2021年9月3日(金)より公開される『科捜研の女 -劇場版-』。沢口靖子演じる京都府警の科学捜査研究所、通称“科捜研”の法医研究員・榊マリコが科学の力で事件を解決する人気ドラマ『科捜研の女』初の劇場版となる。
本作では、<世界同時多発不審死事件>というシリーズ最難関の事件にマリコと科捜研の研究員たち、捜査一課の土門刑事らが挑んでいく。
今回は、メインキャラクターの1人である京都府警・捜査一課の刑事・土門薫役の内藤剛志にインタビュー。初の映画化に対する思いや長年演じている土門との向き合い方、ドラマのファンが気になるマリコと土門の関係性などについて語ってもらった。
映画では「いつもの土門を逸脱した感じでやりたかった」
——『科捜研の女』初の映画化が決定したとき、最初にどのようなことを思われましたか?
内藤剛志(以下内藤):やっぱりうれしかったですね。長くやり続けているドラマは定型があるからこそ、たとえば2時間スペシャルみたいな変化があるだけですごくワクワクするんですよ。だから、今回も「映画でやらせてくれるんだ。すっげー面白い!」と思ったのが第一印象でした。
——撮影していく中で、ドラマと違う映画ならではの要素などはあったのでしょうか?
内藤:映画はドラマよりも情報量が多くて、ワンカットを長く撮ることができる。なので、ドラマではあまり体験することのない長さの芝居を一発で撮ることが多々ありました。自分の場合は、ドローンカットでしたが、マリコと喋るシーンが普段より長かった。そういうものが映画ならではの味つけになっていたら嬉しいですね。演技については、『科捜研』のチームは「まずやるべし」という感じなので、細かい芝居の話はそもそもあまりしないんですよ。なので、明らかにここを大きく変えた…という部分はなかったです。ただ、映画はお客さんがわざわざ劇場に来てお金を払って見ていただくだけに、ドラマとまったく同じではだめだよね…という話はしていて、そういう意識、覚悟は全員が持っていたと思います。
——劇場版の土門刑事について、「何割り増しかワイルド」と公式サイトでコメントされていましたが、実際どのように演じられたのでしょうか?
内藤:自分としてはいつもの土門をちょっと逸脱した感じでやりたかったんです。映画ならばドラマではできない激しい表現も多少許されるかなと思ったので。ただ、ワイルドといっても殴ったり蹴ったり…ということだけではなくて、むしろ心情の部分。土門の感情的な激しさをいつもより多く表現していましたね。
佐々木蔵之介演じる加賀野との対決は「人間対人間の勝負」
——今回の劇場版では、榊マリコや土門刑事が佐々木蔵之介さん演じる科学者・加賀野と対決していきますが、佐々木さんとのシーンでの手応えはいかがでしたか?
内藤:そもそも蔵之介が演じると聞いたときに「だよね!」と思ったんです。ベストなキャスティングだと。加賀野は逸脱した科学者で、どちらかというと人間性を伴わないキャラクターですが、彼はそういう役柄にも人間らしさや体温をこめて演じられる稀有な役者。なので、現場では非常にやりやすく楽しかったですね。芝居は相乗効果なので、いい役者さんが来てくれるとこちらも倍以上のことができる。そういう意味ではすごく助けてもらったと思います。
加賀野とのシーンについては、彼と科学の部分で対決するのがやっちゃん(沢口靖子さん)なので、自分は心情的なところでの人間対人間の勝負と思って挑みました。ただ、劇中ではお互いすごい顔で向き合っているんですが、その直前まで蔵之介と「なんでやねん!」「でな」「あんなあ」みたいに関西弁で言いあっていましたね(笑)。
——今回はシリーズの懐かしい顔ぶれが多数出演ということで、土門の元相棒・木島(崎本大海)も登場しますが、彼との距離感で意識したことはありましたか?
