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過去に放送されたアニメ「鬼滅の刃 竈門炭治郎立志編」が特別編集版として放送される。本記事では、「兄妹の絆」について、解説・感想・名ゼリフをご紹介する。
(※竈門禰豆子の「禰」のへんは「ネ」の字です。)
「兄妹の絆」ざっくり解説
物語は主人公・竈門炭治郎が鬼により家族を惨殺され、ただ一人生き残った妹の禰豆子も鬼になってしまった、という絶望的な状況から始まる。禰豆子を人間に戻すという、途方もない目的を果たすと誓った炭治郎。鬼を退治する鬼殺隊に入るため、鱗滝左近次(うろこだきさこんじ)の元で長らく修業をし、最終選別で生き残るまでが今回だ。
鬼
見進めることで、視聴者は鬼がどういう存在かを知っていくことになる。人を殺して喰らい、身体を切られても再生し、特別な刀で頸(くび)を切るか太陽の光に当たらないと殺せない。人を食べれば食べるほど強くなること、今回は出てこなかったが血鬼術(けっきじゅつ)という独自の術を使う鬼もいること。また鬼はもともとは人間だったということ。
主人公・竈門炭治郎
「兄弟の絆編」炭治郎を知っていく時間でもある。まず心を打たれるのは、あまりに人のことばかり思いやっていることだ。母と弟妹合わせて5人が殺され、たった一人生き残ったすぐ下の妹・禰豆子(ねずこ)も鬼になってしまった。いくら長男とはいえ、このとき13歳。つらすぎる状況だ。なのに自分がどうつらいかよりも、死んだ家族や禰豆子のことばかり考えている。
家族だけでなく、他人や倒した鬼までも思いやれる心に驚かされる。また、気持ちだけで暴走するタイプではなく、大変な状況でも冷静に思考できるところもすごいところだ。
もともとはただの一般人だった炭治郎。序盤である本編では、視聴者と同じ目線で鬼に驚いたりしているシーンが多かった。
–{「兄妹の絆」がっつり感想}–
「兄妹の絆」がっつり感想
家族に囲まれ幸せな光景から始まる物語。だがアニメを見始めた時点で鬼滅の刃がどんな話なのかはざっくり頭に入っていたし、サブタイトルは「残酷」だし、嫌な予感しかしない。失われることがわかっていながら見る幸せな光景はつらい。
帰宅が遅くなり、鬼が出るから泊まっていけと強く言われ、山のふもとにある三郎じいさんの家に泊まった炭治郎。夜は鬼が出ること、鬼狩りが鬼を狩ってくれることなど鬼にまつわる話を聞くが、この時点では鬼の存在を信じていなかった。今思うと三郎じいさんグッジョブすぎる。
だが朝、家に帰ると母と弟妹たち、計5人の家族は見るも無残な姿で殺されていた。そしてたった一人生き残ったすぐ下の妹・禰豆子を担いで山を下りるが、意識が戻ったらしき禰豆子は様子がおかしく、身体が大きくなり、襲われそうになる。後に義勇によって知らされるが、家族は鬼に襲われ、禰豆子は命こそ助かったものの、傷口から鬼の血が入ったことで鬼になってしまったのだった。あまりにもむごすぎる状況だ。
心を打たれるのは、炭治郎がこんなにひどい状況に瀕してもなお、人のことばかり考え、希望を捨てていない点だ。自分以外の家族がほとんど殺され、たった一人生き残った妹も鬼になってしまった。普通の人だったら絶望するし、もうそんな状態で生きていたくないと思ってもおかしくない。
なのに自分のつらさを嘆くのではなく、死んだ家族やいつも自分のことは二の次で下の子たちを優先していた禰豆子のことを思って涙する。妹に襲われそうになっても、懸命に頑張れと呼びかける。鬼狩りの義勇に「妹には人を殺させないから殺さないでくれ」と頼みこみ、最終的には心を動かす。
個人的にこのくだりで思い出したのは、小さい頃に観たキョンシー、幽幻道士シリーズだ。ざっくりいうと中華版のゾンビであるキョンシーに嚙まれた人間はキョンシーになってしまう。一度キョンシーになった者が人間に戻ることは決してなく、元は家族や友人や師匠だった相手だとしても、最終的に退治したり封印したりするしかないというつらい物語だった。
