<黒木華>の魅力、「等身大」に混ざる「少しの不思議」

俳優・映画人コラム

<「僕の姉ちゃん」特集企画>

「僕の姉ちゃん」より  Ⓒテレビ東京

2009年の野田秀樹の演劇ワークショップに参加、その後、2010年のオーディションを突破し舞台女優としてデビューした黒木華。

2011年からは映像の仕事もするようになり、今年で映像デビュー10年となります。

以降、これまでに30本以上の映画・20本近いドラマに出演し続け、舞台も多くこなし、切れ間なく一線で活躍し続けています。

映像デビューが20代からで、それからまだ10年しか経っていないのか!?と聞くと少し驚いてしまいますが、確かに10代の役(高校生役など)を演じた彼女は見ていないので、彼女の活躍はここ10年程の話なのだなと再確認させられます。

今となってはどうしようもないことですが、10代の黒木華の演技も見てみたかったですね。

ドラマ最新作「僕の姉ちゃん」は、ちょっと不思議な姉弟の物語

竹野内豊主演の月9ドラマ「イチケイのカラス」の高評価も記憶に新しい黒木華ですが、次のドラマは「僕の姉ちゃん」です。

「僕の姉ちゃん」より  Ⓒテレビ東京

雑誌「anan」で連載中の益田ミリの同題コミックを原作にしたもので、タイトルロールでもある杉野遥亮演じる白井順平の姉・白井ちはるを演じています。

2021年9月24日からAmazon Prime Videoで先行配信されたのち、2022年にテレビ東京での放映も予定されています。平岩紙や久保田紗友など、ニヤリとさせる共演者もそろっています。

両親が海外に行っているほんの少しの間だけ、二人だけの生活を送ることになった姉弟。

弟の順平は新社会人で、まだまだいろいろなことに手も頭もいっぱいいっぱい。

一方、少し年の離れた姉のちはるは、社会人生活にもそれなりに慣れ、自分の中での楽しみや癒し、ちょっとした人生のポイントを手にしています。

「僕の姉ちゃん」より  Ⓒテレビ東京

何かと思い悩むことの多い順平と自分のペースを作りつつあるちはるは、仕事から帰ってくると好きなように食事をします。お酒を飲みながらあれやこれやと展開されるぶっちゃけトークは、仕事や恋・友人関係や趣味・果ては人生にまでおよびます。

ドラマ「僕の姉ちゃん」はまさにこの仕事から帰ってきた後、実家のリビングでの姉弟のやり取りがメインと言えるドラマです。ここでちはるの口から放たれる、何とも言えない本音と建前の使い分けに、順平はもちろん見ているこちらとしてもなんだか妙に納得させられてしまいます。

順平世代の人間には妙な納得感を与え、ちはる世代の人間には大いなる共感を生む。「僕の姉ちゃん」はそんなドラマに仕上がっています。

と言っても、そんなに肩に力が入っているわけではなく、あくまでも緩いコメディドラマですし、1話につき30分で見終われるので、気軽に見て「うん、そうそう」とうなずき、少しにやりと笑って終わるのが一番の楽しみ方と言えるでしょう。

「僕の姉ちゃん」作品情報

■配信: Amazon Prime Videoにて2021年9月24日(金)より全話一挙先行配信

■テレビ放送: テレビ東京にて2022年放送予定

■出演:黒木華/杉野遥亮 / 久保田紗友/若林拓也 春原愛良 藤間爽子 大場みなみ 岩谷健司 / 湯川ひな 遊屋慎太郎 渡辺大知 片桐仁 / 平岩紙

■原作:益田ミリ「僕の姉ちゃん」シリーズ(マガジンハウス刊)

■公式HP:https://www.tv-tokyo.co.jp/bokuane/ 

■公式Twitter:@tx_bokuane  

■公式Instagram:@tx_bokuane  

“等身大”だけではない “+α” の魅力

黒木華の魅力と言えば、何と言っても等身大のキャラクターがはまるということでしょう。

ドラマ「重版出来!」「凪のお暇」や映画『シャニダールの花』『リップヴァンウィンクルの花嫁』『日日是好日』といった主演作はもちろん、脇に回った『舟を編む』『小さいおうち』『永い言い訳』『浅田家!』などなど、等身大のキャラクターを実に魅力的に演じてきました。

等身大のキャラクターというと聞こえはいいですが、一歩間違えるとちょっと地味なままで終わってしまうことも少なくありません。

しかし黒木華が演じることで、“等身大”に“+α”が加わり、派手さはないけどしっかり映えるキャラクターとして我々の前に現れます。

結果的に、見終わってからも彼女の存在が見ている者の心に残ります。

“等身大”“普段”“普通”という立ち位置にほんの少しの“スパイス”“不思議さ”“+α”が入るというのが、黒木華の演技の最大の魅力と言っていいでしょう。

このことはちゃんと評価にもつながっています。彼女は山田洋二監督の『小さいおうち』での銀熊賞受賞を筆頭に、毎年のように賞レースに絡んできています。

日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を2連覇したのは、2021年9月現在黒木華と余貴美子だけです。

