あまのじゃく的「鬼滅の刃」:結局派手に「遊郭編」へ期待を寄せる

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2019年と2020年を席巻したと言っても過言ではない「鬼滅の刃」。私はそのブームにいまいち乗れなかった人間です。

もちろん映像のクオリティの高さやキャラクターたちの個性、残酷でいてやさしい物語に魅力は感じていました。なにより映像の力がすごい作品にはこれまでも簡単にのめり込んできました。しかしあれだけクオリティがとんでもないと日本中が熱狂していた「鬼滅の刃」には、のめり込むまでには至らなかったのです。

「長男のプライド」がきつかった……頃もありました

のめり込めなかったと言いましたが、正確に言えば途中で少し冷めたという表現が正しいように思います。なんなら最初、炭治郎が禰豆子をおぶって雪山を歩くシーンの映像の美しさに息をのみ、とんでもないアニメが始まったという予感すら覚えていました。

しかし私は炭治郎が戦いで負ったケガの痛みに耐えている時に発した「俺は長男だから我慢できたけど、次男だったら我慢できなかった」というセリフがどうも受け入れられなかったのです。

おそらくその言葉を受け入れられなかったのは私が長女で、親戚から「将来はお婿さんをもらって、この土地を守っていかなきゃね」と当たり前のように言われたからだと思います。こんな地方在住ライターの事情は、炭治郎にとって一切合切関係ないことでしょう。しかし作品への熱を冷まさせるくらい、「長子は我慢してなんぼ」というセリフがしんどかったのです。

ただこのセリフも冷静になって紐解けば、舞台となっている大正時代を生きた長子の生き様を丁寧に描いた結果であり、かつ炭治郎が自身を奮い立たせるための大切なプライドだったのだと気づかされました。

今でこそ家や血のつながりに縛られない生き方ができるようになりましたが、大正は中世から続く家父長制のDNAを残した「家制度」があった時代。明治維新で職業選択の自由が保障され個人が輝ける時代になろうとしていたにもかかわらず、家族という縛り、長男が家を継ぐという慣習は抜けきれなかった時代です。

雪山の奥深くに家を構えている、竈門家。映像を見るにその周囲には他の家はなく、家族以外との接点は炭を売りに街へおりる時だけ。つまり家族が絶対、他の社会を知る必要性をあまり感じていなかったのではないかと考えられるのです。しかも竈門家は見るからに家族が互いを思いやる、やさしい一家。炭治郎がそんな家族を守れることに幸せを感じるのは、至極当然のことだったのでしょう。

そんな幸せを一瞬にして鬼に奪われ、そして唯一残された家族も鬼になった。そんな残酷な現実を打破する道が「自分が強くあり続けること」にある。となれば「長男だから」と自分を鼓舞することで家族との幸せな日々を、そしていつか来ると信じている人間に戻った妹・禰豆子との未来を常に頭に思い描けたのでしょう。

このセリフは、めげてもおかしくないくらい残酷な現実を炭治郎が乗り越え続けるために必要なエネルギー源であり、家族愛の象徴だったのだと思うと、一瞬でも「長子に責任押し付け野郎」と思ってごめんなさいという気持ちでいっぱいになるのです。

–{炭治郎の“クソ真面目コミカル”がわからない……頃もありました}–

炭治郎の“クソ真面目コミカル”がわからない……頃もありました

アニメ「鬼滅の刃」の途中から冷めてしまった理由に、炭治郎の“クソ真面目コミカル”をどう受け止めていいのか悩んだこともあげられます。

たとえば2話で炭治郎が通りがかった村の人から籠と竹をもらうシーン。穴の開いた籠だからお金はいらないと言われているにもかかわらず、炭治郎はなかば押し付ける形で小銭を手渡します。他にも同じ鬼殺隊の嘴平伊之助が亡くなった人を埋葬することの意味を知らずに手伝うものかと言い放った際、「傷が痛むからできない」と自分の中で整理をしていました。

これらは明らかにコミカルなシーンとしての描き方だったのですが、どうしてもその面白さが理解できなかったのです。

ただこれらの描写も冷静になって観てみると、面白さを視聴者に届けようという目的ではなかったように思います。炭治郎がいかに融通の利かない石頭の頑固者なのか、意外と狭い視野でしか物事を捉えていないのか……。

“クソ真面目コミカル”シーンは、そんな彼の他己紹介を一番の目的としていたと思うのです。また炭治郎の性格はダイレクトに受け止めると、若干人をイラつかせるものでしょう。ツッコミ役を同じ空間に存在させコメディタッチに描くことは、炭治郎という主人公と視聴者の距離を離れさせない工夫だったのではないでしょうか。