特にスイカ頭という主人公グループの仲間の一人が、仲間をかばってキョンシーに噛まれてしまい、先にキョンシーとなった親方が狂暴化していくのを見ていた彼は自分もいずれそうなることを察し、ダイナマイトを腰に巻いて親方キョンシーに特攻して自爆する。そのシーンは幼かったながらに衝撃的で、未だに忘れられない。
アニメ「魔法少女まどか☆マギカ」では、鬼滅の刃の鬼やキョンシーと経緯は違うが、魔女になってしまった魔法少女もまた元には戻らない。たとえ元友人だとしても退治するほかない。
話は逸れたが、そういった作品を観ていたこともあり、一度異形の者になってしまったらもう人間には戻れないのが定説だと思っていた。たった一人生き残った妹まで殺されたくない炭治郎の気持ちはわかるが、鬼になってしまった禰豆子を人間に戻すだなんて、人間を襲わないようにさせるなんて、いくら何でも難しいのではないかと思った。自分が同じ立場だったら、ここまで食い下がれないかもしれないし、頑張る気力を持てない気がする。
だが禰豆子もすごかった。鬼になったにも関わらず、義勇から炭治郎を守ろうとした。その後お堂で人が殺されているのを見たときも、血に反応しながらもよだれをだらだら流しながら耐え、自分を制していた。すごすぎる。
炭治郎も禰豆子も、なんて心が強い子たちなんだろう。
義勇、淡々としていて話の通じないタイプに見えたが、炭治郎と禰豆子の姿を見、禰豆子は普通の鬼とは違うかもしれないと見逃してくれたどころか、鱗滝へ紹介状を書いてくれた。すごくいい人なのでは……?
鱗滝のもとに向かう途中に戦ったお堂の鬼は、炭治郎が禰豆子以外で初めて遭遇した鬼であり、初めて倒すことになる鬼でもある(とどめを刺したわけではないが)。この戦いを見て「鬼、強くて人を食う上に手足を切っても生えてくるし、首を切っても死なないなんてチートじゃん……」とドン引きした。
首がもげた鬼を間近で見て「殺してしまった……」と青ざめたり、頭から腕が生えた鬼に驚く炭治郎。この頃はまだこちらサイドだったというか、視聴者と近い感覚だった気がする。また、鬼滅の刃って小さな子どもたちにも大人気だけど、この首を切る描写、自分が小さい頃に見てたらトラウマになりそうだけど大丈夫なのかな……? とも思った。
鬼にとどめを刺そうとしながら相手が苦しくない方法を探し思いきれない炭治郎。やってきた鱗滝はそんな彼を見て「ああ、この子は駄目だ。思いやりが強すぎて決断できない」「鬼を前にしても優しさの匂いが消えない 鬼にすら同情心を持っている」と思うシーン。だ、駄目なの……? これからどうなるの……? と不安になる。
ちなみにこのお堂の鬼、声が緑川光なんですよね。ここで緑川光……? 何と贅沢な声優さんの使い方なのか。
鬼殺隊に入るため、鱗滝の元で修業をはじめる炭治郎。修業はかなり壮絶で、至る所に罠が仕掛けられた山で修業しないといけないが、炭治郎の成長とともに罠もグレードアップしていき、引っかかったら確実に死ぬだろうと思われるものも増えていく。何もそこまでしなくてもと思うが、これに引っかかっているようでは鬼とは戦えないのだ。
罠を抜けたら今度は素手の鱗滝と武器を持って戦うが、その状況でも全然太刀打ちできずひっくり返される。やがて呼吸法や型を習い、「もう何も教えることはない」「(ものすごく大きい)岩を刀で切れたら最終戦別を受けていい」と言われる。炭治郎の「岩って刀で切れるものだっけ……?」という心の声、観ているこちらも全く同じことを思った。
そこから鱗滝は何も教えてくれなくなり、炭治郎は自分なりにいろいろと考え基礎的な鍛錬を再度やってみたり、手を尽くすがいっこうに岩は切ない。くじけそうになったところへ現れたのが狐面の少年と少女だ。鱗滝を知っているらしい二人、錆兎と真菰に煽られたりアドバイスされたりしながら半年、全集中の呼吸を知識ではなく身につけた炭治郎。ついに錆兎のお面を割ることができたとき、錆兎はうれしそうな悲しそうな顔で笑った。
その瞬間二人の姿は消え、岩が真っ二つに割れていた。
最終選別は、鬼が放たれた山の中で7日間生き残るというもの。ここまで来るのもかなりの鍛錬や苦労を要するのに、生きたら合格さもなくば死って厳しすぎるな……。でもここを生き抜けない人は鬼を倒せないっていうことなんだ。