内藤:土門と木島の場面、あれは普段から二人が顔を合わせている…という体(てい)なんです。見ている方にとっては二人が会うのは何年ぶり?みたいな感じかもしれませんが、設定上では木島は部署が変わっただけで同じ京都府警にいる。たまに土門とすれちがって「なんだお前、元気にしてるのか?」「頑張ってますよ」みたいな会話もしていたと思うんです。なので、木島とのシーンは、普段から普通に会っていた土門を連行しなくてはいけないために木島が緊張している…というところで芝居していましたね。
——劇場版で木島を見たときに、現・相棒の蒲原(石井一彰)とは性格やキャラクターが違うのが改めてわかったのですが、内藤さんは、木島と蒲原それぞれについてどのように思っていらっしゃいますか?
内藤:木島は生真面目な刑事というイメージがありますね。彼は土門が大好きで、「土門さんのようになりたい!」という思いで立派な刑事を目指している男。一方の蒲原も真面目ではありますが、状況にちゃんと自分を合わせていけるのが木島との違いである気がします。蒲原は異動してきたばかりの頃は土門と対立していましたが、徐々に変化して今では土門よりも科捜研になじんでいる。(橋口)呂太(渡部秀)をいじるときもあって、あれも木島にはなかった部分ですよね。あくまで真面目な木島と柔軟に周りに合わせられる蒲原。どちらがいいか悪いかではなく、いずれも現代の若者なのかなと思います。
–{“ドモマリ”というジャンルを残せたら}–
マリコと土門の関係性について決めている「二つのこと」
——『科捜研の女』は、マリコと土門の関係性がファンにとってどうにも気になるところですが、内藤さん自身は二人の繋がりをどのように捉えていらっしゃいますか?
内藤:これに関しては、実はやっちゃんと決めていることがあるんです。一つは、土門のマリコに対する「お前」という呼び方。この呼び方ができるのは、夫婦か恋人、もしくはきょうだいか仲のいい友人ですよね。なので、マリコと土門の間で「お前」という言葉が濁ってきたら考えよう…と注意しています。もう一つは、「兄妹」ということ。以前、土門が昔関わりのあった女性と再会する話で、最後に彼女が残してくれたものに土門が心を掴まれて、それをマリコが見ている…というシーンがあったんですが、「どういうつもりでこの話やる?」とやっちゃんに相談したら、「え、兄妹でしょ。私はそのつもりでやるわよ」とポンと返されたんです。血のつながりはないんですけれど、兄妹というのは、その考え方は正しいと思いましたね。だから、自分たちとしては「お前」が濁ったらやめる、兄妹であり同志である…という二つを守りながらやっています。
——なるほど、二人の関係にはそういう決めごとがあったんですね。
内藤:もちろん、見ている方々がマリコと土門の関係性を誤解したり楽しんでくれたりするのはいいと思うんです。ただ、自分たちの方からその部分をくすぐることは一切ないですね。二人の顔の距離が近かったらワクワクするだろうな…なんて思ってやることはなく、そこは単純に芝居として要求されるものをやっています。たとえば、もし二人が結婚することになったら、逆にがっかりする人もいるかもしれないし、そのギリギリまでのところが見どころなんじゃないかと自分は思いますね。
——マリコと土門のような関係性というのは、実際にはなかなかないものですよね。
内藤:そうですね。男と女の最終地点が恋愛だという一つの現実があるとしたら、現実じゃないものをやるのがドラマであり自分たちの仕事だと思うんです。マリコと土門は“ドモマリ”と言われているようですが、二人のような関係性が100年くらいたったときに「それ、“ドモマリ”じゃん」と当たり前に言われる単語になっていたらいいなと。それが自分たちの狙ったところで、“助さん格さん”みたいなジャンルとしてドラマを通して残せたらとは思いますね。
土門刑事も大岩刑事も「自分にとっての距離は同じ」
——ドラマ『科捜研の女』は2020年にseason20を迎えて、内藤さんは非常に長く土門刑事役を続けていますが、土門を演じるうえで心がけているのはどのようなことでしょうか?
内藤:土門については、シンプルに演じることをいつも心がけています。正義感の塊であり、見たままの男でいようと。他の刑事ならば、正義感が強い一方で内に悲しみを抱えている…みたいな作り方もありますが、土門はそういう二重構造にするのはやめていますね。口に出した言葉がまさに彼そのもので決して嘘をつかない、いうなれば“一筆書き”のような強くて率直な男でありたいと思って演じています。
——内藤さんは、『科捜研の女』以外でも『警視庁・捜査一課長』の大岩刑事など、刑事役を演じることが多いですが、「刑事」というよりは、一人の男としての土門を捉えて演じている…ということでしょうか?
