昨年、ことごとく止まったハリウッドの中で、唯一気を吐いたハリウッド大作がクリストファー・ノーラン監督の『TENET テネット』。
時間が逆行する描写、謎が謎を呼ぶシナリオ、『007』を撮りたがっていたノーラン監督によるスパイアクションなどなど、魅力的なエッセンスにあふれた作品でした。
2020年公開の新作でIMAX®映えする数少ないハリウッド大作ということで、大画面で堪能された方も少なくないのではないでしょうか?
ただ、ある一点について、ちょっとモヤっとしませんでしたか?
『TENET テネット』でモヤっとしてしまったこととその理由
『TENET テネット』では時間を逆行させる装置“アルゴリズム”が未来人が作り出したものという一言で片付けられてしまったのです。
これまでも、ノーラン監督のブレイク作品となった“記憶が10分しか持たない男を描いた”『メメント』を筆頭に、“夢に乗り込む”『インセプション』にしても“ワームホールを抜けて別の銀河系を目指す”『インターステラー』にしても、映画という虚構の中でそれなりに見ている側を納得させる理屈が作られてきました。
映画はあくまでもフィクションではありますが、そこにはやはりリアルさを感じさせるちゃんとした設定が欲しいところです。
ところが『TENET テネット』で“未来人が作り出した”の一言で、終わってしまい、あれ、それだけ!?という思いが芽生えてしまったものです。
そこで『TENET テネット』のスタッフロールを見るとあることに気が付きました、クリストファー・ノーラン監督の右腕、ブレーンとも言うべき弟のジョナサン・ノーランの名前がなかったのです。
『TENET テネット』にモヤっとした感触を残した理由はジョナサンの不在か…。と考え、妙に納得してしまいました。
そんなジョナサン・ノーランが製作を担当したSFサスペンスが『レミニセンス』です。
1. 日本において名前で客を呼べる男:ヒュー・ジャックマン主演
2000年の『X-MEN』のウルヴァリン役で大ブレイクしたヒュー・ジャックマンはその後、17年間に渡ってウルヴァリンを演じる一方で『ヴァン・ヘルシング』『レ・ミゼラブル』『グレイテスト・ショーマン』といったアクション映画やミュージカル映画が日本でも大ヒットを記録。日本でも名前で映画ファン以外の一般層を取り込める存在となりました。
『X-MEN』シリーズもそうですが、近年のヒット洋画と言えばアメコミ原作かシリーズものであることが多く、トム・クルーズも『ミッション:インポッシブル』シリーズが続いていますし、ヴィン・ディーゼルも『ワイルド・スピード』以外は苦戦が続いていますし、ウィル・スミスも一時期ほどの神通力がありません。
そんな中でヒュー・ジャックマンはオリジナル作品やミュージカル映画など、なかなかハードルの高い作品群でビジネス的にもクオリティ的にもコンスタントな成績を収めています。
今回の『レミニセンス』では今までありそうでなかったハードボイルド映画の探偵役という役どころで物語をけん引。
アクションから泣きの演技まで幅広く披露しています。
ウルヴァリンを卒業し、50代に突入したということもあるので、そろそろヒュー・ジャックマンも賞レースに絡み始めてもいいのかなと思うところです。
–{2つ目の魅力は…}–
2. 二人の女:レベッカ・ファーガソンとタンディ・ニュートン
そんなヒュー・ジャックマン演じるニックを囲む二人の女性を演じるのがレベッカ・ファーガソンとタンディ・ニュートン。
『ドクター・スリープ』『DUNE/デューン砂の惑星』そして『ミッション:インポッシブル』の5作目『ローグ・ネイーション』6作目『フォールアウト』に続いて最新2部作の7&8など話題作への出演が続くレベッカ・ファーガソン。
『グレイテスト・ショーマン』にも出演している彼女が演じるメイはまさにハードボイルド小説のファムファタルといった存在で探偵のニックと観客を見事に惑わします。
果たしてメイは悪女なのか聖女なのか?レベッカ・ファーガソンの少し浮世離れした雰囲気が見事にマッチしています。
ファムファタルのメイに翻弄されるニックを時にやさしく、時に厳しく支えるのが相棒のワッツ。
演じるのは大小さまざまな映画で活躍する英国出身のタンディ・ニュートン。