選別前の善逸、顔が傷だらけで険しい顔してて、善逸このときこんな感じだったっけ? と一瞬思ったけど、選別に行きたくないって駄々こねてじいちゃんにひっぱたかれた後だった(笑)。命に関わる選別の前に無駄に体力消耗してる(けど生き残る)のすごいな……。
炭治郎、一度に二匹の鬼に襲われても冷静に対処して倒し、「鍛錬は無駄じゃなかった、ちゃんと身についた」と拳を握りしめて泣くシーンが印象的だ。
だが、次に現れた手鬼は見るからに普通ではなく、鱗滝に捉えられて以来47年藤襲山(ふじかさねやま)で生き永らえているという。50人以上もの子どもを喰らい、特に鱗滝を恨み「あいつの弟子はみんな殺してやるって決めてるんだ」と笑う手鬼の不気味さよ……。
錆兎と真菰は、最終選別で手鬼に殺され喰われてしまったのだった。皮肉にも、鱗滝が子どもたちを想って持たせた厄除の面が手鬼の目印になってしまっていたことが判明する。今まで生きて帰った子がいなかったのでそんなこと知らず毎回面を持たせていたのか、誰も悪くないけど良かれと思ってしたことが仇になってしまっていたなんてつらい……。
気を失った炭治郎の夢の中で弟に呼びかけられ、気が付く炭治郎。以前も似たようなことがあり、死してなお炭治郎のピンチに現れる家族の絆に驚かされる。
錆兎や真菰をどうやって殺したか嬉々として語る手鬼に「こいつはこのままにしておいちゃいけない。また新たな犠牲者が出る前に、今、ここで倒す!」と息巻く炭治郎。なんて勇敢なんだ……。
手鬼を倒し、手鬼のために祈り、錆兎や真菰をはじめとした鱗滝の弟子だった子どもたちに語り掛ける炭治郎、この状況でどれだけの人のことを思いやるのか。
この手鬼、声優は子安武人だ。またも何と贅沢な声優使いなのか……。
本編とは関係ないが、お堂の鬼は緑川光(ヒイロ)だし、鬼舞辻無惨は関俊彦(デュオ)だし、手鬼は子安武人(ゼクス)だし、ガンダムWの主要キャラを演じた声優がたくさん出ていて勝手に高まった筆者だった。
選別で生き残ったのはわずか4人(その場にいなかった伊之助を合わせると5人)あんなにいたのにたったの5人! と思うが、お館様は「5人も残ったの、優秀だね」と言っていてこわい。
炭治郎が手鬼から救った相手は、結局他のところで命を落としてしまった。彼は炭治郎を置いて逃げたのだが、自分が気絶したせいで助けられなかったと悔いる炭治郎。いい人すぎない?
倒れそうになりながら鱗滝の家に帰った炭治郎。起きた禰豆子を見て泣き、二人を抱きしめる鱗滝ともども号泣するシーンはちょっともらい泣きしてしまった。でも大変なのはまだまだこれからだ。
–{名ゼリフ・名場面(※筆者の独断と偏見です)}–
名ゼリフ・名場面(※筆者の独断と偏見です)
「幸せが壊れる時には いつも血の匂いがする」
セリフではなくモノローグだが、父を亡くして貧しいながらも優しい母やかわいい弟妹たちに囲まれた炭治郎が「幸せだな」と思った後に「でも人生には空模様があるからな」というところから続く。不穏な空気がすごいうえにこのモノローグ、嫌な予感しかしない。炭治郎の鼻の良さから出た言葉でもある。
いつもということは、すでに何度も体験しているということで、炭治郎の過去も気になる。
「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」
土下座して禰豆子を殺さないでくれと頼んだ炭治郎に、義勇が怒鳴った言葉。
「惨めったらしくうずくまるのはやめろ!! そんなことが通用するならお前の家族は殺されてない」
「奪うか奪われるかの時に主導権を握れない弱者が妹を治す? 仇を見つける?」
「笑止千万!!」
「弱者には何の権利も選択肢もない 悉く力で強者にねじ伏せられるのみ!!」
「妹を治す方法は鬼なら知っているかもしれない。だが鬼共がお前の意志や願いを尊重してくれると思うなよ」
この後さらに倍くらいのセリフが続く。鬼を相手にするということはこういうことだという厳しい現実が語られている。家族を殺されて妹も鬼になってしまった炭治郎にさらにめっちゃ怒るじゃん……と思うが、義勇の心の中の言葉が重なる。
