本作の主人公ホリガイ(佐久間由衣)は大学生活をそつなく過ごし、就職も決まり、後は卒業を迎えるだけといった、一見味気ない日常を過ごしています。
そんな彼女がふとしたことで知り合うイノギ(奈緒)は、常に帽子をかぶり、ちょっと鬱陶し目な長い髪を切ることもなく、どこかしら笑顔で心の奥の影を隠しているかのような女性です。
そしてホリガイの友人ホミネ(笠松将)の死が、彼女たちの心情に何某かの変化をもたらしていきます。
それは自分自身の心の傷であったり、コンプレックスであったり、本当は長所がいっぱいあるにも関わらず短所しか自分には見えないことの怒りや苛立ちであったり、さらには他人の心を全然思いやれていないのではないかといった絶望であったり……。
本作は20歳を過ぎてまもなく学生から社会人へ転身していこうとする若者たちの、実はまだまだ不安定な心情(もちろん、大人になってもその不安定さは姿形を変えて常にまとわりついてくるものですが)を切々と描き得た好篇です。
どちらかというと前半は淡々と日常をスケッチしていきますが、後半に向って徐々にふたりのヒロインの心の痛みなどが露になっていきます。
彼女たちそれぞれの人生の悲しいキャリアをわかったふりすることはできなくても、彼女たちの絶望と希望が交錯していく日常の中でどうしても培われてしまう劣等感や欠落感、そして焦燥感は誰しも理解できるところでしょう。
実は冒頭の飲み会シーンで、ホリガイが処女であることを男どもが茶化す古めかしい描写などに嫌悪を抱いてしまったのですが(ただし今もああいったデリカシーに欠けた男って意外に多いのかな?)、恋愛にも未だ積極的になれないまま、外向けの笑顔の作り方だけは達者なホリガイの深層心理を示唆させるフックにはなっていたのかもしれません。
またその伝では、いくつかのシーンが原作小説から15年以上の時を経ての映画化であることを上手く昇華しきれていない憾みも感じないではありませんでしたが、佐久間由衣と奈緒、双方とも現時点における俳優としての代表作ではないかと思える好演が、まさに「今」の映画として屹立させてくれています。
恐らくは彼女たちと同世代の若者たちが、賛否も含めて今の自分たちのアイデンティティを振り返るきっかけになるほどに、深く感情を揺さぶられる作品に仕上がっていることは間違いないでしょう。
(文:増當竜也)
–{『君は永遠にそいつらより若い』作品情報}–
『君は永遠にそいつらより若い』作品情報
【あらすじ】
大学卒業を間近に控え、児童福祉職への就職も決まり、手持ちぶさたな日々を送るホリガイは、身長170cmを超える22歳、処女。周りからは変わり者扱いされて、いじられても、本人はさほど自覚はない。バイトと学校と下宿を行き来し、友人とぐだぐだした日常をすごしている。ある日、同じ大学に通う一つ年下のイノギと知り合うが、彼女は過去に痛ましい経験をしていた。そんななか、下宿先のアパートの階下で虐待を受けていた少年をかくまっていた気の優しい友人ホミネが自殺してしまう。彼の死後、ホリガイは日常に潜んでいる「暴力」と「哀しみ」に目を向けるようになる。
【予告編】
【基本情報】
出演:佐久間由衣/奈緒/小日向星一/笠松将/葵揚/森田想/宇野祥平/馬渕英里何/坂田聡 ほか
原作:津村記久子
監督:吉野竜平
脚本:吉野竜平
上映時間:118分
映倫:PG12
製作国:日本