『レミニセンス』のクリエイターコンビ、ジョナサン・ノーランとリサ・ジョイが手掛けたドラマ「ウエストワールド」でエミー賞を受賞しています。
タンディ・ニュートンは元軍人で射撃の達人でありながら、辛い過去を抱え酒に逃げるというワッツを繊細な演技で演じぬき、最後は物語のカギを握る存在になっていきます。
ヒュー・ジャックマン演じるニックに全く別の角度から影響を与える二人の女性の演技の比較も楽しいところです。
3. 「ウエストワールド」のリサ・ジョイとジョナサン・ノーランが手掛けた初の映画
公私にわたってパートナーであるリサ・ジョイとジョナサン・ノーラン。二人最初に手掛けたドラマが「ウエストワールド」。
映画化もされたマイケル・クライトンの同題小説をもとにしたドラマシリーズで、は現在シーズン3まで放映されていてシーズン4も政策に入っています。
ニール・マーシャルやヴィンチェンゾ・ナタリといった曲者監督が揃い、出演者もアンソニー・ホプキンスやエド・ハリスといった重鎮が揃い、日本から真田広之や菊地凛子も出演しています。
そんなリサ・ジョイとジョナサン・ノーランのコンビが初めて手掛けた映画がこの『レミニセンス』。
リサ・ジョイは本作が長編監督デビューとなるのですが、演出家としての経験がしっかりとあるので、安定感のある物語を紡ぎだしました。
ジョナサン・ノーランの原案を巧みにセンチメンタルな男の物語に作り上げていて、楽しませてくれます。
記憶に潜入する“レミニセンス”の装置(記憶潜入ポッドと記憶再現装置)以外(これもクラシックなデザインなのですが)は意図的に選ばれたアンティークと言ってもいい道具選びとなっていて、一見するとハードボイルド映画を見ている気分になっているのですが、ちゃんと決着がSFである意味がある作りになっていて見事にまとめ上げたなと素直に感じます。
4. 水の描写を存分に堪能できる大画面、ハイクオリティ劇場向け作品
ここまで話すと、『レミニセンス』はどちらかというとパーソナルなサイズ感の物語の映画ですが、実はIMAX®などのハイクオリティで大きな画面に適した映画になっています。
というのも『レミニセンス』の物語が戦争と海面上昇で荒廃した近未来が舞台になっていているのです。
この荒廃した都市部と迫りくる海、そして周辺に漂う水の描写はできるだけクオリティの高い映像が堪能できる映画館で見てもらいたいと思います。
水のCG描写は非常にハイレベルなものを求められていて、簡易に作れないことで知られていますが、『レミニセンス』では見事な質感を再現しています。
これについては山崎貴監督や石川慶監督も絶賛しており、映像美も売りになっています。
どのくらいの機会があるかわかりませんが、もし可能であればIMAXシアターでの鑑賞をお薦めします。
『レミニセンス』は張り巡らされた謎に、存在感のあるアイテムの数々、そして映像美と一回で把握するのは大変なほどの情報量のある映画です。
いわゆる“スルメ映画”の新たな一本と言っていいでしょう。
新型コロナウィルスの影響でハリウッド大作の公開がまた不透明になりつつありますが、とりあえず『レミニセンス』は大過なく日本でも劇場公開されますので、ぜひ、映画館でご堪能ください。
ちなみにあの『千と千尋の神隠し』オマージュのシーンもあるので、お楽しみに。
IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation.
(文:村松健太郎)
–{『レミニセンス』作品情報}–
『レミニセンス』作品情報
【あらすじ】
地球温暖化により海面が上昇し、都市が海に沈み、水に支配された世界。記憶潜入(レミニセンス)エージェントとして暗躍するニック(ヒュー・ジャックマン)はある日、検察から、瀕死の姿で発見された新興勢力のギャング組織の男の記憶に潜入し、ギャングの正体と目的を掴んでほしいと依頼される。男の記憶から映し出された、事件のカギを握る謎の女性メイ(レベッカ・ファーガソン)を追い、ニックは多くの人々の記憶に潜入する。しかし、膨大な記憶と映像に翻弄され、次第に予測もしなかった陰謀へと巻き込まれていく……。
【予告編】
【基本情報】
出演:ヒュー・ジャックマン/レベッカ・ファーガソン/タンディ・ニュートン/ダニエル・ウー
監督:リサ・ジョイ
上映時間:116分
映倫:PG12
製作国:アメリカ