そう考えると、炭治郎の“クソ真面目コミカル”に面白さを追求すること自体がズレていると思えてくるのです。

–{「ま~た鬼滅ネタぁ?」と思っていた……頃もありました}–

「ま~た鬼滅ネタぁ?」と思っていた……頃もありました

アニメ「鬼滅の刃」熱が少し冷めてしまった理由についてあーだこーだ語ってきたのですが、今から述べることが最後で最大の理由だと思います。

「メディア過熱っぷり、ちょっと異常じゃない!?」

そもそも「鬼滅の刃」は配信こそあれ、テレビ放送は深夜枠。週刊少年ジャンプの連載作だったこともあり注目度は高かったと思われますが、それでもTOKYO MXの初回放送視聴率は2.1%でした。2016年放送の「おそ松さん」の最終話放送時の視聴率が3.0%で異例、2021年4月から放送されている「EDENS ZERO」の第1話視聴率が2.5%で好調と言われていることからも、まさかあんな社会現象になるなんてと思った人もいるのではないでしょうか。

そんなひっそりと夜中に始まったアニメがそのクオリティの高さで毎週のようにSNSを賑わせていたかと思えば、いつの間にかアニメメディアだけでなくビジネスメディアまでもが作品名で取り上げ、テレビでも見ない日はない……。

これまで深夜アニメをまともに取り上げてこなかったメディアの「流行ったとなればこぞって食いつく」そのスタンスにお金の強いスメルを感じ、ちょっぴりうんざりしている自分がいたのです。

そんな「ま~た鬼滅ネタぁ?」と思っていた私が今まさに、「鬼滅の刃」の感想を書いているわけです。さあ思う存分に浴びせてください、「ダブスタやんけ!(※ダブルスタンダード)」というツッコミを。

ただ「遊郭編」に備えて1話からアニメを振り返ってみると、いろんなメディアで取り上げられるのも納得の作品だと改めて思い知らされたのです。

個人的には主題歌に同じアーティストの同じ楽曲を2クール通して使ったところに、作り手の作品にかけるプライドを感じました。オープニングですらも3カ月1クールで変わる作品が多いなか、「竈門炭治郎 立志編」と名付けられた1期の世界観を主題歌でもしっかりと演出する強い意志に、原作と作中で希望を持ち懸命に生きて戦うキャラクターたちへのリスペクトを感じたのです。

派手に楽しもう 「遊郭編」

深夜アニメとして放送されていた「鬼滅の刃」。この度放送局にフジテレビ系列が加わり、日曜の23時台の放送が決まっています。

地方住まいの私はBS11がなければアニメがまともに観られないため、BS11さんに足を向けて寝られません。そのためフジテレビさんには大変申し訳ないのですが、発表があった当初は「横取り!?」と思ってしまいました。しかし1期を放送してきてくれたBS11もTOKYO MXも放送局のところに名前が入っていて、ほっとしています。

またフジテレビでの放送が発表された際にSNSで、「原作からの大幅な改変がありそう」という憶測もたくさん流れていました。またフジテレビさんには大変申し訳ないのですが、私もそう思っていました。なぜなら同じ週刊少年ジャンプで連載されていた「約束のネバーランド」の2期が「ソードマスターヤマト」的エンドを迎えたように見えたからです。(「ソードマスターヤマト」気になるかたは検索してみてください)

ただフジテレビから「内容は変えない形で放送する予定」との発表がありました。きっと原作のファンの皆さんはこの一報に胸をなでおろしたのではないでしょうか。

とにもかくにも、派手にカッコいい音柱の宇髄天元がゴリゴリに活躍するであろう「遊郭編」。私はすでに彼の色気にあてられているので、派手に「遊郭編」を楽しむ所存です。

【参考】
おそ松さん:最終回が深夜で異例の高視聴率3.0% 自己最高更新で有終の美
https://mantan-web.jp/article/20160329dog00m200002000c.html
EDENS ZERO:視聴率好調 深夜放送でも春アニメ2位(MANTANWEB)
https://mantan-web.jp/article/20210604dog00m200091000c.html

(文・クリス)

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–{「鬼滅の刃 遊郭編」作品情報}–

「鬼滅の刃 遊郭編」作品情報

PV

基本情報
声の出演:花江夏樹/鬼頭明里/下野紘/松岡禎丞/小西克幸 ほか

原作:

監督:外崎春雄

キャラクターデザイン・総作画監督:

脚本制作:ufotable

サブキャラクターデザイン:佐藤美幸/梶山庸子/菊池美花

フロップデザイン:小山将治

美術監督:衛藤功二

撮影監督:寺尾優一

3D監督:西脇一樹

色彩設計:大前祐子

編集:神野学

音楽:梶浦由記/椎名豪

アニメーション制作:ufotable