『シャン・チー/テン・リングスの伝説』解説:MCUの新章突入を象徴する作品

デフォルト

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』 画像ギャラリーはこちら

MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の最新作にして25作目の長編映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』が2021年9月3日に公開されます。

現在MCUは『アベンジャーズ/エンドゲーム』の後を受けたフェーズ4が展開されていますが、これまで発表された映画『ブラック・ウィドウ』、ドラマ「ワンダヴィジョン」「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」「ロキ」はこれまでのフェーズ3の作品の貯金を使った作品群でした。

これに対して『シャン・チー/テン・リングスの伝説』は今まで事前の顔見世もなかった全く新規のヒーローの物語です(『ドクター・ストレンジ』『キャプテン・マーベル』)以来。

しかも主演は無名に近いアジア系俳優シム・リウを抜擢という挑戦的な選択をしています。

『アベンジャーズ/エンドゲーム』で大きな区切りを迎えた後のMCUは『シャン・チー/テン・リングスの伝説』で文字通りの新章突入の瞬間を迎えたといえるでしょう。

マーベル最新作は武侠映画!?

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』はあえてジャンル分けするなら武侠映画(時代劇カンフー映画)と言っていいかもしれません。

そう考えると、『グリーン・ディスティニー』のミシェル・ヨーや『HERO』『グランド・マスター』のトニー・レオンといった武侠映画に実績のあるベテラン俳優で脇を固めたのも納得です。

主演のシム・リウが映画の中で成長していくというのも武侠映画によくある話で、現代を舞台にしていますが、後半はファンタジー要素も強く武侠映画らしさを色濃く感じます。

問題はというか、今後の課題は、この武侠映画路線を保ちつつ、どうやってマーベルとMCUの世界観に繋げていくかですね。

脇のキャストやカメオ出演で以前のマーベル作品のキャラクターが登場したりしていますが、まだストーリーに絡むところまで行っていません。

次作の『エターナルズ』ともども、いよいよ正念場となったMCUフェーズ4の展開と観客からの反応がどうなるのか、大いに気になるところです。

MCUフェーズ4には各作品への別のヒーローのゲスト出演(スパイダーマンの新作『スパイダーマン: ノー・ウェイ・ホーム』にドクターストレンジが登場する)などはするものの、“アベンジャーズ”のタイトルの映画がないというのも、フェーズ4は新たな種を蒔く時期としているのかなと思います。

シャン・チーはその新たな種の第一弾ということで、ここで成否がかかっているといっても言い過ぎではなく、マーベルファン、アメコミ映画ファンとしては期待と不安が入り混じっているような思いでいます。

–{マーベルの新機軸はどう転がるか?}–

マーベルの新機軸はどう転がるか?

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』はフォーマットとしては2018年の大ヒット作『ブラックパンサー』に似ている部分があります。

『ブラックパンサー』はメインキャスト・メインスタッフを黒人だけで固めた映画であり、その影響はただのヒーロー映画の枠組みを飛び越え、(ちょうどトランプ政権だったこともあり)大きなムーブメントの象徴となりました。

結果アメコミヒーロー映画としては史上初となるアカデミー賞作品賞にノミネートされる快挙を成し遂げました。

興行収入でも北米7億ドルを超える大ヒットを記録、なんと北米だけで見ると『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』よりヒットするという逆転現象を起こしました。

現在、続編となる『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が製作中ですが、ブラックパンサーを演じたチャドウィック・ボーズマンが2020年に43歳の若さで急逝するという、予期せぬ出来事が起き、脚本づくりも大いに難航しているとのことです。

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』もメインキャストをアジア系という一つの人種に絞って作られ、監督のデスティン・ダニエル・クレットンもアジア系という布陣になっています。

アジア系で固めたことが果たしてどのような結果を生むかは2021年9月3日の公開を待ってということになりますが、近年ハリウッド映画の大きな市場となっている中国での動静など大いに気なるところです。

マーベルとしてもドラマ「アイアン・フィスト」を白人主役に変え、『ドクター・ストレンジ』の師匠エンシェント・ワンをティルダ・スウィントンに据えたことが“ホワイトウォッシング”だとして大きな批判を呼んだこともあるので、アジア系のキャラクターをアジア系の俳優に演じさせるという基本的な部分に立ち返っているところがあります。

一説には中国政府が『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のトニー・レオンの描写やこの後のマーベル映画『エターナルズ』の監督クロエ・ジャオ(『ノマドランド』)が中国政府を批判した過去などを問題視しているという話もありますし、この辺り難しいところですが、慎重に大過なく『シャン・チー/テン・リングスの伝説』が公開されることを祈るところです。

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』にも出演しているミシェル・ヨーの『クレイジー・リッチ』やオークワフィナ『フェアウェル』、『ムーラン』の実写版などなど年に1本くらいはオールアジア系で固めたハリウッド映画がそれなりに北米地区でヒットしているという前例もあるので、もしかしたらこの『シャン・チー/テン・リングスの伝説』がハリウッド内での大きな起爆剤になるかもしれません。

(文:村松健太郎)

–{『シャン・チー/テン・リングスの伝説』作品情報}–

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』作品情報

【あらすじ】
かつて父(トニー・レオン)が率いる犯罪組織で、子どもの頃から日々苦しい修行を続けてきたシャン・チーは、誰にも負けない“最強”の存在として鍛えられ、組織の後継者として期待されていた。だが、優しすぎる彼は、自ら戦うことを禁じ、その運命から逃げ出したのだった。やがて過去の自分を捨てたシャン・チー(シム・リウ)は、サンフランシスコで平凡なホテルマンとして暮らしていた。ところが、悪に染まった父が伝説の腕輪“テン・リングス”を操り、世界を脅かそうとする時、シャン・チーは遂に封印していた力を解き放つ……。 

【予告編】

【基本情報】
出演:シム・リウ/トニー・レオン/オークワフィナ/ミシェル・ヨー/メンガー・チャン

監督:デスティン・ダニエル・クレットン

脚本:デイヴ・キャラハム/デスティン・ダニエル・クレットン/アンドリュー・ランハム

上映時間:132分

製作国:アメリカ