そうは言っても当の本人は「毎作ごとに反省点があり、本当に下手で自分の演技を見るのは恥ずかしい」と語っているのですが、この良い意味での貪欲さ、挑戦を忘れないという気持ちこそ、彼女が常に成長し続けている証でしょう。

–{最新映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』ではゾクっとさせる演技を……。}–

最新映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』ではゾクっとさせる演技を……。

 映画の最新作が2021年9月10日公開されたばかりの堀江貴大監督『先生、私の隣に座っていただけませんか?』です。

(C)2021「先生、私の隣に座っていただけませんか?」製作委員会

柄本佑、奈緒、金子大地、風吹ジュンと共演した本作で黒木華は漫画家夫婦の妻・佐和子を演じています。

夫の俊夫も漫画家ですが久しく新作はなく、佐和子のアシスタント的な存在になっています。しかも佐和子の担当編集者の千佳とは不倫関係にあるようで……。

そんな中で、佐和子は運転免許を取るために通い始めた教習所で歩という年下の教官と出逢い、胸がときめきます。

千佳との浮気がばれているのでは?と感じ始めた俊夫に、佐和子は新作の漫画のネームを見せます。そこには俊夫と思われる男と千佳と思われる女性との不倫現場がリアルに描かれていて、さらに教習所での歩との淡い恋も描かれています。

どこまでが想像で、どこからがリアルなのか戸惑う俊夫ですが、佐和子の様子は一向に変わった感じもなく、逆にそれがさらに余計な焦りと不安を感じさせます。

そのエンディングについては、拍手喝采する側の人間とひたすら恐怖する側の人間、大きく分かれるエンディングになっています。

バイオレンスという言葉から最も遠いような映画ですが、個人的には思い切りぞくっとさせられました。

話題作連発「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM」発信作品から目を離すな!?

映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』はオリジナル企画のコンテスト「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2018」の準グランプリ受賞作品です。

「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM」はその言葉の通り、TSUTAYAが主催する「本当に観たい映画作品企画」を募集から映画化までのバックアップを行う「コンペティション」を中心に、映像クリエイターと作品企画を発掘するプログラムです。2015年から始まったまだ新しいプログラムですが、2018年以降コンスタントに映像化が進んでいます。
 
第一回作品は長澤まさみ&高橋一生の『嘘を愛する女』。以降池田エライザ主演の『ルームロンダリング』、夏帆&シム・ウンギョンの『ブルーアワーにぶっ飛ばす』などが立て続けに公開されました。
 
2021年に入ってからも土屋太鳳&田中圭の衝撃作『哀愁しんでれら』、瀧内公美主演でSNSをテーマに扱った『裏アカ』がすでに公開済み。
 
2021年9月には今回の『先生、私の隣に座っていただけませんか?』に続いて、ムロツヨシの初主演映画となる『マイ・ダディ』(こちらも共演に奈緒の名前が)が9月23日から公開予定です。
 
「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM」は2021年のコンペティションは中止されましたが、2020年までの受賞作の映像化企画は進んでいるとのことですし、2022年春には新たなコンペティションが予定されています。これからも「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM」から発信される作品には要注目です。

–{黒木華のこれからは?}–  

黒木華のこれからは?

ちょうど30代に入り、俳優としてはいよいよ脂がのってくるタイミングに差し掛かった黒木華。
 
映画・ドラマはもちろん、舞台からキャリアをスタートさせたということもあって、コンスタントにステージにも立ち続けています。
 
私は江戸川乱歩ヲタクでもあることから、2017年の舞台「お勢登場」のステージで座長を張る黒木華を見ています。タイトルにもなっている「お勢登場」他「D坂の殺人事件」「二銭銅貨」「押絵と旅する男」といった江戸川乱歩の名作短編を一本の物語に再構成するという実験作でしたが、主演の黒木華は見事なファムファタルでした。

そう思って出演作を見返すと「オリエント急行殺人事件」『ソロモンの偽証』『ビブリア古書堂の事件手帖』などなど、ミステリー作品も多いことに気が付きます。

彼女の持つ、日常に足された“少しの不思議”が巧く作用しているといえるでしょう。
 
最新出演作は朗読劇の「湯布院奇行」で成田凌、コムアイと共演。

「ボクたちはみんな大人になれなかった」の燃え殻による書下ろし作品を舞台化したもので、現実と夢想の間でほんろうされる男(成田凌)とそこへ導く女たちの物語で黒木華は複数の役柄を演じて、成田亮を翻弄するようです。
 
やはり黒木華には“少しの不思議”が似合うのかもしれません。
 
(文:村松健太郎)