきっかけに山崎豊子の小説を読み漁っていた。そして山崎豊子原作の「華麗なる一族」がドラマ化されるということで、毎週欠かさず見ることとなった。

原作と異なり、主人公が木村拓哉演じる万俵鉄平となったこのドラマ。それに賛否もあったが、非常に苦悩し悲しき最期を迎える人物であるため、主人公となったことでとても感情移入し、最終回の放送後は茫然自失となった。

豪華な出演陣が揃っていて、物語もアンサンブルの様相があっても、「主人公は木村拓哉だ」というその存在感が見事だった。万俵鉄平という人物自体は「HERO」の久利生公平や、「GOOD LUCK!!」の新海元に比べると派手ではない人物だ。

しかし、派手ではないが存在感を見事に残すということを木村拓哉はやってのけた。印象としては俗に言う「ザ・キムタクのイメージ」だったと思う人もいるだろうが、私の中では木村拓哉の新境地と感じるものがあった。

木村拓哉のドラマの中では今でもこの「華麗なる一族」がベストの作品(ドラマとしての評価)と私は思っている。

–{「CHANGE」は後から見直してハマる}–

「CHANGE」は後から見直してハマる

(C)フジテレビ

その後木村拓哉が出演した「CHANGE」では、国会議員の父親の急死を受けて望んでもいない国会議員へ立候補することになる朝倉啓太を演じた。そのベテランに担がれて当選1回で総理大臣になるという前代未聞の設定に驚かされた。

このぶっ飛んだ設定の第一印象が個人的にあまり良くなく(リアリティないと思ってしまった)、毎週欠かさず見るということをしなかった。

しかし、最終回に取り入れられた首相メッセージのシーンに驚愕して、毎週見なかったことを後悔した。このメッセージ(演説)シーンは何と生中継で放送された。22分間ワンカット、涙も見せ、本当に総理大臣が国民に語りかけているとすら思えるとんでもないものであった。

木村拓哉のベスト演技はこの22分で異論は無いだろう。いや、異論はあるかもしれないが、ベスト級の演技であったことは間違いないだろう。

–{そして「グランメゾン東京」へ}–

そして「グランメゾン東京」へ

(C)TBS

2010年頃から(社会人になった頃から)、筆者は一時期テレビを全然見なくなった。テレビに嫌気が云々ではなく、気付いたら映画ばかり観ていた感じだ。

今となってはバランスを取りながら「安堂ロイド」や「A LIFE〜愛しき人〜」、「BG〜身辺警護人〜」第1シーズンなどはリアルタイムで見るべきだったと後悔している。

その後悔の先で、2019年の「グランメゾン東京」は毎週リアルタイムで視聴した。

このドラマの木村拓哉は、俗に言う「ザ・キムタクのイメージ」だったと思う。

しかし、繰り返しになるがこれは褒め言葉だ。木村拓哉が世間の「ザ・キムタクのイメージ」の延長線で尾花夏樹という人物を演じたからこそ、最終回の三ツ星獲得シーンの涙に視聴者も感動したはずだ。

あの一人で静かに感無量で涙する感じは木村拓哉だからこそできる技である。

木村拓哉のドラマは本当に面白い。その後、特別ドラマ「教場」では今までとは異なるイメージも醸成し、「ザ・キムタクのイメージ」の外側を多層的に形成していると感じる次第である。

映画の話へ:「ザ・キムタクのイメージ」の外側

木村拓哉の演技のキャリアはドラマが中心であったとは思う。

しかし、『HERO』の映画化はさておき、『武士の一分』や『無限の住人』『検察側の罪人』では、「ザ・キムタクのイメージ」の外側を多層的に形成していたように思える。

特に『検察側の罪人』は、原田眞人監督の執念演出も相まって、観客の倫理観(正義感)を逸脱する主人公最上毅となっていた。あの人物に「わかるわかる、同情する」と素直にはなりにくい。だからといって100%悪かというと何とも…。今文章を記していても答えの出ない迷宮を形成した演技と言えるだろう。

そして、その先に『マスカレード・ホテル』と『マスカレード・ナイト』の新田浩介がいる。この演技は「ザ・キムタクのイメージ」とその外側の多層的な新キャラ像のハイブリッドと言えるだろう。

「ザ・キムタクのイメージ」としての魅力と、木村拓哉の演技の多様性の両面が味わえる。豪華キャスト感も相まって、映画館で観てこそより深く堪能できるというものであるのも喜ばしい。

常に賛否さまざまな意見を言われ、第一線での活躍を続ける木村拓哉という人物。

私自身の人生における彼の演技との接点をこのように記せてとても嬉しい次第だ。そして、これからもさまざまな演技に魅了され、応援し続けることになるだろう。

やっちゃえ、木村拓哉。

(文:ヤギシタシュウヘイ)

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