内藤:そうですね。刑事というのは仕事にすぎなくて、他の役でもそうなんですが、どういう人間なのかというところから考えるし、そのほうが大事だと思うんです。若い俳優さんに「刑事をやるときのコツとかあるんですか?」と聞かれることも多いんですが、自分はそういうのもあまりないんですよね。刑事だからどうこうというよりは、たまたま仕事が刑事だった…というふうに捉えてやっています。
——刑事役に絡めてもう一つお聞きしたいのですが、『科捜研の女』で土門刑事の上司・藤倉刑事部長を演じている金田明夫さんが、『捜査一課長』では内藤さん演じる大岩刑事の片腕・小山田役で、両ドラマにおける立場の逆転が気になるファンは少なくないと思うのですが…?
内藤:それもよく聞かれるんですが、自分は役者として演じるだけなので、戸惑ったりやりにくかったりすることは一切ないんですよ。極端な話、一日の中で午前に土門、午後に大岩を演じても問題ない。どんな役でも自分にとっての距離は同じなんです。むしろ、この役は自分と距離が近いけれどあの役は遠い…というような捉え方はしないようにしています。そういうところは明夫ちゃんも同じだと思うし、距離が一緒だからこそ自分は両方の役を楽しんでいるので、見ている方々にとっても「今日は『科捜研』で土門のほうが頭下げてる」みたいな面白さになってもらえたらと思います。
——初の劇場版を作り終えて、またこの先も『科捜研の女』を映画でやりたいと思われますか?
内藤:楽しかったので、チャンスがあれば何度でもやりたいですね。映画って不思議なもので、ドラマと同じセットを使ってやっていることも一緒なのに、何か高揚感みたいなものがありました。試写を見たときも、自分たちで「すっげえ面白いじゃん、これ」と口に出して自画自賛していて(笑)。映画はドラマよりハードなものもやれるはずだし、毎年一回ぐらいやってもいいと思いました(笑)。
——最後になりますが、今回の劇場版で内藤さんが思う見どころをぜひ教えてください。
内藤:せっかく映画になるので、テレビドラマと違うということをぜひ楽しんでほしいです。科学の力で事件を解決するという目的は一緒ですが、映画はドラマとはルールがちょっと違う。いつもより少し激しかったり悲しかったり、テレビでは見られないものを見ることができます。本来であれば劇場で大勢の方に声を出して応援してもらって見ていただきたいのですが、今はコロナ禍なので、規制の範囲の中みなさんで一つの作品を楽しんでもらえたらと思います。
※榊マリコの「榊」は木へんに神が正式表記
(撮影/つるたま、取材・文/田下愛)
–{『科捜研の女 -劇場版-』の作品情報}–
『科捜研の女 -劇場版-』作品情報
【あらすじ】
京都・洛北医科大学で女性教授の転落死が発生。京都府警科学捜査研究所(通称:科捜研)の法医研究員・榊マリコ(沢口靖子)たちは早速鑑定に取り掛かるが、殺人の決定的な証拠は見つからず自殺として処理されようとしていた。だがその頃、国内外各地でも同様の転落死が相次いで起き、京都府警は再捜査を開始。世界同時多発的なこの不審死事件を調査していくなか、やがて捜査線上にある人物が浮かび上がる……。
【予告編】
【基本情報】
出演:沢口靖子/内藤剛志/佐々木蔵之介/若村麻由美/風間トオル/金田明夫/斉藤暁/西田健/渡部秀/山本ひかる/石井一彰/佐津川愛美/マギー/宮川一朗太/片岡礼子/阪田マサノブ/中村靖日/駒井蓮/水島麻理奈/渡辺いっけい/小野武彦/戸田菜穂/田中健/野村宏伸/山崎一/長田成哉/奥田恵梨華/崎本大海
監督:兼﨑涼介
脚本:櫻井武晴
製作国:日本