「泣くな 絶望するな そんなのは今することじゃない」
「お前が打ちのめされてるのはわかってる。家族を殺され、妹は鬼になり、つらいだろう 叫び出したいだろう わかるよ」
「俺があと半日早く来ていれば、お前の家族は死んでなかったかもしれない。しかし時を巻いて戻す術はない」
「怒れ。許せないという強く純粋な怒りは 、手足を動かすための揺るぎない原動力になる」
「脆弱な覚悟では妹を守ることも治すことも、家族の敵を討つことも できない」
義勇の表には出さない優しさが伝わってくるシーンであり、過去に義勇も近い経験があるのでは想像させるシーンでもある。義勇さん、口では厳しいことを言いながら見逃してくれて鱗滝さんに手紙を書いてくれて、めちゃくちゃ優しい人だ……。
「がんばれ禰豆子 こらえろ頑張ってくれ 鬼なんかになるな」
炭治郎を襲おうとした禰豆子に必死に呼びかける炭治郎の言葉。自分が命の危機に瀕しているのに呼びかけられる炭治郎もすごいし、この言葉を聞いて鬼になってしまったのにポロポロ涙を流す禰豆子もすごい。
「判断が遅い」
鱗滝が「妹が人を喰った時お前はどうする」と問われて即答できなかった炭治郎をひっぱたき言ったセリフ。
「お前はとにかく判断が遅い。朝になるまで鬼に止めを刺せなかった」
「今の質問に間髪入れず答えられなかったのは何故か?お前の覚悟が甘いからだ」
「妹が人を喰った時やることは二つ。妹を殺す、お前は腹を切って死ぬ。鬼になった妹を連れていくということはそういうことだ」
と続く。
炭治郎は俊敏なほうだと思うし、初めて鬼と戦うにしてはよくやったと思うが、それでもここまで言われてしまう。鬼と戦うということは、一瞬の判断の遅れが命取りになるのだなと思うし、炭治郎の選んだ道がいかに厳しいものなのかあらためて感じる言葉だ。
「よく頑張った、お前はすごい子だ」
岩を切った炭治郎に鱗滝がかけた言葉。ずっと厳しい言葉ばかり向けてきた鱗滝に頭を撫でて声をかけられ、涙するのだった。炭治郎、しっかりしてるしすごい精神力だけど、このときで15歳とかそのくらいなんだよな……。
「努力はどれだけしても足りないんだよ。知ってるだろ、それはお前も」
炭治郎が選別で戦っている間、自分たちを殺した手鬼に炭治郎が勝てるか案じる真菰に錆兎が言ったセリフ。並々ならぬ努力をしたが鬼に勝てなかった二人の重い言葉だし、「努力は報われる」というよくある言葉もこの世界では通用しないんだ、と痛感する。
「悲しい匂い。神様どうか、この人が今度生まれてくる時は鬼になんてなりませんように」
手鬼を倒した際、消えていく手鬼の手を握りながら祈った言葉。錆兎や真菰をはじめ、多くの鱗滝の教え子たちを殺した憎い相手であるにも関わらず、慈愛に満ちた言葉を向けられるのか……。鬼がもとは人間だったことをおもんばかり「この人」と言っている。炭治郎の優しさに恐れ入るシーンだ。手鬼が鬼になった理由はわからなかったが、兄を慕う怖がりな弟だったこと、鬼になって兄を食い殺してしまったことだけはわかった。元は人間だったのに鬼になって新たな犠牲を産む、悲しい連鎖だ。
「錆兎、真菰……そして、殺された他の子供達……勝ったよ。もう安心していいよ」
手鬼に殺された10数人の狐面の子どもたち。彼らの姿が消え、おそらく鱗滝のいる狭霧山へ帰るシーン。もし死んだら自分もそっち側だったと思いやる炭治郎。切ないが、これで彼らの魂も浮かばれるのかな。よかった。
最終戦別後、炭治郎と禰豆子と鱗滝の再会シーン
へろへろになりながらやっと鱗滝の家の前にたどり着いた炭治郎。ずっと眠り続けていた禰豆子が起きたのを見て泣く炭治郎、炭治郎の頭をなでる禰豆子、二人を抱きしめお面の下で涙を流す鱗滝。もう子どもが死ぬのは見たくないと言った鱗滝さん、生きて戻ってきた炭治郎を見て本当にうれしかっただろうな……。まだまだ戦いはこれからだけど、いったん安堵するシーンだ。
次回は「第二夜 浅草編」
浅草編では、炭治郎が鬼舞辻無惨と出会う。どんな展開があるのか、引き続き楽しみだ。
(文:ぐみ)
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